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 どうなった…。  佑樹。  あいつ俺を助けようと…。  …今度こそ助けるって…。  …。  …気にする事、無かったのによ。  そんな事、気にしてたのか。  悪い事したな。  俺だって随分助けられたのに。  いつもいつも。頭に血が上ると駄目になる。  突っ走っちゃうっつーか。  でもあいつは俺を止めてくれた。  あいつはいつも冷静だった。…俺はダメダメだったな。  佑樹なら合理的に考えて逃げてくれると思ったけど…。 …なんの得にもならねぇのによ。  …そうか。  …助けてくれたのか。  …。  …。  …。  寒い…。  今日は、寒いのか。 …前はもうちょっと暖かかったな。  …。  …ああそうか。  前は助かったんだった。  だから暖かかったのか。  …。  …いよいよ死ぬってことなのか。  …じゃあ佑樹は上手くいかなかったのか。  …悪いことしたな。  それじゃあもう佑樹も…多分…。  …。  …すまない、佑樹。  せっかく仲良くなれたのに。  まさかこの世界で日本人に会えるなんて。  考えもしなかった。  しかも同じクラスに居た奴となんて。  …悪くなかった。  日本の事を話せるのが。  味噌汁とか、カレーとか。  そんなくだらないことを話せるのがさ…。  …悪くなかったな。  日本食を作る店か…。  …上手く行けば儲かるかもな。  チェーン店とかにしてさ。  大儲けして。  悠々自適に暮らしちゃって、二人で遊びまくってよ…。  …。  …無理か。  これから俺は死ぬし、佑樹ももうすでに…。  …。  もっと。  もっと上手くやれなかったか。  周りの目なんか気にせずそこら辺の物を金に変えてしてチケット買って…。  とにかく早く逃げれば佑樹が捕まることも無かったかも。    俺も死ぬことも無かったかも知れない。  …でも。  …でもそうしたらあのナガルスの子は助けられただろうか。  マルタはあそこまで協力してくれただろうか。  …。  …分からない。  …結局分からない。  後悔ばかりの人生。  日本にいた時も、この世界に来てからも。  ずっと後悔ばかり…。  …。  …でも。    でもあの時あの子を助けるためにニギに立ち向かった。  …立ち向かえた。これだけは後悔がない。  これだけは。  …出来れば。  …出来れば最後まで助けてやりたかった。  …もう別の奴に捕まってまた奴隷になったかも。  …結局中途半端か。  助けきることも出来ず見捨てることも出来ず…。  せめてニギを殺し切ることが出来れば…なんとかなったかも知れない。  …でも最後に当たったのは恐らく左手の魔力阻害薬の針。  せめて右手の毒の針を当ててれば…。何で左手にしてしまったんだ…。  …左手を囮にすることだって出来たはずなのに…。  …何で…。  …。  …やめよう。  こうやって考えると駄目な所ばかり思いつく。  もう死ぬんだ。  最後は穏やかな気持ちで…。  …。  …そう言えばここは何処だろう。  …前は。  前は、そう、浮島だった。  暖かくて、懐かしくて。  そうモニがいて。  …。  …モニは…モニは何処にいる?  …最後、最後だけ、ひと目だけ。  何処、何処に。  俺の夢なら何処かに…。  あ。  あれか?  あそこにいるのか?  あんな遠くに。  前は膝枕までしてくれたってのに…。  随分冷たいじゃん。  …。  …まぁ、しょうがないか。  随分情けないしな。俺。  結局モニとの約束を守れず…。  …別にモニと言葉で交わした約束じゃないけど…。  でもモニのために必ず果たすと誓った約束。  何度も諦めて…結局最後は果たせないまま死ぬんだ。  そりゃ、幻滅もされるか…。  …。  …モニは何してんだ?  向こうに、歩いて…。  そうか、ここから向こうに向かって歩いてるんだ。  あ、あのペンダント…。  モニから貰ったペンダント。何でモニが首から下げて…?  …。  …そうか。  …持ってかれたのか…。  ああ…そうか。 俺からペンダント取って、向こうに歩いて行ってるんだ。  俺の方をひと目も見ず。  振り返りもせず。  向こうに…。  …。  …後ろ姿だけだけど。 やっぱ綺麗だなぁ…。  …見捨て、られたんだろうな。  しょうがないよな。  結局ナガルスの子も助けられなかったし。  当たり前か。  …。  …。  …どんな顔でも良い。 どんな目をしてても良い。 俺にどれだけ幻滅してても良い。  だからひと目。  ひと目だけでいいから顔を見せてくれ。  少しだけ振り向いてくれ。  行ってしまう前にひと目だけ。  どうか…。  …行かないで。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「…待…く…。」  こ、こは。  何処だ…。  体、が…動かせない。  いや、動かせる。  ちょっとずつ、だけど…。  寝てる…?  ベッド?布団?  一体…。  「だ、だれが…。」  「お、起きたのか。」  誰…?  右側?声…?  アイッ…痛ぅ…。  ゆっくり…右側を…。  「大分ボロボロだな。翔。」  「…佑、樹…?」  「おう。何処まで覚えてる?いや、まだうまく喋れないか?」  「あ…ど…。」  「…まぁ、取り敢えず簡単に説明すると…、あの後俺達はナガルス族の人達に助けられたんだ。ここはナガルス族の拠点だ。浮島?って言うところらしい。」  「浮、島。」  「そう。読んで字の如く空に浮かんでる島だ。俺も遠目に見たこたあるけどビビったぜ。マジで浮いてるんだもんよ。訳分かんねぇよな。」  「…。」  「まぁ…なんつーのか…色々ラッキーもあったけどよ。…俺達は逃げ切ることに成功したんだ。」  「本、当…か?」  「ああ。この浮島にハルダニヤ国の奴らが攻め込んできた事は過去一度も無いそうだ。もしかしたら一人二人魔法で飛んでくるかも知れないが…。ナガルス族は強ぇからな。それじゃどうにもなんねぇだろうな。」  「そう…か…。」  「…。」  「…。」  「…俺達…やったな。遂に…。」  「…ああ…。」  「…色々あったけどよ…。とんでもねぇ、とんでもねぇ冒険だったよ。生き死にの掛かった本物の冒険。日本で普通に生きて、学校行って会社行って…、そうやって生きてたら出来ねぇ人生だ。」  「…。」  「無事生き残った今だから言えるけどさ…。なんつーか、結構…楽しかったよな…。」  「…俺、達は…、冒険、者だから、…な。」  「…ッフ…ッフッフッフ。そうだな、俺達は冒険者だった。冒険して飯を食うんだ。」  「…フフッ…痛…。」  「おうおう。無理すんなよ。回復魔法掛けたとはいえ完璧じゃないらしいからな。…どうもここは回復魔法の効きが悪いそうだ。…そんな事があるなんて初耳だが…。…あぁ、山場は超えたらしい。今は命に別状は無いってよ。ただ体中が死ぬほど痛いってだけだとさ。…まぁ、異世界人にここまでの回復魔法を掛けたことは無いからぶっちゃけ分からんとも言われたが…。」  なんだい、それ。  「…はぁ。…あの…子供…は…?」  「ああ、あの奴隷の子か?それなら無事だよ。俺達の中で一番怪我が少なかったからな。…というか殆どの怪我があのクソ貴族から受けた怪我だったんだけどな…。…クソ野郎が…。」  「そう、か…よか…た…。」  「…あぁ…本当、良かったよな…。」  「…佑樹…。」  「ん?」  「あ、の時、助け、てくれ…恩に、着る…。」  「…。…は、ばぁ~か。わざわざ気持ち悪りいな。…あんな雑魚共余裕だよ、余裕。」  「…ッフ…確か、に…弱そうな…奴らだった…。」  「だろぉ?!ま、俺も氷魔法を使いこなせるようになってきたしよ、大分強くなってきた気がすんだよ。勇者の時の俺より弱いけど…なんつーの?また別種の強さっていうか?…うーん…俺も言ってて良くわかんねぇな。…うーん、なんて言えば良いのか…。」  「…大分、強く、なったよ…佑樹。」  「だよな?氷魔法は勇者の時に使えなかったから、それのせいか…?でも氷魔法って勇者っぽくねぇよなぁ…。雷とか光とかそういう魔法無いのかね…。」  「…氷も…大分、いいだろ…。」  「…そう?…俺翔より強くなったんじゃね?」  「いや、…それ、は俺のほうが強いから。」  「…へぇ…?御自身の御加減を忘れてるようで?」  「…っへ…そ、いえば。ナガルス族は何で、俺ら、を?」  「…ま、いい、何時か白黒…。っていうか、お前の目が覚めたら呼ぶように言われたんだ。その人から話を聞いたほうが早いだろ。お前の知り合いらしいぜ?」  「…?」  「呼んでくるから待ってろよ。まぁ、動けねぇだろうけど。」  「…ああ…?」  ナガルス族の知り合い?  居たか?  唯一知ってるのはモニだけだが…、彼女は死んだわけだし…。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「!!…ガーク…!!」  「ヘヘッ、先生、久しぶりだな。」  「な、なんで…。いや、背中、翼…。」  「お、そうか。羽が生えた状態で会うのは初めてだっけか。…まぁ、つまり…俺はナガルス族だったんだ。先生に会った頃は自分で羽をぶんどって人間に変装してたんだよ。痛かったなぁ…。」  痛かったなぁって…。  え、そんだけ?  いやおかしくない?  羽ちぎり取ったって…人間で考えたら腕むしり取ったようなもんだろ?  …痛いで済むもんなの…?  「な、んで。…奴隷に…。」  「ん?…あぁ、そうだな。そこから話すか。俺と先生が穴蔵で出会う前、…一年くらい前かな、俺達ナガルス族はハルダニヤ国に攻め入った。…ある重大な情報を手に入れたからだ。」  「情、報…。」  「ハルダニヤ王国第一王女、ラドチェリー・ゲム・ハルダニヤが勇者召喚を成功させた…という情報だ。」  「…そ、れ…って。」  「そう。そこにいるユーキ・ガナリ殿のことだ。勇者召喚は成功していた…。俺達をおびき出すための情報だとも考えてはいたが…事実だったな。今ですら拮抗している状態でハルダニヤ国に勇者が渡ったら、俺達の攻め手は無くなる。…ならば本当に召喚に成功したんだとしても、勇者が成長し切る前に潰すつもりで攻め入った。」  「本当にあんときゃ怖かったわ。っていうかみんな空から急に来るから防ぎようがないんだよ。こっちの航空戦力?は殆ど無いも同然だったし…。いや、あの時は別の場所におびき出されてたのか。」  「ああ。オセロス・モナドだな。あの女はハルダニヤ国唯一の正式な竜騎士だ。古代竜を従える者など…化物と言う他ねぇ。そしてダックス・ディ・アーキテクス。この二人がハルダニヤの双璧だったんだがな。そこに勇者が加わったとなると…まず俺達は勝てなくなるだろうな。」  「…勇者の時の佑樹は…やっぱ、凄かったのか。」  「…確かに今より魔力もあったし、強かったとは思うんだけど、…う~ん…。あの二人と比較される程の実力かと言われると…。成長すればそうなるかも知れないが…、いや、でもどうだろうなぁ…。幾ら鍛錬してもあの二人には追いつけない…というか。…う~ん、そういうのとはまた違った強さというか凄みというか…う~ん…。」  「まぁ、確かにあの時の勇者の強さはダックスにもモナドにも足らなかったな。だが、勇者の真の価値はそこじゃねぇ。勇者とモナド…じゃないな、モナドが従えてる古代竜か。この二人…いや、一人と一匹には俺達の魔法が一切通じないんだ。」  「え?!そうなの?そうだったの?」  「そうだ。まぁ、今のユーキには通じるんだが…。古代竜とハルダニヤ国にいる時の勇者には古代魔法が通じない。俺達は古代魔法しか扱えなくてな?それが一切通じないんだ。今までは古代竜一匹を注意してればなんとかなったのが…もう一人増えちまった。それで焦って攻め入った訳だ。そして結果は知っての通りよ。」  「そうだな。あの時は…ハルダニヤ国の勝利、と言っていい内容だったと思う。」  「古代魔法が通じないとは言え、まだまだ未熟だと思っていた勇者が…まさか我らが御母堂を単身止める程とは…勇者の成長度合いも中々信じ難いな…。」  「まぁ…あの時はナガルスさんが俺をなるべく傷つけない様に戦ってくれたんだ。無理矢理召喚された俺を可哀想に思ってくれてたみたいでな。…最初から俺を殺すつもりで戦ってればどうとでも出来た気がする。」  「…やり方は色々あるかもしれねぇが、ユーキ殿もそうそう捨てたもんじゃねぇよ。やはり強敵だった。」  「あ、そう?いや参ったねぇ。へっへっへ。」  …ドヤ顔が大分ムカつくな…。  「んま、それで大敗を喫した俺達は逃げ帰った。俺は殿を努め…味方と散り散りになった。俺は片翼を潰されちまって飛ぶことも出来なくなっちまってたからよ、どうせならってもう片方も引きちぎって人族に変装したんだ。」  「なんつーか…片翼だけとは言え自分の翼取るって凄くない?俺達で言えば両腕引きちぎるようなもんでしょ?」  「ま、いざという時羽さえなければナガルス族と人族を区別する手段は、実は無かったりするからな。俺達の間では緊急的な逃亡方法として知られてはいたんだ。」  「はぁ~…、色々考えるもんだなぁ。…若干力技っぽいけど…。」  「確かにな。だが、だからこそ効果がある方法だ。まさか、自分の腕を引きちぎる奴がいるとは思わないだろ?…ま、結局奴隷になっちまったが、ハルダニヤ王家にとっ捕まって処刑される所まではいかなかった訳だしな。企みは成功したと言って良いだろ。…ギリギリってとこだが。」  「そこまでしてもギリギリだったのか?」  「ああ。結局奴隷の環境が悪すぎてなぁ。下手したら死んでた…実際、先生にあの時助けてもらわなきゃ間違いなく死んでたんだ。」  「…へぇ…。翔も奴隷だったっつーのに良くもまぁ、助けられたもんだよ。」  「そのとおりだ。普通はそんな余裕なんて無い。あそこの奴隷暮らしはそれほどのもんだったからな。今思えば大分どん詰まりだったが…、あの時先生に会えてから大分運が向いて来たな。」  「あの後…どうやって…?」  「ん?あぁ、奴隷から逃げて反乱起こした後って事か?…実はあの後協力者が現れてな。そのお陰で俺の背中に羽が戻ったってわけよ。」  「…協力者?」    「そうだ。先生もよく知ってる相手だぜ。おぉい!爺さん!こっちに来てくれよ!」  「…やぁっと俺の出番かい?待ちくたびれたんだが?」    「…!ディ、ディック爺さん…?!あんた、生きて…。」  「おおっと、俺はディック爺とは呼ばれてたがな。本名はアズ・ワルディックだ。ま、ディック爺でいいが、ちゃんと自己紹介はしておかなきゃな。」  「…アズ・ワルディック…。端溜…、ショータ・ハシダメだ。奴隷の時は、…世話になった。」  「何、気にするなって。あんたと話すのは楽しかったしな。随分教養があると思ったが…異世界から転移した人間だからか。どおりでなぁ。」  「あんたが…ガークと協力して逃亡したのか?偶然?…いや、あんたリヴェータ教だろ?何故ナガルス族に協力する?」  「おいおい物騒だな。…ま、協力したのは偶然じゃねぇ。あんたらが逃亡するのは知っていた。本当はあんたら三人に加えてもらうつもりだったんだがな。いざ助けようって時は、ガークしか居なくてよ。まぁ、一番腕も立ちそうだったからな。そのまま助けて隠れて逃げたんだ。」  「いや、リヴェータ教で恵まれたあんたが仇敵のナガルスに何故協力…。…逃亡するのは知っていた?は?!知っていただと?嘘つくなよ。俺達は周りを十分確認してたし、奴隷すら周りに居ないことも確認してた。絶対に情報は漏れて無かったはずだ。」  「漏れてるも何も…最初から聞いてたんだよ。グウェン!来い!」  「グェェェェェ!!」  「キモ…。あ、いや、…その鳥…。」  「そう。俺の使い魔さ。名をグウェンという。」  「グェェェェェ!」  わかった。わかったよ。うるさいから。  「こいつは俺が創り出した使い魔でな。戦闘力はないが、目と耳が俺と繋がっててな?情報収集には役立つ。俺の相棒さ。」  「…確かにその鳴き声聞き覚えがある…。いつもいつもうるせぇと思ってたけど…あんたの使い魔だったのか…。…創った?魔法で?創り出した?そんなこと出来るのか?」  「ん?ああ。リヴェータ教の秘奥義の一つでな。使い魔生成とかって呼ばれてるな。助祭以上…、一人前となったら皆この魔法を使い、相棒を創る。リヴェータ教徒は、戦闘力が無い奴が多いからな。身を守るための手段の一つとして人工精霊を創るって訳だな。」  「…秘奥義…。その魔法は俺達も使えるようになるのか?」  「…いや、無理だろう。理由は二つある。」  「…何だよ、それは。」  「一つは、そも、この魔法の発動方法を知らないということ。魔法を教わって、発動した後、この魔法についての記憶を消される。…これはもう一つの秘奥義の洗脳魔法だ。あ、言っとくがこの洗脳魔法も使えないぜ?司教以上じゃないと使えなくてな。俺は教わってないのよ。」  「…奴隷紋は彫ってたじゃねぇか。」  「お、あれが洗脳魔法の一種だと気づいたのか?やるなぁ。…ありゃ実は魔力込めて掘るだけだからな。俺達しか使えない水魔法を込めながら、リヴェータ教でしか売ってない特殊な薬品と混ぜて、決まった図を掘ればいいだけだ。馬鹿でもスカでもリヴェータ教徒なら出来る。…ま、そういう風にしないと奴隷を作り出すのが追っつかないからだろうがな。大事な収入源だが、お偉方の手を煩わせる訳にはいかねぇ訳よ。手を動かす仕事は下っ端の役目ってことだな。」  「…。」  「そしてもう一つは、例えこの魔法の使い方を知っていたとしても、リヴェータ教徒でなければ扱えないんだ。やり方を完璧に把握していたとしても、リヴェータ教徒であることが条件になってる。これは回復魔法も洗脳魔法も、呪い魔法もそうだ。おおよそリヴェータ教が独占してる魔法は全てそうだ。…まぁ、可笑しな話だ。」  「じゃあ、今のあんたは、まだリヴェータ教徒な訳だ。死を偽装して逃げたくせに、破門にはされてないんだな。」  「それはまだバレてないか…いや、恐らくバレてるだろうな。だが問題ねぇ。リヴェータ教徒でなくなるためにはそれなりの手続きをする必要がある。そんな損しかねぇことは普通しないからな…。」  「…ふぅん…。じゃあ、あんたみたいに途中で裏切るような奴が居たら、色々情報もらされちゃうんじゃないの?リヴェータ教がそんなこと考えてないのかねぇ。」  「…なんか毒があるなぁ…。ま、当然そういうやつがいるから、秘奥義とかのやり方を記憶から消したりしてんだろうよ。…正直今の俺が使えるのは回復魔法だけだ。それについちゃあ、そこそこな腕前があると思ってるがな。呪い魔法や蘇生魔法については…まぁ、裏切らない奴を長い時間かけて選別するんだろうな。」  「…じゃあ、あんたがまた裏切る可能性だってある訳だ。」  「…なるほどな。…随分ナガルス族にご執心だが、それは無いと言っておこう。」  「…口ではどうとでも言えるな。」  「ハハッ。先生。随分と俺達の肩を持ってくれるな。正直嬉しいが…、ま、俺達もディック爺は裏切らねぇと思ってるよ。」  「おいおいガーク。何簡単に信じてんだよ。リヴェータ教徒だぞ?憎くはねぇのかよ。」  「…憎い、憎いさ。そりゃな。だが、そりゃディック爺も同じだ。きっと俺達が憎い。でも、共通の敵を倒すのに協力出来ると思ったんだよ。きっと裏切らない。…それに浮島からは逃げられねぇからな。それがここの良い所だ。まぁ、ディック爺さんが俺達の仲間を殺したわけじゃねぇからな。戦闘員じゃないし。」  「…その裏切らない理由ってのは?」  「『魔法概論新設~基礎四元素陰陽説~』って本を知ってるかい?」  「魔法概…論?…基礎四元素?…基礎四元素だって?…確か…前何かで…。あ、そうだ。確か、水、火、風、土魔法の4つで他の全ての魔法を説明できるっていう理論…じゃなかったっけ?」  「…ほぉ…よく知ってたな。最近やっと学士の間で取り扱われるようになったが、それまではほぼ幻著だったんだぜ?」  「…確か、前、学士見習いの知り合いがそんな本を読んでるって聞いたことがある。」  「なるほどね。ならまぁ納得か。何が言いたいかって言うと、この本の作者が俺ってことなんだよ。この本のせいで俺はリヴェータ教では冷や飯ぐらいでな。もういい加減嫌んなっちまって逃げてきたんだよ。」  「はぁ、なるほど…。そんなヤバイ本なのか?」  「ん~、この本自体はそんなにまずいもんでも無いんだがな。この理論を研究していた時に一つの仮説に気づいたんだが…。これがリヴェータ教には気に入らなかったみたいでな。この本を出した後、次の研究テーマはこれにしようと思ってたんだが、すぐに締め出されてよ。ま、その後は非合法な奴隷を作り出すのに協力する位でしか飯を食えなくなったわけだ。」  「…その仮説ってのは?」  「俺達リヴェータ教が…いや、この星で使ってる全ての水魔法は…、水魔法じゃ無いのではないか、という仮設だ。」  「…何だよ、それ。意味わかんねぇぞ。」  「まぁな。俺もこれを初めて唱えたときは、相当笑われたよ。俺も疑問に思ったからこそ研究しようと思ったんだがな。…だが、その後のリヴェータ教の対応を見るに…真実なんだろうな。」  「…水魔法じゃないってのはどうして分かるんだ?」  「う~ん、説明が難しいが…、陰陽魔法って分かるか?」  「…聞いたことがある。水とか火とかに宿ってる魔力を濃くしたり薄くしたりするんだっけか?」  「ああ。現代魔法ではそういった魔力の使い方はしないんだが、古代魔法ではしてたらしいんだよ。そもそも俺が古代魔法を研究していたことから気づいたんだが、この魔力の濃淡が古代魔法の取扱いの入口になってるんじゃねぇかと思ってるんだよ。」  「…はぁ…。」  「んで、この魔力の濃淡なんだがな。他の全ての元素魔法では出来るんだが…水魔法では出来ないんだ。おかしなことに。」  「…。」  「魔力の操作が出来ない条件ってのは細々色々あるんだが…、俺は一つの結論に辿り着いた。それを証明しようとしてたんだ。ま、これはベラベラ言わなかったが…正解だったな。もしかしたら殺されてたかも知れねぇしなぁ。」  「その結論ってのは?」  「俺達が取り扱ってる水ってのは、生きてる、つまり生命体なんじゃねぇかってことよ。」  「…はぁ?生きてるって…ただの水だぞ?」  「本当にただの水かねぇ?俺はユーキにも聞いたがそもそもあんたらの世界の水はこんなに透明じゃないって話じゃねぇか。物も随分浮き難いって話だぜ?」  …。  …確かに。  確かに初めて浮島からこの星を見下ろした時…水が凄い透明で、星の中心まで見えていた。  あのときは単純に綺麗だと思ったもんだけど…よく考えたらおかしくないか?  水ってそんなに透明だったっけ?  地球と同じサイズだとしても…えーと、仲立さんはなんて…地球の一周が四万kmだから、直径は大体一万?半径は5000km?位?  …まぁ、それくらいだとして、そんな所まで光が届くもんなのか?  「…俺も実学は詳しくねぇけど、ここの水は随分透明度が高い。異常だと思えるほどにな。それに知ってるか?翔。ここの水には鉄の塊が浮くんだ。」  「は?!て、は?鉄の塊が浮く?え?本気?船みたいに薄い板ってこと?」  「マジだ。本当に鉄の塊が浮くんだよ。適当なもん放り込んでみろよ。そりゃもうプッカプッカと…。」  「いや、ユーキ。ここじゃ無理だ。」  「あ、そうか。無理だったっけな。」  「?」  「ここの水ってのは、地上とは違ってな。必ず飲料水は、作物を育てる水ですら、管理された水を使ってる。…ある特殊な方法で入手した水を浄水したものだそうだ。特殊な方法ってのは教えてもらえなかった…。…あぁ、んでな?当然鉄なんて浮かないぜ?俺はこれが真の水ではないかと思ってるんだ。」  「…へぇ~…。」  「んでもって、水に宿った魔力の濃淡の操作っていう物が出来ん。つまりこの水は生きてるんじゃないかって結論に辿り着いた。まぁ、論理の飛躍は大分あったと言わざるを得ないが…半分以上直感だったしな…。だからこそ軽々しく喋らなかったわけだな。」    「…なるほど…。」  「もちろん他にも切っ掛けとなる情報は合った。俺達は皆、水魔法を扱うことが出来る。得手不得手はあるにしろ、大体の人間は水魔法を扱える。そして、リヴェータ教の回復魔法ってのはこの水魔法を基礎として発展してきた。つまりは、回復魔法ってのは大別すると水魔法なんだよ。というか基本的にリヴェータ教の魔法は全て水魔法に属するんだけどな。ところがだ。みんな水魔法を扱えてるのに、回復魔法を扱おうとすると途端に使えなくなる。あ、回復魔法以外の魔法…、呪い、洗脳、蘇生魔法も使えないんだが、取り敢えず回復魔法だけを話すぞ。この現象はどんな著名な魔法使いや、冒険者でも起こる。貴族や王族ですらでもだ。そしてこいつらがリヴェータ教に入信し、助祭として修行を始めた途端に回復魔法を使えるようになる。それまでは毛ほどの予感すら無かったのにだ。実はその途端に回復魔法を使えるようになった一部の奴らには、こっそり回復魔法の使い方を予め教えておいたんだ。つまり回復魔法のやり方だけは頭で分かってた。やり方だけはな。でもリヴェータ教に入信し修行しないと扱えなかったわけだ。みんながみんなだぞ?まるで何かの意志を感じないか?例えば、水それ自体に意志があるとかよ…。あぁ、気づいた切っ掛けはこれだけじゃない。あんたらが奴隷の時に毎晩毎晩異世界のことについて話してただろう?実は俺もグウェンを通して聞いてたんだよ。中々興味深かったぞ。特に、物質の元ってのは、小さな小さな球が百幾つ程度あって、全ての物質はその組み合わせでしか無いってところとかな。あと、水は空気中に含まれているとか、海の水が溶けて…ジョウハツ?と言っていたか?そうして雲になり雨として地上に降り、そして川となって海に出ていくとかな。つまり、水は循環しているんだ。考えて見りゃ当たり前だが、気づいたときは衝撃だったね。もし、水が本来の水ではなく、生命体某だったとしたら、俺達の周りにある水全て、身体に取り込まれたものや風呂の水とかも全部、生き物だってことだ。こりゃ絶望したね。だが俺は気づいたんだよ。ナガルス族ってのは洗脳魔法が効きにくい。これがリヴェータ教がナガルス族を敵視してる理由なわけだが、この洗脳魔法も水魔法に大別される訳だ。厳密には、水(生命体(笑))属性魔法なわけだが。この洗脳魔法、ひょっとして俺達が取り込んでる体内の水(生命体(笑))に干渉して洗脳してんじゃないの?いや、回復魔法自体もこの生命体が干渉してる…?いや、…まさか…蘇生魔法も…?…。…。…まぁ、とにかくこの洗脳魔法が効きにくい、いや、回復魔法が効きにくいわけでもあるわけだし、そりゃ当然といっちゃ当然なんだがな…。つまり、ナガルス族にリヴェータ教の魔法が効きにくいってのはひょっとして、普段俺達が飲んでる水以外の、本物の水を飲んでたりするからじゃないのかって考えたんだ。もしここにその水があればって思ってこのナガルスの拠点に来たわけよ。もちろん、その水を長年飲んでるナガルス族を調べたいって気持ちももちろんある。んで、その予想はどうやら当たっていそうだけどな。…ここに来てから逆に俺達が飲んでた水ってのが不気味に思えてきたぜ。正直前の水はもう飲みたくないね。…つまりはこの浮島から出ては行けないが…まぁいいか。こんな感じのことを研究したいって言ったら快く快諾してくれてよ。予算も出してくれるっていうんだ。似たような研究もしているやつがいるから、話を聞いたらどうだって。いや参ったね。俺が世界一革新的な頭脳を持ってると思っていたが、さらに先を言っている奴が居たとは…。俺もこれで隠者ガレフに近づけるってことよ。ま、つまりいい加減冷や飯ぐらいは嫌だってことと…、この題材について研究したいってことが裏切らない理由だ。」  「…あぁ…うん…。」  「なんだよ、裏切りの話はもう良いのか?」  「…まぁ、いいんんじゃないの。」  研究の内容を話してるときは目が逝っちまって…、…いや、キラキラしてたし、まぁ、大丈夫だろ。ここからは逃げられないって言うし。  大丈夫だろ。なんか相手すんのも馬鹿らしくなって来た。  「ま、そんなこんなで、俺とディック爺は協力してこの拠点に帰り、仲間と協力して先生を探したんだよ。」  「ふぅーん…、しかし何で俺を探したんだ?ガークを助けたからか?」  「いや、それもあるがそれだけじゃなくてな?…っていうかあいつ来ねぇな。早く来いって言ったんだがグチグチと…。」  「?誰のことだ?」  「…う~ん…もう言っちまうか…?いや、でも本人から口止めされてて…。」  「…ガーク叔父上。翔様に、あの、その…。」  「お!来てたのか!呼びに行こうと思ってたんだが…!」  「ガーク叔父上が急いで走って行ったので分かりました。…あの、…その…。」  「おうおう!そうだった!そうだった!先生!こいつが誰だか分かるかい?」  んん?  誰だ?ナガルス族の子供…だよな?羽生えてるし。  …男の子…っぽいけど…。  誰だ?
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