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 浮島、という土地は非常に特殊な土地だと思う。  何故かって? 空に浮いているから。  当たり前だろ何言ってんだと思われるかも知れない。  しかし地上の環境と全く違うんだからしょうがない。  まず雨が殆ど降らない。雪も殆ど降らない。雲は大体浮島の下にある。  つまり浮島は殆ど常に、晴れている。太陽が見える。 雲が全体に掛かってたり、雨が降ったりするっていうのは凄く珍しい天気だ。  だから肌の色は白色より褐色の人間が多い。  ただ黒人って程色が黒いわけではない。  むしろ白い肌の人がこんがり焼いちゃってますって感じの色だ。  つまり…彼らはこの土地に住むために特価しきっているわけじゃない。  その原因は彼らがそんなに世代を重ねていないということと、異種族との結婚が進んでいないことだと言われている。  まずナガルス・ル・アマーストが祖となり約2000年以上の歴史を歩んでいるにも係わらず世代が進んでいない理由としては、彼女自身が多く子供を生んでいるためだ。  数は覚えてないと言っていたがモニの話だと2~300人は生んでいる。  彼女だけで一つの村が賄える位は生んでいるわけだ。 彼女が生んだ数人の子供が子供を生み、更にその子供が…という増え方ではなく、彼女がまず子供を沢山生んで、その優秀な子供がナガルス族の地位を押し上げ、分家創立していく、という流れだったらしい。  つまり世代を沢山重ねて子供を増やしてから勢力を伸ばしていくという必要があまりなかった。  また彼女の子供達はやはり彼女の血を継いでいるからか魔力量が非常に多く、さらには古代魔法を操り、少数でも十分な驚異となった。ついでに浮島という他者に攻め込まれる危険性が著しく低い、安全な土地を住処と出来たのも大きかったんだろう。  彼女の子供達は当然魔力も常人に比べて膨大であり、寿命が長くなる。戦い、ナガルス族の地位を押し上げ、数百年経って安定したからそろそろ子供でも生むっぺか、という感じだったとのこと。  このせいでそんなに世代を重ねることがなかった。 もちろん、ナガルス・ル・アマースト以外にもナガルス族はいた。  正式には天人族だとか鳥人族だとか呼ばれていたらしいが、彼らも絶大な力と寿命を持つナガルス一族に飲み込まれていった形となった。 地上ではナガルス族とは、ナガルス・ル・アマーストの血縁者のみだと思われているが、実際血縁者自体はものすごく多い訳じゃない。天人族の支配者一族、という認識が一番正しい。 もちろん分家創立にはナガルス・ル・アマーストの血を受け継いでいるかどうかは関係ない。しかし、実際魔力量の多さがその生物の戦力になることが多く、力が強い者は手柄を立てる機会が多いため、結局ナガルス一族が一番分家を設立する。 この分家と縁を結びたい天人族が導き出した答えが、婚姻関係を結ぶことだ。 このナガルス一族の分家当主と、天人族内の各部族の若い娘を結婚させた。片っ端から。 なまじ寿命が長いから子供を産める、いや産ませられる期間も長く、そりゃもう片っ端から娘を嫁がせた。当主が女の場合は婿を取らせまくった。 戦力は高いが、人数はそこまでいないナガルス一族もその思惑に乗っかった。つまりナガルス族の初期の頃は、一夫多多妻制という状態だった。 一夫多妻じゃない。一夫多多妻だ。 とにかくナガルス族の配偶者の数が多かった。 まるで天上の楽園。 男の夢じゃないかと。 理想郷がそこにあったのかと。 最初聞いた時はそう思いましたよ。 もちろん俺の思う理想とは違った、らしい。 実は結婚の挨拶に来てくれた分家当主には当時生きていた人も数人いた。 男が二人、女が一人だったか。 男の方としてはやはり、最初の五人位でも既に一杯一杯だったと。それでもまだその段階だと幸福を感じる余地はあったらしい。 それが十人、二十人を超えて地獄となり、百人を超えた頃から悟りを開いたと言っていた。 もう無理、と。 沢山の嫁と結婚するから下の者からやっかみもあるし、女同士の争いもある。何よりも全員を食わせなければならないという責任が重すぎたとも言っていた。 女性が当主の場合は、婿同士の争いがより苛烈になるそうだった。 ひょんなことから殺し合いになり、どちらかが死ぬまで終わらない。 その子供達を巻き込んでの半ば戦争になる。 そりゃきついよなぁ…。 結局その重圧に耐えきれず当主の座を譲った者が殆どだった。 だがここでも問題が発生する。 血みどろの権力争いである。 元々魔力量の多い天人族の各嫁若しくは各婿の寿命もそれなりに長く、その子供達もそれなりに人数が多くなっており、一つのコミュニティを形成するに至っている事が多い。そのコミュニティも元々は各部族が娘や息子を送り出した結果出来たグループだ。 つまり現当主が次期当主を指名したとしても、他の部族から嫁いできた嫁とその子供たちが納得するはずもなく、大きな反発がある。 彼らには、反発するだけの根拠があるからだ。反発してる仲間が沢山いるという根拠が。 かと言って他の嫁とその子供たちを皆殺しにでもすれば、そこに紐ついている部族の協力を今後の治世で得られなくなる。 部族の影響力がかなり少なくなってきた現在でもそれは無視できない。というより、部族の数が多すぎて一纏めに出来ないのが現状だ。だからこそ、その部族のトップの協力を得られていれば様々な手続きがスムーズになる。 いい感じに頼むよ。わかったいい感じにやっておく。ってな具合だ。 粛清することは出来ず、話し合いで簡単に片がつく問題ではない。 分家内の争いとは言え、部族間の争いと同レベルの苛烈さになることが多い。 その為次期当主任命にはかなり慎重にならなければならない。 沢山の息子若しくは娘の中から、他を黙らせる程の、当主に任命するだけの説得力のある成果を持つ者を選抜、且つ、この血みどろの権力争いを切り抜けるだけの運と強かさも持っていなければならない。 ナガルス・ル・アマーストと同じ時代からずっと分家当主をしている当主は、他に任せる必要がないほど強く実力があるとも言えるが、逆に言えば後進の育成に失敗しているとも言える。 彼らは皆一様に悲壮感と諦めがあった。 長いこと当主をやれるのは単純に実力があるからだ、そう思っていたがそう単純な話ではなかったらしい。ハーレムも過ぎれば人を悟りに至らせるか。 ぶっちゃけその当主達から自分の娘を第二夫人にしないかという話があった。君なら分家次期当主になれるぞ、と。 当然隣にモニもいたし、そもそもモニ以外と結婚する事に特に魅力を感じなかったし、もちろん断った。 向こうも冗談冗談、と言ってたが…。 目は笑ってなかった、と思う。 あとモニが無言になるのも怖かった。 まぁ、世代を重ねていないにも係わらず人口はそれなりにいる理由としてはこんな歴史があったからという事らしい。 当然今の話からも分かる通り、異種族との結婚も進んでおらず、混血が進むこともなかった。 日本みたいに島国だからな。浮いてる場所は空だが。 空が常に晴れているという天候には、メリットもあるが、生活をしていく上では不便なところもある。  まず水を入手することが難しい。  昔のナガルス族は水を手に入れることに非常に苦心していた。  だがユゼブという男が、魔法を使って大量の純粋な水を手に入れることに成功した。  この成果によって第5分家を創立するまでになったらしい。  この魔法は全ての浮島で使われており、ナガルス族の生活水・飲水を賄っている。  そして食糧生産にも。 浮島での食糧生産も問題だった。  浮島自体はそこそこの数がある。かなりの人数が暮らし、繁栄するだけの広さを持った浮島という意味だが。  小さい浮島を合わせれば無数にあると言っていい。    人々が暮らしている浮島に、常に太陽の光が降り注いでいる環境は、作物を育てる上で優れてる訳じゃない。 水の問題はなんとかなったとは言え、常に空気が薄く、乾燥している環境では育つ作物も少ない。さらに土地も限られており、食糧生産には限界があった。  そこで考えられたのが迷宮を利用するという事だ。  迷宮とは、俺達が迷宮都市で潜っていたような洞窟タイプの迷宮もあるが、他にも様々ある。  その中でも特に、ナガルス族が注目したのは環境型の迷宮だった。  自然界にすでにある森、草原、洞窟、遺跡といった場所が迷宮になる自然型と違い、環境型はその迷宮内部に新たな環境を作り出すタイプだ。  例えば、なんの変哲もない洞窟タイプの迷宮を進んでいくと、一気に広い森が出てきたり、草原や雪原、中にはどのような仕組みで出来てるか分からない建物が乱立する場所に出くわしたりする。  この迷宮の仕組を食糧生産に利用できるのではないか、とナガルス族は考えた。  この一族は、こと魔法、魔力の研究に関しては他の追随を許さないほど進んでいる。 そして彼らは、この開発能力を使って迷宮を利用する方法に辿り着いた。  迷宮が発生する原因は幾つかあるが、そのうちの一つに、多大な魔力を無尽蔵に発生する魔石、通称迷宮核という魔石が原因の場合がある。  この迷宮核が色々な理由で生まれ、その無尽蔵な魔力が迷宮核の周りを徐々に変えていく。大体迷宮核は地中奥深くにあることが多く、地面の深い所から迷宮を作り、最後に地上部分に到達し、入り口が出来る。  当然、迷宮核近くの部分は魔力が高濃度に存在しており、より強い魔物がいることが多い。それに対し、地上部分は迷宮核から一番遠いことが多いため魔力濃度が薄く魔物もそんなに強くない。これが迷宮奥深くに行けば行くほど敵が強くなる原因だ。  そして冒険者は迷宮最深部を目指して冒険し、その迷宮核を手に入れようとする。  もちろん、迷宮深くに行けば、高濃度の魔力にさらされ続けることで、魔力とよく馴染んだ道具が手に入る。 特殊な効果を持った道具、つまり魔道具の事だ。 それを手に入れるのも目的の一つだ。 しかし一番の目的は迷宮核だと言える。  これを破壊すれば迷宮は消滅するが、この核を持ち帰り売ることも出来る。これは非常に高い値段で取引され、最終的にはナガルス一族の元に行き着くことが多い。と言うよりもナガルス一族が高く買い取るから需要が発生していると言っていい。  この迷宮核を利用する技術は地上ではそこまで発達していないため、ナガルス族にしか売れないという事情もある。  ハルダニヤ国以外の各国は、ナガルス族の高い魔法技術、魔法具を手に入れるために迷宮核を買い取っている。 そもそもナガルス族が欲しがる程の迷宮核を持つ迷宮は、走破されること自体が非常に少ないためかなりの高額になる。  買い取った核を使って人工的な迷宮を浮島の内部に作り出す。 人工型の迷宮と言ったところか。  この方法を使えば、地下という閉じられた空間に、適切な環境を作り出す事が出来る。  さらにユゼブ第5分家が創り出した純粋な水を利用することで食糧生産問題が一気に解決した。  そう、純粋な水である。  ディック爺が言っていた生命体が含まれた水でなく、普通の水だ。  ナガルス族は長い間リヴェータ教の洗脳魔法の研究もしていたらしく、やはり水が原因であることは突き止めていたらしい。  これをナガルス族の体内に取り込み続ければ洗脳の効果が出てきてしまうという事も分かっていた。  地上で少し暮らしていたガークにすら洗脳の影響が出ていたことからも重大な問題だったのだろう。  この水を食糧生産に使うことが出来れば、地上の水をナガルス族の体内に取り込む事が無くなる。  純粋な水の入手によるナガルス族の安全の確保、人工迷宮の利用による食糧生産の大幅な改善がナガルス族の生活水準を一気に押し上げたと言っていい。  この人工迷宮を作り出すことに成功したのがバルレイン第6分家というところらしい。  ユゼフ第5分家は水の生産と迷宮内での穀物等の食糧生産方法の確立、バルレイン第6分家は食糧生産のための環境製作と維持、おまけに迷宮内での畜産方法確立という成果を持って分家設立となった。  水の入手と穀物等の食糧生産、生産スペースの確保と畜産等の食糧生産はほぼ同時期に確立しており、その時に一緒に研究開発していた二人が第5第6と連続した分家を設立した。  この二つの分家は相当仲が良い、ということは挨拶に来てもらった時にわかった。  普通分家当主が一人ずつ挨拶しに来るのにこの分家は二人一緒に来た。繋がりはかなり強いのだろう。  この第6分家というのは食糧生産のための人工迷宮だけでなく、居住のための人工迷宮も創り出している。  人口が増えるに連れ、また食糧生産の必要からも浮島の地上部にだけナガルス族の住処を創るわけにはいかなくなった。生産を管理する人間が必要だからだ。  そこで、人工迷宮を迷宮核で作り出す際に食糧生産に必要な環境を作り出すだけでなく、家も作っちゃえばいいんじゃね、となったのが切っ掛けらしい。  第5分家はどちらかと言うと食糧生産メイン。  第6分家はどちらかと言うと住居メインという棲み分けも出来ているらしい。畜産もやっているらしいがこれはおまけだ。  この人工迷宮を作り出す方法を利用しての住居の建築は、ナガルス族に非常に好評だった。  無尽蔵な魔力を使えば、一発でニョキニョキと家が生えてくるんだ、そりゃ早い。  しかも低コストで大きな家をポンと作れる。必要なのは迷宮核の魔力とアイデアと設計図のみ。結局新しい世代のナガルス族は人工迷宮内に家を立てまくる事になった。  今のナガルス族の主流は迷宮内に家を創ることだ。  地上に家があるというのはつまり、昔からいるナガルス族が昔に、古い方法で家を建てていたっていうだけだ。 古い方法とは普通に材料を持ってきて普通に職人に依頼して建てる方法。つまり普通の方法だ。 当然この方法はお金と時間がものすごく掛かる。地上部分は何故か人工迷宮にすることは出来ないため、迷宮核でニョキニョキと、とはいかなかった。  当然、今は迷宮内にポンと作るれるのだから古い方法でわざわざ高い金を掛けて家を立てる必要など無い。無駄な出費だ。  実際、浮島の地上部分では作物が育ちにくいということもあるが、そもそも生物が暮らしやすい環境ではない。  浮島内部に人工迷宮を作れば、その中は人や作物が生きやすく成長しやすい。 人も暮らしやすいという事もあってナガルス族としても迷宮内に居を構えることを推奨している。  そういった理由もあって昔から浮島の地上部に住んでいた人々すら人工迷宮内部に移住していった。  もし迷宮内部のような心地よい環境を地上部分の家で再現しようとするなら、魔法具や魔法をふんだんに使った非常に高価な家にならざるを得ないわけだ。  しかし逆に言えば、歴史のある、ステータスのある家というのは地上にある家を指す。  無駄な出費をあえてする。それが贅沢であり、贅沢ができる事が力の強さだ。  俺達に与えられたのは、アマースト総本家がある浮島の客人用の屋敷の一つだ。  当然この屋敷は地上部にある。2階建ての屋敷だ。  この屋敷に案内される道すがらずっとさっきの話を聞かされていた。とにかく凄い、高い家だということはわかった。 …少しくどかったけど…。 ナガルスお義母様、少しは病み上がりに手加減してくださいよ。途中からナガルス様の説明がそのまま頭の中で再生されてた。果たして俺は耳で聞いていたのか脳に直接受信していたのか…。  …まぁいいよ関係ない関係ない。  他になんて言ってたっけか…。  ああそうそう。ここはそもそも分家当主がナガルス当主に拝謁する為に一時的に泊まる場所って言ってたな。  こういった屋敷は幾つもあり、しかも一つ一つの屋敷は部下や世話人も泊まれるだけのスペースがある。  非常に広い。俺からすれば。  御義母様やモニからすればそんなに大きくないんだそうだ。凄い申し訳なさそうに言われた。 生まれついて高貴な人達は違うね。  2階建ての家で、一階部分には個室が6部屋、二階部分には40部屋ある。さらに一階部分には広い風呂と調理場、会食をするための宴会場、応接間、執務室、書庫、寝室がある。  しかもこの家には庭が二つある。  一つは一階部分、つまりは地上部分に屋敷を囲うように庭がある。庭っていうかもうそういう土地って感じだけど…。  そしてもう一つは地下に庭がある。  そう人工迷宮だ。  通常よりは小さい迷宮核を使い、小さな人工迷宮を地下に創り出している。  その人工迷宮を観賞用に全振りして作った庭、いや庭園だろうか。  何種類かの庭園があり、どんなときでも四季折々の景色と雰囲気が味わえる。  人工迷宮の話を聞いてはいたけど実際に目にすると凄いわ、これ。  ここが地下などと全くわからない。土があり、草があり、花があり、木があり、丘がある。 川のせせらぎが聞こえて、鳥のさえずりも聞こえる。メリィはテンションが上がりすぎてどっか飛んでいった。  そこかしこに美味しそうな果物が実っており、ちょっと収穫して食べてみたらそりゃあもう美味い。  アルゴの実もなっていて、モニと夢中になって食べた。久しぶりに懐かしい味がした。  モニもこういった贅を尽くした屋敷があることは知っていたそうだが、今まであまり来なかったそうだ。    次期当主としてやるべきことが多かったせいもあるし、贅沢にふけって万が一自分が成長できず、ナガルス族の悲願が達成できないことを恐れていたそうだ。  今は大丈夫なのかい?と聞いたら、ショーが助けてくれるでしょ?ってさ。  助けますよ、もちろん。  そういえばこの屋敷を貰うにあたって、世話人や部下も貰ったな。  位置づけとしてはモニの部下と世話人という形らしい。  俺の成果は分家設立級ではあっても、次期当主の婿という立場だと簡単に新しい浮島を与えるわけにはいかないんだと。  というよりも次期当主の婿なのだから分家を設立するよりもよっぽどこっちの方が地位が高いらしい。  別に地位も褒美もいらないが、モニと離れるつもりはない。全然問題はない。  むしろこんな大きな屋敷を貰える時点で十分褒美を貰ってる。  だが向こうは気にしているのか色々と説明してくれた。  分家設立のためにはナガルス一族全体に貢献する成果が必要なのだと。  分家設立後の嫁や子供達、部下を食わせるに足る需要を作り出す必要があるらしい。  つまり飯のタネ持ってこいよということだ。  モニやサイードの救出は、象徴的な面では多大な貢献をしているが、じゃあそれで沢山の人間を食わせる事ができるかと言われると難しい。  もちろん新しい浮島を与え、分家設立を許可し、浮島を開墾することも出来る。他の分家の協力の下で。  しかしその分家たちに与える恩恵がなければ、やはり借りを作ることになるらしく、分家を設立しても一つ格が下に見られるらしい。それでも分家というものには非常に権威があるし、安定してから研究開発して需要を生み出す方法もあると。そういった方法をとった分家もあったとは言っていた。  こちらとしてはそんな面倒くさいことはしたくない。  今のままで十分満足ですよと伝えたら、欲がないなと言われた。異世界人は皆そうなのか、とも。  結局この屋敷でしばらく暮らしていこうかという話になった。  そしてゆくゆくはモニの当主としての仕事を助けていこうと思ってる。  と、言うようなことを俺の家に遊びに来た佑樹にダベっていた。  「いやぁ~~。しかし改めて見てもスゲェ屋敷だな…。」  「いやいや、佑樹も結構な家を貰ったんだろ?」  「ガークのところに居候させてもらってるようなもんだよ。野郎と一緒なんざテンション上がらねぇよなぁ。」  「そのガークも殆ど仕事で家に来ないんだろ?実質自分の家だって言ってたじゃないか。建前としては佑樹の家にガークを住まわせてるんだろ?ナガルス様もそう言ってた。」  「まぁなぁ…。だが元々はガークの分家の別荘みたいなもんだからな。ほぼあいつの家って感じ。それにあのデケェ家に一人きりっつーのもなぁ。」  「確かになぁ。今度俺もそっち行って見るわ。っていうか世話人だっているんだろ?一人きりじゃねぇだろ?」  「ま、な…。しかし何もやることがなくてよ…。ガークに訓練つけてもらってる位か?暇つぶし出来るのは。」  「へぇ。じゃあ俺もその訓練参加させてくれよ。…俺もやることなくて暇だし…。モニは病み上がりだけど次期宗主代理としての仕事も少しはあるみたいだし…。俺はまだ手伝えないしよ…。今は抑えてもらってるらしいが、その内結構仕事が増えるんだろうしなぁ。」  「なぁ…なんか暇つぶしのネタはないもんかね…。迷宮もここには無いしよ、冒険者としての仕事もない。っていうか冒険者ギルドないし…。」  「そう。冒険者ギルドないんだよな…。」  「はぁ…。」  「はぁ…。」  「失礼します。」  ん?あぁ、ハナディさんだっけか。世話人の。  「夕食のご用意が出来ました、婿様。」  「あぁ…もうそんな時間か…。」  「ん…じゃあ俺もそろそろ失礼するか。」  「いえ、シャモーニ様が勇者様も是非に、と。」  「んん?そうなの?じゃあ…夕食を頂いて行こうかな。」  「何なら泊まって行けよ。部屋なら腐るほどあるんだ。」  「嫌だよ。何が良くてお前がいちゃついてる部屋の隣で寝なきゃならんのよ。」  「い、いや、隣の部屋って訳じゃ…。」  「いぃちゃぁついてんのは否定しないのかよ…。神様、どうかこいつが苦しんで死にますように…。」  「僻みすぎだろ…どうせ勇者なんてハーレム一直線じゃねぇか。」  「…それはそんなにいいもんじゃねぇよ。…行こうぜ。腹減ったよ。」  「そうだな。あ、ハナディさん。…案内してください…。」  「えぇ…、お前ん家だろ…。」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「おう!先生!お邪魔してるぜ!」  「ガーク!何だ来てたのかよ!」  「こっちにユーキがいるって聞いてな。じゃあ俺もついでにって感じだ。」  「なんかいつもとあんま変わりないな…。」  「まぁいいじゃねぇか。俺も久しぶりにシャモーニ様と飯を食いたかったのさ。」  「そうよ。食事は皆で食べたほうが美味しいわ。こういう時のための地下庭園だしね。」  「これ凄いよな…。天幕?ってやつか?でも透明で外が見える。…でも風は少し流れてる…?中は暖かい?…いいな、これ。こんなの家に有ったんだ?」  「ウフフン。有ったのよ。大空のヴェールって言うんだけどね、結構高いんだから。こういう外でご飯を食べる時すごく重宝するの。」  「ああ。最近流行りのやつか。地下に住んでる奴らはこれをよく使って家の外で飯を食うらしいな。」  「そう。だから使ってみたのよ。水とか埃とかは入ってこないけど、そよ風程度だったら入ってくる。外の雰囲気を感じながら食べるのに打ってつけね。」  「いいなこれ。流石だよモニ。天才。」  「もっと褒め称えてもいいのよ!幾らでもいいから!」  「天才!かわいい!美人!」  「ギュシュ!ギュシ!グワシュ!!」  「フフン!フフフン!フフフフン!」  「稀代の美女!才色兼備!世界一かわいい!!」  「ギュシュシュ!ギュッシュシュシュ!ギュシュウシュウ!」  「フフフホン!フホン!オホホホン!」  「…これうまいな…。何だこれ?」  「…ユーキは食ったことなかったか?ナガルスでよく食われてる…。」  「…俺の家でも出して…。」  「…確か名前は…。」  カオスだ。こりゃ。  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽  「なるほどな。いいぞ、先生とサイードだな。俺達と一緒に訓練するってことで。」  「ああ。サイード君には彼に合った訓練にしてあげてくれ。…俺はあまり人に教えたこと無いから…。」  「そんなに卑屈になることはないさ。ナカダチに教えてた時は十分うまかったぜ。」  「そう?そうか…。…。…!そうだ!仲立さんだ!なんで今の今まで!確かそう言えばここに来る寸前に…!ミカ?ミキ?確か仲立さんの彼女さんが…!」  「落ち着け、翔。まず仲立って人は大丈夫…らしい。ハルダニヤ国にいるナガルス族の諜報員からの情報だとな。かなり確かな情報だ。少なくとも死刑にされるとかはない。丁重に監禁されてる状態だ。」  「佑樹…なんでその事を知って…?」  「先生、実は俺達、先生が休んでる時にそのミキ・ナーン…正式にはミキ・マミヤと言うらしいが…彼女に会っていたんだ。」  「何故?何のために?いや、そもそも彼女は今どうしてる?彼女は仲立さんが探してた人なんだ。ガークだって知ってるよな?彼女の事も丁重に…。」  「わかってる、わかってるよ先生。もちろん丁重に扱ってる。…ただ、少々暴れるようだったから…まぁ、監禁…という状況だった。つい最近までな。」  「な…!?…彼女に会わせてくれ。俺が説得してみせるから…。」  「いや、それはもう大丈夫。彼女の監禁はもう解かれている。勇者を見ると暴れていたが…これを見せたら落ち着いてくれた。覚えてるか、先生?」  「それは…俺達の派閥の印が入ったナイフ…。俺達が作ったやつだよな?」  「そうだ。…仲立は今王都に監禁されている。ラドチェリー王女が…俺達の逃亡時にナカダチだけは捕らえられたらしくてな。…王女本人は保護だと言い張ってるが…。王女は、彼の無事と今後のミキとナカダチの二人の生活の保証と引き換えに今回の勇者の足取りの調査…つまりは先生を捕らえることをミキに命令したんだ。…人質とって脅したって訳だな。」  「…。」  「彼女に仲立の無事を確認させるため、そして忘れさせないために面会は許可されてたようだ。…その時に俺たちの話もよく出ていたらしい。…その時俺達と同じナイフも貰ったらしい。今の自分には使えないからと…。俺達のことを大分好意的に話してくれてたらしいぜ…。」  「…そうか…。」  「このナイフのお陰で信頼してくれたんだ。助かったぜ。やはり参謀はやることが違うな。ッハハ。」  「ああ…仲立さんは頭が良かったから…。」  「…彼女はハルダニヤ国に協力なんざしたくなかったわけだが、仲立を人質に取られて協力せざるを得なかった。しかし自分の身を呈して勇者を捕らえようとした話はラドチェリー王女に伝わったらしくてな。また向こうでは彼女の生死は不明だ。…この状況じゃ、ナカダチを殺すよりも生かしておいて何かに使ったほうがいいと踏んだんだろう。殺すだけ損だって事だ。」  「…面倒事は無くしてしまえって殺されたりしないか…?」  「少なくとも奴らは勇者とミキが一緒にいる可能性も考えてる。一瞬でも一緒にいたならナカダチを人質にとっている話が伝わってる可能性がある。その上でナカダチを殺したら…。」  「…俺は絶対にハルダニヤ国には戻らないだろうな。…もう彼女を信頼することは出来ない。」  「そういうことだ。ラドチェリー王女は勇者の性格を良く分かっている。だからこそ丁重に扱うしか無い。逃して後は知りませんってのもユーキの性格を知ってるなら悪手だろうな。奴らはナカダチを保護するしかねぇのさ。」  「そう…なのか…。」  「この話をしたらミキ・ナーンも納得してくれた。そして俺達はまたハルダニヤ国に攻め入る。その時にナカダチを保護することを約束した。」  「…なんの条件も無しにか…?」  「ああ。だがミキとユーキがハルダニヤ国側にならない事を条件にさせてもらったが。」  「…まぁ、そりゃ当たり前か。」  「…半分俺のせいみたいなもんだしな。俺は構わねぇよ。」  「…そうか…佑樹、恩に着るよ。仲立さんには世話になったから…。」  「まぁ俺は実質何もしちゃいねぇがな。っへ。」  「…それでこの訓練にも彼女を参加させたい。…大分塞ぎ込んでるようでな。一応ユーキの家に住んでるが…元気がない。気分転換にでもなればと思ってな。」  「ああ、そういうことか…俺は全然構わない。いやむしろ是非参加してくれ。仲立さんの彼女さんならなんとかしないとな…。」  「そうだ。そのとおりだ。ナカダチには世話になったからな。」  「じゃあ私も参加する。」  「シャモーニ様も?」  「そうよ。野郎共ばっかりじゃ可哀想でしょ。気が紛れるもんも紛れないわよ。」  「…確かにその方がいいかも知れないな…。」  「…うーん…どうだろうなぁ。確かに野郎どもばっかってよりかは良いのか…?」  「なんだよ佑樹。気になることでもあるのか?」  「…ミキさんはつまり恋人と離れ離れってことだろ?そこに人目を憚らずにいちゃついてるバカップルがいたら逆に気分が悪くならないか?」  「…。」  「…。」  「…確かになぁ…じゃあ…。」  「だ、大丈夫よ!いくらなんでも私だって場所はわきまえるわ!大丈夫大丈夫!」  「そ、そうだよ!俺だってそれくらい分かってたさ!」  「…まぁ、そう言うなら…。」  「…大丈夫かなぁ…。」  「…だ、大丈夫…。」  「…問題ない…。」  「…。」  「…。」  「…じゃあ、そろそろ俺達はお暇するか。」  「そうだな。後は思う存分いちゃついてくれ。」  「はぁ?そんな事…。」  「はいはい。おつかれさ~ん。」  「シャモーニ様。世話人の前では程々にですよ。では失礼。」  「…。」    「…。」  い、言いたいだけ言って帰りやがって…。  後に残された俺達のこと少しは考えろよ…!  「…こ、この後どうする?」  「…あ、そ、そうだな…。お、お酒が余ってるし…へ、部屋で飲み直そうか…。」  「…うん。」  それと、俺達はもう既に、なんていうか、そういう関係だ。  夫婦だし、男女だし、問題ないよな。  でもやっぱりまだ慣れなくて…照れるわ。  …世の夫婦はどうやって妻を誘ってるんだろう。めちゃくちゃ恥ずかしくないか。  …ま、最高に可愛いから別にいいんだけどさ。
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