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 六条晴海が、待っている場所まで、文月夕花を連れてきたのは、赤髪の女性だ。  エスコートしているというセリフが似合っている。 「ご主人様」 「夕花。綺麗になったね」  少しだけ俯いて頬を赤く染める。 「よろしいのですか?」 「問題ない」  六条晴海は、赤髪の女性から、文月夕花の手を渡された。  紙幣を丸めた物をチップとして渡す。一礼して女性が立ち去った。  文月夕花はどうしていいのかわからないようだ。 「夕花。座っていいよ」 「はい」  そう言われても、六条晴海はラウンジにあるバーカウンターに座っている。横にしか椅子が無いのだ。  主人の横に座るわけにはいかないと思って戸惑っている。 「そうだよな。夕花。少し待って」  六条晴海は、支払いを済ませるようだ。 「そうだ。夕花。好き嫌いはあるか?」 「食べ物ですか?」 「そうだよ」 「いえ…」 「本当は?」 「…」 「いいよ。言ってよ」 「はい。トマトとキュウリやウリ系が苦手で…。あと、辛いものがあまり得意ではありません」 「わかった。辛いのは、僕も苦手だからちょうどよかった。魚介類は大丈夫?」 「魚はあまり食べないです。エビや貝は大丈夫です」 「お肉も大丈夫?」 「はい」  くぅ~と、文月夕花のお腹が可愛くなった。  今度は耳まで赤くしてうつむいてしまった。 「そうだね。食事にしよう」  六条晴海は、コンシェルジュを呼んで、簡単な食事を部屋まで運んでもらう事にしたようだ。 「夕花。着替えは?」 「あっそうでした。申し訳ございません」 「ん?」 「はい。ご主人様」「夕花。その”ご主人様”は止めて欲しいな」 「なんとお呼びしたらよろしいのでしょうか?」 「晴海と呼んでよ。いい、”様”とか、付けないでね。呼び捨てにするようにね」 「…。晴海…さん」 「うーん。しょうがないか、呼び捨ては無理?」 「できるとは思いますが、難しいです。でも、頑張ります」 「ハハハ。頑張って、呼び捨てにしても、敬語じゃおかしいからね。いいよ”さん”付けでお願いね」 「はい!晴海さん。お洋服や着替えや下着なのですが、車に積んでおくと言われました」 「そうか、わかった。ありがとう」 「いえ、カタログを見せられて選んだのですが、よろしかったのでしょうか?」 「もちろんだよ。一緒に買いに行ければよかっただろうけど、今日から4-5日はホテルに泊まる予定だからね」 「…。はい」  六条晴海は、ホテルに泊まるとだけ言っている。文月夕花は、身体を求められるのだと思ってうつむいてしまった。  コンシェルジュが六条晴海の所に来て耳打ちをした。 「夕花。部屋に行こう。食事の準備ができたようだ」 「はい。晴海さんのお荷物は?」 「ん?何も無いよ?手ぶらで来たからね」 「え?あっそれではお着替えは?」 「ん?ルームサービスで買えるらしいから大丈夫だよ」 「わかりました」  晴海は、部屋に移動する為に立ち上がった。  一歩下がった所を夕花がついていく形になっている。 「お客様」  コンシェルジュが晴海に話しかける。 「なにか有ったのか?」 「いえ、お客様からご依頼されていた書類と申請が終了いたしました」 「ありがとう。何か問題があったのか?」 「いえ、問題はありませんでした。でも、よろしいのですか?」 「なにが?」 「奴隷の名前変更はよくある事ですが、主人となられる方が、奴隷に婿入りして名字を変えられる事は前代未聞です」 「そうか?俺としては、自分で好きな名字になるのになんでやらないのか不思議だぞ?なにか手続きで問題があったのか?」 「いえ、ございません。お二人は、今日から文月夫妻です」 「ありがとう。前の部屋はチェックアウトしておいてくれ、新しい部屋は5日の連泊に変更しておいてくれ」 「かしこまりました。でも、使われていませんが、よろしいのですか?」 「そうだな。六条が泊まったという記憶は残したいな。二人で泊まった記憶は残しておいてくれ」 「かしこまりました。料金がかかってしまいますがよろしいですか?」 「問題ない。どうせ、キャンセルしても、キャンセル料が発生するだろう?それなら、早朝にチェックアウトした事にしたほうがいいだろう。誰か、そういう事が得意な者は居ないか?」 「ホテル所属の者に対応させます。男女のカップルでよろしいですか?」 「構わない。なんなら部屋に泊まってもいいルームサービスが必要ならある程度なら許容する」 「手配いたします」  晴海は、コンシェルジュに指示を出した。新しい部屋の名義を、夕花の名前に変更する事を忘れないで指示していた。  ここまで面倒な事を行ったのは、男たちから夕花を守るためだ。正しくは、守るのではなく餌としての準備の時間を稼ぐためだ。  晴海が部屋の入れ替えを行ったのは、男たちを一旦撒きたいからだ。ホテルに連泊するのも、ここが安全だと考えたからではなく、男たちの監視が緩むのを待つためだ。  男たちが夕花を落札できなかった事に気がつくのは、全部の落札が終わってからと考えている。男たちは間違いなく組織に属して入るが末端の人間だ。上に指示されて、夕花たちを買いに来たと思われる。”買えませんでした”ではすまない。なんとしても取り返す為に安直な行動に出るだろうと予測していた。晴海は、その男たちの行動を予測して、準備を行っていたのだ。  男たちは、実際に夕花が落札できなかった事で慌てた。上に報告できるわけもなく、自分たちで夕花を取り戻す事を考えた。  考えたがいい方法が思いつくわけではない。  まずは、落札が成立したのかを確認する事にした。入札した本人が奴隷市場に問い合わせを行えば教えてもらえる。  夕花が落札された事は確認できたが、誰が落札したのかを教えてもらえるわけではない。国家機関に組織の末端が喧嘩を売るわけには行かない。奴隷市場は独立した組織で、国家権力や暴力組織にも屈しない。そのために、職員や従業員は奴隷や元奴隷で構成されているのだ。  誰が落札したのかはわからないが、誰かが落札したのは間違いない。それなら、奴隷市場から出ていくところを見張っていれば捕まえる事ができるだろう。男たちは、奴隷を購入した者を除いた全員で奴隷市場の出口を監視することにした。  奴隷を購入した者は、奴隷を組織から来ている者に渡してから、奴隷市場に戻ってきた。奴隷市場に隣接したホテルの監視を行う為だ。夕花が若く可愛い事から、買った奴がホテルに連れ込むと考えたからだ。自分たちなら間違いなくそうすると考えたからだ。  男たちは、ラウンジにいる男たちを監視した。奴隷を、自分の部屋につれていくだろうと考えていたからだ。  晴海は、男たちの行動を読み切ったわけではない。  ホテルのサービスを見ていろいろ思いついたのだ。自分たちの思い通りに行かなかった場合に、どういった行動に出るのかを考えたのだ。  奴隷市場を男たちが見張っているかも知れない。そのために、まずは中で時間を潰す事を考えた。ただ時間を潰す時に、ホテルに連れ込むのは愚策と考えていた。  すぐに外にも連れていけない。部屋に入るのも監視されている可能性がある。そんなときにサービスの中に、全身コーディネートがあり時間がかかると言われた。全身コーディネートは、奴隷が受けるサービスではない晴海は夕花にサービスを受けさせて、時間を稼いだのだ。  このホテルは奴隷市場の客向けに高級志向になっている。サービスも奴隷市場の客向けになっている。  そのサービスを奴隷が受けるとは思わないだろう。晴海は、夕花を待っている間、わざと目立つ様にホテルのラウンジのバーカウンターに座って、1人でいる姿を印象づけるようにしている。奴隷に服を買わせている客はいるが長くても30分程度で奴隷と合流してホテルの部屋に向かうか、ラウンジから帰っていく。晴海の様に、1人で数時間ラウンジにいるのは珍しい。  男たちは、晴海が奴隷を待っているのだと思って監視していたが、1時間が経過した所で男たちの監視は居なくなった。晴海も、監視が居なくなった事を感じていた。 「晴海さん。ここが部屋のようです」  晴海は、夕花に付いて行く形で部屋に入った。  最初に六条の名前で予約した部屋は最上階に近い場所だった。新しく予約した部屋は中層階にしてもらった。 「ありがとう」  夕花が解除コードをドアに流し込む。  解除コードが認証されて、ロックが外れる音がした。
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