フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
「………友達?」  兄弟は声を揃えて、首を傾げました。その反応に、少女も驚きました。 「だって……そうでしょ?」 「………ぼくと、友達?」 「え? う、うん。そうだけど……」 「………そんなこと言ったっけ?」  何を言っているのか分からない、と言いたげな表情を浮かべる少女。戸惑いつつも、少女は言いました。 「だって、おしゃべりしたじゃん……」  ――――――沈黙が、流れました。 * 「何をやっているんだ?」  背後から声をかけられた。それでもコノハは歩みは止めず、電灯の灯る道を一歩ずつ進んでいく。隣に蒼祁が飛び降りてきた。 「重そうだなあ。持ってやろうか?」 「うるさい……!」  コノハは、痛みで動けないあたしを背負ってくれていた。しかしコノハも身体中に傷を負っていた。そんなコノハの顔を、不敵な笑みで覗き込む蒼祁。 「健気だなあ、主の為に必死になって。魔導石が使えればもっと楽だったろうがなあ?」 「黙れ………!」  蒼祁が刀を振る。直後、コノハとあたしは地面に倒れた。視線を向けると、コノハの両足は切断されており、ドクドクと血が流れ出していた。痛みで叫ぶコノハ。あたしは必死にコノハに腕を伸ばした。その手のうち、薬指と小指は折れて力が入っていなかった。 「コノ……ハッ………!」 「約二十メートル。俺が園内を回って皆殺ししてくるまでに、たったそれだけしか移動出来なかったか。悲しいもんだな」 「ゆ……許さない……! お前は……ッぐ……許さ……ない………!」 「さて……そろそろあいつらが来る頃かな」 「それは我々のことで良かったか?」  蒼祁が振り向いた。同じ方へ視線を向けると、たくさんの死体や血の中、こちらを睨む数名の人物が目に留まった。それぞれ剣や銃を構えており、こちらが少しでも動けば殺されそうな雰囲気だった。しかしそんな状況でも、蒼祁は余裕そうに笑う。 「ああ、合ってるぞ。魔警察共。俺を殺しに来たんだろ?」 「その通りだ。神空蒼祁、お前はここの人間だけでなく、近辺で起きたいくつかの殺人事件の犯人でもあるな?」 「ああそうだ。こいつの家に行く道中で殺したんだよ」  蒼祁があたしを指差しながら答える。背後で、カチャリと小さな音がした。あたし達を囲むように、数名の魔警察が武器を構えていた。それでもまだ蒼祁は笑みを崩さない。 「随分少ねぇなあ。人手不足か?」 「もうじき応援が来る。まあその前に終わっていそうだがな」 「自信満々だな。魔警察の連中ってのは」 「当たり前だ。我々は強い。貴様たった一人に負けるような弱者ではないのだ」  刹那、上空から雷が落ちてきた。稲妻は蒼祁に直撃し、蒼祁の体は硬直する。男の魔警察が駆けてきた。直立する蒼祁に剣を振り下ろすが、刀身が何かに弾かれた。直後、男の頭が地面に落ちた。脳を失った体が倒れ、首から血が流れる。 「事前に調査してくるんだろうが、魔警察は何にでも対応出来るよう訓練されてるんだろ?」  直立したまま蒼祁がにやりと笑う。発砲音が何発も響いた。それらは全て、結界のような壁に弾かれる。  ふわりと蒼祁が跳躍した。女の魔警察が舌打ちをしながら弾を入れ替え、蒼祁へと発砲。弾は結界を壊し、だが刀によって真っ二つに斬られた。蒼祁が女の目の前に着地する。 「単純」  女の胸を刀が貫いた。蒼祁の背後から二人の男が斬りかかるが、女を盾にして刃から逃れる。蒼祁が呪文を呟くと、女が爆発した。男達や蒼祁は煙に飲まれる。 「蒼祁………」  あたしは立ち上がり、コノハを剣の姿に戻す。折れていない右の指で何とかコノハを掴み、出来る限りの早歩きをし始めた。向かう先は遊園地の出口である。  ひとまず逃げないと……どうにかして蒼祁を止める方法を考えないと……! 「蘭李! 大丈夫⁈」  頭上から睡蓮の声が降ってきた。けど確認している暇はない。魔警察が蒼祁を食い止めているうちに逃げないと、追いつかれる。 「蜜柑姉はメルちゃん達に助けを呼びに行ってくれたよ!」 「そっか……ありがとう………」  辺りは血生臭く、痛みに加え気持ちの悪さが生まれていた。道に倒れる、切断された女の腹からは、内臓がどろりとはみ出している。地面に転がる男の頭は、恐怖にとりつかれたような顔であたしを見つめていた。  突如、その横に何かが飛んできた。視界に映ったのは、右半身のみの男だった。体が恐怖で震え出した。 「あッ………! ううッ………!」 「蘭李。お前はつくづく剣技の才能が無いよなあ」  すぐ後ろで笑い声が聞こえた。全身に鳥肌がたった。睡蓮に促されるも、あたしは足を動かすことが出来なかった。硬直するあたしに蒼祁は回り込み、瀕死の男を見せつけてくる。男は蒼祁に髪の毛を掴まれ、ぶら下げられていた。傷だらけの体には左腕が肩から無く、頭部からは血を流している。残った力を振り絞って離れようとしているが、全く意味が無かった。蒼祁はナイフをポケットから取り出す。 「《剣|コノハ》を使ってたら、こういうことにも慣れないとな?」  ナイフが男の右目に突き刺さった。鮮血と絶叫が飛び散る。刃はぐりぐりと回され、目尻の方へと滑った。穴の開いた眼球から、ドクドクと血が流れ出す。自然と涙がぽろぽろとこぼれた。 「う…………ああ……ッ………!」 「目の無いこいつの為に泣いてやってるのか? お前にそんな気配りが出来るとはなあ」  男の左目にもナイフが突き刺さる。何度も何度も突き刺し、やがて悲鳴は止んだ。脱力しきった男を眺め、蒼祁はそれを放る。あたしに向き直り、ナイフを見せつけた。 「ほら、このままだとお前も目をいじくられるぞ? どうするんだよ」 「やだ………! いやだ………!」 「嫌なら逃げろよ」  蒼祁が顔を近付けてくる。青い瞳に、恐怖で凍りつく自身の顔が映った。 「お前は逃がしても問題無い程弱い。朱兎とは違ってな」  蒼祁は一呼吸置いて、腰に片手を当てて言い放った。 「だから、朱兎は真っ先に殺した」  沈黙が流れた。予想外の言葉に、あたしは何も言えなかった。ただただ驚いて、蒼祁を見ている。蒼祁が放った言葉を、丁寧に思い出した。  ――――――朱兎は、真っ先にコロシタ? 「こっちに来る前……だから一昨日だな。胸をひと突きしてやったよ」 「え………え…………?」 「あいつも驚いてたよ。今のお前みたいにさ。そりゃそうだよな」  クスクスと笑う蒼祁。その笑みは、悪魔のそれのようにも見えた。 「唯一の肉親であり、自分の片割れでもある俺に殺されたんだから」  ――――――その瞬間、やっと理解した。やっと理解出来た。  何故、蒼祁は一人でこっちに来たのか。この遊園地へもそうだ。何故、朱兎を連れてこなかったのか。いつでも一緒にいる弟を、どうして連れてこなかったのか。いつ死んでもおかしくない状況であるにも関わらず、だ。  その理由は明白であり、簡潔であった。  既に朱兎は、死んでいるからだ。  しかも、自ら手を下して。 「………なんで………」  もはや、痛みなど感じていなかった。あたしはただ、目の前に立つ殺人鬼に、たった一つの感情しか芽生えていなかった。  ――――――自分や朱兎を裏切った怒り。  怒りが沸々と、体の奥底から沸き起こっていた。 「なんで殺したあああああああッ!」  怒鳴り声は、園内に響き渡った。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行