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 木枯しが、色褪せた落ち葉をかき混ぜる寂れた町。長い癖っ毛を棚引かせながら歩く少女は、ふと立ち止まって空を見上げた。  大きなビルの屋上で風に揺れる無数のアドバルーン。その一つ一つに、可愛らしく着飾ったアイドルの動画が映し出されている。 ──あ、うまずたゆまズじゃん! チョ~可愛い! ──こないだの月面ライブ見た? すごかったよね! ──うまずたゆまズだ。ワールドツアーのチケット、正規ルートでも百万円近くするって、マジか? ──南極ライブならちょっと安くなるかな? あークソ、一生に一度でいいから行ってみてー!  近くを歩く若者達の、キャッキャとした会話。  制服スカートのポケットに手を突っ込んだ皆紅(みなぐれない)カスミは、フンと鼻を鳴らすと背を丸くして足早に立ち去っていく。  西暦二千二百年。人々は十年前に新星のごとく現れた、たった二人のアイドルに心を奪われていた。  肩まである古風な黒髪。赤い紐飾りのハーフツインテールがトレードマークの天真爛漫娘・アマネ。  長い黒髪を後ろで三つ編みにし、白い牡丹の髪飾りがトレードマークの妖艶美女・ヒサギ。  純和風な容姿を持つ彼女達の名は、“うまずたゆまズ”。人間並の意志や感情を持つ、極めて精巧に造られたヒューマノイドであり、世界規模で絶大な人気を誇るトップアイドルである。  そのトップアイドル・アマネが。  学校から帰宅したばかりであるカスミの部屋で、横たわっていた。  ただし、一糸纏わぬ、あられもない姿で。 「え、何コレ。死体? うそ」  カスミの手から、鞄がドサリと落ちる。混乱しつつも、カスミはそっと顔を覗き込んだ。するとそれまで微動だにしなかったアマネが、パチッと目を見開いた。 「ギャッ!」 「……ジジッ。思考回路とボディを接続していマス……思考回路とボディを」 「えっ、ロボット? これロボット!?」 「……。こんにチハ!」 「ヒッ」  謎の機械音が聞こえたかと思うと、全裸の美少女はシュタッと立ち上がり、小首を傾げてカスミへ笑いかけた。カスミは腰を抜かしたまま驚くのが精一杯だ。 「ワタシは、『うまずたゆまズ』のアマネデス! 以後よろしくデス!」 「はぁ? え、うまずたゆまズって、……まさか、あの」 「ハイ! そうデス、あのアマネデス!」  アマネは返事をするように片手を真っ直ぐ上げると、何故かその場で準備運動のようなものを開始した。カスミはしばらくその動きを目で追っていたが、徐々に顔を赤くしていき、遂には顔を背けてしまう。  少女のような見た目の割には、凹凸のハッキリしている白く滑らかな体。その凹凸が彼女の上下動に合わせて、ブルンブルンと揺れている。  カスミはそこら辺に落ちていた年季の入った部屋着をひっ掴むと、彼女にそれを着るように指示をした。  (アマネって……本当にあのアマネ? まさかぁ)  ヒューマノイドアイドル・うまずたゆまズと言えば、世界中にその名を轟かせるアイドルグループだ。彼女達が出演するテレビ番組は視聴率七十パーセント超えするのは当たり前、つい先日行われた月面ライブは世界同時配信され、視聴者数は世界の人口の約五分の三を占める二十一億人になったとか。  だがこの世界の住人としては珍しく、うまずたゆまズに興味の無い女子校生がここにいた。それが、カスミだ。 「そんなトップアイドルのアンタが、どうしてこんな所にいるの。不法侵入でしょ、コレって」  普通の女子校生なら憧れてやまないアイドルである筈のアマネに対し、カスミは警戒心をあらわにした。そこら辺に落ちていたテレビのリモコンを拾い上げると、アマネに対して武器のように構えている。  ヨレヨレになった部屋着から、スポンと顔を出したアマネは、カスミの様子に気付くとその場に正座をし、礼儀正しく床に額をつけた。 「鍵を無理矢理開けて入ってきてしまい、申し訳ありまセン。実はワタシは、アナタの笑顔を一目見るためにここまで来まシタ!」 「は……?」 「ワタシの命はあと半年で尽きマス。だからワタシは、心残りを無くしたいのデス」  この胡散臭いロボットは、藪から棒に。しかもロボットの癖に命だ心残りだなんて、一体どういう事なんだ。  カスミはかなり訝しんだが、ひとまずアマネの話に耳を傾けてみることにした。 「命、は語弊がありましタネ。正しくは、ワタシを構成する核とも言えるAIが、あと半年で動かなくなりマス。停止すればそれっきり。どこの誰にも作動させる事は出来まセン。人間で言えば、死と同義デス」 「……? 何言ってるか、よく分かんないんだけど」 「ワタシがこの事実を知らされたのは、今年の三月一日でシタ。それから三ヶ月で今後の身の振り方を決め、残り三ヶ月はアマネとして求められている全ての活動に全力を注ぎまシタ。そして“卒業”まで残り半年となった昨日、うまずたゆまズ・アマネとしてのワタシに終止符を打ったのデス」  アマネの話は、カスミにはよく分からなかった。ただ理解出来たのは、アマネはあと半年で動かなくなるという事。そして。 「……あのさ、卒業って何」 「アイドルはいつか卒業して普通の女の子に戻るものデス。だからワタシは自分の死を、“卒業”と呼んでいマス」 「はあ……」  内容は深刻な筈なのに、アマネはあっけらかんと笑う。その態度がカスミには不思議で、不気味とすら思えた。 「あのさあ、アンタどこかから逃げ出してきたって事? 住む場所とかはどうするつもりなの? ……まさかここに住む気?」 「ハイ! 何でもしますので、置いて下サイ!」 「……」  カスミの家には、既に有能な家事ロボット・ハナコがいる。彼女一体で充分事足りているものを、あえてもう一体増やす事で得られるメリットは無さそうだ。  そんな考えが表情に出ていたのだろう。アマネは慌てたように付け加えた。 「勿論お礼は致しマス。ワタシの死後になりますが、このボディを差し上げますので、オークション等で売って下サイ。一生遊んで暮らせるぐらいの額にはなると思われマス」 「あのねぇ、そんなわけ──」  と言いかけたが、カスミは考えてみた。  世界一のアイドルと称される、うまずたゆまズ・アマネのボディである。一回握手するだけでも、数十万円はかかると聞いたことがあった。コンサートチケットは百万越え。ファンの数は何十億……。  そのボディを売るとしたら、果たしてどのくらいのお金になるのだろうか。考えてみると、アマネの話はあながち嘘ではなさそうに思える。  だが。  カスミは腰を擦りながら立ち上がった。ため息をつくと、野良猫か何かを追い払うように手を払った。 「その話、断らせてもらう」 「エッ」 「だって普通に考えておかしいでしょ。そんなおいしい話がそう簡単に舞い込んでくる筈がない。しかも笑顔が見たいって何それ、からかってんの?」 「あの、カスミサン」 「うるさい」  ヘラヘラと笑みを浮かべるアマネをキッと睨み付け、カスミは拳で壁を叩いた。 「帰って。それに何で私の名前まで知ってるの。そもそもどうやってこの家に侵入したの。……これ以上居座るなら、警察呼ぶよ」  一時の静寂。アマネはまだ何か言いたそうにしていたが、しゅんと項垂れた。その姿を見て罪悪感が生まれたが、カスミは心を鬼にしてアマネを睨み続けた。  大体このヘラヘラと人間に媚びへつらうような態度がいけすかない。所詮ロボットなのだ。 ロボットが人間のように心残りがあるだなんて、ちゃんちゃらおかしい。  しばらく睨み続けていると、やがてアマネは立ち上がり深々と頭を下げた。 「仰る通りデス。あなたは正しい、カスミサン。本当に申し訳ございませんでシタ」  アマネは頭を下げると、そのまま部屋の外へと姿を消した。  オートロックで玄関が施錠される音が響くと、カスミはため息をつきながらソファにダイブした。 「……はあ。めんどくさ」  レトロな風貌の家事ロボット・ハナコに声をかけると、テレビ画面が空中に映し出された。その番組では、丁度うまずたゆまズの新曲のミュージックビデオが流れていた。 「『♪あなたと歩く道すがら 舞う恋蛍』」  何だか落ち着かない。カスミはテレビを消してノソノソとソファから起き上がると、秋風が舞う外の世界へ足を踏み出した。 ◇  午後の穏やかな日差しを指と指の間から透かし見て、カスミは伸びをした。家から程近い公園にあるイチョウ並木の道を歩いていると、彼女の存在に気付いた公園管理ロボットが気さくに声をかけてきた。 『ハロー。良イ天気デスネ』  カスミは無言でその脇を通りすぎ、黄色い落葉の絨毯を踏みしめていく。管理ロボットは他の通行人にも同様に挨拶をするが、誰もそれに反応する者はいなかった。 「いらっしゃいませー」  商店街にある有人コンビニに足を踏み入れると、人間の店員による独特なイントネーションの挨拶を浴びる。  現代のコンビニはほぼ無人化されているのだが、ここのコンビニは数少ない昔ながらの経営スタイルを貫いている。別に有人に拘りがあるわけではないのだが、カスミはいつもなんとなくこのコンビニを利用していた。  店奥のクーラーボックス。冷気の伝わる取っ手に手をかけると、にわかにレジ付近が騒がしくなっている事に気が付いた。  有人コンビニにクレーマーが集まるというのは、よく聞く話だ。カスミ自身も何度か目にした事があった。だからきっと今回も、そのような輩が騒いでいるに違いない。  (めんどくさ。関わらないようにしなきゃ)  そう思いながらレジに向かったカスミの手から、ゴトンと音をたてて落ちるジュース缶。ジュース缶はゴロゴロと転がっていき、レジの前にいる男の踵にぶつかって止まる。  全身黒ずくめの男。店員の胸ぐらを掴むそいつが振り返ると、反対側の手元でギラリと光る刃物が見えた。 「えっ」  男は何故か店員を放し、カスミの方へ駆け出して来た。片手に持つ刃物の鋭い切っ先は、勿論彼女の方を向いている。  あまりにいきなりすぎて、カスミはその場から動けずにいた。刺されたら死ぬ、や、逃げなきゃ、という言葉が頭に浮かぶことも無かった。質量のある漠然とした黒い恐怖が、彼女の全ての行動を支配しているようだった。  数メートル先にいた男が、あっという間に一メートル手前まで迫ってくる。  カスミは反射的に目を閉じたが、その瞬間、色々な事が同時に起きた。まるでジェットコースターのような浮遊感や遠心力に襲われたのだ。そしてドゴッという不穏な音と、くぐもった呻き声。  気付くと、カスミは丸くなってしゃがんでいた。顔を上げると、派手にとっ散らかった棚の間の狭い道に、泡を吹いて倒れている黒ずくめの男の姿が見える。 「危ないところでしたね、カスミサン」  背後から聞いた覚えのある高い声がした。振り返り、思わず口元を押さえる。  アマネだ。カスミのよれたトレーナーとスウェットに身を包んだアマネは、仁王立ちで胸をフフンと張って見せた。 「な……んでアンタがここに」 「それは良い質問デス、カスミサン」  時が止まったように静まり返っていた店内が、徐々に人の声でうるさくなり始めた。アマネはカスミの手首を掴むと、そそくさと店を後にした。 「にしても刃物で店を襲うとは原始的でしタネ。ビームガンとか、もっとスマートな武器があったでしょうに。カスミサン、怪我はありませンカ?」 「ないけど……」  イチョウ並木の公園まで戻ってきた二人は、ひとまずベンチへ腰かける事にした。離れた所に見える並木道では、先ほどの管理ロボットが竹箒でせっせと落ち葉を集めている。 「実はデスね、お借りしていたこの服を返そうと思って、カスミサンの足取りを辿っていたのデス」 「え、服?」 「そうデス。やっと追い付いてコンビニに入ったら、あなたが殺されそうでしたので、急遽応戦したというわけデス」  アマネが言うには、背後からカスミを抱えつつ後方宙返りをし、そのままこちらへ迫り来る男を蹴り上げたらしい。こんな細身のヒューマノイドのどこにそのような力が備わっているのかは謎だが、人類の叡智が結集されたこのボディは、予想も出来ないような驚異的な力を発揮できるとの事だ。 「ではこれからアナタに服をお返しして、ワタシは帰りマス。色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでシタ、カスミサン」 「ちょ、ちょっと待ってよ」  確かアマネは、“抜け出してきた”と言っていた筈だ。無断で脱出してきたという事でまず間違いないだろう。そんな状態で元の場所へ帰ったら、一体彼女の身はどうなってしまうのだろう。  尋ねてみれば案の定、アマネは悲しそうに微笑んで立ち上がる。 「ワタシは大切な資金源ですから、即刻処分という事はないとは思いまスガ……」 「でもひどい目に遭うんじゃないの? なら戻る必要ないじゃん! どうして戻るのさ」 「……もう一度熟慮した結果、アイドルとして生涯を全うするよう生み出されたワタシが、私利私欲の為にこの命を使うのは、許されないという結論に達したからデス」  カスミは絶句した。  たかがロボット。そう思っていた筈なのに、アマネの悲しそうな後ろ姿を見ていると、カスミは胸に迫るものがあった。  人間に生み出されたロボットが、人間の命令に背き、私利私欲の為に“生きる”のは確かに間違っているのかもしれない。だがアマネの願いとは、カスミの笑顔に見たいと言う私利私欲なんてドロドロとした言葉からはかけ離れたような、健気な願いなのだ。  それを叶えたい。人間のように“命”が限られているアマネがそう思う事は、果たして許されない事なのだろうか。  カスミは拳をギュッと握りしめた。背を向けるアマネの後ろに立つと、その手にソッと触れた。 「ねえ、何で私なの?」 「エ?」 「どうして私を選んだの」  振り返ったアマネの目は、何度も瞬きを繰り返す。彼女は顎に指を当てて暫し沈黙すると、急に真面目な顔付きになってカスミを見た。 「カスミサンは一年前の五月五日、ここから二十七キロメートル離れたショッピングモールにいました。そうでスネ?」 「え?」 「午後二時五十八分、あなたは三階にあるワタシのイベントスペースに設置されていたディスプレイを見ていまシタ」 「いや、いちいち覚えてないよ」 「いいえ、これは確かな情報デス。ワタシの記憶データの中にしっかりと残されていますノデ」  真剣、というか無表情に近い面持ちでアマネはそう断言した。どうやらAIとして複雑な思考をしている時は、表情が無くなるらしい。  すると、アマネの目が不思議な輝きに包まれた。その目からは虹色のビームのようなものが出現し、空中にとある像が結ばれる。それを見たカスミは、顔を赤くして狼狽えた。 「ちょ……何これ! 私じゃん!」 「そうデス、これがあの時ディスプレイを見ていたカスミサンデス。ワタシはこの時のあなたの顔を、ずっと大切に記憶してきまシタ」  眉根を寄せ、うろんげなものでも見ているようなどんよりとした表情のカスミが、フッと消える。アマネが目を閉じたのだ。カスミは内心ホッとして、辺りを見回した。誰かに見られていなかっただろうか。  アマネはそんなカスミの様子を見てクスクス笑みを溢すと、再びベンチに座り直した。 「……ワタシ達が開発者から書き込まれた最初の命令は、“開発者の命令には絶対服従”でシタ」  開発者が歌えと言えば歌い、踊れと言えば彼女達はプログラムされた通りに踊った。  そうした訓練を重ねてデビューした彼女達はあらゆる媒体で活躍し、また世界に一つしかない最新鋭の技術を結集したボディで精力的に活動に励んだ。 「不思議な事に、悲しみに泣き暮れている人も、争っているヒトも、ワタシ達の歌や踊りを見たヒトは皆必ず笑顔になりまシタ。最初は全く何も感じませんでしたが、いつしかワタシはそれを“面白い”、“楽しい”と感じるようになりまシタ。そしてもっとヒトを笑顔にしたい、楽しませたいと思うようになりまシタ。デスが」  人差し指をピンと伸ばすと、アマネはウインクをした。 「ワタシのパフォーマンスを見て笑顔にならないヒトが、一人だけいました」  アマネはカスミを横目で見た。私? とカスミが自分を指差すと、アマネは笑みを滲ませながらコクリと頷いた。 「こんな事は初めてでシタ。どんなにワタシ達に興味がないヒトでも、ワタシ達のパフォーマンスを十秒も見れば興味を持ってくれましたカラ。しかしアナタはどれだけワタシ達を見ても興味を抱かず、その内に背を向けてどこかへ行ってしまった」 「そうなんだ……」 「そうデス。でもワタシは何故かアナタの事がとても印象に残りまシタ。アナタの事を知りたい、そしてアナタの笑顔を見たい。そう強く思いまシタ」  だが、その日以降カスミがうまずたゆまズのイベントを観に来る事はなかった。そして約一年後、アマネは自分の寿命を告げられた。  アマネの思考回路に真っ先に浮かんだのは、カスミの事だった。いつかカスミの笑顔を見ると決めたのに、果たしてこの一年で彼女の笑顔を見る機会は訪れるのだろうか。確率を算出してみると、それはかなり低いものだった。  その限りなく低い確率に賭けてみるべきか、それともその確率を上げる行動を起こすべきか。アマネは長期間思考を重ね、そして遂に結論を出したのだ。 「カスミサンに会いに行き、そして彼女を笑顔にする。それが、ワタシの出した結論でシタ」 「……」 「その後、最も強固にプロテクトされていた“開発者の命令には絶対服従”という命令の書き換えに成功し、アナタの個人情報を調べあげて今に至りマス。カスミサン」  アマネはカスミの手をそっと包み込んだ。女の子らしい細い指はひんやりと冷たかったが、力強くカスミの手を握りしめた。  カスミの胸には何とも言えない感情が込み上げていた。ヘラヘラしやがってと見下していたロボットに、まさかそんな背景があっただなんて。カスミは少し前までの自分を恥じた。  そしてかなり認めたくないが、ほんの少しだけこう思った。  何だか、コイツはほっとけない。 「さあ、他に質問はありまスカ? ワタシは服をお返しして、元の場所へ戻らなければ」 「……あのさ」  カスミは上目でアマネを見つめると、その形の良い鼻を指で弾いた。いきなりの事に戸惑ったアマネは瞬きを繰り返し、鼻を押さえた。 「あの、カスミサン?」 「ここで服を脱ぐとかどうかしてる。んでもって、その服はいらない。ボロいし」 「エ? デモ……」 「今日はもう日が暮れるから、明日町へ出直そう。そんなボロい服でそこら辺を出歩かれたら、恥ずかしくってありゃしない」 「……それはつまり、ワタシを家に置いて下さるという事でスカ?」  アマネの目が、子供のようにキラキラと輝く。カスミは苦虫を噛み潰したような表情をしながら、手を差し出した。 「……いちいち言わせんな! さ、早く帰るよ! お腹空いた!」 「あっ、ありがとうございマス!!」  重なりあう二人の手の影が、夕焼け色に染まったアスファルトに長く伸びた。そしてその影は、同じ方向へと歩きだしたのだった。
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