フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
「何の御用でしょうか?」  マイは、立ちはだかる二人の少女を見る。黒い癖毛の白夜と、長い茶髪の雷を。二人も、鋭く彼女を見据えていた。  患者のいない病院のロビーに、静寂が広がっている。何も喋ろうとしないので再びマイが話そうとするが、先に白夜が口を開いた。 「コノハを追うのはやめてください」 「それはお断りします。貴女こそ目撃したのでしょう? 悪魔と手を組んだ魔具が、持ち主である華城さんを殺そうとしたところを」 「それでも、魔警察は手を出さないでください」 「それってさあ」  マイの後方、薄暗い廊下の先から現れる、魔警察カヤ。彼女は妖しい笑みを浮かべながら、ワインレッドの目を光らせた。 「《魔警察|アタシたち》に命令してるってこと?」 「……そうです」 「ハッ! 面白いわね! マイ、殺してもいいわよね?」 「駄目です」 「なんで⁈」 「平和的に解決すべきですよ。カヤ」  カヤは納得出来なかったが、しぶしぶ引き下がった。マイがほっと息を吐くと、白夜に視線を向けた。 「魔警察として、悪魔と関わっている存在を放っておくわけにはいきません」 「だから、訳も聞かずに殺してもいいって?」 「どんな理由であろうと、弁解の余地はありませんよ」 「………ひどい」  思わず呟く雷。すぐに反応したマイは、雷に視線を移して眉を潜めた。 「我々とて、本当は血を流すことなく済ませたいのです。ですが悪魔に取りつかれた以上、もう救うことは無理なのです」 「コノハは魔具だから、悪魔とは契約出来ないはずだよね?」 「余計に質が悪いですよ。自ら悪魔の元へ行くなんて、例えどんな理由があろうとも許されることではありません」 「…………あのさ」  白夜が言うと、皆の視線が彼女に集中する。白夜は一度深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた。 「もし魔警察がコノハを殺したりなんかしたら………あなた達、ただじゃ済みませんよ?」  沈黙。カヤは目を見開いて驚いた。マイは驚きはしなかったものの、白夜を探るように彼女を見る。そんな二人など気にせず、白夜は言葉を綴った。 「神空蒼祁と朱兎のこと、知ってますか?」 「知ってるわよ~。馬鹿みたいに強いっていう双子でしょ?」 「はい」 「彼等がどうかしたのですか?」  マイが訊ねると、嘲笑うかのように白夜が笑った。 「あいつら、蘭李の言うことだけは聞くんですよ。だからもし蘭李が魔警察を殺したい、なんて言ったら……」 「ぷっ………何を言い出すかと思えばそんなこと? あんな双子、アタシ達にかかれば何てこと無いわよ」 「本気でそう思ってますか?」  カヤはしばらく笑っていたが、真剣な面持ちで見据えてくる白夜を、見下ろすように睨み返した。 「逆にアンタは本気で殺せると思ってるの? たった二人でアタシ達を」 「思いますよ。あいつらマジで強いんで」 「そんなのあり得ないに決まってるじゃない」  当然の反応だ。それに、本当に言うことを聞いてくれるかも分からないし、殺せると断言出来るわけでもない―――白夜と雷はそう思った。しかし、なるべく表情に出さないよう強がってみせた。 「戦争を終わらせたんですよ? 魔警察なんてあっという間に壊滅出来るかも」 「軍隊ごっこをしてるような奴らと一緒にしないでくれる?」 「軍隊ごっこって……!」 「やめなさいカヤ。失礼ですよ」 「マイだって思ってるでしょ?」 「私はどなたにも敬意を払っています」 「どこが」  白夜のこぼれた言葉に、深緑の視線が彼女の体を貫いた。彼女も紫の目を光らせ睨み返す。カヤはニヤリと笑い、雷はそんなカヤの動きに注意している。  今にも戦いが始まりそうな雰囲気だった。一瞬でも気を抜いたらやられそうな、そんな空気間に包まれていた。 「………貴女方の主張は分かりました」  口を開いたのはマイだった。瞼を閉じて一呼吸し、伏し目がちに白夜を見据える。 「脅してまで我々を止めたいのですね?」 「そうです」 「いい度胸してるわね~。これでアンタ達が強かったら最高だったんだけど」  カヤが太ももに装備したポーチに手を伸ばそうとしたその瞬間、甲高い声が廊下中に響き渡った。 「ストーップ!」  四人は同時に視線を向ける。カヤが来た方から、二つの人影が近付いてきていた。白夜と雷の表情が曇っていく。やがてハッキリしてくると、一人はこの病院の主・若俊だった。そしてもう一人は……。 「ここはワタシ達が引こう! マイ! カヤ!」  長い黒髪に淡黄の目、白い巫女服に赤い袴は短く、足は白いニーソに包まれていた。  うろ覚えである。しかし白夜と雷には、その姿に見覚えがあった。 「はあ⁈ なんでよ! クウ!」  そう。彼女は魔力者大会に特別ゲストとして呼ばれた、澪咲神社の巫女『河東クウ』だった。  彼女は、ぷんぷんと頬を膨らませて怒る。 「だってこんなに可愛い女の子達の頼みだよ⁈」 「頼みじゃなくて脅しですよ、クウ」 「余計にだよ! 可愛い女の子から脅されてるって……ふへへ……最高……」 「話にならないわね」  ニヤニヤするクウに、白夜と雷は顔をひきつらせる。マイはため息を吐き、呆れたようにクウを眺めた。 「そんな理由で手を引くわけにはいきません」 「そうよね~。ってことで殺すって方向で」 「駄目ですカヤ。彼女達を殺す必要はありません」 「はあ⁈ まだそんなこと言うわけ⁈」 「ふっ双子がワタシ達を本気で殺そうとしてきたら、生き残れるのはなっ何人かなあ!」  あからさまに声を張り上げて叫ぶクウ。全員が彼女に注目した。クウは視線の中、ぎこちない動きでロビーの椅子に腰かける。 「ワッワタシはムリだろうなあ! 戦えないし!」 「………何が言いたいの? クウ」 「え⁈ だっだからあ! まっ……負け戦になると思うよってこと!」 「アタシが負けるとでも思ってるわけ?」 「だ、だって……カヤも強いけど、双子だけじゃないじゃん! 敵は! ねっ? そうだよね⁈」  必死そうな淡黄の目が白夜と雷に向けられた。  何故だかクウは味方をしてくれている。ならばこれを使わない手はない―――白夜は、強くマイを見据えた。 「そうです。私が頼んだら、影縫直人や他の闇軍の人達は手助けしてくれると思うから」  白夜がそう答えると、クウは「ほらあー!」と嬉しそうに両腕をぶんぶん振った。 「それにワタシ! 影縫直人キライなんだよね! あのヒト、ワタシのこと変態変態言うんだもん!」 「そりゃアンタは変態だからね」 「違うよーっ! ワタシはただ女の子が好きなだけ!」 「その「好き」が過剰なんじゃない」 「どこが⁈」 「おいコラ、話が逸れてるぞ」  クウの頭を背後からわし掴む若俊。頬を膨らませ彼を見上げるクウだが、若俊はお構い無しにマイに言い放った。 「こいつの言う通り、手を引いた方が良いだろう。勝ち負けに関わらず、こっちの被害が甚大になる」 「アンタまでそんなこと言うわけ? そんなに保守的だったかしら?」 「実力だけなら、勝率は十分あるだろうけどな」 「まあたしかに、魔法道具とか使われたら面倒ね」  若俊は口をつぐみ、ふいっと顔を逸らした。その行動に不審がるマイだが、突然飛び付いてきたクウによって紛らされてしまった。 「じゃあワタシ達は手を引くってことで!」 「クウ! 勝手に決めないでください!」 「安心してね女の子達! アナタ達の貞操はワタシが守るよ!」 「貞操って……」 「むしろアンタに襲われるでしょ」 「そんなことないよ!」 「滝川さん! 何故そんなこと言ったのですか!」 「んー………」  少し渋って一瞬マイを睨んだ若俊は、からかうように笑った。 「昔のよしみ、だからかな」 * 「信じられない………」  その呟きに、何かを言う者はいなかった。紫苑と槍耶は俯き、海斗は店内を見回している。店主である夏は、しばらく何かを考え込んだ。  魔法道具屋『Ondine』に訪れた紫苑達は、コノハの事件のことを夏に話した。彼女もかつて、魔具を所有しており、何か助けにならないかと思ったからだ。大会以来、特に海斗は度々彼女に世話になっており、関係は良好だった。 「あのコノハくんが……まさかそんなことするなんて……」 「やっぱり、信じられませんよね」 「そりゃあね。でも……」  夏の辛そうな瞳が揺れる。そこには、不安げな紫苑と槍耶が映っていた。 「もしかしたら悪魔は、死ぬより辛いことをしようとしてるのかもしれないね」 「………と、いうと?」  槍耶が訊き返すと、夏は立ち上がった。魔法道具が並べられた棚へと歩みを進める。 「コノハくんが華城さんを裏切るとは考えにくい。なら、悪魔に脅されているのかも。でもその理由は? 持ち主が第一の魔具が、持ち主を裏切ってまで殺そうとする動機なんて………」 「持ち主にそれをされるくらいなら、死んだ方がマシだと思う事、ってことか?」  海斗の言葉に、頷く夏。数個の装飾品を棚から手に取り、カウンターに戻ってきた。 「これ、持っていって。数回くらいしか使えないけど、無いよりはマシだと思うから」 「ありがとうございます」  紫苑が受け取ると、彼らは踵を返す。背を向ける彼らに、夏は声をかけた。 「魔具には持ち主しかいないの。だからお願い」  ――――――コノハくんを、責めないであげて。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行