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不届きな男だった。 初めて会った時そう感じた。 誇りあるナガルス一族の次期本家宗主代理たる私に、馬乗りになって怒鳴ってきた。 敵だ。 あのオセロスからなんとか逃げおおせたと思ったのに、追手が追いついたんだ。 もう…自分で自分の始末を付けるしか無いと…そう思った。 でも違った。 敵でも味方でも無かった。 どうやら私に危害を加えるつもりはないようだ。 …少々…。 ……。 ……少々…ほんの少々取り乱したけど…。 …グゥ…まさかあんな醜態を晒すとは…一生の不覚…。 人前で泣いたことなんて一度だって無いのに。 誇りあるナガルス一族の長となるべく、いついかなる時も厳しく自分を律してきたのに。 まさかあんな情けなくておどおどして、なよなよしたおおよそ男の理想と程遠い奴の前で…グゥゥ…。 母上の前でだって…。 …あ、頭まで撫でて…。 私は子供じゃない…。 …だ、だが、そのお蔭で敵じゃ無いことがわかった。 どうやら貴重な食料も分けてくれたようだし、味方と言っていいだろう。 とても戦士とは言えない情けない男だが、性根は悪くない。 善良な人間だ。 何よりこの羽根を見ても敵意を抱いてこなかった。 よくよく見てみると服装も見慣れないし、言葉もこの世界の物ではない。 そうか…向こうの世界からきた男かも知れない。 …そういう事があると…聞いてはいたし…。 それに何より魔力が全く無い。 彼に魔力を感じないんだ。そんな事はありえない。この世界では。 …魔力が全く無い所から来たのなら話は別だけど。 つまり…そういう事だ。 彼は私達の実験の犠牲になった男だ。 私達のせいで…。 …そうか…。 本来なら、責任として、助けてあげるべきなんだけどな…。 …私はこんなだし…。 手足の先から石になって…くそっ。 リヴェータ教のクズ共。どう生きればこんな残酷な魔法を思いつけるの。 何が慈愛の魔法だ。 馬鹿にするにも程がある。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ どうやら私は散発的にうなされてるらしい。 その度に彼が介抱してくれている。 …何故彼は私を助けてくれるのだろう。 食事も…この島に生ってるアルゴの実を持って来てくれる。 何の得もないのに…何故。 …私を拐かそうとして…いや、そんな雰囲気はない。 しかしどういう態度で接したら良いのか…。 最初あんな不躾な態度を取ってしまったし…。 次期本家宗主代理たる私が謝るわけにもいかないし…。 …ぶっちゃけ泣いた時に大人の対応をされたのも恥ずかしいし…。 …っていうか大人のそっちがちゃんとしてよ…。 …いや大人ではないか。 身体は私より大きいけど…顔が幼い。…年下? 分からないけど大体同年代位か…。 …同年代…。 …。 …よく考えたら同年代と接した事なんて無い。 いつも次期本家宗主代理として教育を受けてたし。 …その教育は全く役に立たって無いけど…。 …はぁ…友達とかいれば違ったのかな…。 …はぁ…。 …メリィ。 …あなたが居てよかった。 …初めて見た生物だけど…妖精種かな…? …あなたが居なかったらもう気まずくて…。 …はぁ…私はどうしたら良いの。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ !! 何?! いきなり彼が蹲った!? どうして?! 「ゲェェェェッ!ゲェェェェッ!」 吐こうとしてる?! 「どうした?!何処が痛い?!」 こっちを見て…ああ駄目だ!こっちに気を割く余裕も無い! 「ウーーーーーーー!ウーーーーーーー!」 一体何が…。 !!そうか! 魔力酔いか!? 彼には魔力がなかった! それがこんな高濃度の魔力に晒されたら…私達には普通だけど、魔力がない世界から来たらなら十分考えられる…! こっちに…! 言葉が通じないんだった…! なんとか…こっちに来て…! 魔力酔いならなんとか出来る! 赤ん坊にやるみたいに、体内の魔力を流してあげれば良いんだ! その後、循環させればいいだけだから! ほら!こっち!こっちだって! そう…!頑張って…! 後もう少しだから…頑張って…! 「手を!私に触れさせて!」 メリィ!お願い! そう…そうよ…。 触れてさえくれれば…素肌に…お願い…。 一瞬…一瞬だけでも…良し!! 良し! 魔力を渡せた! 人に慣れた魔力! これが起点となって…! 良し…良し…上手くいったみたい。取り敢えずは。 痛みは無いようね。第1段階はこれでよし。 次は…循環させないと…魔力を。 どうやって伝える? ほら…こうやってほら…私の手の通りに魔力を流して見て…。 ほら…。 「何やってんの!ふざけないで!」 …待って。大丈夫。 …落ち着いて…。 言葉が通じないんだ。 しょうがない。少なくとも回るって所は通じてる。 これを繰り返すしか…。 あなたの身体に沿って、ほら、私の手は回ってるでしょ? ほら…お願い…気付いて…。 …あ。 「お…?お?おお!」 気付いた。気付いたのね。 良かった。 はぁ~…良かった。 良かったぁ、もぉ~。 びっくりしたぁ~。 全く驚かせないでよ、もう…。 …。 …よく考えたら何でこんなに焦ったんだろ。 魔力酔いなんてほっとけば気絶するだけなのに。 目が覚めたら二日酔みたいになるそうだけど、それでおしまいだし。 死ぬわけでもないし、病気にすらなるわけでもないのに。 …焦って必死になる必要なんか無かったじゃん…。 ん? 何?こっち見。 うおお!なに!?いきなり手掴まないでよ!馴れ馴れしく…。 「ありがとう…!ありがとう…!  Kariche…!Kariche…!」 「!!」 …前、私が言った言葉…覚えてたんだ。 こんな、必死にお礼を言わなくたって…そもそもあなただって食料をくれたし…世話をしてくれてるし…。 …当然の…当然の…。 …私は今まで、これほど感謝されたことはあるのだろうか。 ナガルス族としての務めは果たしてた。義務として。 でもずっと一人だった。 誰かを進んで助けた事も、…進んで助けられた事も無かった。 こんな大した事のない事で…彼はこんなに感謝してくれてる。 涙を流して…心の底から。 …この人も、結局変わらないんだ。 不安で、しょうがなかったんだ。 一人でわけの分からない世界に来て、見ず知らずの女は無愛想で。 でもそれでも私を助けてくれた。 そして大したことない事でこんなに感謝してくれてる。 …。 …なんとかして…。 …なんとかして彼をこの世界で生きていけるようにしてあげよう。 …私はもう、長くないけど。 …死ぬ前までに、彼の不安を取り除いてあげよう。…絶対に。 これはナガルス族としてじゃない。 私がしたいからそうするんだ。 彼のためにただしてあげたい。 私が私のために決めた、最初で最後の事。 …必ず、やり通そう。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 彼の名前はショータと言うらしい。 …はぁ~~…。 彼は真面目だった。そしてかなり高い教育を受けている節がある。 …あぁ~~…。 魔力操作も覚え始めたが、かなり優秀だと思う。…いやとてつもない才能。魔力操作は天性の物がある。自分で創意工夫する姿勢もある。彼が弟子だったらどんな師も名指導者になるわ。 …ぅあぁ~~…あ”あ”ぁ”ぁ”…。 しかも言葉を覚えようとしてる。思いもつかなかった…「これは何か?」というセリフを引き出すなんて…。 …あ”あ”あ”あ”!!もう!! 何でぇ!!何であたしうんち漏らしちゃったのぉ!! 信じらんない!信じらんない! と、年頃の男に、あ、あたしの、う、うん…してるとこ…見られる…ぅあああ! なんでぇ!! なんでよぉ!! おかしいでしょ! あたしが何したってのよ! 呪いよぉ!!早くあたしを蝕めぇ!! …あぁ…。 こ、こんな恥を晒したのは初めて…。 ナガルスの太陽と言われた私が…うぅ…あぁ…。 あぁ…ショーが優しいのがまた…うぅ…。 あぁ…死ぬ時はもっと幻想的に死ぬはずだったのに…。 儚い少女として彼の美しい思い出になるつもりだったのに…。 きっと◯んち漏らした女って思い出になるんだ…。 あぁ…なんてこと…。 メリィは大爆笑してるし…本当にムカつくぅ…。 あぁ…。 あぁ…。 あ”あ”あ”あ”!!!! ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ ショーは随分流暢に話せるようになった。 あの紙の束…みたいなのにびっしりと書き込んでいたから。5,6束を埋め尽くしたあたりからそれはもうぐんぐん伸びていった。 もう書きつけなくてもいい位だ。 お互い意思疎通が出来るようになると、その分伝えられる事が多くなる。 魔法の修行もこのお蔭で上手く行った。 …やっぱりショーはかなり魔力の扱いが上手い。 しかも魔力がぐんぐんと増えてる。 …まるで生まれたての赤ん坊に魔法を教えているようだ…。 …これが古代魔術じゃなければ、誰憚ることなく有名になれるだろう…。 恐らく冒険者として一廉の人間になれるはずだ。 …最初に出会ったのが私でさえ無ければ…。 …そう言えばこの世界の常識も教えた。 国の名前も大陸も、浮島のことすら知らなかった。当然か。 彼の世界の事も教えてもらった。 …出来れば知る必要があるから。 やはり魔力が無い世界というのが想像しにくい。 科学…という力がこの世界での魔力に近い存在だろうか。 どちらかと言えば、古代魔法よりも現代魔法に近い感覚。 学べば誰でも使える力。…素晴らしい力だと思う。 …この世界ではどうしても魔法の扱いの差がそのまま人物の評価に繋がってしまうから。 その力を教えてもらおうと思ったが、彼も良く分かってないみたいだった。 …まぁ、今更知った所で私には意味のない事か。 でも学び続けるとかかっこいい事言っちゃったしなぁ。 …ついつい見栄を張るのが私の悪いとこよね。 ……。 …結構、結構この暮らしが楽しい。 ショーの成長を見守るのは楽しいし、くだらない事で笑い合うのは初めて。 ご飯だって美味しい。 屋敷で食べていたご飯と比べるのもおこがましい程拙い料理だけど、今まで食べてきたどんな料理より美味しい。 きっと友達ってこういう事なんだろう。 …もしかしたら恋人というのも…。 ……。 …でもきっとこの楽しみも長くは続かない。 ショーに気付かせないようにしてるけど…手足の石化が進んでいってる。 …段々…段々感情の押さえが効かなくなってる。 この前も怒鳴りつけてしまった。 ショーは…ただただ心配してくれただけだったのに。 この呪いは、外と内からゆっくりと侵食していくらしい。 多分頭の一部が駄目になってるんだろう。 それでも死なないのが嫌らしく…残酷だ。 きっと…簡単に死ねないようにゆっくりと、ゆっくりと侵食するようになってるんだろう。 最後はきっと…想像したくない。 怖い。 死にたくない。 死ぬ覚悟なんて出来てたはずなのに。 何で今更になって…。どうして…。 自分が自分じゃ無くなっていく。 どんどん、どんどん…。 この前ショーに連れられて浮島の縁で食事した。 いつも見慣れてた景色なのに、あの時は無性に涙が出てしまった。 ショーに気づかれないように…歌を歌ってってお願いして…。 …ショーと出会ってからだ。 彼と出会ってから、私が私じゃなくなっていく。 怖い。自分が変わっていくのは。 …でも、彼は優しい。とても、優しい。 まるで私をお姫様みたいに扱ってくれる。 ッフフ…。 女王のように扱われた事はあるけど、お姫様みたいに扱われた事は無かったな。 彼は少し臆病で…考えなしな所がある。 こうと決めたら変えないのだ。頑固な人だ。 …もしかしたら、私が死んだ後、この浮島で一生暮らしていくからも知れない。 くだらない思い出に縛られて…。 …それは少し…少しだけ、満たされるけど…。 彼の未来を潰してはいけない。 「ねぇ、メリィ。私が私じゃ無くなる前に、お願いがあるの…。」 「ギュシッ?」 「もし…もし、ショーがこの浮島に残りたいって言ったらね…。」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 最近、言葉使いが乱暴になってる気がする。 身体の痛みもどんどんひどくなってく。 いつもいつもショーに当たってしまう。 きっと私の事を嫌いになる。 いつか見捨てられる。 …怖い。 …最近、良く物を忘れる。 ショーに教えてもらったショーの国の事も。 最近話したことも…。 思い出せるのは昔のことばかり…。 ショーと話したことを忘れてるのをごまかすために、またショーに当たってごまかす。 もうショーは私のこと嫌いだと思う。 いつもショーに見捨てられる夢を見る。 …怖い。 …一人ぼっちになるのが…怖い。 …前は一人になるのなんて怖くもなんとも無かったのに。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ おかあさまはどこ? カジのおいちゃんは? ここはどこ? なんで誰もいないの? …このお兄ちゃんだれ? …こわい。 からだがうごかない。 あたしが…あたしじゃないみたい。 こわい。 …。 ……。 …お兄ちゃんなんで泣いてるの? …どうしたの?どこか痛いの? そう…だいじょうぶなの…。 このお兄ちゃん、知らない人だけど、いい人。 あたしに優しくしてくれるから。 さっききれいなナイフもらっちゃった。 男の人からなにかもらったのはじめて。 このお兄ちゃんかっこいい人。 おふろもきもちいい。 メリィってかわいい。 なんであたしのことこんなにおせわしてくれるんだろう…。 …。 …きっとこのお兄ちゃんあたしのこと好きなんだ。 じゃあ…お嫁さんになってあげてもいいよ。 とくべつだから。 このペンダントあげる…。 これは将来夫になる人にしかあげちゃいけないよってママ上に言われてるから。 だからあげる。 あたしのだんなさま。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ ついにけっこんしちゃった。 わたしのだんなさま。 きょうはきもちいい。 からだがふわふわして…。 ゆっくり…。 ねむい…。 ママ上…。 ……ママ……。 …………ショー…。 …ショー………。 …………すき…。 …ショー……。 ……………。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ ショーはいつも苦しんでる。 いつもいつも苦しんでる。 ショーはいつも私の事を考えてる。 私のために戦ってる。 冒険者になったのも、奴隷になったのも、全部私のせいだ。 ショーは…こんなに…私のことを…。 なんで私はこの浮島に逃げて来てしまったんだろう。 私さえいなければ彼はこんなに苦しむこともなかった。 どこにでもいる普通の青年が、私のせいで…私達のせいでこんなに苦しむなんて…。 私はっずっと今まで自分のことが正しいと思ってた。 ナガルス一族がやってることが正しいと…疑問に思ったことはなかった。 でも…でも…。 どうか…死なないで…。 誰か彼を…助けてあげて…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「…目が覚めたか…シャモーニ様…。」 「な?言っただろ?呪いは解けるって。…まぁ、ここまで状態のいいのは初めてだが。」 「…ガーク…?これは…?一体…?私は死んだはずでは…?」 「…死んで無かったのさ。呪いで石化してただけだ。呪いが解呪できるものだとは…知らなかったが…。」 「…どうして…?どうやって私を…?この浮島の場所は誰にも…。」 「…いや、知ってるやつが居るだろう?たった一人…シャモーニ様の為に死に物狂いで戦ってる男が…一人だけ…。」 「!!そうだ!ショーは?!ショーは何処に居るの?!!」 「先生は…ショータ・ハシダメは…今、行方不明だ。先生が後生大事に持ってた双子魔石からここを突き止めることが出来た。…だが奴隷から逃亡する時…はぐれちまって…。」 「ショーを…助ける。必ず。母上にも…文句は言わせない。必ず…助ける!!」 「ああ…俺もそれをお願いしよと思ってたんだ。俺の命だけじゃ助けられないからな。」 「すぐに本家に戻ろう。人を動員するんだ。羽は…戻ってる…?!」 「ディックだ。俺が治したのさ。万事うまく言ったら…俺をナガルス族に亡命させてくれ。」 「…リヴェータ教の治癒魔法か…。良いだろう。だが、ショーを助けることが出来たらの話だ…。」 「分かった。ハルダニヤ国で聞き込みをする必要がある。ラミシュバッツから港までの道筋で聞き込みを重ねて行けば…足取りをつかめるはずだ。」 「ガーク。人探しに長けた人員を確保してくれ。将来の地位を約束すると言って交渉して。」 「わかった。…シャモーニ様…あんたなんか変わったな…強くなったか…?」 「石になったら強くなるのかもね。呪いを受けてきたら?」 「勘弁してくださいよ。」 必ず助ける。 待ってて。ショー。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 足取りがやっと掴めた…。 最初は港に行っていたと思っていたのに…。 ザリー公爵領に行っていたなんて…。 聞き込みが上手くいってよかった。 聞き込み役は私で正解だった。 やっぱり変身したとしても、ナガルス族は人族への憎しみが強いから…。 どうしても中途半端になってしまう。 でも人族のショーと話してみて分かった。 人族も、ナガルス族もあまり関係ないんじゃないかと。 …もちろん、ショーがナガルスと人の確執を知らなかったからっていうのもある。 でも殆どの人族は確執なんて遠い昔の話のはずだ。 ただリヴェータ教の教えってだけで…。 ならリヴェータ教さえなくなれば、和平を結ぶ事だって…? …いや今はショーを追いかけないと。 ザリー公爵領へ。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ …上手く行った…。 まさかあの巨人の娘…ヴァルとかいったか…ッチ…。 あの子に話を聞いていたら…ザリー公爵に目通り出来るとは。 …まさか…ショーから貰ったナイフであそこまで信頼されるなんて思わなかった。 アルトという女に信頼されてからはあれよあれよと…。 しかしあのザリーという男。 中々に強かだ。 王族には内緒にして貿易をしないかなどと…。 戦争に勝ったら地位を約束してくれ、ではなく、今から隠れて商売しよう、か。 悪くない考え方だ。 ギリギリ信じられる限界の行動をしている。 これが一緒に王族を倒そう、と言っていたら信頼は出来なかったと思う。 だが密輸をしようっていうのは…面白い。 最終判断は出来かねるが…アルトとヴァルの態度から見ても、信頼して良いだろう。 住民からの評判も良いようだったからな。 しかし…ッチ。 あのアルトという女、…ヴァルという子も、まずいな。 どう考えたってショーに気がある。 …。 …あんた達に言われなくたって助けるにきまってるでしょ。 あんた達に出来なくても私には出来る。 何がエイサップよ。 空飛んでみろっつーの。 「…シャモーニ様よ…。そろそろ迷宮都市に向かいませんかね。」 「…ちょっと待って…。」 「…いや早く行ってやったほうが…。」 「…待って…髪型が…もうちょっと…。」 「……。」 「…おかしい…化粧ってこんな感じなの…?」 「…シャモーニ様…心からの親切心で言うが、化粧はしないほうが良い…。」 「…なんでよ…化粧したほうが良いって世話人は…。」 「…そりゃ化粧に慣れてる奴がやるんならな。シャモーニ様はこれで何回目の化粧だ?」 「…一回目…。」 「…魔法が一回目で成功するか?組手で一回目で勝てるか?」 「…辞める…。」 「…この例えで分かる時点でなぁ…。」 「…。」 うるさい。 ガークには後で夜番を言いつけて遣わす。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 何で…。 何で、あんな…血みどろに…。 化粧なんてしてるんじゃなかった。 何を置いても駆けつけてあげなきゃ行けなかったんだ。 何で私は自分のことばかり…。 こんな…こんな傷だらけになって…。 しかも、あの子…行方不明のサイード?! 彼を守ってたの…? 何で…ショーはいつも自分を犠牲にするの…。 何で…。 ショー…。 懐かしい…あのショーだ…。 やつれて…少し背が伸びて…でもあのショーだ。 気絶して、動けないし喋れないけど、でもあの頃の優しいショーなのは間違いない。 サイードを命がけで守ってるんだから。 …。 …よくも…! …よくもやってくれたな…! 木っ端の冒険者風情が…お前の百倍の価値があるんだよ。ショーは。 思いつく限り苦しめて…、いや、とにかくショーを本家へ連れて行かねば。 ディック爺に回復魔法を掛けてもらわなきゃ。 死んでしまう。 魔力があるから、すぐに死なないと思うけど…。 とにかく早く…。 ついでにショーを助けようとしてた黒髪の子も連れていこう。 友達っぽいし。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ なんとか一命をとりとめた…。 良かった…。 これで…これでやっと…。 でもまさか一緒に連れてきた子が勇者だったなんて…。 しかもショーと同じ世界の…。 ッフフ。 ショーの周りでは色んな事が起こるな。 …けど…。 …治療を手伝った時…いやこれはしょうがなく…ディック爺に言われたからだけど…裸…なんというか…かなり筋肉が付いてた…。 がっしりというか…。 その…戦士っぽくなってたっていうか…。 身体中傷だらけだったし…。 浮島で見た時はまだちょっと…子供って感じだったけど…。 治療した時は…なんていうか…た、逞しいっていうか…。 あひゃーーーー。 あたしってば何を考えてぇ…! おち、落ち着けぇ! とにかく今は…。 「ねぇ、化粧教えてくれる?ハミン。」 「えぇシャモーニ様。もちろ…はぁ?!化粧?!シャモーニ様がぁ?!」 「…傷つくわぁ…。」 本当傷つくわぁ…。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「シャモーニ様。ショー様がお目覚めになったそうです。」 「え?!」 「え…?なぜ驚かれてるんです?」 「…ちょっと早くない…?」 「…いえ身体は全て治ってますし…これぐらいかと。」 「…そう。」 「…。」 「…。」 「…会いに行かれないのですか?」 「…行くわよ。」 「…。」 「…。」 「…すぐに、会いに行かれないのですか?」 「…ちょ、ちょっと…もうちょっと…心の準備が…。」 「…。」 「…何話したら良いかっていうか?っていうかあたしってショーの何なの?繋ぎの首飾り渡したら夫婦って事なんだけど…。」 「…ショー様はその文化を知ってらしたんですか?」 「…知らないと思う。」 「…じゃあ夫婦ではないのでは?」 「で、でも、口約束として夫婦になったしぁぁぁあああ恥ずかしい…!色々思い出してきたぁぁぁぁ!!」 「…とにかくお会いになって直接聞いてみればよろしいかと。」 「そんな簡単に言わないでよぉ!!…と、とりあえず、ショーの体調がば、万全になるまで待って…それから会って…。」 「…はぁ…どうなっても知りませんからね。本当、いざって時に尻込みするんですから…。」 「何だよぉ!もっと親身になってよぉ!!」 「シャモーニ様なんか少し変わられましたね。柔らかくなったと言うか…ナガルス様に似てきました。」 「…な…!ちょ…!…ちょ…!…はぁ…。」 「…これは重症ですね。まぁ、逐一ショー様のご様子は聞いてきますよ。友人が世話人やってるんで。」 「…あ、ありがとぉぉ!!…好きい!」 「直接ショー様に言ってやれよ…。」 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽v 「あの…、ショー様がナガルス様への謁見をお願いしたそうです…。」 「…は?何で?何で母上に?」 「…それは…分かりません…。」 「…褒美でも貰おうとしてるのかな…?」 「…いえ、友人の話ではそういった方ではなさそうだと…。…真面目な…いや待てよ?」 「何?ハミン?」 「…いやでもこれは…。」 「何?!良いから!言って!気になるから!」 「ナガルス様に結婚の許可を取りに行くのでは無いですか?かなり覚悟を決めた顔をされていたそうですし…。」 「…え?!ちょ…いやちょっとそれは…早すぎない?手順としては正しいけど…ねぇ…?」 「…会うのにビビってた癖に…。途端に調子に乗り始めましたね。顔が笑ってますよ。」 「…別に笑ってないし…。」 「嬉しいのは分かりましたが、早く行って差し上げたらどうですか?自分のことでしょう?顔も見せないで…ショー様が可哀想です。」 「分かった。分かったって。行く。行くわよ。」 全く。 全くもう。 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 「…‥‥‥ッグ…アアア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!」 え?! なんで?! 何でショーが母上を殴ってるの?! 何で?! 状況が分からない! どういうこと?! 「大義…!大義だと!!」 ちょ、荒ぶってる! 「ふざけるな!ふざけるなよ!クソ野郎!」 お、落ち着いてショー。分家の奴らの目がやばいから。 「モニが…モニがどれだけ苦しんだか知ってんのかよ!」 !! ……! 「毎日…毎日うなされてたんだ!すごく痛くて辛くてよ!!」 そうか…。 そうか、ショーは。 「毎日うなされててもあんたを呼んでた!!毎日だ!!」 これを、伝えるために母上に会ったんだ。 私の最後を伝えるために。 「もう…自分のことがわ”がら”なくなっで!分からなく”な”っでも!!」 ショーは私が死んでると思ってて…。 「石化が…脳まで、だっじて…達して!!…ガキみたいになっでも!!あんだ…!あんだのこと助けたいって!!そればっか言っでよ”!!」 それでも私の最後を母上に伝えるために…。 私が母上のことを呼んでいたのを知ってたんだ…。 だから…。 「死ぬ寸前だって…あ”んだを呼んでだ!!も”う”…自分が、何を話じでる”がも…分かっでながっだ!!」 ショーはそれだけを伝えるために、戦って来たんだ。 何の得にもならないのに。 あんなにボロボロになって…。 傷だらけになって…。 「それを…大義だと!?」 あんなにボロボロになって…。 傷だらけになって…。 「テメェ、は!!一体、何様な”ん”だよ”!」 ああ…。 私の中にある何かが…晴れていくようで…身体が軽くなるようで…。 「どんな…!!ご立派な仕事しでんのが…知らねぇがよ”!!テメェの娘を殺してまですることなのかよ!!」 …彼を守ろう。 誰がなんと言おうと。 「でめぇみ”た”い”な”クズ野郎…死んじまえ!!くたばれクズ野郎!!」 彼を絶対に幸せにしてみせる。 「ショー…。」
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