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 兄弟には、言っている意味が理解出来ませんでした。少女の言った言葉を、もう一度頭の中で唱えます。  ――――――喋ったから、友達。  ――――――やっぱり、よく分からない。 「ともだち……でしょ?」 「……………」 「え……? ち、ちがうの……?」  少し残念そうに呟く少女。弟はおそるおそる、少女に問いかけました。 「友達になろうって………言ってないよね?」 「え? いわなきゃいけないの?」 「……………」  弟は何も言えませんでした。そもそも彼には、友達と呼べる知り合いがいなかったからです。忌み嫌われていた彼は、ずっと一人ぼっちだったからです。  だからなのでしょう。 「えっ⁈ な、なんでなくの⁈」  弟は、泣き出してしまいました。 * 「さて、どうしようか……」  ソファーに座って足を組む健治。栗色の視線は、四人の人物に注がれた。隣同士ソファーに座る白夜と拓夜、そして雷と紫苑である。  まず白夜達がここにやって来たのは、直人が家を出てからおよそ数十分後のことであった。彼らが到着した時にはもちろんメルもいた。しかし二人から話を聞くと、彼女は慌てて家を飛び出していった。遊園地へ、蘭李を助けにである。  そして雷達が来たのは、メルが家を飛び出した直後であった。雷の持つ、赤いポスト型の瞬間移動魔法道具を使ってである。その時は二人とも腹部に大怪我をしており、すぐに応急措置が施された。命に別状はなかったものの、彼らはとても救われた気にはなれなかった。 「蘭李が死んじゃう……」 「メルが行ったし、影縫直人も行ってくれたらしいよ。だから大丈夫」 「でも………」 「直人も心配だなあ。あいつがやられるとは思わないけど……」  拓夜が、窓の外を見ながら呟く。白夜は少し考え、おそるおそる声を絞り出した。 「やっぱり、助けに行った方が……」 「大丈夫だよ。それに無闇に行くより、倒せる作戦を練った方がいい」  健治にそう言われるも、彼女の中の不安は、依然残ったままだった。リビングに静寂が流れる。 「………なあ、少し思ったんだけど……」  紫苑の言葉に、全員が視線を向ける。彼は怯えた瞳を向けながら口を開いた。 「なんで、俺と雷は無事だったんだろう……」 「……上手く逃げたからじゃないの?」 「いや、蒼祁に刺された時、二人とも倒れたんだよ。てっきりトドメを刺されるって覚悟してたのに、どっか行っちゃったし……」 「うちもそう思った。他の人達はみんな殺されてたのに……」 「たしかに………ちょっと変だな」  そんな時、着信音が部屋に響き渡った。無機質な電子音を鳴らしていたのは、健治の携帯だった。彼はポケットからそれを取り出し、開いて相手を確認する。物珍しそうに「おや?」と呟きながら、耳へスピーカーを当てた。 「もしもし、お医者さん?」 「お医者様と呼べと言っているだろう」  発信者は若俊だった。「ごめんごめん、お医者様」などと笑いながら言い直し、健治は用件を聞いた。若俊は鼻を鳴らして短く答える。 「華城はいるか? 電話しても出ないんだが……」 「蘭李? 彼女は今、ちょっと大変なことになっていて……」  健治はざっと今の状況を説明した。それが終わっても、若俊はしばらくの間沈黙したままだった。 「………お医者さん?」 「……………腑に落ちないな」 「え?」  小さく呟かれた言葉を、健治は聞き逃さなかった。彼はそれについて訊き返すが、「何でもない」と回答を拒否されてしまった。 「それより気になることがあるんだ。それを調べたくて電話した」 「それは……今すぐでないと駄目なのかい?」 「ああ。神空蒼祁に関わることだ」  健治は目を見開いた。続けて蒼祁の家の場所を知っているか聞かれ、頷きながら肯定の返答をした。住所を訊かれるが、あいにく彼が知っていたのは最寄りの駅だけである。 「すぐそっちに行く」  若俊はそう言って通話を切った。ふう、と息を吐いた健治は、今の話を白夜達に話す。白夜は首を傾げた。 「気になることって何だろう」 「もしかして、何の病気か分かったんじゃないの?」 「どうかな。気になることとしか言っていなかったし………」  ――――――――ピンポーン  インターホンが鳴った。彼らは顔を見合わせる。皆同じような表情をしていた。  ―――――来るの、早すぎないか?  健治が客人を迎えに行く。リビングに戻ってきた時、白夜達は驚いた。  連れてきたのは白衣を着た若俊と、桃色の髪をした少女だったからだ。 「どうもーこんばんは!」  にっこりと少女が笑う。彼女は白夜や紫苑に気が付くと、ひらひらと手を振った。 「あ、アナタ達はお久しぶりですね! アタシのこと、覚えてますか?」 「えっと…………たしか、魔獣退治の時の……」 「ええ! 多良見梅香です! どうぞよろしく!」  梅香はビッと敬礼した。何故彼女がいるのか、白夜は説明を求める目で若俊を見た。彼は、親指で梅香を指しながら言い放つ。 「《瞬間移動魔法|テレポーテーション》の持ち主なんだよ、こいつ」 「ふーん…………………………ええっ⁈」 「てっ……テレポート⁈」  得意気にピースする梅香に、驚きを隠せない魔力者達。健治はあまりよく分かっていないようで、首を傾げながら若俊に問いかけた。 「そんなに凄い魔法なのかい?」 「瞬間移動魔法は異形魔法なんだよ。こいつしか使えない」 「正確には『転送魔法』で、『アタシの家系しか使えない』ですけどね!」 「悪い、間違えた」 「いえいえ~お構い無く! 若俊君が間違えるのはしょっちゅうですしね!」  クツクツと笑う梅香。若俊は何も言わず、くるりと健治に向き直った。 「というわけだ。早速行くぞ」  若俊に促され、健治は住所を紙に書く。それを梅香に渡した。彼女は少し眺め、思い出したかのように顔を上げた。 「ここの海鮮物は美味しいですよね! 流石海に近いだけはありますよね~!」 「へえ。そうなんだ」 「大きな山も一つありますけど……たしかあそこは指定危険区域のはずです」 「指定危険区域?」  健治が訊き返すと、梅香は小さく頷いた。 「夜になると魔獣が活発になるんです。凶暴な種が多いらしく、駆除してもなかなか減らないらしいですよ」 「巣穴でもあるのかな?」 「どうでしょうかねえ。彼らにも知能はありますし。死滅しないようどうにかやりくりしてるんでしょう」  梅香はそう言いながら皆に手招きした。白夜と拓夜は彼女のもとに近付く。雷と紫苑は怪我の為、健治はその二人を見守る為にここに残ることにした。全員集まったところで、梅香は右腕を上げる。 「それでは! 出発しまーす!」  元気よく叫ぶ梅香。直後、彼らの視界が切り替わった。一拍遅れて、白夜達は目の前に広がる光景に驚く。  環状バスターミナルは電灯で照らされ、閑散としていた。その奥には様々な店が軒を連ねているが、開いているところは一つもない。  白夜は振り向いた。背後には駅舎があり、看板には『《楠木|くすき》駅』と書かれていた。  そう。ここは紛れもなく、健治が書き記した駅である。 「じゃ、道案内よろしく」  何事もなかったかのように、若俊が言い放つ。戸惑いながらも、白夜を先頭として彼らは歩き出した。星の輝く夜空の下、静かな町に複数の足音が響き渡る。 「で、気になることってなんだよ?」  拓夜に横目で見られ、若俊は白衣のポケットに手を突っ込んだ。 「奴はこう言っていたよな。魔力を奪われる病気だと」 「そうだな」 「何か違和感を覚えないか?」 「違和感……?」  彼らは考え込む。何かを思い付いたのか、白夜が若俊を見ながら答えた。 「奪われる………ってところ?」 「ああ。それだ」  赤い光を放つ信号機など無視し、彼らは横断歩道を渡った。 「何故奴はわざわざ、奪われるなどという表現をしたのだろうか?」 「たしかに………普通、無くなるとか言うだろうな」 「奪われるなんて表現をする時は、奪う相手がいると分かっている時だけだ。原因が分からないと言っていたのに、そう言ったことに違和感を覚えてな……」 「つまり………実は蒼祁には原因が分かっていたってこと?」  若俊は頷いた。 「だから検査すれば何か分かると思ったが、結果は何も得られず。気になって医療書を漁ったが、何も見付からなかった」 「ならば蒼祁自身が『答え』を持っていると思ったのか」 「そういうことだ」  住宅街を歩く。白夜達の住んでいる町とは違い、ここは古びた建物の多い町であった。それに加え夜であるということが、彼らに多少の恐怖を感じさせていた。  そんな雰囲気とは程遠い、明るい声が突然上がった。 「若俊君は本当に貪欲だね!」  梅香がクツクツと笑うと、若俊は瞬時に反応した。 「貪欲?」 「未知の病原体を暴こうとしているのがさ!」 「たしかに。医者というか、研究者の鑑だな」 「……普通だと思うけどな」  そんな話をしながら歩くことおよそ三十分。彼らは双子の住みかにやって来た。白夜にとっては二回目のログハウスだ。興味深そうに眺める拓夜や梅香をよそに、若俊が躊躇いなくドアをノックする。静寂が流れた。ドアノブを回すと、キイキイ音を立てながら入り口は開かれた。若俊を先頭に、彼らは家に上がり込む。 「朱兎? いないのか?」  白夜が声をかけても返事はなかった。整然とした部屋を見回しても、人の気配はない。何か違和感を覚えた拓夜は、奥の部屋へと向かった。扉を開けた瞬間、体が硬直する。  白いベッドシーツに広がる赤。それだけではなく、床にも赤は広がっていた。その色と、微かに漂う鉄のにおいから、彼はすぐさま認識した。  ――――――それは、血だった。 「なっ……⁈」 「拓夜?」  白夜がひょっこりと顔を覗かせる。彼女も驚き、顔をしかめた。拓夜はベッドに近付き、血に指を滑らせる。既に血は固まっていた。 「これって………」 「この量は酷い。蒼祁って奴が無事だとすると、恐らくこれは………」  沈黙が流れた。白夜は顔を青ざめ、その血から目を逸らした。しかしその先に何かを見つけ、彼女はそれに近付いた。 「………?」  それは、ベッドに放られた本だった。決して綺麗とは言い難く、ところどころに傷がついている本。白夜はそれを手に取り、中を開いてみる。模範のように綺麗な字が紙の上に並んでいた。拓夜も横からそれを覗き込む。 「白夜、それは?」 「日記みたい。双子のっぽくはないけど……」  彼女はパラパラと、誰かの日記を読み進めた。どうやらこの書き手には、妻の『沙紀』と娘の『沙夜』がいるらしく、幸せな日々を延々と綴っていた。  何故この家にこんなものが? 双子の知り合いのものだろうか? 白夜には様々な疑問が浮かぶ。  しかし、とあるページに差し掛かった時、彼女のその疑問は一気に解決した。そのページの始めには、こう書かれていた。  沙紀が、病に倒れた。
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