フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 村長は人間種である僕らに親切にも語ってくれた。本当にこの村の人々は親切な人ばかりだ。少女の名前はミシェルというらしい。ミシェルは高台にずっといた。何か意味があるのだろうと思っていたが、予想していた事より酷かった。人間の醜さが浮き彫りになったからである。  ミシェルは孤児である。実際には両親は死んでいる……とは限らない。その理由は両親ともに行方不明だからだ。ミシェルは両親の事が好きであったために後見人となった家の人も気持ちを察してくれたのだろう。家にいろ、とは言わなかったが、ミシェルは一度も家に帰らなかった。  高台には一軒の小屋が建っている。それがミシェルの元の家なのだ。だから高台を離れたくないのだ。ミシェルは実質一人暮らしをしている。  ミシェルの両親は普通の両親だった。他の親と変わらず子供を愛し、仕事をして幸せな暮らしをしていた。だからこそその幸せが奪われたミシェルは酷く悲しんだのだ。  ミシェルの両親が行方不明となったのは今から三年前のこと。少し村から出ていた日の事だ。偶然にも亜人を待ち構えていた人攫いが両親を攫ったのである。その後の行方は誰も知らない。ミシェルは家にいたため、攫われることは無かった。  村の人はその様子を遠くから見ていたためにすぐに駆けつけたが、距離があった為に逃げられてしまった。  ミシェルは人間を憎んだ。悲しみから立ち直るのに暫く時間が掛かったがそれからの毎日は村の屈強な男達でも嫌がるような厳しい訓練を行う日々だった。その復讐心のみで力をつけていったミシェルはその体つきからは分からないが、村では最も強いのである。大人になったら人間に復讐すると誓ったから。  村の大人達はミシェルにダメだと説得したが聞く耳を持たなかった。成人する頃には目が覚めるだろうと見守る事にしたらしい。 「今、ミシェルは何歳ですか?」 「……十四歳です。あと二年。」  この世界の成人年齢は十六歳。僅かである。未だに復讐心は続いているようだ。ということは……。 「僕らがいて大丈夫なんですか?」 「まだ伝わっていないはずです。ですが伝わるのも時間の問題かと……。」  どうにかして助けたい。でもどうすれば……。ルカも同じ表情をしていた。ルカは人間では無いが、全てを統べる始祖の竜神だ。生きる生物達を見捨てる心などしていない。 「大変です、村長!」 「どうしたんだ!」 「ミシェルが……。」  聞いてしまったようだ。ここに来る事は避けられないか。せめて場所だけでも移して欲しいな。ルカに目配せする。手出しをしないで欲しいと伝えたつもりだが上手く伝わっただろうか。まあ、それは良い。 「村長さん、僕がどうにかしてみようと思います。」 「危険です!」 「いずれ人間とも話すことになるでしょう。それが早くなっただけです。」  村長さんは終始親切だった。狼人種は敏捷性が高い。それで攻撃料が高ければかなり強敵だろう。恐らく僕とは身体能力が天と地の差があると思う。だがそれで辞めるのは人としてどうなのだろうか。僕は無いプライドに掛けてどうにかしようと決意した。  村長の家から出るとすぐにも飛び掛ってきそうなミシェルがいた。確かに人間への復讐心の塊のようだ。こんなミシェルが人間の都市に出たら阿鼻叫喚の様子になるだろう。僕はミシェルを止めている村の大人の人達に「大丈夫です。」と伝えた。  村の大人達はミシェルを離す、と同時にミシェルは飛び掛ってきた。その速い攻撃に僕は咄嗟にマントを翻した。マントは最硬の《魔道具|アーティファクト》。そう簡単には打ち破れない。聖竜か竜神でも無い限り。  ミシェルの手にはナイフがあった。 「なんで人間がいるのっ!!」  ミシェルは何度も何度もナイフをマントへ切りつけた。しかしマントには全く歯が立たない。ナイフは遂に砕けてしまった。 「人間ごときに!!」  どうしてこんな年齢から世界を恨まなくてはならないのか。この世界は残酷だ。どうにかして両親を見つけ出してあげたい。どうすれば……。僕はミシェルと共に旅をするという選択肢が頭に閃いた。ただ、これにはミシェルが人間に復讐心を抱かないようにしてもらわなくてはならない、難しい話か……。  ミシェルがナイフを砕けたのを見ると次は拳でマントを殴り始めた。亜人の拳はやわではない。しかし少女の拳はすぐに傷つき始める。力は徐々に弱まっていく。 「どうして……!どうして……!」  ミシェルは……泣いていた。人間は憎いのだろう。僕とて人間は正しいとは思えない。自分自身の事も。人攫いも完全には取り締まれない事からも甘さがあると思う。だけど……それを少女に背負わせて良いものなのか? 「君の痛みは分かる。だけど君がそんな重荷を背負う必要なんてない。」 「煩い!」  ミシェルはマントを殴り続けるが悲しい抗いだ。既に勝負は決している。ミシェルには勝ち目が無い。だが諦めていなかった。それだけ両親の事が大好きなのだ。愛しているのだ。人間全てを恨むほどに。 「いや、君の痛みは僕には分かる。君より少しだけ人生の先輩だからね。ここにいる大人達、みんながそうさ。君の痛みは分かっている。……僕に良い提案がある。君の両親を探さないかい?僕は旅をしている。いずれ世界中を回ることになるだろう。可能性が高いとは言えない。だけどその可能性が一パーセントでもあるのなら。それにかけてもいいと思うんだ。」  ミシェルは僕を見た。涙が溢れる目を見開いて。僕を殴る事も止まっていた。それだけ驚きなのか。人間は悪と思っていたのか。僕は絶対にこの子の親を見つけたい。それに人生を費やしても。そう思った一瞬であった。 「私も一緒に旅をする。」 ◇◆◇ 「私も一緒に旅をする。」  ミシェルは漸く決断をした。少女は懸命に悩んだだろう。今まで憎み続けた相手だ。どれだけ困難な選択だったかは人間の僕には分からない。だけどそれが素晴らしい選択であったと尊重する事を僕は出来る。だからそれをするだけだ。 「分かった。……じゃあ、よろしくね。ミシェル。」 「うん。」  大人達は静かに見守っていた。これもまた成長というのだろう。本人で気付くこともあれば他人に気付かされることもある。それが成長の素晴らしさであるのだ。 「ミシェル。あなたの帰る場所はここよ。辛い事があるでしょう。大変な事があるでしょう。いつも楽しいとは限りません。何か打ち明けたい事があれば帰ってきなさい。私達は全員で歓迎するよ。」 「はい、村長。」  素っ気ないような少女の返事。しかし少女の目には先程とは違う涙が流れていた。小さな希望を見つけた少女の決意の眼差しだった。気合を入れて頑張らなくちゃな。 「旅人さん。よろしくお願いします。」  村長は礼をする。同時に他の大人達も礼をした。 「ほら、ミシェル。君はみんなに愛されているんだよ。」  僕はミシェルに伝える。ミシェルは次は泣かなかった。必死に我慢しているようだ。泣いても別に僕は怒らないし、村の人達も怒らないだろう。だけど泣くのを止めたいのなら僕は止めるつもりは無い。 「さて、ルカも行こうか。」 「うん。」  こうして僕達は三人となった。始祖の竜神と平凡の僕と亜人の少女。異色の三人だがこれで良い。旅なんてそんなものなのだ。僕達はこの村に別れを告げて旅を始めた。ミシェルの壊れたナイフは僕が修復済みだ。 「それはなん……ですか?」 「敬語なんて使わなくていいよ。僕も使うつもりは無いし。」  敬語なんて堅苦しい事をしていたら旅なんて出来ない。旅人は気紛れ。敬語など使わない。 「う、うん。」 「そういい調子。徐々に慣れていけばいいからね。それで僕が着けているこのマントは|魔道具《アーティファクト》だよ。〈琥竜ノ鎧〉って言うんだよ。琥竜って言う竜の鱗から出来たんだ。」 「すごい……。」 「まあ、貰い物なんだけどね。」  それから指輪とコンパスについても説明をした。指輪はルカがまた複製してそれをミシェルにあげた。ルカはお揃いが好きなようだ。まあ指輪は〈アイテムボックス〉としての使い道が大きいからミシェルにあげるのは僕も賛成なんだけど。 「さて。」  ここからが本題だ。ミシェルの親探し。僕は簡単に達成出来るものと思っていた。 「ルカ頼む。」  そう、竜神であるルカがいるのだ。人探しなど余裕である。 「分かったよ……【見つけ出せ】【サーチ】。」  あれ?竜魔法じゃない?あっ、無魔法が一つ【探索】の魔法があったな。中級魔法と初級魔法は詠唱が短いからね。魔力も少なめで済む。 「ひ、広い。」  この魔法は目の前にマップを表示して、探したいものの位置が赤く点滅するのだが、その表示されたマップが広すぎたのだ。普通であればこの国全体のマップが表示できれば充分凄いレベルであろう。だがルカはこの大陸全体を表示したのだ。まあ、世界とまではいかなかったが、この大陸だけでも十分だろう。 「ミシェル、両親の特徴を教えてくれ。」 「……うん。」  ミシェルの言った通りにマップの探索条件を絞り込んでいった。最初はマップ全体が透明だが、条件を指定するとそれに該当するものが赤く点滅するのだ。初期の条件では目がチカチカするほどに赤い点滅が多かったが、最後に名前で検索した時には二つしかなかった。 「ここか……。」  二つの点滅は母親と父親という意味合いだろう。二人がいるのはこの国だった。そして二人は離れていた。一人は東方地域最大の都市〈アルグランテ〉。もう一人は北方地域の都市のようだ。都市名はわからない。 「これで十分か。」 「魔法って凄い……。」  ミシェルが感動して動いていないぞ。まあ、亜人だけの村なら魔法使いがいなくても不思議ではない。それだけ亜人は魔法を苦手としているのだ。 「ミシェルも使えるよ。」 「ルカ、そうなのか?」  ルカによるとミシェルはどうやら魔法が使える亜人らしい。才能に溢れた少女だな……。平凡な僕はかなわないよ。一人で自虐をするのであった。 「じゃあ、目指すのは引き続き東方地域だ。そして〈アルグランテ〉。そこにミシェルの父親か母親がいるんだな。」 「うん、絶対にいる。」  ルカが言うからには間違いが無いだろう。東方地域までは数週間ほど掛かるだろう。長い旅にはならないようだ。 「そして、ついでにミシェルが魔法を覚える、か。この旅は暇な事が無さそうだな。」  基本的に旅は暇なもの。暇だからこそその旅に面白さを求めるのだ。それが旅人。まあ、だからこそ旅人はあまり多くないのだが。まだまだ旅は始まったばかりのようだ。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行