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――  雷とは、裁きだ。  全てを破壊する神の怒りの体現。  どうしてそんな激しい力があたしに宿ったのか。  前世でもあたしはただの考古学者で。知識だけはあったけれど、湧真も詠人も、そして――  大切な人。夫である孝人すらも守れなかった。  今も昔もあたしは無力で。  理不尽な世界に振り回されるだけだ。  ああ、だから。だからあたしの力は【雷】なんだ。  誰よりも無力で、誰よりも弱いから。  雷は裁き。神の怒り。  そしてそれを操る、あたしの怒り。  深い闇から声がする。 「壊せ」 「断罪しろ」 「今の君にはその力がある」  抗えない闇が心に沁み込んで、埋め尽くしていく。  ああ、スプラは理不尽に両親を奪われて。  あたしも前世で理不尽に仲間を、大切な人を奪われた。 「復讐と、断罪をここに」 ―― 「……上手くいったか。さすがは特殊結界過去鏡だな」  長いポニーテールの黒髪を屋上の強い風になびかせて、その人物はミナミとスプラを眺めた。華奢な体格。見た目では男か女かははっきりとはわからない。その足元には付き従うように羽の生えた黒猫がいた。 <セイラ。もうすぐ来るよ> 「……ああ、わかっている、ミナルーシュ」 セイラはそう言うと、短めの忍者刀を構える。 <顔色が悪いよ?セイラも前世を見たの?> 「……ここに来る前から何度も見たよ。とても、とてもやさしい記憶だ」 ――  夢を見る。いつも、いつも同じ夢。 「……はあ……はあっ……はあ……」  逃げなければ。そうしなければ殺されてしまう。否、殺されなくても母の故郷を滅ぼす道具にされる。 「……そんなの、嫌だ」  だから、私は逃げ続ける。追手によって負った傷が痛み、森の木でひっかけたりして、服ももう千切れてしまいそうな状況だけど。 「……私のこの力は、傷つけるための力なんかじゃない……」  だから、逃げ延びて、生きなければいけない。だけど、もう体は悲鳴をあげている。深い森の奥で石に躓いて、力なくそのまま倒れ込んだ。力を失った体に冷たい雨が降り注ぐ。傷口に雨水がしみるけれど、もう呻く力すらもない。  私は静かに瞳を閉じる。追手の声は聞こえない。ここまではもう追ってこないだろう。それでいい。人知れず私も、私の力も土へと還る。利用されずに済む。私にとっても世界にとっても、それがおそらく最高の結末。  しかし、そのまどろみは優しい声に破られた。 「大丈夫?」  差し出されたその手は真っ直ぐで偽りなく純粋で―― 「……」 痛いくらいに優しかった。 「……誰……精霊……なの?」  問う私に、声の主は何も答えず、代わりに温かい光が全身を包む。光が消えた時、傷は癒えていた。 「もう、これで大丈夫だよ。……俺は……」  夢はいつもそこで終わる。彼の名前を、聞くこともできないまま、唐突に。 ―― 「……いけない。今は彼らの相手をしなければ」  所詮は、夢だ。夢に過ぎないのだ。セイラは頭を強く振って、刀を構えなおした。 ―― 「見つけた!ミナミ!スプラ!」  駆け寄りそうになるユキをユウが制す。 「気を付けてください。あの目の色、多分……俺が操られてた時と同じだと思います」 「……そうだね。同じだ。でも、ユウわざわざ辛いことを思い出さなくてもいいよ。リカは下がって。 このふたりの力は……雷だ!」  ユキはそう言うと聖剣を呼び出して構える。寄り添うようにその傍にユウが立つ。 「俺は、ユキ先輩ほど……甘くはないですよ!」  トン、と地面を蹴ってユウが跳躍。 「……地尖刃!」 地属性スペルを纏った斬撃がミナミを襲うが、スプラが素早い動きで彼女を庇った。 「……やりますね。まずはあのスピードを封じないと……まずいか」 彼は再び飛び上がるとミナミとスプラの間に斬撃を飛ばす。 「……あなた、どこを狙って?」  斬撃で穿たれた地面に変化が起こる。何もないはずの場所から、土でもない場所から生えるはずのない植物の蔓が生え、ふたりの体を絡めとる。 「く……!」 「スピードさえ殺してしまえば、簡単です。ユキ先輩はミナミさんを!」 「わかった!ミナミ、ごめん」  ユウはスプラに峰打ちを叩きこみ、ユキはミナミの首に手刀を落とす。ふたりはその場に倒れ、どこかで鏡が割れる音が聞こえた気がした。 「……ユウ。ふたりを守って。……そこにもうひとり、いる!」  風を切って放たれたくないを、ユキの呼び出した岩石が盾となって弾いた。 「……ボクの存在に気づいていたか。さすがはシグレ先輩の後輩だけあるかな」 低い声がして長い黒髪をポニーテールにした人物が現れる。見た目だけでは男か女かはわからない。 「シグレ先輩を知ってる、のか……君は?」  警戒は解かずに剣を構えたまま、ユキは問う。 「……知ってるも何も、今のボクは――」 素早く間合いを詰めて繰り出された刃をユキは剣で何とか防ぐ。 「アイリ様の、部下だからね」 「く……」  相手が忍者刀を引いた隙にユキは後ろへ飛んで距離を取る。 (接近戦じゃ勝ち目はない。ユウは今動けないし、ケイもまだだ。やるしか、ない) 「……ボクが物理型とみて距離を取ったのが……運のツキだ……!」 「な!?」  急にユキを取り囲むようにくないが現れ、一斉に放たれる! 「これで終わりだ!幻刃檻!」 無数のくないが彼を直撃した―― ―― 「……あ、あれ?生きてる?」  彼を守るように取り囲むのは蔓の檻。くないは全て蔓に絡めとられている。 「……君は【緑】の力は使えないはずだ。そもそも【緑】の使い手はイヴの手に……」  一瞬、何かが素早く視界を横切った。すぐに檻が解け、植物は何事もなかったように消えた。 「……つかまえた」 「…く」  同時に相手の地面がどろりと液状化する。ユキの地属性シレナのひとつで、一時的に地面を液状化させて 相手を捕らえるスペルだ。ユキはゆっくりと相手に近づき、そして―― 「ねえ、君の名前を教えて?」 手を差し出して、そう言った。 「は?な、何を言っているの君は?ボクは君を殺そうとした相手だ。動けないうちに仕留めるべきだろう」  戸惑う相手に、 「俺は基本的にあんまり誰かと戦いたくはないんだ。それに――」 ぐらり、とポニーテールが傾く。 「危ない!」 <セイラ!> ユキは言葉を途中で切って、迷わずセイラの腕を掴む。 「セイラ、それが君の名前なんだね。……掴まって!引き上げるから……っ」  聖剣を地面に突き刺し支えにして、ユキは少しずつセイラの体を引き上げていく。 「……」 (なんだ、この、感じ)  差し出された腕を掴みながら、セイラは奇妙な感覚を覚えていた。 (これじゃ、まるで、あの夢と同じ――) 「……ふう。もう、これで大丈夫だよ。ケガはない?」 「あ、ああ……」 「もう、これで大丈夫だよ」 夢で聞いたセリフ。夢と同じ優しい手。 (ああ……) 記憶のピースが、埋まった気がした。 (そうだ……あの時の優しい手の主と……同じ髪と瞳の色……) 「……そうか、君だったんだな。……ここは退こう。そして、前世も今も助けてくれてありがとう。 ……ええと」 「ユキ。ユキだよ」 「ユキ、か。ボクはセイラ。では、また」  セイラはそう言うと煙を残して屋上から姿を消した。重くたれこめていた雲は晴れ、その隙間から柔らかな夕暮れの光が差し込んでいた―― ――  スプラを里に送り届け、ユキ達は小さな町の宿で休息を取っていた。過去鏡の一件でみなへとへとですぐに寝てしまったが、ひとりだけ眠れずに夜風に吹かれていた人物がいた。 「……何故、僕だけが別人の記憶をみたんだろうな。ユキ達は一部の過去鏡世界を共有したらしいが、元の鏡の枚数は三枚だ。けど、僕の過去鏡には僕はいなかった。僕が見たのは……」 カイは低い声でつぶやく。 「おそらくあれは、コトの前世の記憶だ。そしてあれが事実なら間違いなく……」 冷たい夜風が髪を揺らす。水色の瞳がゆらりと揺れた。 「……僕は、彼と戦うことになる」
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