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「なっ……なんで悪魔が……⁈」 「なんでって、オレとコノハがグルだからだよ。そんなこともわかんねーの?」  悪魔がコノハの隣に降り立つ。先程朱兎を殴り飛ばした影は、吸い込まれるように悪魔の影へと吸収された。  突然の事態に、白夜は直人を解放する。槍耶や雷達も、悪魔から目が離せない。そして蘭李は、目の前に立つ悪魔とコノハに顔を青ざめた。 「なんで………もう手を切ったんじゃ……⁈」 「蘭李が約束破ったから」 「いやいや、それは違うだろ? コノハ」  コノハの肩に腕を回し、妖しく笑う悪魔。 「もとから、こういう作戦だったじゃないか」  悪魔へと数多の氷柱が飛んできた。しかし全て影に弾き飛ばされる。悪魔はケラケラ笑いながら、チラリと蘭李に視線を落とした。 「残念だったなあ蘭李くん? 何よりも大切な魔具に裏切られてよお」 「お前のせいだろ……っ!」 「はあ? 自分のせいだって言われたろ? 自分が行ってきた行為のせいで、コノハはお前を裏切った。だからこそ、お前はコノハの頼みを聞いたんじゃないのか?」 「ッ……!」  再び朱兎が駆けてくる。悪魔に飛び掛かろうとするが、黒いドーム状の結界に阻まれ、攻撃は届かなかった。結界の中には蘭李とコノハもいる。 「ほら、ちゃんと場所は用意してやったんだから、さっさとやっちまえよ」 「言われなくたって」  コノハが蘭李に向き直る。彼女の左腕に刺さっていた刃を抜き、今度は左の手のひらに突き刺した。苦痛の悲鳴が上がる。 「何やってんだコノハッ!」 「見て分からないの?」 「コノハやめて! なんで蘭李を殺すの⁈」 「――――――なんで?」  ピタリとコノハの手が止まる。その刃だけでなく、服も血で染まっていた―――言うまでもなく、蘭李自身も。  コノハは雷達を見回し、最後に蘭李を見下ろした。彼女は痛みで涙を流し、ぶるぶると震えている。その左手から、刃をゆっくりと抜いた。 「言ったって分からないから、殺すしかないんじゃん」  ―――――――――グチャアッ 「ああああああああああッああああああああああッ!」  何度も何度も蘭李の左腕に刃を突き刺すコノハ。その度に血が飛び散る。白夜と海斗はそれぞれ魔法を飛ばすが、結界には傷一つつかなかった。朱兎や槍耶は拳や武器で壊そうとするが、やはり効果はない。紫苑と雷は恐怖で、直人と蒼祁は体力の消耗で動けずにいた。睡眠は泣きじゃくり、蜜柑と秋桜はコノハに叫んだ。 「やめろッ! コノハやめるのじゃッ!」 「何が気に入らないんだよお前ッ!」 「部外者には関係無いし」 「そんな理由で殺されてたまるかよッ!」  刃を抜き、コノハは蘭李を見下ろした。左腕は真っ赤に染まり、鉄のにおいが強烈に漂っている。片膝をつき、コノハは蘭李を抱き起こした。彼女の呼吸は上がり、虚ろな目をしている。 「ねえ蘭李。例え僕が危なくても、絶対に銃を使わないって誓うなら、やめてあげてもいいよ?」 「………ッ………ぁ…………」 「え? 聞こえないんだけど。さっきまであんなに叫んでたのに」 「――――――お前、拗ねてるんだろ」  怪訝そうな顔をして、コノハが振り向く。声の主である蒼祁は、ゆっくりと起き上がった。先程までよりかは回復したみたいで、力強くコノハを睨み付けている。 「ようやく分かった……。つまりはお前、蘭李が銃ばっか使ってるのが面白くないんだろ? そのせいで自分は使ってもらえないから」  沈黙が流れた。蘭李の浅い呼吸だけが響いている。  拗ねている―――その言葉に、白夜達も納得がいった。蘭李はここ最近、銃ばかりを使っていた。もちろんそれは、トラウマを克服するためだ。もし克服出来れば、戦闘力はぐんと上がる。だからなるべく早く慣れようと、必死に特訓していた。  故にコノハは、ここ最近蘭李に使われていない。  もし蒼祁の言うことが本当であれば、たしかに道理には合っている。武器なのに使ってもらえない。それは辛いことなんだろう。  だけど―――と彼らは皆、疑問に感じた。  ――――――たったそれだけのことで、こんなにも憎悪が沸くものだろうか……? 「………………」 「図星か。ハッ! 馬っ鹿じゃねぇの? 所詮お前は武器なんだよ。使われる身なんだよ。だからお前は文句を言える立場なんかじゃねぇ」 「………言えるよねぇ? 蘭李?」  コノハが不敵に笑う。緑色の視線は、腕の中に収まる自身の持ち主に注がれた。 「蘭李は僕のこと、人だと思ってるって。だったら文句を言う権利はあるよね? だって人間だもん」 「それはそいつが分かってないだけだ。お前が武器であることに変わりはないんだよ」 「………ホント、そうだよね」 「は?」  項垂れるコノハの横顔は、悲しそうな辛そうな表情であった。蘭李にも、蒼祁達にもその意味が理解出来ない。コノハはじっと蘭李を見つめながら、ぽつりと呟いた。 「僕は武器だ。人じゃない。誰かに使われる運命なんだ。そんなこと、昔から分かってたよ」 「なら―――」 「だけど、こいつは違った。僕のこと、大切な何かだと思ってた」  力なく笑うコノハ。蘭李には、ただそれを見ているだけしか出来なかった。 「思えば、出会った時からそうだった。僕に名前なんかつけて、ずっと人でいてなんて言って、まるで武器として扱わない……家が家だけにしょうがないことだったけど、だとしても区別くらいしてほしかった」  僕はあくまで武器であり、《蘭李|ひ と》とは違うんだって。 「だけど、これはこれでいいかなって思い始めた。戦わない運命、人みたいな運命をこいつと生きていく。歯がゆい気もしたけど、魔力者と縁がないなら仕方ないって思った」  コノハがぎゅっと蘭李の肩を握る。 「けど…………お前らと会って、全てが変わった」  コノハは顔を上げ、蒼祁を睨み付けた。結界を挟んで、緑と青の視線が牽制し合う。 「僕らを魔力者の世界に放り込んだ」 「魔力者なんだから当たり前だろ」 「違う。お前らとさえ会わなければ、少なくとも蘭李が銃を使うなんてことはなかったはずだ」  それを聞いて、呆れたように息を吐く蒼祁。 「例え俺達と会わなくても、いずれ他の武器を試すようになるだろ。遅いか早いかの問題だ」 「お前が蘭李に銃の戦い方なんて教えなければ、こいつは銃の才能に目覚めることもなかった!」  コノハの叫び声に、蒼祁の隣にいた朱兎がびくりと肩を上げた。 「あの学園で銃なんか教えたからッ! こいつは次第に僕を使わなくなったッ!」 「お前だと弱いからな。仕方ないだろ」 「……そうだよ。蘭李に剣技の才能はない。このままだと、いつか本当に僕は棄てられる。だから、だからこそ、僕はこいつに言ったんだよ。あの「事件」の後に………」  ――――――もうそれ使うのやめなよ。もう二度と友達を殺さないために、僕だけを使いなよ。僕なら制御出来るしさ。 「お前が原因だったのか……!」  蒼祁がギッとコノハを睨む。白夜達も驚いていた。が同時に、夏に言われた言葉を、紫苑達三人は思い出した。 「魔具には、持ち主しかいない………」 「は?」  思わず呟いてしまった紫苑に、コノハが素早く反応した。慌てて紫苑が声を上げる。 「いっいやっ! 雛堂さんが言ってたんだよ! コノハを責めないでやってって……」 「………ふーん」 「責めるな? フン、笑わせるな。持ち主の言うことを聞けない魔具に存在価値なんて無い」 「そこまで言わなくても……!」 「いいんだよそれで。魔具は持ち主のために命を使うんだから」  小さく笑うコノハ。その右腕が、再び刃に変化した。 「悪いのは、僕との約束を二回も破ったこいつだから」  刃が下ろされる。右の太ももに突き刺さり、声にならない悲鳴が上がった。抉るように刃は肉に侵入していく。 「ねえ蘭李。友達を殺したくないから銃をやめたんじゃないの? 僕が魔具として死なないために銃をやめたんじゃないの?」 「…………っ………………」 「蘭李はそんなに誰かを殺したいの?」  ももから刃が引き抜かれる。蘭李の体は青白くなっていた。このままでは本当に死んでしまう―――誰が見ても分かる程、危機的な状態だった。  そんな蘭李を見て、嬉しそうに笑うコノハは、彼女に顔を近付けた。 「安心しなよ。お前が死んだら、僕も死ぬからさ」 「は……? どういうことだよ……」 「新しい持ち主を探すんじゃ……?」 「そんなわけないじゃん。僕の持ち主は蘭李だけだよ。それに誰かに乗り換える気なら、こんなことしないで黙って出ていくでしょ」  脱力しきった蘭李に、背後から腕を回すコノハ。血がこびりついてもお構い無しだった。 「《魔具|ぼ く》には《持ち主|ら ん り》しかいない。それ以外の人間なんて、世界なんてどうでもいいんだよ。その狭い世界で魔具として扱ってくれれば、それ以外には何もいらない。《魔具|ぼくら》はそういうものなんだよ」  例え、持ち主のせいで死ぬようなことになってもね。 「そんなのはダメだよ」  ―――――――――バチィイインッ  蘭李達を覆ってた結界に穴が開いた。どこからか、矢が勢いよく飛んできたのだ。悪魔は飛んできた方を睨む。煉瓦色のツインテールに、白と黒のセーラー服。弓を携え、真っ白い大きな羽を背中から生やしている少女。  そう。メルが、空から降り立ったのだ。 「てめぇら……!」 「遅くなって悪かったね、皆」  歩いてくる健治の隣に降り立つメル。彼女は弓矢を悪魔へと構えた。矢が放たれると、再び結界に突き刺さり、次第に崩壊を始めた。 「さっきまでそこの悪魔に足止めされててね。結構なダメージを食らったけど、もう回復しきったから大丈夫。だよね? メル」 「はい」 「……くそ野郎ッ!」  叫ぶ悪魔に朱兎も飛んできて、彼に回し蹴りを食らわせた。悪魔の体が吹っ飛ぶ。それをメルが追いかけた。飛行しながら矢を放つ。同じく飛行して避ける悪魔は、彼女を影で捕まえようとしている。だが彼女もそれらを避ける。 「――――――ッ……!」  コノハは唇を噛み締め、蘭李を地面に寝かせた。右腕を刃に変える。緑色の目で彼女を捉え、思いっきり振り上げた。 「やめろコノハッ!」  白夜が叫ぶ。と同時に、海斗が銃弾を放った。コノハの右肩を弾が撃ち抜く。痛みで顔をしかめたコノハだったが、もう一度鋭く蘭李を見据えた。 「こうするしか……ないんだよッ!」  刃が振り下ろされる。今更走っても間に合わない。ならばと、白夜や槍耶が魔法を放つ。たがそれよりも早く、コノハに接触出来た者がいた。  ――――――――――――ガキィイイインッ  半分に折られた刃が宙に飛ぶ。緑色のそれはくるくると舞い、コノハの背後へと落ちる。一方のコノハの右腕は、刀身が半分折られていた。  彼は見上げる。自分の腕を折ったのは紛れもなく、目の前にいるこの人物だと確信した。  真っ赤な目を、獲物を捉えた獣のように光らせる朱兎だと。 「――――――ごめん。コノハ」  朱兎が小声で呟く。次の瞬間、赤い光に包まれた左手を、コノハの喉目掛けて突き出した。  ――――――――――――グチャアアアアッ  時が止まった。それを見ていた者達全員、起こった出来事をすぐ理解することは出来なかった。  それは、突き刺した本人である朱兎も、  一番間近にいた、コノハも。  朱兎の左手は、蘭李の右肩の辺りを貫いていた。 「―――――――え………?」  ドサリ―――コノハと蘭李が倒れる。彼はおそるおそる視線を落とした。コノハの上に被さる蘭李は、右腕を彼の首に絡ませている。左腕は脱力しきっているが、その姿はまるで、庇ったかのようにも思えた。 「え………っ………あ……っ………⁈」  朱兎の体が震え始める。ゆっくりと腕を引くと、自身の赤く染まったそれに恐怖した。その視界に映る蘭李は、ピクリとも動かない。ぺたぺたと頬に手を当て、ぼろぼろと涙が溢れる。  そして――――――。 「あッ――――――ああああああああああああああああああああッ!」  彼は、泣き叫んだ。
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