フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 笠井《|かさい》秋人《|あきと》はまるでフィクションの世界に紛れ込んでしまったかのような感覚だった。それだけ今日一日だけで現実離れした出来事が起こりすぎたということだろう。  いつもと違う、慣れない布団の上で、笠井は目をつむりながら今日一日の出来事をひとつひとつ思い返していた。  すべては今朝、登校中に起きた事件から始まった。いつものように耳にイヤフォンをつけて通学路を歩いていると、突如背中に衝撃を受け、意識を失った。後にわかったことだが、あれはスタンガンというものだ。言葉だけは小説やなんかで聞いたことがあったが、まさか自分がスタンガンによる攻撃を浴びせられることになるとは思いもしなかった。  意識を覚ましたころには、すでに一面真っ白で何も物が置かれていないというなんとも不気味な空間に閉じ込められていた。周りには笠井と同じように何者かに連れ去られて気が付いたらここにいたという男女が13人。理由はわからないが、全員が高校生だった。しかもお互いに見ず知らずの他人ばかり。  わけのわからない出来事はさらに続いた。目の前にピエロのぬいぐるみが突然現れたと思ったら、なんとそれは動きまわり、喋り始めたのだ。 「ウヒャハハハ、皆さんやっと目を覚ましましたか」 「うわっ、何だこいつ」  金髪のおちゃらけた印象の男性が驚いたように声を上げた。驚いていたのはその男性だけじゃない。ここにいる全員が突然現れた奇妙なぬいぐるみに怪訝な表情を浮かべている。  ぬいぐるみと言ってもかわいげなんてちっともない、右と左で長さの違う腕。顔のサイズに反して異様に大きな比率の釣り合っていない目。持っている要素のひとつひとつが不気味としか言いようがなかった。  その気味の悪いピエロのぬいぐるみが、鼻に付く不快な声で言う。 「こいつじゃないよ、ボクにはピエラって名前があるの!」 「…………」  名前で呼ぶように指示して来たぬいぐるみに対し、みな一様に呆然としている。  と、そんな中、赤く染めた髪をオールバックにしたガタイのいい、いかにも不良っぽい見た目の男がピエラに迫った。 「うるせぇ、お前の名前なんかどうでもいいんだよ。それより俺をここから出しやがれ」  ものすごい剣幕の不良男に怯む様子も見せず、ピエラは馬鹿にしたような不快な声で笑い始めた。 「ウヒャヒャヒャヒャ、そんな睨んだって出してあげないよー、藤堂龍彦クン」 「……お前、なぜ俺の名前を知っている」  その藤堂と呼ばれた不良男は表情に焦りを浮かべ、後ずさった。 「藤堂クンだけじゃないよ、みーんなの名前、ボクは知っているよ。笠井秋人、冴島小春、佐山一、北条鈴音、篠田大輔、神田由美子、辻本慎二、相原美緒、榊連夜、柵葉美咲、藤堂龍彦、大日向優花、蔵澤司庵、南条玲奈……」 「な……」  顔を見渡すとみな焦燥を感じている様子。ピエラは本当に全員の名前を知っているのだ。 「貴様、一体何者だ……」  黒髪長髪の、眼鏡を掛けた鋭い目つきの男がピエラを睨む。 「ボクが何者かって? うーん、強いて言うなら司会者かなぁ。それ以上でもそれ以下でもないよ」 「司会者だと? 」  鋭い目つきの男はさらに語気を強める。 「そう、これから君たちに行ってもらうゲームのね」 「ゲームやるの? 私ゲーム好きだから楽しみなのだー」  長い茶色の髪をポニーテールにした女性がおちゃらけた明るい口調で言った。  ――いや、こんな状況で能天気すぎるだろ……。 「それより、そのゲームというのは一体何なんだ」  黒髪短髪の爽やかな印象の好青年が言った。 「よくぞ聞いてくれました。君たちにやってもらうゲームはね、コロシアイだよ。その名もヴィクティムス・ゲーム」  ――ヴィクティムス・ゲーム? コロシアイ……殺し合いだと?  ピエラが突如言い放ったその物騒な言葉にみな言葉を失くしていた。長い前髪で片目が隠れている気の弱そうな女性は、ひぃっ、と怯えた声を出すとしゃがみこんでしまった。 「ほら、デスゲームにはマスコットキャラの司会者が定番でしょ?だからボクが選抜されたってわけ」  ――デスゲームだと? そんなゲームや漫画みたいな物騒なイベントが現実世界で行われているはずがない。 「あれ? なんかみんな急に静かになっちゃったね。そんなに殺し合いが嬉しかったの?ウヒャヒャヒャ」 「てめぇ……」 赤髪の藤堂という男がピエラを睨みつけて、 「ふざけんなよ、誰が殺し合いなんかするか」 「そうだ、なぜ僕たちが殺し合いなんかしなければならないんだ」 短髪の好青年も藤堂の言葉を支持する。 「あのねぇ、いくら喚いたってキミたちに決定権はないんだよ。キミたちにはゲームを盛り上げてもらわなくちゃいけないんだから。《僕たち》を楽しませるためにね。ウヒャヒャヒャヒャ」 「楽しませるだと、お前、そんなくだらない理由のためだけに私たちに殺し合いをさせるって言うのかよ」  ショートヘアのボーイッシュな女性が荒い口調で言う。 「うん、そうだよ。キミたちはね、所詮ゲームを成り立たせるための駒でしかないんだよ」 「くそっ、こいつ何様なのよ……」  ピンクの髪をツインテールにした、いかにもギャルっぽい女性はかなりいらだっている様子だった。  しかしこんな理不尽な話を突きつけられて平静を保っていられないのは笠井も同じだった。恐らく、ここにいる全員が同じ気持ちだろう。  「それじゃ、せいぜいコロシアイを楽しんでね。どうせみんなすぐに死んじゃうんだから、その前にたっぷりとね」  嫌味な口調でそれだけいうと、ピエラは一瞬で消えてどこかへいなくなってしまった。 「なっ、消えた?」 「わけがわからない、なんなんだよ一体……」  みな、ピエラが先ほどまでいたその場所を、信じられないものを見たという目で呆然と見つめていた。  突然何者かに拉致され、知らない空間に見知らぬ人同士が集められて命を懸けたゲームをさせられる。そんな内容の小説や漫画は笠井も何度か読んだことあった。しかしまさか現実の世界でそんなゲームが行われているなんて。しかも自分自身がそんな危険なゲームに巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。 「とりあえず、こうしていても仕方がないな。お互いのことを知らないのでは話しづらいし、まずは自己紹介をしないか?」  誰もがこの異常な事態を目の前に唖然とし、口を開こうとしない中、黒髪短髪の爽やかな好青年が明るい口調で言った。  何人かを除いてみな賛成の意を示したため、短髪の好青年を中心に自己紹介が始まった。 「僕の名前は佐山《|さやま》一《|はじめ》だ。僕はこんなふざけたゲームには反対だ。殺し合いなんかせず、みんなで協力をして脱出する方法を探すべきだと思う。みんな、僕に協力してくれ」  黒髪短髪の爽やかな好青年、佐山の自己紹介に軽く拍手が起こった。彼はリーダー的存在としてみんなをまとめてくれそうだ。 「次は私でいいかな。私は冴島《|さえじま》小春《|こはる》。私も佐山君の意見に賛成だよ。みんなで頑張って脱出しようね」  小春は明るい茶髪が印象的な、明朗で活発な印象を与える。彼女は優しそうで、誰からも好かれそうな女性だ。 「んじゃ次は俺な。俺は篠田《|しのだ》大輔《|だいすけ》。俺はぶっちゃけ今日学校行くの面倒だったし、ラッキーって思ってる。しかもここに集まってる女の子可愛い子ばっかだし。みんなもっとエンジョイしようぜ」  篠田は金髪のチャラい印象の男性だ。  ――いや、能天気すぎるだろ。ポジティブなのはいいことだが、今自分が犯罪に巻き込まれているのをわかってるのだろうか……。  しかし、こんな状況で能天気なのは彼だけではなかった。次に自己紹介をしたのは、先ほどもゲームという言葉に楽しそうに反応していた茶髪ポニーテールの女性だ。 「はいはーい、私は大雛《|おおひな》優花《|ゆうか》。私ゲームが好きだから全力でやるよ。絶対負けないからね!」  ――いや、全力でやっちゃだめでしょ!このゲームが殺し合いだって話ちゃんと聞いていたのか。 笠井はそう突っ込もうとして、なんだか無駄な気がしたからやめた……。 「私は神田《|かんだ》由美子《|ゆみこ》。こんなゲームおかしい、私は絶対に許されることじゃないと思う。だって、こんなの明らかな犯罪じゃない」  由美子は肩あたりまでかかるほどのストレートな髪を青っぽく染めていた。話し方は感情的だが、見た目には清楚な印象を受ける。 「では、次は僕の番ですね」  そう言ったのは育ちのいいエリートのような雰囲気がある、白っぽいストレートヘアの男性だ。 「僕の名前は辻本《|つじもと》慎二《|しんじ》です。皆さんの自己紹介聞いていましたけど、酷すぎませんか? 篠田さんも大雛さんも、それから神田さんも。こんなんで本当に脱出なんてできるのでしょうかね」  辻元の嫌味な口調に由美子は不機嫌な表情を見せると、 「ちょっと、前の二人はわかるけど、なんで私にまでケチつけるのよ」 「だってそうでしょう。あなたの言っていることはすべて感情論。すでに犯罪が起こっているのは事実なのですから仕方がありません。この状況を認めたうえでどうやってこのゲームを生き残るかということの方が大事です」 「仕方ない? あなたはこんな犯罪紛いのゲームを認めろっていうの?」  辻本に迫っていく由美子を佐山が宥《|なだ》める。 「二人ともやめるんだ、今はこんな言い争いをしている場合じゃないだろう」  感情的に物事を考える由美子と論理的に物事を考える辻本。二人が衝突すると大変なことになりそうだ。 「とりあえず自己紹介を続けよう、えぇと、じゃあ次は君にやってもらおう」  佐山が笠井に言った。 「ん、ああ、俺か? 俺は、笠井《|かさい》秋人《|あきと》だ。俺も佐山の言うように脱出方法を探すべきだと思う。まぁ、なんだ……よろしく頼む」  笠井のまとまらない挨拶に小春がクスっと笑った。  ――篠田や大雛の能天気な自己紹介や神田と辻本のやり取りにあっけにとられていたせいで、なんともぱっとしない挨拶になってしまった……。しかもなんか冴島さんに笑われたんですけど!  と、笠井の自己紹介が終わった時点で誰も積極的に名乗り出なくなってしまった。残っている人たちの大半は自己紹介をしようという佐山の提案に前向きじゃなかった人たちだろう。 「じゃあ、次は君にお願いしていいかな?」  佐山が指名したのは前髪で片目が隠れている気の弱そうな女性だ。 「え、わ……私ですか? あ、あの……柵葉《|さくば》美咲《|みさき》……です……」  美咲の弱気な自己紹介に、赤髪の藤堂という男がチッ、と舌打ちをして、 「ぼそぼそ喋りやがって、何言ってんのか全然わかんねえよ」 「ひぃっ、ご、ごめんな……さい……」  美咲はそれきり黙ってしまった。佐山はこのまま美咲の自己紹介を終わらせてしまっていいのか考えあぐねているようだった。 「なぁ、終わり? 終わりならそう言ってくれよ。私は相原《|あいばら》美緒《|みお》、よろしくな」  美緒は猫のような鋭い釣り目が特徴的な、ショートカットのボーイッシュな女性だ。  美緒の荒い口調でさらに美咲が縮こまってしまう。  しかし笠井にはなんとなく、美緒が言葉に詰まっている美咲をフォローするために強引に話を始めたように見えた。 「ええと、じゃあ次は相原さんの隣にいる君にやってもらえるか?」  佐山が指名したのは桃色の髪をツインテールにした、いかにもギャルっぽい女性だ。爪にはマニキュアを塗り、制服のスカートはかなり短く上げている。 「ん、あたし?あたしは南条《|なんじょう》玲奈《|れな》、よろしくー」  玲奈の次に自己紹介をしたのは、鮮やかな長い黒髪で凛としたクールな表情の、驚くほど綺麗な顔をした女性だった。 「北条《|ほうじょう》鈴音《|すずね》」  鈴音はそれだけ言うと、これで終わりと言うように別の方向を向いてしまった。それ以上の詮索を許さないとでもいうような強いオーラを感じた。なんともミステリアスな女性だ。 「ふん、貴様らごときに自己紹介をするなど癪だが、まあ仕方がない。俺は榊《|さかき》連夜《|れんや》だ」  上から目線で見下した物言いをする榊は長髪の黒髪で眼鏡をした、鋭い目つきが特徴的な男性だ。偉そうな雰囲気が気に障ったのか、玲奈はいかにも嫌そうな顔をしながら小声で「うわー」と言っていた。  この時点で自己紹介をしていないのはあと二人になった。赤髪の不良っぽい藤堂という男と、いまだ一度も声を聴いていない紫の長髪で黒い眼帯を巻いているという、なんとも奇妙な格好の男の二人だ。  佐山が赤髪の男に自己紹介を促すと、彼は舌打ちをしてから、 「藤堂《|とうどう》龍彦《|たつひこ》だ」  それだけ不愛想にいうと黙ってしまった。  あと一人、となった時点で佐山が眼帯の男に話かけようとすると、 「フハハハハハハハ」  男は急に大きな声を出して笑い始めた。みな怪訝な表情を浮かべている。 「フハハ、とうとう私のターンが来たか!」 「いや、ターンもなにもあんたが話さないから最後になっただけでしょ」  玲奈が突っ込むと、 「何を言っている、主人公というのはいつも遅れてやってくるものなのだ!」  ――なんとなく見た目から察してはいたが、なんというかこの人中二病だ。 「私の名が聞きたいか、なら答えよう、私の名は蔵澤《|くらさわ》司庵《|しあん》!このゲームのチャンピオンになる男だ。フハハハハハ」 「…………」  ゲームという言葉に優花が反応する。 「私だって負けないよー」  こうして、最もわけのわからない形で自己紹介は終わった。  この時はまだ実感がなかったのかもしれない。自分たちが殺し合いをしなければならないという事実に対して。だからどこか浮ついた空気が流れていた。  誰もがどこかできっと、殺し合いなんかしなくても大丈夫なんじゃないか、なんて自分に都合のいい方に思考を働かせていた。このゲームに対してまだまだ半信半疑だったのだ。  人の命が理不尽な理由であっけなく奪われる、その光景を目の当たりにしたとき始めて、身を持って知ったのだ。  これはフィクションの世界なんかじゃない。誰かを犠牲にしなければ自分が死ぬ、命を懸けた現実世界のデスゲームなのだと。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行