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「師匠!これですよこれ!この浮き魚の花弁蒸しがもの凄く美味しいんですって!ナガルス本家城下町に来てこれを食べないのは損ですよ!そこの露天に売ってます!」 「へぇ~どれどれ…。お…お!、おお!!美味い!何だこれ!美味いぞ!この魚…食べたそばから口の中で崩れてって…花の匂いが口の中いっぱいに…でも味もしっかりしてる。ちょっと辛い感じ?美味いぞ!これ!…そいえば、露天で買ったものをこの飯屋に持ってきて勝手に食べて良いのかな…?」 「…?ここは飯屋というより、広場に勝手に飯屋達が置いた机ですから。むしろどんどん色んな所から勝手に持ってきて食べて良いんですよ!地べたに座ってる人だっているでしょう?それよりもこのコバミルク茶と一緒に飲むとこれがまた最高に美味しくて…。」 「おいおーい!俺達ゃもう大人だぜ?そんなミルクよりさぁ、魔法の液体を混ぜた方が美味しく頂けるだろぉ?」 「あ、すいません。僕、シャモーニ様とミキ様にユーキと話すなって言われてて…。」 「い、いやもうそれは許してもらったし、これぐらい良いだろ?ほらコバミルク茶に混ぜる奴もあるみたいだし…だめ…ですか…?」 「…まぁ、祭りだしね。良いんじゃないの。流石に私もここで野暮な事言わないわよ。」 「そう?日本じゃサイード君には少し早いんだけどなぁ。」 「お酒位ならサイードの歳でも飲んでる子が多いわ。そういう文化って奴ね。しかしユーキは魔法の液体なんて言葉良く知ってるわね。…大分こっちで飲んでないと出てこない単語よ。」 「えっへっへっへぇ。まぁ結構俺は酒飲みらしくてねぇ。」 「まぁいいか。…確かにアルコール度数もそんなに高い物じゃなさそうだしね。ジュースみたいな感じー。」 「ミキも大概酒飲みよね…。」 「…じゃあ僕もこっち飲みます。ちょっと興味あったんで…。」 「よしよし。それならこれが美味いぞ。これは飲みやすくていい…。」 「ちょ…、一気にそんなに…あでも結構美味しいですね…。」 「だろ…こっちもキツイが結構…。」 「程々にしておけよ、佑樹。…しかしいいのかな。モニって…次期本家宗主でしょ?それに佑樹も俺もそれなりな立場の人間じゃん?こんな広場で普通に座って飯食ってていいもんなのかな…?」 「いいのいいの。私達はハルダニヤみたいに階級社会って感じじゃないから。結構偉い人でも普通に町で食事してたりするわ。まぁ、この城下町が特殊ってこともあるけど。」 「…?そうなの…?」 「うん。基本的にナガルス族同士での争いって家督争い位なのよ。それは各分家の浮島内ではよくある話なんだけど、この城下町は母上が常に一番だからね。そういう争いが起こる土壌がないのよ。…まぁ自分家の争いを外まで持ってくるのは下品でしょ?そういう事が起こったらどんな正義があろうともかなり糾弾されるしね。どっちも。だからここでは争いは起こらない。暗殺も起こらない。…ことが多いわ。」 「多いだけって…!やっぱヤバイじゃない!モニなんて一番立場的には危険で…。」 「まぁまぁ、落ち着いてって。更にこの望郷祭ではそれが顕著なの。この祭りは私達にとってとても大事なものだから…敬意を持ってそういったことはしない事になってるの。だから今日はそこら辺にお偉いさんが居たりするわよ。分家当主とか普通にね。」 「そ、そうなのか…。じゃあ大丈夫かな…?」 「大丈夫よ。…それに危なくなったら…ショーが助けてくれるでしょ…?」 「…!お、おう!当たり前じゃん!任せろって!」 …とりあえず砂塵・土蜘蛛は展開しておこう。うん。忘れてた。 どんなに安全に思えてもきっちり警戒はしておかなきゃ。 最近ちょっと良いことが続いて気が抜けてきてたかな。 帰る家があって、妻が居て、友達が居て、美味しいごはんが食べれて暖かくて。 こんなの日本に居たときみたいだから、ついつい日本に居るときみたいな気持ちになってた。 でもちゃんと警戒しなきゃ。たとえどんなに安全に見えたってその安全が崩れる可能性はある。 この世界は前の世界よりも残酷だ。 忘れちゃいけなかった。 大事なものを守るなら、これからも絶対に忘れちゃ行けない。 「ふふっ…。それと言い忘れてたけど、私は次期本家宗主にはならないわ。次期本家宗主代理よ。」 「…そうなの?でも代理っていうのは次に宗主になるための練習みたいな意味だろ?その内宗主になるんじゃないのか?」 「宗主はずっと母上よ。2000年以上前からずっとね。ただいざという時も考えて、あと仕事が大変だからほぼ同じ権力を与えて手伝わせてるのよ。まぁ、2番目には偉いけどね。へっへっへ。」 「そうか…でも結局偉い事には変わりないよね。」 「まぁね。ショーも私と同じくらい偉いのよ。私に何かあったときはあなたが2番目になってナガルスの政治をしなきゃいけないんだから。」 「え?!そうなの?!…モニのおまけ的な…お飾りみたいなもんだと思ってたよ…。」 「フフン。そうはならないわ。歴史上そうだった場合もあったけど、私はそうしない。私も…母上もあなたを信頼してるから。結構分家からの評価も高かったりするのよ?」 「え、そ、そう?いやそりゃ嬉しいっちゃ嬉しいけど、そんな大した事した訳でも無いし…。」 「…あのねぇ…次期本家宗主代理の命を助けて、ハルダニヤ国の勇者を取り込んだあなたの功績が大したことないなら、今世代のナガルス族の功績は昼寝してるのと同じよ。」 「そ、そう…かな?」 「そうよ。前から思っていたけどショーは自分の事や自分のやった事を下に見すぎるきらいがあるわ。それは他の人の功績すら貶める行為よ。…謙遜は美徳だとは思うけど…あなたもこういう立場になっちゃったんだから…人前でそういう言動をすると傷つく人も居ると思うわ。」 「う、うん…わかった…気をつけるよ。」 「…こんな立場になるのは…嫌だった…?」 「え?あ、いや…確かに予想はしてなかったし、戸惑っているのも確かだよ。でも嫌じゃない。モニと一緒にいられることが嫌なわけ無いじゃないか。」 「え…あ、うんそうね。別にそういう事が聞きたかった訳じゃないし…別に…。」 「はぁ~~いちゃつくのは勘弁してもらえんかのぉ~~~、冷たいエールがぬるいエールになってしまったんじゃけどのぉ。なぁサイード坊?」 「本当ですよぉ!何なんですかぁ!師匠!師匠は僕の師匠ですよ!ねぇユーキ!」 「ん、お、おお。そうだ、うんそうだな。そうだぞぉ翔。サイードが可愛そうだろぉ。」 「…なんでナガルス様までいらっしゃるんですかねぇ。」 「おうおう寂しいのぉ。わしのことは是非ママ上と呼んで…。」 「ママ上…moniche…?」 「は、母上ぇ!!」 「母上などと…子供の頃はママ上ママ上と…。」 「やめ、やめて下さい!子供の頃の話でしょう!」 「あ~、シャモーニ様もそう言ってたんですねぇ。僕も子供の頃そう言ってたみたいですよ。」 「そうなのか?」 「そうなんですよ師匠。その…立場のある家では子供の頃からしっかり躾けるので母上と呼ばせるんですがね、町の子達はママとか言ってるわけでしょう?それを真似して間を取ってママ上と呼ぶ事もあるんです。子供の言葉ですね。」 「そっか…monicheってそういう意味だったのか。俺もモニと会った頃…。」 「ショー…。」 「なんでもありません!」 「ほらぁ、いいからママ上と呼ばんかぁ。え?恥ずかしがることはないぞ?こちらの世界で母と呼べるのはわし位しかおらんじゃろ。ほら、ほら。」 「…そうですね。確かに…。ママ上。これからもよろしくお願いします。」 「よしよし。構わん構わん。息子に報いるは母の役目よ。それにあんな立派なナイフを六本も献上されたしのぉ。赤と黒のナイフ三本ずつだったか?見事な業物よのぉ。」 「いえ、褒美として沢山のお金も頂きましたし。それに、モニに献上したほうが良いと助言を受けたんですよ。きっと母上も喜ぶと。モニはいつもあなたの事を考えていますよ。」 「おお…。なんと…そうだったのか…。会えばいつもいつも小言ばかり言いよってこん小娘と思っとったのに…。よぉ~~しよしよし!!よぉっしゃよっしゃよっしゃ!!」 「ギュワ~~~ッシワッシワッシ!ワッシャワッシャ!」 「ちょ…母上、やめ、やめて…メリィも…もう…。」 「師匠!ユゥーキ!これ!これ美味しいれすよ!こんなの美味しいですよ!凄い!」 「おう!おう…?サイード酔ってるか…?」 「酔っれません!僕ぁもう大人ですよ!そんら簡単に酔う訳らいじゃないですか!」 「おい佑樹お前…。」 「い、いや、そりゃ最初は勧めたよ?でも思いの外口にあったみたいで、ほら牛乳っぽくて飲みやすいしな?二杯目からぐんぐんと…。」 「師匠!師匠は僕とおしゃけ飲むのが嫌なんですかぁ?!僕のこと、僕のころ、きら…。」 「いや!そんな訳無いだろ!飲むぞ!なぁ佑樹!」 「おう!飲むのに理由なんていらんわ!金もあるみたいだしなぁ翔は!」 「おう!飲め飲め!浴びるほど飲んで食ってくれ!ここは俺の奢りだ!」 「いよ!翔!おっとこ前ぇ!」 「師匠!流石です!」 「翔君はお金持ちだなぁ。美紀!頂きます!」 「我が息子は太っ腹じゃぁ!皆のもの!ここは婿殿の奢りだそうだぞ!」 「おお!本当ですかい!?ナガルス様!」 「なんて気前が良いんだ!良し!ありったけの酒と飯もってこい!シャモーニ様と婿様の結婚祝いだ!」 「え?え?」 「キャー!!あれが婿様よ!かっこいい!!」 「黒髪が色っぽいわぁ…!」 「…お?…お?」 「シャモーニ様も喜んでらっしゃるわねぇ…。あたしゃ嬉しくて…。」 「本当だよ!お似合いの夫婦だねぇ…。」 「…お…おお…おおお!!好きなだけ飲んでくれぃ!」 「「「「おおおおおお!!!」」」」 …。 …だ、大丈夫だよね…? 「あ~あ…母上に載せられちゃって…。お金は無くなると思ったほうが良いからね?」 う、嘘だよねモニちゃん…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「おお!踊りが始まったぞ!踊るぞ皆の衆!わしに続けぇい!」 「おう!おろるぞ!ひょうひょうの勇ひゃ!踊る!」 「しゃいーど!!行っきまーす!」 「サイード君?私も踊るの?踊り知らないんだけど…。モニちょっと助けて…。」 「楽しんでらっしゃいミキ。」 「ええええ…!」 「モニ!俺と踊ってくれ!」 「…は?!い、いや私は…。おど、踊った事無いし…!」 「モニと踊りたいんだ!さぁ!行こう!無限の彼方へ!」 「えぇ!何それ!どこに行くの?!ちょ、落ち着、あ、ちょ。」 「ギュワッ!ギュワッ!」 「メリィ!お尻触んないで!ちょっと!コラッ!」 「おお!若夫婦が踊られるぞ!楽器もってこい!」 「歌うぞ!」 「台座に火を灯せぇぃ!」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「ゆうひゃ!歌いまふ!」 「ギュワッヒュ!ワヒュ!」 「カントリーロー!この道ー!ずぅっとー!行けばー!」 「おお!勇者が歌ってるぞ!知らん言葉だ!」 「初めて聞くじょ!いい歌じゃ!知らん言語じゃ!」 「おお!懐い!おりゃも歌う!」 「ショー!あらひも歌う!」 「あーろー町ーにー!続いれーるー!気がすーるー!」 「ギュワワーワワーワー!」 「カントリーロー!!」 「いい歌だ!歌おう!歌おう!」 「わしも歌うじょ!」 「zzzzz……!」 「ミキしゃん!うらいましょう!起きて!起きちぇ!」 「グゴー…チラッ…zzzz…!…!」 「起きれる!じぇったい!起きてる!」 「…!…!」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 死体…?! いや違う酔いつぶれてるだけだ…。 モニは…?!…隣にいた…。 っていうか抱きしめて寝てた。 しかし一体これは…? 一体何故こんな状況に…? …っぐ…思い出せない…ただ御義母様が悪いことだけは朧げながら覚えてる。 ちっくしょう…関係ない奴もどんどん呼び込みやがって…。 楽しかったから良いけど…お金は…。 …お金の事を考えるのはやめよう。やばくなったら御義母様のせいにして逃げよう。 俺が悪いんじゃないやい。 …しかし凄いな…皆家に帰ってないのか…? もうそこらへんで寝てるじゃないか。 こういう時は雨が降らない浮島の気候は有り難いな。 いやこういう気候だからこういう祭りが出来たのか…? いやまぁどうでも良いけど…。 「師匠…。」 「お…サイード…。起きたのか。…今何日目なんだ…?」 「5日目ですよ…。うう…頭痛い…。」 「それは二日酔いという物だ…。大人になった証だ。ほら…水飲め…あこれ酒だ…。」 「大人って痛いんですね…。水は魔法で出せますから…。…美味しい…。…ただの水が…何故こんなにも…。」 「やっぱ大人になるには酒の失敗をしないとな…。…それが大人…うぷっ…。水…水…。」 「…そんな事父上も言ってました…。はい水です…師匠…。」 「助かる…。…はぁ~。…美味い…。」 浮島の朝は…綺麗だ。 この広場が少し高台にあるからか…朝日が下から注いでくる。 すごく綺麗で…。 俺とモニの屋敷も高いところにあったっけか。 ここよりもこの浮島全体が見えて…この浮島自体が真円に近い形で、それもまた綺麗だったな。 この浮島は良いところだ。 住んでる人は良い奴ばかりだし、住んでる場所は空を飛んでるみたいだ。 日本に住んでたら絶対に体験できなかった。 命を狙われる心配だって無いし、奴隷制度もない。 ここは…良いところだ。 「師匠…。」 「ん…?」 「…師匠。僕の命を助けてくれて、有難うございました。」 「ッハハ。何だよ畏まって頭まで下げちゃってまぁ。」 「いえ、ちゃんとお礼言ってなかったかなぁって…。」 「そうだったか?忘れちまったよ。そんな昔の事はよ。」 「へへ…。…師匠。師匠は…やっぱり故郷に帰りたいですか?やっぱり…この世界のこと…恨んでますか?」 「何だよどうした?いきなりさ。別にもう恨んでないって。いやもしかしたら…最初から恨んでなかったかも知れない。」 「…。」 「今だからこそ言えるのかもな。こうやって無事に生きて、ここまで来れたからよ。だから…そう、なんつーのかな。…この世界は…嫌いじゃないよ。…きっと一番最初にモニに会えたからだな。」 「ふふっ…師匠はシャモーニ様にベタ惚れですからね。」 「まぁな。ッシシシ。サイードはこの世界は好きなんだよな?」 「…僕は…この世界のことが嫌いでした。大嫌いだった。」 「そりゃ…また何で…。」 「使命だ何だって勝手に決められて…好きでも無いことを無理やりやらされて…。僕に自由はありませんでした。君が世界を救うんだって。…知ったことかって思ってました。…だから、逃げたんです。地上に。」 「…。」 「でも結局捕まって…やっぱり子供一人が生き延びられるほど甘いもんじゃなかったってことなんですかね。自由だって浮かれて飛び回ってたのが良くなかったのかな。結局最後は死にかけて…師匠に助けてもらったって訳です。」 「…。」 「ぶっちゃけ師匠に助けて貰った後もこの世界の事…、いやナガルス族の事は嫌いでした。…でも結局それは僕がすねてただけで…。…僕は…なんて言うんでしょうか…難しいな…。…母上があんなに取り乱しているの初めて見ました。ッハハ。」 「あぁ…。…ありゃ凄かったな。鬼気迫るっていうかさ。反論できることはめちゃくちゃあるんだけど全然喋れなかったよ。怖くってよ。」 「僕もあんな母上初めて見ましたよ。…母上はいつも…僕には無表情な人でしたから…。」 「そうだったのか?…とてもそんな風には見えなかったがな…。」 「そうですか…?へへっ。…何ていうか、近頃はそんなにこの故郷も悪くないなって。僕結構ここ好きだなって思うようになりましたね。うん。」 「あ~俺も昔あったよ。周り皆が馬鹿に見えてた時期がさ。まぁ、俺が一番ガキだったってだけなんだけどさ。」 「ああ…そうですね。そんな感じ。結局僕もガキだったってことですよ。」 「いやいや…サイードはまだガキだろ。少なくとも俺がサイードの歳の時はもっと馬鹿だったね。」 「ヘヘッ。…だから、まぁ、使命ってのもやってみようかなって。結局僕がやらなきゃ誰かがやるハメになるんだし、じゃあ僕で良いかなって。それが多分、良いかなって。」 「ふぅ~ん…。まぁ、嫌になったら言えよ。サボっちゃえば良いんだよ。そんなの。」 「そうですね…怖くなったらお願いするかも知れないです…。…師匠。僕の命を救って下さった恩は、必ず返します。師匠がこの世界を嫌いじゃないって言うんなら…恨んでないって言うんなら…。」 「…どうしたんだよ本当に。何かあったのか?俺に相談してみろって。何て言ったって俺はナガルス族でそこそこ偉いらしいのよ。だから結構なんとか出来るはずだぜ?」 「…有難うございます…。…まぁ、いつか師匠を助けて見せますってことですよ。僕が師匠よりも強くなってね。」 「ほぉ~やるじゃねぇの?こりゃぁ祭りが終わったら猛特訓だな。…俺もキツイけど…。」 「ガーク叔父上も容赦ないですからね…。っとぉ…、僕はもう帰ります。今帰れば母上にばれないうちに帰れるかも知れないので。」 「ん、そうだな。俺もモニと美紀さんを連れて帰るよ。流石に女性を外に寝かせとく訳にはいかないからな。」 「確かに…。…ナガルス様も女性ですが…。」 「ああ…。だが生憎と俺の腕は2つしか無いから…。優先順位が…。」 「…ではっ。お疲れ様です!」 「…有無っ。御機嫌よう!」 …。 …まぁ、連れてってやるか。 斥引力魔法が使えて良かったよ。ポンチョもあるし。 …いやポンチョは辞めとくか。 佑樹とナガルス様めっちゃ吐いてたからな。…寝ゲロも十分ありえる。 魔法一択だわ。 モニと美紀さんだけポンチョで連れてこう。 …早起きは三文の得じゃ無かったっけ…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「うう…頭痛い…。」 「昨日かなり飲んでたからなぁ。あんなに飲んだの初めて?」 「うん…ていうかお酒自体最近飲み始めたばっかり…。」 「え?!そうなの?もっと飲んでるもんだと思ってた。ほら、二人で飲んでる時はなんか…堂々としてたし…。」 「…二人の時は…ちょっとかっこつけてました。はい…。」 「なんでそんな事を…。」 「だってショーお酒飲み慣れてる感じだったし、あたしも負けてらんないって。石になる前はお酒は贅沢だと思ってたし…。」 「別に慣れてないよ…。なんていうか、やさぐれてた時に呑んだくれてただけでさ。水飲んだ?」 「うん…。持ってきてもらった…。」 「まぁ水いっぱい飲んで1日休めば元に戻るよ。二日酔いなんて。明日の式典休む?」 「…ううん…それは絶対出るから。ショーも、明日は出て欲しい。」 「それはもちろん。どうやらサイードが主役らしいからな。弟子の晴れ姿は見ておかないと。」 「…うん…そうね…。ねぇ、ショー。式典の時私の手をずっと握っててくれる…?」 「うん?ああいいよ。モニが良いなら。…やっぱ休む?御義母様に頼めばなんとかしてくれると…。」 「ううん。望郷祭はナガルス族にとって本当に大切な祭りだから…。それは絶対出る。時期宗主代理としての責任だから。」 「…わかった。俺も時期宗主代理婿として出来ることはする。」 「…ありがとう。…もう少しお水頂戴…。」 「はいはい。寝てて。持ってくるから。朝ご飯食べられるなら食べたほうが良いよ。果物でも何でもさ。」 「うん…。もう少し寝る…。」 辛そうだな。 でも少し懐かしい。 浮島でモニを世話してた時みたいだ。 不謹慎だけど、あの時も今も体調が悪いほうが…ちょっと可愛いんだよね。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 今日は雲の日か。 珍しい天気だな…。 曇りじゃなくて雲っていうのも浮島独特の天候だよな。 まぁまさに雲の中に浮島が突っ込んだ時の天候を言ってるんだから、そりゃ雲の日って言うしか無いか。 高高度にあるからそういうこともあるんだな。 しかし視界が悪いな…。 ナガルス族が中央広場に集まってるけど、中央台座に居る御義母様もサイードも殆ど見えないし。 せっかくのサイードの晴れの日だっつーのに…。 一応俺とモニはお偉いさんって扱いだから台座近くにいるけど、それでも見えないんだから相当だよ。 っつーか御義母様も今日なんかピリピリしてたな。 話しかけづらかったなぁ。 …話しかけづらいといえば、サイードの母親…えーと…アンナさんだったっけかな?彼女もお偉いさんだしサイードの母親ってことで台座近くに案内されてたんだが…めちゃくちゃ睨まれてたわ。 なんであんなに嫌われなきゃいけないのか。 いや百歩譲って嫌われてるとしても、せめて今日くらいはそつなくこなして欲しいわ。 はぁ…憂鬱…。 …。 斥引力魔法で雲をはじき飛ばしてやろうかな。サイードが可哀想だ。 ここら辺だけなら雲吹っ飛ばせるんじゃないか?いけそうな気がするんだよな。 …まぁあまり出しゃばるのも良くないか。 …いや一応モニに聞いておくか? 「ナガルスの民よ!今日はよく集まってくれた!ナガルスの長として嬉しく思う!」 あ…始まってしまった…。まぁいいか。これでいいなら。 「…2000年以上続いてきたこの望郷祭も…今年で最後となるだろう!!」 「おお…。」 「ついに…。」 「ああ…ついに仰って下さった…。」 「長かった…。長かったなぁ…。」 …随分。 随分喜ぶんだな。 2000年も続いてきた歴史ある祭りなんだろ? これからも続けていこうって言うなら分かるけど、終わる方が嬉しいのか…? 「皆も話には聞いていると思う!我が娘婿のショータ・ハシダメが、我が娘シャモーニの命を救った!しかも婿殿はハルダニヤの勇者と友誼を結び、彼をナガルス族まで導いた!華々しい戦果を我らにもたらしたのだ!!」 「おお!」 「聞いたことあるぞ!」 「噂は本当だったのか!」 「…シャモーニ様と結婚しやがって…。」 「すげぇ強いらしいぞ!」 「俺はすげぇ鍛冶師って聞いたぞ?!」 お…おお…。 随分好意的に紹介してくれたな…。 いや戦争中だもんな。少しでも士気をあげられるなら何でも利用するか。 でも結構知られてたんだな。…一人怖いのがいたけど…。 「勇者ユーキは彼奴等目の非道に憤り、我らへの協力を約束してくれた!!ハルダニヤの強大な戦力が一つ減り!我らに偉大な味方が一人増えたのだ!我らの勝利に大きく貢献してくれたのだ!!」 「おお…勇者様が…!」 「勇者…勇者様ぁ!」 「勇者様が我らの味方に!」 「なんと…敵であった時は絶望していたが…!」 「やはりナガルス様の血が…!」 「ついに我らに風が向いてきた!!」 こっちもかなり好意的だな…。 俺の時よりもリアクションが大きいのはショックだなぁ…。 でも勇者だしな。知名度も全然違うだろうし、そりゃ士気も上がるか。 …俺よりもイケメンだからじゃないよね…? …。 …段々。 段々雲が晴れてきたな。中央台座が見える様になってきた。 御義母様と…サイードが…。 …なんていうか凄く…シンプルな服を着てるな。 御義母様はちゃんとした礼服っぽいけど…サイードはなんていうか…真っ白な服?装飾も何も無い。あんなもんでいいのか?この式典の主役だろ? …。 …なんか…。 …この式典って何の式典なんだ? 今後も健やかに過ごしましょうとか、元気に育って下さいとかそういう式典じゃないのか? …違うのか…? 「そしてついに!我らの研究が実を結んだ!ついに我らは!あの宝珠を壊せるのだ!」 「おお…!」 「おお…おおお!」 「「「うおおおおおお!!!!」」」 な、何だ! すごい熱気だ!なんだ研究って?宝珠を壊せる? 何のことだよ! 「我ら2000年の悲しみと!苦しみと!憎しみが!報われるときが来たのだ!!」 …!!…!…!!…!! 何って…声だ…!地割れかよ…! 「次が最終決戦だ!もはや我々に負ける理由はない!我らが悲願を!掴み取るのだ!!」 凄い…! 皆我を忘れて叫んでる! 中には崩れ落ちて泣き出してる奴すら…! こ、こんなに嬉しいのか…! そりゃ長年戦ってた相手に勝てると分かればそうなるか…? いやそれよりも研究って…。 あ…サイードが…御義母様の前に跪いて…。 御義母様が…何だあれは?ネックレスか?首にかけようとしてる? …。 …どういう事だ? さっきまでうるさくて地鳴りみたいだったのに…。 …波が引くように声が小さくなっていって…。 皆俯いて…。 …どういうことだよ。 サイードが主役なんだろ? 何故あいつの晴れ姿を見てやらない。 何故そんな顔をする。 何故涙を流してる奴がいる。 何故…なんで…モニ…。なんでモニは俺の手を…強く、さっきから強く握ってるんだ…? 「サイード。お主は我らの中で最も強く、最も崇高で、…最も勇気のある男だ。…一族の長として…皆の母として。お主を誇りに思う。」 「っは。有難うございます。…しかしナガルス様。僕の母上はアンナ・スレイマンただ一人で御座います。それだけはどうか…。」 「…あ…。…あぁ…!ああ!サイード…!サイードォ!!あ”あ”あ”あ”!!」 何だ?! あれは…アンナ…アンナ・スレイマンか?サイードの母親の? あんなに取り乱して…サイードに近付こうとしてるのか…? 「どうが…!!ナガルスざま…ど、どうが!…おじ…お慈悲を…どうか…!!」 サイードを、何だ?いや違うか?いや…たす、助けようと…? 夫の…ヤフルだっけか?彼に取り押さえられて…。 …彼も、彼も泣いている。 どういう事だ? アンナはサイードの事が嫌いなんじゃ無かったのか? 何かまずいことが起こるのか? 止めるか?いやしかし大事な式典を俺が壊すわけには…? …いやいざとなれば俺の立場を最大限利用して謝ればいいか…最悪逃げたっていい。 取り敢えずサイードを確保…? …モニ…? 何で俺の…腕を抱きしめて…? 何で…そんな…震えるように泣いて…? サイードは…サイードは母親の方を向いて、少し驚いた顔をして…。 御義母様に向き直った時にはもう…、いつものサイードの表情で…。 「ナガルス様。もう心残りはありません。お願いします。」 「…うむ…。すまぬ。サイードよ。先に、はざまで待っておれ。」 そう言って彼女は…ネックレスにゆっくりと触れて…。 !! 何だ?! サイードが…光って…? 何だ?見た事無い光…だ。 薄い…緑色の光…? サイードを包んでいく。 何だ?あんなに全身を覆ってサイードは大丈夫なのか? 何だ?終わった?何を?何かするのか? いや何も…。 何も、しなくても…サイードが…浮かんで…? 浮かんで…ゆっくりと、ゆっくりと沈んでいっている。 …台座の穴に向かって。浮島の下まで突き抜けている穴に向かって。 このまま落ちれば、海上の大穴の奥底に、黒い玉の元に、行ってしまう。 「な、何を…何をしてんだ!!」 誰も…俺の言葉に反応しない。 まるで俺の言葉が聞こえてないみたいに。 「そ、そのまま落ちていったら…死んじまう!サイードが!」 誰も動かない。 皆涙を流してる。 「な…!糞っ!サイード!今助け…!」 力づくで助けようとした。無理矢理攫ってしまえばと。 後でどうとでもしてやると。 でも、動けなかった。 モニの腕を振りほどけなかったから。 彼女は俺の腕に縋るように抱きついて、歯を食いしばりながら涙を流していたから。 「…ごめん。ごめん…ショー。…ごめん…ごめんね…。」 俺はもう、動けない。 モニの顔と、サイードの最後の顔が頭にこびり着いてて。 何が正しいのか判らなくて。 アンナ・スレイマンが取り押さえられながらも、穴の側まで這って行く姿を見て。 そこに残った何かを掴もうとしてるアンナをただ見るしか出来なくて。 ただただ手を虚空に彷徨よわせてる姿を、見るしか出来なくて。 彼女の呻くような慟哭が耳に残って消えなくて。 サイードが落ちていく姿が、ただ綺麗だった。
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