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 ―――――――――ドォオオオオオンッ  轟音と共に、視界が砂煙に包まれた。衝撃で後ろへと体が飛ぶ。コノハの鎖を掴んでいたお陰で、何とか吹き飛ばされずには済んだ。  なんつー奴だ。躊躇いなく大砲みたいな弾撃ってきやがって。町中なんだから、少しは遠慮する気持ちを持てよ。  魔警察―――つまり、ワインレッドの女『カヤ』と、変態巫女『クウ』が到着したのは、ついさっきだった。まあ予想通りの人物だったけど、たった二人なのは驚いた。てっきりもっと来ると思ったが。純粋な人手不足なのか、舐められているのか……。  カヤは戦う気満々だった。「久々にアレ使える~!」とか「でもコイツらじゃ力量不足ね……強い奴いないのかしら」とか、やはり戦うのが好きらしい。  一方のクウは嫌がっていた。「女の子をいじめたくない!」とか「あっ、でも服が破けた姿は見たいかも……」とか、この間と変わらない変態振りだった。  キャラの濃い二人………などと観察していたが、唐突に戦いは始まった。はじめ、攻撃を仕掛けてきたのはカヤだった。カヤは、自身の左ももに装備された小さなポーチに手を突っ込み、何かを取り出す。それは、奴の身長とほぼ同じくらいの長さで、トリガーや大きな銃口のような部位が見える。  あんなデカいもの、物理的に考えればあのくらいのポーチに入るわけがない。ということはあのポーチ、魔法道具なんだろう。いいなあれ。私も欲しいかも。  それにしても、あんなにデカい銃を持ち歩いているのか。あんなのに当たったら、ひとたまりもない。  ――――――などと思っていたら、カヤがその銃を肩に担ぎ、銃口をこちらに向けて発砲してきたのだ。 「大丈夫か⁈」  秋桜が砂煙の中、私に叫んでくる。私よりも他の奴らを心配してほしい。コノハの重りがあったからこそ留まっていられたが、他はそうじゃないはずだ。 「秋桜! 雷達の様子は⁈」 「えーっと……ちょっと待ってろ!」  秋桜の姿が消える。辺りを見回しても、砂煙で誰も見付けられない。唯一コノハだけは分かるが、コノハを認識出来たって……。 「ッガ―――⁈」  突然左から何かが飛んできて、思いっきりぶつかってきた。激痛が走る。傍に落ちたそれに視線を落とすと………。 「しっ紫苑⁈」 「いってええ………!」  紫苑だった。お腹を押さえてうずくまっている紫苑だった。まさか人が飛んできたなんて思ってなくて、思わず唖然としてしまう。  視界がクリアになってきた。改めて見ると、修道女『マイ』が海斗と戦っているところだった。海斗の水龍が、巨大な鎌を持つマイに襲いかかる。マイの周囲を強風が吹き荒れ、水龍は形を保てず崩れた。しかし、壊れたコンクリートから堅い土の腕が現れ、マイの胴体に掴みかかる。 「捕まえたッ!」  槍耶が叫ぶと同時に、海斗は鋭く尖った氷柱をマイへと飛ばす。雷も魔法弾を放った。未だ風は吹き荒れているが、それらは真っ直ぐ飛んでいった。 「そんなのムダよ」  銃を担ぐカヤがニヤリと笑う。その銃口からは、硝煙が上がっていた。  ―――――――――キィンッ 「⁈」  マイの大鎌が、氷柱と魔法弾を薙ぎ払った。だが、マイの手からはその大鎌が離れている。 「か、勝手に⁈」 「まさか……魔具⁈」  大鎌が風と共に飛んでくる。反応出来なかった槍耶は、振るわれた大鎌に腹を斬られた。血が飛び、マイが土から解放される。 「申し訳ありません。本当は傷付けたくはないのですが……」 「そう言いつつ躊躇なく戦ってるじゃない? マイ」 「彼等が手を出してくるからです」  もとはと言えばそっちがケチつけてきたからだろ。そう言いたかったが、ぐっと我慢した。代わりに睨み付けると、マイは鎌を手に取った。  あの鎌、魔具ではないと思う。刃が変形したわけじゃない。人の手元から離れ、独りでに動いたのだ。いくら魔具だからって、そんなことは出来ないはずだ。コノハだって、自分で鞘から出られないらしいし。 「ねえマイ、もう一発撃っていい?」 「駄目ですカヤ。亡くなってしまわれたらどうするのですか」 「いいじゃない別に! そんなのアタシ達には関係無いわよ!」 「ダメーッ! カヤ! 女の子を撃たないで!」 「男性も駄目ですよ、クウ」  馬鹿みたいなやりとりが繰り広げられる。あっちは余裕そうで不愉快だ。どうにか黙らせたいが、そんな力あったらこんなに困ってない。  仕方無さそうに銃を背に担いだカヤは、体を伸ばし始めた。 「さあーて。なら、そろそろアタシも暴れようかしら!」 「カヤ。間違っても殺しては駄目ですよ。いいですね?」 「もぉー! 分かったわよ! 仕方ないわね」 「殺しはするな。あいつらを殺したら俺がお前を殺す」  ギロリとカヤを睨む蒼祁のその足は、朱兎の首を踏みつけていた。少しでも動こうものなら、容赦なく圧迫されている。  カヤとクウが到着する少し前に、蒼祁は朱兎をこうして押さえ付けた。言うことを聞かないからだろうが、それにしても酷い。普段はいっつも一緒にいるくせに、ちょっとでも逆らうとこんな仕打ちを受けるのか。これじゃ朱兎は蒼祁に支配されて……―――。  ―――そういえば、コノハは全然嫌がってなかったな。首輪をつけようとか、奴隷だとか蘭李が言っていた時、コノハは何も反抗しなかった。むしろ乗り気にさえ見えた。  どういうつもりなんだ? 束縛されてもいいって、コノハはそんなにマゾ気質じゃなかったはずだけど……。  チラリと見ると、当の本人コノハは辺りをキョロキョロと見回していた。重りがあるからぎこちない動きだけど、なにやらそわそわしている様子だ。声をかけると、ビクッと体を小さく震わせて、伏し目がちに私を見た。 「………何?」 「そわそわしてどうした?」 「……別に。そわそわしてないし」  してたよ、がっつり。そう言うと、何も言わずに顔を背けられる。  やっぱり変だよなぁ……あ、でも無視されることはたまにあるか。 「オラッ!」  その声で意識が現実に戻され、視線を移した。槍耶がカヤに、槍を振り下ろしているところだった。その柄を掴んだカヤは、空いてる片方の手を槍耶に突き出す。そこから炎が放出され、槍耶が炎に包まれた。  直後、カヤに水龍が襲いかかる。軽々しく避けられたが、水龍は槍耶を炎から解放した。 「鬱陶しいわね。コイツら」 「鬱陶しくて結構!」  真っ白い一角獣のペガサスに乗った雷が、宙から弓矢を放った。真っ直ぐカヤへと飛んでいくが、途中風に煽られ矢は朱兎の目の前に落ちる。 「ペガサス……アタシ初めて見たわ。本当にいるのね」 「それだけ彼女が純真な心の持ち主なのでしょう」 「どーかしらね」  カヤの足元から炎が立ち上り、雷に向かって火の玉を一つ投げるカヤ。ゆらゆらと浮遊したため、避けるのは容易だったが、火の玉は雷の傍で留まった。 「純真じゃなくて、ただの馬鹿ね」  パチン、と指で渇いた音を鳴らすカヤ。次の瞬間、火の玉が爆発した。 「雷ッ!」  黒い煙から落ちてくる雷とペガサス。一角獣はその途中で消え、雷だけが地面に落ちた。服は破け、全身に傷や火傷を負っている。紫苑が駆け寄っていった。 「普通警戒するでしょ。何ボーッと眺めてんのよ」 「カヤ。もう少し手加減してください。見ているこっちがヒヤヒヤします」 「カヤ! 女の子に手出さないでよ! かわいそう!」 「あーあ。こんなに弱いと興醒めね」  心底残念そうに溜め息を吐くカヤに、マイは不安そうな視線を送る。ぷんぷんと怒るクウは、騒がしくカヤに迫っていた。  強い……分かってはいたけど、こう舐められてると、ムカついてくる。せめて夜になってくれれば、私だって戦えるのに……! 「じゃあさっさと取り返しちゃって良いわよね?」 「始めからそうして下さい。無用な戦闘でしたよ?」 「アタシは殺し合いが好きなの! 任務なんて二の次!」 「もう絶対女の子は傷付けないでよね!」 「そんなの無理よ」  カヤが駆け出す。こっちに一直線。狙いはコノハだ。  私が太刀を構えると、カヤはニヤリと笑った。 「弱い奴は、引っ込んでなさい」  炎に包まれた拳が、私に迫ってきた。 「それはこっちの台詞だ、女」  眼前を勢いよく、右から左へ通りすぎていった何か。私もカヤも、驚いて硬直してしまう。  直後、カヤの喉から水平方向に傷が生まれ、だらだらと出血し始めた。 「なっ……⁈」 「もう一発だ」  声の直後、再び前を通りすぎる何か。カヤは背後へ飛んで避けたものの、右腕に同じような傷が生まれていた。  何か―――それは、声で瞬時に理解した。それと同時に、とてつもない安心感が私の心を支配した。 「大丈夫か? 白夜」  ポン、と背後から肩を叩かれる。振り向くとやはり、予想通りの男がそこにはいた。紫がかった短髪に、憎たらしい程の高身長と整った顔。白を基調とした制服に身を包むその肩には、こいつの顔と同じくらいの大きさの烏がとまっている。 「――――――遅いんだよ、直人」  闇軍統帥の息子であり、何故か私に好意を寄せている変わり者の『影縫直人』は、暗い紫の目を細めて笑った。
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