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 「いや~~。まさか先生が結婚とはなぁ。半端な野郎じゃモニとの結婚は許さねぇつもりだったが先生じゃなぁ…。」  「しかし翔が結婚か…早くねぇか?」  「こんなもんじゃろ。むしろ遅いほうだがの、我々の世界ではな。そっちの世界では違うのかのぉ。」  「…。」  「…。」  「うーん…、国によっても違いますがね。俺らの国では平均初婚年齢が29とか30歳だったと思いますよ。」  「はぁ~~、そりゃ遅いのぉ。その歳で結婚してないのは変人ばかりじゃぞ、ここではなぁ。」  「…私は32歳なんですがね…御母堂。」  「ほぉ?結婚の歳を過ぎておるではないか。お前の親は何しておる?」  「…光栄にも御母堂から長子の家庭教師兼護衛を頼まれましてね…。誰の遺伝か分かりませんが大変おてんばで…この歳まで独り身ですよ。」  「ほ、ほ…おおう…。…分かった分かった。今回の娘の救出にはお主も多大に貢献しておる。報奨の他にも娘を世話してやろうじゃないか。」  「ナイラと結婚したいです!」  「あ…うむ…分かった。話を通しておこう。」  「悪いな!勇者ユーキ!先に結婚するぜ!」  「ギュシッ!!」  「ッチ…、物みたいに女性を扱うなんて可哀相じゃ無いんですかねぇ?」  「?何が可哀想なんだ?」  「…。…はぁ。…文化が違うのか…?」    「…。」  「…。」  「しかしガークもよく許したのぉ。正直一番反対するかと思っておったんじゃが…。」  「まぁ、先生に助けられたってのもあるが、何より先生が本気なのは知ってたからな。」  「ほぉ?そりゃ初耳じゃな。」  「そういや俺も聞いたことねぇな。俺と冒険者やってる時はシャモーニさんの話はしてなかったよな?」  「…私も聞いたことありません。」  モニさん?!  いやちょ。  …あれ?  ひょっとして夫婦になってから夫婦らしい会話ってしてない?  お互いの今までの話だって…。  …そりゃ俺も話したいけどさぁ。  …だってなんかいつも人がいるんだもん俺の部屋。  「いやガークちょっと…。」  「まぁまぁいいではないか。親として娘の相手がどんな男なのか知る権利だってあろう?」  「…まぁ…いいですけど。えぇ、はい。」  そう言われたらぐぅの音も出ないっすよ。  妻の母は、お義母様で女王様です。  …っていうか俺と話す時に自分の頬擦るの辞めてもらえませんかね。…絶対根に持ってるよな…。 「初めて会った時なんてよ、ペンダントだけは大事そうに抱えてよぉ。「…彼女は素晴らしい人だ…。」とか言われたらよぉ。そりゃ、なんつーの?なぁ?」  「ほぉ~~。随分健気じゃのぉ…、儂より誑し込みが上手いんじゃないかの?…後で儂に教えてくれん?」  「まだまだあるぜ。一度奴隷の管理者共が俺達を相当追い込んだ時があったんだよ。そりゃもうひでぇ追い込みっぷりでよ。遂にぶん殴ろうかってとこにまでなってた。」  「やっぱ奴隷っつーのは良くねぇな。正しい判断力すら失っちまう。んなことしたら死んじまうのは分かってはいたんだろうがな。…まぁあんだけされりゃ我慢は出来ねぇよ。んで、言葉で諌められねぇ代わりに風魔法をちょろっと使って先生のペンダントを服の内側から出したんだ。」  …。  …あ!あのションベン飲まされた時か。  そんな事してやがったのか。  …確かに胸がスッとしたような…気もしたかな?あまり覚えてないけど。  「そのペンダントを先生が見たらよぉ。今にもブチ切れそうになってた先生の面がスッと変わってな?…結局耐えちまった。…その時に気付いた。先生はマジなんだなと。本気でモニに惚れてんだなと。」  …ションベン飲む件は言わないでくれてありがたかったかな。  しかし照れるな。  別に事実だからいいんだけど。  「まぁ、他にも色々あるけどよ。そこら辺から俺はもう先生を疑ってねぇよ。」  「随分前から惚れておったんじゃのぉ。のうモニ。お主ゃいつから惚れておったんじゃ?」  「そ、そんなの…、し、知りません!!」  「少なくともハルダニヤ中を飛び回ってた時は間違いないですよ。御母堂。」  「ほぅ。そりゃまた何故じゃ?」    「新しい街に入るたびに化粧を…。」  「おじ様!!いいでしょう!!それは!!」  「あ、ああ…すまんな…。」  「全く…。」  …顔が真っ赤だ。モニ。  可愛い。  こりゃ可愛いぞ。  わ、我がつ、妻は…。  うへっ。  「…いちゃつきやがってよぉ…。」  「…。」  「…。」  「…そう言えばショーがここに運び込まれてからも頑なに会おうとせんかったのぅ。…髪がちょっと…とか化粧ののりが…とか。普段そんなこと欠片も気にしとらんかったくせにのぉ。」  「実は俺は正直モニの方はそんなでも無かったと思ってたんですがね。会うのが面倒くさいからのらりくらりと…。」  「そんなわけなかろう!あの青血のシャモーニが化粧じゃぞ?異常、異常事態じゃよ!初めて化粧の仕方を聞かれた世話人は化粧という言葉を認識できなかったそうじゃぞ!…午後になってから気付いたそうじゃ。」  「…まぁ分からんでもありませんよ。敵の血を顔に塗りたくったと言われてる青血の…。」  「あ、あれは!敵の返り血が顔に掛かったから!拭おうとしたら!そこでもまた攻め込まれて…!」  「おう…。」    「ほらぁ。旦那も引いておるぞ。」  「だ、旦那って…。」  「…そっちかい。…はぁ…もう甘ったるくてしょうがない。ガークさっき言ってた用事を済ませに行こうぜ。」  「ん?あぁそうだな。結婚できない男には辛いよなぁ。」  「うるせぇよ。行くぞ。」  「…何だよ佑樹。何かあんのか?」  「まぁな。後で話すよ。翔は休んでろ。今はな。」  …何だよ。なんかあんなら俺も連れてけよ。確かにまだ絶対安静って言われてるけどさぁ。  っつーかあの二人結構馬が合ってるよな。  佑樹はハルダニヤ国勇者っていうことで冷遇されるかもとは思ってたけど、そんなことねぇな。  やっぱ勇者パワーは凄いのか。  …イケメンだからちやほやされてるわけじゃねぇだろうな。  「はぁ…。二人を見ておると儂も羨ましくなってきたのぉ。…4,50年経ったらまた結婚するかのぉ。」  4,50年経ったらって…軽々しいなぁ~。 俺達にしてみたら2,3年位の感覚か。  「…というより何故母上は毎日こちらに来るのですか…?」  「そんなもん、お主が心配だからに決まっておろう!」  「な!もう私は子供ではありません!心配されるようなことなど…。」  「お主がとんでもないことして旦那に見捨てられるか不安なんじゃ!見てみい!お主の旦那はさっきからチラチラとお主の唇ばっかり見てるのにも気付いておらんじゃろ!お主に何時むしゃぶりつくかしか考えて…。」  「え…?」  いやちょ。  モ、モニこっち見。  いやその前にナガルス様!  「い、いや、そんなこと…!や、やめて下さい!ナガルス様!」  「いいんじゃ、いいんじゃ。お主はもうモニの旦那になったんじゃからの。この娘の頭の先からつま先まで全てお主のものじゃ。好きにしていいんじゃぞ?」  「い、いや、そんな。お、俺は…。…。…好きにしていいと…?」  「ちょ、ショー。な、何するつもりなの…。」    「あ!いや!違う!そそんなこと…。」  「んん?何じゃ?何もせんのか?」  「…何かしようにも人がいるここでは出来ないじゃないですか。まして母親のいるところでなんて…。」  「あ痛ってぇ!頬が!頬が痛い!何故じゃあ!!唐突に!本当に唐突に!!いたぁ~~い!いたぉ~~い!……いたぁ~~い…。」  「ギュッシィ!!ギュ!ギュギュシィ!!ギュワァ!ギュギュワァ!ギュワァ~~!ギュワァ~~!…チラッ…。」  「…ッグゥゥ…。」  …やっぱり殴られたこと怒ってるんだよな。これ。  チクショォ…。  …あとモニが少し席を離したのが傷つく。  …まぁ、手は離さないところが可愛いんだけど。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「師匠!おはようございます!」  「ああ。おはよう。サイード君。ええと…そちらの方々は…?」  「僕の父上と母上です!今日はご挨拶にと…。」  「…お初にお目にかかる。スレイマン第10分家当主、ヤフル・スレイマン・ル・アマーストです。」  「…。」  「…母上…?」  「アンナ。…アンナ…!」  「…アンナ・スレイマンでございます。」  「え、あ…どうも…これは…。…ご丁寧に…。」  …一応丁寧だけど。  …。  これなぁ…。  間違いなく嫌われてるよなぁ。  …俺嫌われるようなことしたっけ?  「…まぁ色々と我々も複雑でのぉ。様々な思惑があるってことじゃ。」  「…とんでも御座いません。…私は長男を助けて頂いて感謝しております。」  お父さん…ヤフルさん…、奥様の方はどうなんですかね?  「…。」  「…。」  「…。」  「…。」  え?き、気まずい?  ヤフル夫妻も、モニもナガルスさんも黙っちゃって…。  いやおかしいよね。  ヤフル夫妻が、理由はわからないけど俺を嫌ってるとして、黙るのはまだいい。  じゃあ来んなよって話だけど向こうも貴族みたいなもんだろ? 最低限の通すべき筋ってものがあるんだろう。それはいい。  でもナガルスさんもモニも何で黙るのさ。  君たち二人がこの国のトップみたいなもんでしょ?  何ていうか…うーん…気を使ってる…?  何で?  長年の確執とか?政治的な柵?恋敵?いや流石にないか…ナガルスさんならあるか…?  俺とサイード君はほら、不安になってキョロキョロしちゃってんですけど…?  いや本当困るよなぁ?  何で大人の政治を怪我人の前に持ち込むのか。  どないせぇっちゅうんじゃ。  「…。」  「…。」  「…。」  「…。」  おいおいおい。  マジか。  お前ら一体何しに来たの?困るんですけど。  ナガルス様ぁ~~。助けて…。  …目ぇめっちゃ反らしてやがる。  何?何々?  おい!メリィ!  こんな時こそお前の出番でしょ。場を盛り上げてよ。  「ギュィッチニ…!ギュィッチニ…!」  唐突に自分の指を数え始めてんじゃねぇよ。役に立ちゃしねぇな。    しかも二本目までしか数えられてねぇじゃねぇか。次は三だ。  糞!こういう時だけ空気読みやがってぇ…。  あーちくしょ。何故。  一体何故こんなに嫌われて…。  …ん? …嫌っているのはこの感じだと奥さんの方だけ…か?  旦那さんの方は…なんとなくだけど奥さんに遠慮してる…感じか?  佑樹は…訳わからんって感じか。俺と同じだ。まぁそうだよな。分かるわ。  …サイード君が可哀想だしここは一つ大人の俺が話題を提供しますか。  「あー…ヤフル…様は、あー、その、お若く見えるのに、当主なんて凄いですね。た、確か、僕がナガルス様にご挨拶した時にいらした方々の中で一番若かったですね。」  「あぁ…そう言えばショー殿とは初めてお会いするわけではありませんでしたね。ただこれでも私は78歳ですが。」  「な…!!ななじゅうはちさい!?え?全然そうは見えないのですが…?!」  「全員が全員という訳ではありませんがね。我々の分家は魔力が多い者が多く、自然寿命も長くなるのですよ。見た目通りの年齢ではありませんね。」  「へぇ…魔力が多いと寿命が長くなるんですか。」  「その傾向が高いですね。人族でも数百年生きている方もいるそうですよ。」  「あー確かにそういった話を王都で聞いたことがある。有名所では…アダウロラ会派創立者のドンタ・アダウロラ、他には…隠者ガレフとかか。寿命が長い人族はそれなりにいるんだろうが、この二人は誰でも知ってるな。隠者ガレフは半ば伝説扱いだったけどよ。」  「なるほど。そういえば勇者様はハルダニヤ王国で過ごされていたのですね。それでしたらそういった情報も良く入ってくるでしょう。ま、確かに私は分家の中では若造ですがね。」  「はぁ~~。78歳で若造ですか…。とんでもない世界ですね。」  「確かにのぉ。人族国家と比べて我々は基本的に魔力がかなり多いからの。そのまま寿命も長くなる。安定した政治や生活を築きやすいがその分、新陳代謝が悪くてのぉ。文化や技術の発展という観点から言えば不利じゃな。」  「そうならないよう。なるべく新しいものを取り入れるようにしているのですがね…。」  「どうしても個人の裁量になるからのぉ。スレイマン家も数百年ぶりに設立した分家じゃしなぁ。我ら一族の課題じゃな。」  「そういった意味でショー殿の武勇伝はとんでもなく衝撃的な話しだったのですよ。」  「ハルダニヤ国でも大いに賑わっておったのぉ。」  「…確かにショーの話はどの町でも噂されてました。特に市民権を得ていない人族からの支持が凄かった覚えがあります。」  「あぁ…ショーの話は迷宮都市でも持ち切りだったからな。最後は領主まで出張ってきての賭けになってた。ありゃもう祭りみたいなもんだな。」  「まぁただの奴隷が、逃げるだけじゃなく第一王女を虚仮にしたんじゃからの。良うやったの!ぐっしっしっし…。」  …メリィみたいな笑い方すんすねナガルス様…嬉しそうだな。  まぁハルダニヤ国と長年戦ってんだ。そりゃ溜まるものもあんだろう。  …んで佑樹もまた…あれ? それって嬉しそうな顔じゃないよな?  …ふぅ~ん…。  ラドチェリー王女だっけ?ムカつくから逃げてきたとか言ってたけどねぇ。  本当に嫌ってんのかねぇ。その割にゃあ…いやまぁいいか。  「…なんだよ翔。」  「…いえ何も…?」  「…。」  「…。」  「?だが今はその噂も変わっておってな。奴隷と勇者が仲間だったと知れ渡っておる。貴族まで…とはいかんが平民にまで話は広がっておるぞ。叙情詩が出来ておるの知ってる?」  「え?!本当ですか?」  「本当じゃ本当。今の酒場での話題はそれが殆どらしい。…まぁちょっと噂を広める手伝いをしたのは事実じゃが…。」  「え…?ちょ、ちょっとナガルス様。それはちょっと…何でそんな事…。」  「なんじゃ?勇者殿は気に入らんか?だが遅いか早いかじゃぞ。勇者のお主が身を挺してショーとサイードを助けたことは迷宮都市中に広がっておった。あの話が広がるのは時間の問題じゃろ?ちょっと早めただけじゃから。…え?まずかった?」  「…いや、別にまずいって訳じゃ…。」  「サイード坊も勇者を嫌いって訳じゃないからの。のぉ?」  「…師匠程じゃありませんが…、まぁ嫌いって訳じゃありません。」  「え?何サイード君そういうことぉ?早く言ってよぉ。なぁ~んだ、俺のこと嫌いみたいな感じ出してたくせにぃ。可愛いとこあるじゃないか少年。ん?」  「ギュゥン?ウン?」  「…まぁ…。」  「おいおい、佑樹君。辞め給えよ。そこに居られるはスレイマン家長男サイード様であらせられるぞ。頭が高いんじゃないのぉ?」    「…は?え?あれ、え?そういう事言っちゃう?偶々好かれたからって調子乗ってません?俺が勇者だった頃はそりゃもう老若男女からワーキャー言われてたんすけど?」  「ふぅ~ん。それで何人があなたの弟子になったんですかねぇ。弟子になりたいって事はほら、その分完全に俺を信頼してるっていうかさ。アイドル的なちやほやとは一線を画すっていうか?分かる?いや分かんないかなぁ、弟子を取ったこと無い方にはぁ。」  「ギュワァ~~。ハァ~…。」  「…!っい…やぁ~、なんつーの?俺はほら、まだ未熟だからさぁ。弟子を取るなんてとてもとても…。流石は不屈の戦士様ですわぁ。きっと弟子を育てるための教育プランも既にあるんだろうなぁ。ほら、弟子を取るってことは責任を持つってことだろ?俺には出来ませんわぁ。もし万が一失敗したらって思ったらとてもとても…。きっと奴隷の星様は素晴らしい指導をなさるんだろうなぁ…。」  「ギュワワワ。シュゴ~~~。ワワワ。」    「っあ…。…。…いやぁ~そりゃ、…そりゃぁ問題ないさぁ。何つったって俺の魔法はシャモーニとガークからの直伝だからな。俺の弟子になること即ち彼らの弟子になることと言って過言じゃ…。」  「あ、その~~…ショー…。…あれは…ナガルス族にとって基礎的というか基本というか…。ぶっちゃけ誰でも知ってる内容なのよ…ね~…。ガークが教えたことも基本の延長だし…。」  「ブギュハッ!…ヒー!…ヒー!」  「…。」  「…。」  「…まぁ捨てたもんじゃないぞ。それをあれほどまで高い技術で扱えるものはそうおらん。どうやら独自の魔法も持っておるようじゃし。ニギと少しとはいえ近接条件で渡り合えるからには強化魔法も相当なもんじゃよ。そのポンチョの扱いも含めかなりの技量であることは間違いないからの。」  「…ふふぅ~ん。」  「…ッチ。」  「…ギュチッ…。」  …本当にマジでメリィは後でキャン言わせたるからな。  「…まぁそれを人に教えるのは別の技術がいるのだがの…。」  「…。」  「…いや本当楽しみですなぁ~。翔くぅん。」  「…。」  「…あ、あの。僕は師匠のあの、冒険のお話を聞ければそれで十分ですから!」  「そ、そう?それなら任せてくれよ!そりゃもう一から十まで全部話すって!任せろ!」  「偉いなぁ。サイード君は。その歳で大人に気を使えるなんてなぁ…。」  「っぐ…。」  「…なるほど。息子がショー殿の弟子になったと言い出した時は何事かと思いましたが、そういう事でしたか。それでしたら息子をお願いします。」  「あ、ええ。もちろん。こちらこそ…。」  なるほど。そういう事か。  …佑樹に言われるまで気付かなかったけど、弟子を取るって相当な責任だよな。  その人の人生を預かるようなもんだ。  お互い大人だったら、お互い見る目がなかったねで済む話かも知れんが、弟子が子供だもんな。  あれだ、あれ。  日本で言うところの…昔の丁稚奉公?的な事だろ?  相手先もかなり信頼できるところじゃないと駄目だと思うもんだよな。  しかもサイード君は分家当主の長男。次期分家当主みたいなもんだろ?  そりゃ当主としては悪い虫がついたと思うわな。  偉い人ってのも大変なわけだ。  「それなら大した事ないからいいのか。せっかく助けたのに余計なことしてサイード君に変な癖がついたらまずいもんな。」  「…まぁちょっと安心したのは事実だよ…。」  「だよなぁ?」  やっぱ佑樹も似たような事考えるよな。  日本人だもん。謙虚さ?っていうか本当に自分が出来るのかっていうのがまず最初に来るもんだよ。  「…余計なことをして下さったものです…。」 「!!ア、アンナ。口を出すんじゃない…!」  「…。」  「…。」  「…おい、さっきからなんなんだよあんた。息子が助かったってのに随分な言い草じゃねぇかよ。」  「…。」  「…あー、勇者殿。我が一族がすまなかったのぉ。決して悪気があるわけでは…。」  「…まぁ、ナガルス様がそう仰るなら…。」  「…別に助けてくれとは言っておりません。望んでないことをして恩に着せるとは随分ご立派な方々ですわ。」  「お、お母さ…母上…。」  「はぁ?ふざけんなよ?そりゃ助けてくれとは言われてねぇがよ。それでも随分失礼じゃねぇか。翔はその子を見捨てる事だって出来たんだぞ。いや、あの状況なら誰だって見捨てる。それでも助けたんだぞ?」  「…ですから頼んでおりません。」  「…頼んでねぇだと…?!…翔は!シャモーニの無念を晴らすそれだけに生きてたんだ!絶対にあそこで捕まるわけにはいかなかった!どんな汚ねぇ手段をとっても生き残ろうとしたんだよ!それを曲げて!死ぬことを覚悟して助けに入ったんだぞ!」  「…その覚悟も我々が助けに入ったからこそ活きたのです。あなた方ふたりだけでしたら意味の無い覚悟でしたね。」  「ア、アンナ…抑え…。」 「…あんたが息子をしっかり見てなかったから奴隷になったんだろうが。自分の不注意を棚に上げて俺たちを責めれば、あんたの不手際が無くなるわけじゃねぇんだぞ。」  「…見ていなかったですって…?私は…誰よりも息子を見ております。あなた方より余程ね。」  「へぇ?じゃあその子が奴隷になって毎日クズ貴族に殴られてた事は知ってたのか?飯も食わせてもらえずガリガリになってたことは知ってんのか?ボロボロになって死んだ目をしながら首輪に繋がれてた姿を知ってたってことかよ?!」  「…奴隷になればそういう事もあるでしょう。…それに死んではおりませんでした。」  「死んではいなかっただと?確かに俺たちが助けに入るまでは死んでなかったな。だがあと一瞬助けるのが遅れてりゃその子の首は吹っ飛んでたよ。奴隷の首輪と一緒にな…!」  「…そうでございますか。…まぁそれを見ていたのはあなた方二人だけです。大げさに言って褒美を掠め取ろうとしているのではないですか?…奴隷などという下卑た文化がある人族らしい考え方です。」  「はぁ?!ふざけんなよ!その子が!その子が首を落とされる寸前に呟いたのがあんたのことだ!その子を眼の前にしてよくまぁそんな糞みたいなことが言えるな!」  「…。」  「その子が苦しんでる時にあんたはぬくぬく雲の上で美味いもん食ってた訳だ!随分美味い飯だったんだろうな!おい!」  「…美味い飯ですって…?!私が!!どれ程!この子を想っているかなどあなた如きには分かりません!救うべき国から逃げ出した勇者など!ぬくぬく過ごしてた私にも劣る!!」  「な…!なに、を…!」  「何故…!!何故助けたのです!!何故連れ戻したのです!!少なくともあなた方二人がこの世界に来なければこの子は奴隷であっても死ぬことは無かった…!!」  彼女は。  サイードの母親のアンナは。  途中から鬼気迫るように叫んでいた。    侮辱とも言える言葉を投げつけられても俺に怒りは沸かなかった。いや俺達には。  彼女は涙を流しながら叫んでいて、それでも決してサイードの手を離さなかったからだ。  最初は怒っていた佑樹もその様子をみて口を噤んでしまった。  「…申し訳ない。勇者殿、ショー殿。…どうやら妻は取り乱しているようです。…大変失礼だとは分かっていますが、今日はこれで失礼いたします。」  「あ、あの、母上…。」  「サイード。来なさい。今日はもう帰ろう。」  「…はい…。」  「ナガルス様。シャモーニ様。お見苦しいところをお見せしました。…この詫びは後日必ず…。」  「…よい。…今日はもう下がれ。」  「…は。」  彼は妻をしっかりと支えながら帰っていった。  彼女は言葉にならない言葉を呻くように吐き出しながら、それでもサイード君の手だけは決して離さず去っていった。  彼女にはもう、俺も佑樹も見えていないようだった。  「…。」  「…。」  「…。」  「…。」  「…俺は…余計なことをしてしまったのかな…モニ…。」  「…彼女の気持ちは分からない…。でも、サイードは喜んでた。あの子があんなに楽しそうにしているは…地上に行く前でも無かった…。」  「…でもよ、いくら何でも訳が分かんねぇよ。それってつまりサイードの母親は息子が助かったことを素直には喜んでないだろ?あの話っぷりじゃ奴隷のままのほうが良かったみたいだ。…なんだ?息子を憎んでいるのか?」  「…。」  俺も一瞬そう思った。佑樹も一瞬そう思ったから聞いてんだろう。  …でもそれは違うと思う。  息子を憎んでいるわけじゃない。  彼女とサイードがこの部屋に入って出ていくまで、彼女はずっとサイードの手を握っていた。  決して離さなかった。  憎んでいるわけじゃない。  「…憎んでおるわけじゃない。それは間違いない。儂も何百回と母親となったから分かる。アンナはサイード坊を憎んでおるわけじゃない。」  「…じゃあ何であんな態度取るんですか?…奴隷であれば死ぬことはなかったって…でも、確かに俺たちがこの世界に来なけりゃ、あの貴族があそこまで追い詰められる事は無かったのか…?…俺はまた余計なことを…?俺のせいで殺されたラミシュバッツの奴隷達みたいに…。」  「勇者殿。いや佑樹殿。それに婿殿よ。…サイードを、そして我が娘シャモーニを助けてくれてありがとう。一族の長として、母親として礼を言う。ありがとう。」  「…。」  「…。」  「お主らがしてくれたこと。決して余計なことでは無い。大げさでなくこの二人を救ってくれた事はナガルス族全員を救うことに繋がる。」  「…。」  「…。」  「アンナが取り乱している理由も知っておる。だがこの話は、サイード本人から止められておる。彼自身の矜持に関わることゆえ、教えることは出来ん。」  「無礼を詫びる。すまぬ。そしてありがとう。異世界の戦士達よ。」  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  あれから色々な偉い人達が俺の病室に来た。  部屋にいるのは俺とモニとナガルス様。ガークと佑樹はいたり、いなかったり。  俺とモニの結婚が知れてから挨拶に来てくれたらしい。  まぁ…次期トップの結婚だもんな。そりゃそうだ。  ちなみにこの一族はどちらかと言えば女系社会らしい。  基本男女平等だが、一族のシンボルでもある長が女性であることから女性が蔑ろにされることは無いと言っていた。  この国を自分で見て回ったわけじゃないから実際のところは分からないけど。  俺がナガルス様を殴った謁見は、実は前々から用意されていた。  元々モニとサイードを助けた俺と佑樹に報奨を取らせるための謁見を計画していた。 つまりすでに各分家当主が、本家に集まっていたらしい。  特に勇者である佑樹が、ハルダニヤ国からこの国に下った事は向こうからしても大きな意味のあることだった。  だからこそ報奨という名目で謁見させ、各当主と顔繋ぎをさせておきたかったとのこと。  …どちらかと言うとおまけは俺の方だったわけか…。  まぁ確かにおまけ扱いだったわけだが、モニはどうやらその時からすでに俺のことを旦那として扱っていたらしく、俺の事を知ってはいたらしい。  勇者よりも優先度は落ちるが、それはやはり実利的な意味合いで勇者の価値が高かったのに対し、象徴的な意味合いの高いモニを助けた俺にも、価値はあった。  助けた、という言葉は素直に受け取れなかった。 何故って、石の呪いを治せるんだとしたら、俺がモニを救うためにしたことは何も無かったと言っていいからだ。 俺は正直モニの死を伝えに来ただけだったし、石になってるモニを守り続けたわけでもないし、ディック爺を連れてきたのはガークだし。 しかしよくよく聞いてみると、そもそもこの呪いは全身が石になる前に殆ど全てが死ぬという。 呪いを受けて保護されるという事がそもそも少なく、保護されたとして本人は絶望し自殺することも多いらしい。 そして本当に石になりきる寸前まで身の回りを介護しなければならず、これが難しい。 周りの人間もそもそもこの呪いが解呪可能だということを知らず介護を諦めてしまうことが多い。 諦めずに介護しきったとしても、死んだと思って後追いで自殺することもある。 ディック爺のような高度な回復魔法技術のあるリヴェータ教の協力を得られる事も難しい。 だがディック爺を連れてきたのはガークだし、ガークが一番貢献してるんじゃ?と聞いた。 だがそもそもガーク達の洗脳魔法を解除することが出来なければ、ディック爺を連れてくることも出来ない。 そして奴隷から脱出できたのは俺のお陰だと伝わっていた。 …確かに俺が洗脳魔法の印を破壊しなければ洗脳が解かれることはなかっただろう。 その方法についても色々聞かれたが…土の材質を変える魔法、引力斥力を発生させる魔法の基礎となる魔力の濃淡調整法だけは話した。 …すんません。結局俺の力の肝を教えちゃった。 まぁ、つまり今、色々調べてもらっているらしいが、ナガルスの古代魔法でもリヴェータ教の洗脳魔法の印は破壊できず、俺の魔力で出来た魔法の糸のみが破壊可能な理由は分かっていない。 もちろん、俺の魔力の使い方を簡単にも真似できない状況だ。 だから…ぶっちゃけ最初は信じてもらえなかった。こっちゃ淡々と事実を言ってるだけなのによぉ。 人族から手に入れた奴隷紋用のインクを手に入れ、ディック爺に試しに彫ってもらった奴隷紋を俺が実際に破壊して見せてようやく信じてもらえたが…。 自動で修復する機能すら破壊出来るのは解せない、とディック爺に色々と俺の魔法を質問された。 色々と答えたが感覚に頼ってる部分も多いからな…。 ディック爺も困ってるようだった。 まぁつまり、モニが石になっても生きていたのは俺のお陰って事になったらしい。ディック爺を連れてこられたのも貢献したって事にも。 各分家当主の思惑としては、その旦那から謁見の願いが来たのか、ちょっと面でも拝んでやるか、あれ、なんか勘違いしてない?シャモーニ殿どういうこ…うおい!! って感じだったらしい。 挨拶に来てくれた分家当主の方々から推測した感じだとそうなる。 ただ一つ言える事はヤフル夫妻のような分かりやすい悪感情を向けられた事は無かった。概ね好意的な印象だった。 ナガルス様を殴った事についてはチクリチクリと言われたが、まぁ、本人が許してるわけだからそこまで言うほどではなかったのだろう。 中には良くやったぞと言ってくれた人までいた。ナガルス様はずっとその人に魔法で作った砂団子を投げてた。 やはりヤフル夫妻…いや、サイード君には何かある、のだろう。 「婿殿、随分良くなったのではないか?体の方は。」 「えぇ、そうですね。ディック爺にも問題ないだろうと言われました。」 「ふむ。そうか。ではそろそろ案内するか。お主らの家に。」 …ぃえ?!
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