フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
「…………で? どういうこと?」  今日は初登校日だったから始業式のみ行われ、あたし達は午前で下校することが出来た。そこであたしと慎は、校舎裏のとある一角に来ていた。  ハク達やクラスメイトのみならず、色んな生徒から好奇な目で見られ、正直キツい。それでも慎は、平然としていた。まるで他人事のように、平然と視線の中を歩いていた。だからあたしは睨み付けた。 「ちゃんと仲良くなりたいなんて……」 「言葉の通りだよ」  慎は校舎の壁にもたれた。  言葉の通りって………そもそも、あたしのことを覚えていたのにも驚きなんだけど。  慎の隣にいる蜜柑も、疑惑の視線を慎に向けていた。あたしの背後にいる睡蓮も、おそらく同じような反応をしているのだろう。 「でもその前に………アンタに謝らなきゃいけない」 「謝る?」  車の走る音が塀の外から、野球部の掛け声が校舎反対側のグラウンドから聞こえてくる。だけどここは、切り離されたように静かだった。  じっとあたしを見据える慎。あまり馴染みがないからか、白い瞳からは若干の恐怖を感じる。 「おばあさんが殺された時………僕の夢は正夢にならなかったと思い込んでいた。その現場を見ていなかったから。だから、それでも殺されたってことは、ただアンタの力量不足だと思った」  その言葉で、あの時のことが思い出された。  ――――――もしあの時、あたしが早く銃の引き金を引けていれば、慎のおばあさんは殺されずに済んだ。本当に申し訳ないと思うし、でもだから、あんまり慎には会いたくなかった。 「でも、違ったんだ。アンタのせいじゃなかったんだよ」 「え……?」  耳を疑った。慎は至って真面目に話している。  あたしのせいじゃない? そんなバカな。だってあの時、慎は部屋にいて、とてもあの瞬間を見れる状況じゃなかったのに……。 「おばあさんの部屋に監視カメラがあるの、気付いた?」 「………ああ……そういえば……」  たしかにあった。天井の隅っこに。変だなぁとは思ってたけど……。 「それを通して、《僕の母さん|・ ・ ・ ・ ・》がおばあさんのことを見ていたんだよ」  ――――――へ……? お、お母さん……? 「あの時、僕の部屋にいた母さんは突然、部屋に隣接する『奥の部屋』へと入っていった。当時はそこがどんな部屋なのか、僕は知らなかった。でもこの間、中を覗いてみたんだ。そしたら……」  一瞬躊躇って、だが慎は静かに言葉を綴った。 「家中を映すたくさんのモニターが、そこにはあったんだ」  予想外の言葉すぎて、絶句。蜜柑も目を見開いていた。あたしはゆっくりと、その言葉の意味を理解する。  モニター……? 家中を映している……? ってことは、おばあさんの部屋も映っていたってこと……?  つまり、お母さんがあの時そこにいたってことは………つまり……―――――。 「………モニターを通して、正夢になったってこと?」  慎はコクりと頷いた。 「その日、母さんも夢を見ていたんだ。おばあさんが殺される夢を。母さんとおばあさんは本当の親子なんだ。それなのに、それなのに母さんは……!」  俯き、悔しそうに拳を握り締める慎。一方あたしの中には、恐怖と怒りと、少しの安堵が生まれていた。  劉木南の夢の凄まじさに対してと、実の母親を殺す精神に対してと、あたしだけのせいではないという事実に対しての。  ――――――………最低だね。 「だから、おばあさんはアンタのせいじゃなかった。ごめん。アンタに八つ当たりして……」 「いや……あたしも、守りきれなくてごめん」  しばらく、沈黙が流れた。人が来る心配はないけど、何となくそわそわしてしまう。  ――――――正直に言おう。慎と、何を話せばいいか分からない。  何回も言うように、別にあたしは慎と仲がいいわけではないのだ。ただ、名前を知っているくらいなだけ。そんな関係なのだ。いくらわだかまりが解消されたからと言って、いきなり親しくするのはちょっと………。 「それで、僕がここに来た理由なんだけど」  突然話題が変えられた。  えっ……この空気で続けるんだ………意外と慎は気にしてないのかな。 「実は、劉木南の力を制御出来る方法が見つかったんだ」 「え?」  力を制御する方法? 力って夢のことだよね。  ということは、夢を見ても正夢にさせないようにすることが出来る、みたいなことかな? それが出来れば万々歳だね。 「どうやら、僕の力に対して抵抗を持つ人が、世界にただ一人いるらしくて。その人と一緒になれれば、力は制御出来るんだって」 「せ……世界にただ一人⁈」  嬉々として話す慎だが、その内容はとても途方もないものだった。  要は、そのたった一人を見付けないといけないってことだよね⁈ それってとんでもなく大変なことだよね⁈ 日本だけならまだしも、世界にただ一人って……気が遠くなるような話だよ⁈  そう話すと、慎は遠い目をしながら呟いた。 「そう。途方もない話なんだよ……」 「もはやそれって、事実上不可能ってやつじゃないの……?」 「でも、母さんもおばあさんも見つけたんだよ。だから可能性はあると思う」  うっそ……すご。そう思うと、案外いけるのかもね。 「で、アンタに手伝ってほしいなって……」 「やめておけ」  急に反対したのは蜜柑だった。蜜柑はふよふよと、あたしの前に浮遊してくる。 「こやつの力を忘れたか? もしこやつの夢におぬしが出てくれば、殺されるのじゃぞ?」 「たしかにそうだけど……」 「そこまでこやつに尽くす必要はなかろうよ。可哀想じゃが、断るべきじゃ」 「……なに?」  不審な目で見てくる慎。あたしは返答に詰まってしまった。  蜜柑の言うことも、もっともだ。夢に出てきたら最後。生きていられるとは考えにくい。  けど……簡単に見捨てるようなことも、あんまりしたくない。たしかに慎とは特別仲がいいわけじゃないけど、でもなんか、見殺しにするようでちょっと………。  おそるおそる、慎を見上げた。 「あのさ、もしあたしの夢を見たら……」  一瞬ポカンとする慎。しかしすぐに納得してくれた。 「ああ、じゃあその日は家から出ないようにするよ。それなら安心だろ?」 「まあ……」 「駄目じゃ! 今すぐ断れ!」 「蜜柑姉! 少しくらい協力してあげても……」 「人探しなど一人で出来るであろう! むやみに不安因子を増やすでない! 他の連中にも手間をかけさせることになるぞ!」 「でも、夢見たら家から出ないって言ってるし……」 「駄目なものは駄目じゃーっ!」と叫ばれる。止めに入る睡蓮も耳元で騒ぐもんだから、うるさいったらありゃしない。  あーもう……! 鼓膜破れちゃうよ! 「……さっきから一人で何やってるの?」  耳を塞いだのがまずかったか、さらに不審な目で慎に見られた。いつものメンツは分かってくれてるから、なんだかこんな感じは久しぶりだ。気をつけないと。 「なんでもない」と言い、あたしは慎に向き直った。 「いいよ。あたしだけじゃなくて、誰かの夢を見たら家から出ない。この条件を守ってね」 「分かった。ありがとう」 「そんな口約束信用出来るか!」 「蜜柑姉落ち着いて!」 「あともう一つ頼みがあるんだけど……」 「まだあるのか! 図々しいぞ貴様!」  蜜柑の怒声。彼女はなんとか睡蓮になだめてもらおう。今は慎の方に集中だ。 「アンタ、男の子と一緒にいたよね? 武器……って言ってた気がするんだけど……」 「ああ……コノハのこと?」 「たぶんそれ。それって武器なの?」 「えーっと……」  コノハのこと、魔具のことをざっと説明した。はじめは驚いていたが、意外とすんなり信じたようで、目を輝かせながらとんでもないことを言い放ってきた。 「僕も魔具が欲しい!」 「…………」  一瞬、こいつバカなんじゃないかと思った。 「魔具があれば、アンタの負担も減るだろ?」 「そうかもしれないけどね……魔具なんてそこら辺にあるものじゃないんだよ?」 「僕の探す人よりは見つけやすいだろ?」 「いやあ……むしろ逆だと思うけど……」  というかそもそも、慎が魔具を持っても意味ないんじゃないの? むしろ持たなきゃいけないのはあたしとか、周りの人達じゃないの? そうだよね? 「そういうわけだから! お願い!」  両手を合わせて懇願してくる慎。  う………まあ……ついでと思えばいっか……。 「分かったよ」 「よし! じゃあ早速探しに行こう!」 「えっ⁈」  いきなり手を握られ、思いっきり引っ張られた。ずんずん歩き始める慎に引かれる。 「ちょっと! 今から行くの⁈」 「ああ。早く見つけたいから!」 「どっちを⁈」 「両方!」  別にいいけどさ……なーんか自分勝手だなあ。振り回されないといいけど……。  そしてあたしと慎は、学校から街中へと向かった。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行