フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 ――――――何というか、ただ驚きしかなかった。  コノハの騒動も落ち着き、時は桜咲く四月に突入した。世間は新たな年度に心昂らせ、学生達はあと少しの春休みを楽しんでいる。  俺はというと、いつものようにリビングのソファーでくつろいでいた。本日学生達……もとい蘭李達は、皆で遊びに行っていた為、俺は一人で本でも読んでいた。  言っておくけど、決してハブられたわけじゃないからね? ケチくさいから誘われてないわけじゃないからね? 「友達同士で行ってくるといい」と、大人な俺は遠慮をしたんだからね?  ――――――それはいいとして。  そんなわけで、久しぶりに静かな朝を過ごしていた俺だったが、突然「彼」は告げてきたんだ。 「図書館に行きたい」  真っ赤な目を光らせ、真っ直ぐに俺を見据えてくる黒髪の少年・朱兎。いつもの明るい雰囲気とは違い、真剣な面持ちであったから、余計に驚いた。  俺は読みかけの本を閉じ、テーブルに置く。朱兎に、俺と対面のソファーに座るように言い、笑みを浮かべながら問いかけた。 「図書館? それならお兄ちゃんに連れてってもらえば?」 「ダメ。アニキは連れていけない」 「じゃあ後日、蘭李にでも」 「ダメ。今日がいい」  困ったな。何故そんなに今日にこだわるのだろうか。図書館なんていつでも行けるし、俺と行くより蘭李達の方が断然良いはずだろうに。  それに、「アニキは連れていけない」っていうのも気になるな……。 「というかそれなら、一人で行けばいいじゃないか」 「オレが行きたいのは、魔法図書館の方」  唖然としてしまった。まさか彼の口から『魔法図書館』などという言葉が出てくるとは、思いもしなかったからだ。 『魔法図書館』とはその名の通り、魔法に関する書籍を扱っている図書館。魔力者しか入ることは出来ず、図書館自体も一つしかない。  俺はただの人間ながらに、一度だけ入ったことがある。夏の付き添いで行ったのだ。忘れもしない。その後、とんでもない量の対価を彼女から要求されたことを……。あの時のことを思い出すのは、ここでやめよう。  俺は朱兎を、上目遣いに鋭く見据えた。 「何故俺に頼る? 俺は人間だよ?」  そう。何度も言うが、俺はただの人間だ。普通に考えて、魔法図書館に入れるわけがない。場所を知っているわけがない。当然、かつて行ったことがあるなんて話したことはない。  なのに朱兎はどうして、俺に頼ったのだろうか。それほど信頼されているということか? メルを連れているからか?  朱兎は伏し目がちに、俯きがちに小さく口を開いた。 「…………消去法」 「あ……そうなんだ……」  沈黙。朱兎を直視出来ず、目を逸らしてしまった。  訊かなければよかった。まさか消去法で選ばれたなんて。どんな消去法なのか気になるし、ちょっとショック……仕方無いことは分かっていてもだよ。  しかし………どうするか。魔法図書館の場所も分かるし、朱兎がいるなら入れるだろう。メルもいることだし。  だが………。 「主……」  背後から、メルの小さな声に呼ばれた。早く答えないと、不審に思われる。そう言いたいのだろう。  だが、これは慎重に考えるべき事項だと思う。  ハッキリ言って、俺は聖人ではない。優しい人間じゃないんだ。何のメリットも無しに動くことはしたくないんだ。  それに、彼は蘭李達とは違う。《俺が関わらなく|・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》《てもいい|・ ・ ・ ・》存在だ。  ならば、断っても良いのでは? わざわざ助ける必要も無いのではないか? 「………お金」 「え?」 「お金、好きなんでしょ?」  嫌い、といえば嘘にはなるかな。お金があれば何でも出来るし。ちなみに、小学生時代の俺の将来の夢は「お金持ちになること」だった。子供ながらその頃既に冷めていたんだろうな……あぁ嫌だ嫌だ。 「連れてってくれたら、お金あげるよ」  朱兎の言葉に、揺れ動く俺の心。  なんという誘惑……! さすが最強の双子……! 相手を誘い込む手段というものを分かっている……! こんなことを言われれば、俺が断れるわけがないじゃないか!  仕方無い。お金の為に一肌脱ごうではないか! 「分かった。連れていこう」 「やった!」 「その代わり」  喜ぶ朱兎を、俺はビッと指差した。 「何故行きたいのか、教えてくれるかな?」
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行