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 沙紀が、病に倒れた。どこの病院へ行っても、病気の原因は分からなかった。見たこともない新種の病気だと言われた。僕は絶望した。  魔力が無くなる病気。いきなり全て無くなるわけではなく、少しずつ無くなっていくらしく、気付くのにも時間がかかった。症状も、その時々によって軽度が違った。酷い時は、動くこともままならなかった。  沙夜は、心配そうに沙紀を見つめていた。苦しそうに寝込む母親の姿を見て、不安にならない子供などいないだろう。沙夜はすがるように、僕のことを見て言った。 「ねぇ………おかあさんのびょうき、なおせないの………?」  僕は何も言えなかった。痛む胸を押さえ、ぽろぽろと涙をこぼす娘を、ただ抱き締めることしか出来なかった。  悔しかった。しかし、医者でも分からなかった病気を僕が分かるわけもない。それだからといって、もうどうすることも出来ないのだろうか……? 僕らはただ、沙紀が苦しんで死んでいくのを見ていることしか出来ないのか……?  いや………そんなのは嫌だ。諦めたくはない。どうにかして助けてやりたい。治すことが無理なら、延命させたい。それも無理なら、せめて苦しまずに逝かせてやりたい。  もしそれが出来るとしたら………。 *  僕は、とある湖を訪れた。そこには『神』の一人が住んでいる。僕は神に願い、直接顔を合わせることに成功した。  巨大な青い龍――――――四神の『青龍』に。 「時を司る《聖獣|か み》の一人、青龍様。あなた様にお尋ねしたいことがございます」 跪いてそう言うと、沈黙が流れた。ゆっくり顔を上げると、青龍は巨大な目玉をこちらへ向けていた。 「――――――何だ?」 「私の妻……沙紀の病気のことでございます」  僕は訴えた。泣きながら懇願した。病気の正体について。出来ることがあれば、何かしたいと。沙紀をこのまま死なせたくないと。  聖獣から真実を知ることで、僕が背負う代償も知っていた。それでも僕はこの方法を選んだ。これで沙紀が救われるなら、これでまた笑える日が来るのなら―――僕はそう思っていた。  しばらくの沈黙後、重々しい低い声が降り注いだ。 「彼女の病気は、ウイルスによるものだ」  そのウイルスは、魔力を栄養源とする。しかし非魔力者はもちろん、一般的な魔力者であっても、そのウイルスに感染しても、発症せずに病原が死滅する。  ならば何故、発症する者が現れる? それは実に簡単な話だ。  そのウイルスは、魔力の質によって生死が決まるのだ。  魔力の質とは、簡単に言えば「特殊性」のことだ。特殊性が高ければ高いほど、魔力の質は高い。  そしてそれは、ウイルスの栄養源となるわけだ。 「治す方法は……無いのですか……?」 「あることにはあるが………」  その方法を実行出来る力を持つ者が現れる前に、沙紀の命は尽きる。  絶望した。何も言えなかった。しばらくその場で放心していた。帰宅して沙紀の笑顔に迎えられても、何も返すことは出来なかった。  沙紀は異形魔力者だった。特殊性の高い異形魔法の持ち主。だからこそ、この病気に犯された。  対して僕は、普通の魔力者。どこにでもいる、雷属性の魔力者だ。ウイルスは、僕の中では生き残れない。  ああ、何故沙紀は異形魔力者なのか。そうでなければ、ウイルスに殺されることはなかったのに。  ああ、何故沙紀なのか。どうして沙紀が選ばれてしまったのか。異形魔力者は他にもたくさんいるはずなのに。  ああ、何故神は沙紀を救ってくれないのか。沙紀は世界に不要ということなのか。  憎い。世界が憎い。数多の魔力者の内、沙紀を選んだ神が憎い。  ――――――こんな世界など、壊してやりたくなる。  何もしてやれない僕など、壊してやりたくなる。 *  沙紀が息絶えた。ウイルスのせいでおかしくなり、だが最期は笑顔を見せてくれた。自我を取り戻し、僕の腕の中で安らかな顔をしていた。  沙夜は泣き続けていた。その瞬間、僕は後悔した。  僕はこの先永くない。沙夜を置いて沙紀のもとへ行ってしまう。そうなればまた、沙夜を悲しませてしまう。  何か残しておかなければ。愛する娘の為に、最期に僕が出来ることを考えるんだ。  父親の僕が出来ることといえば………――――――――。 *  どうやら僕も限界らしい。だが、たくさんの財産を沙夜に遺すことが出来る。これでいいはずだ。  沙夜………ごめんね。僕は先にお母さんに会いに行くよ。お前は元気に、幸せに生きるんだよ。  沙紀………待たせていてごめんね。もうすぐ迎えに行くからね。  最後に………沙紀と同じ病気に犯された人へ。  神は「治す方法はある」と言った。もしこの病気の研究が進めば、治療出来る時代が来るのかもしれない。  しかし、恐らくそれは遠い未来の話だろう。そもそも魔法の病気が知られていない今、治療法など絶望的な話だ。  もし、あなたの生きる時代でも同じようならば、治療は諦めて悔いのない時間を過ごしてほしい。きっとその方があなたの為だろう。それでも抗いたいというのなら止めはしないが、ウイルスはどんどん宿主を蝕み支配する。その前にやりたいことをやっておく方が賢明だと、僕は思う。  それでは、さようなら。  沙紀を奪った世界、  そして、沙夜を苦しめる世界よ。 *  全て読み終えた白夜は、何も言えなかった。彼女だけでなく、共に読んでいた拓夜も若俊も梅香も、皆沈黙した。彼らは確信したのだ。  蒼祁は、これを読んで絶望したのだと。  魔法に関する病気は先天性のものであり、患って誕生出来る者などまずいない。  つまり、彼らが生きている今この時代、「生身の人間を蝕む魔法の病気など存在しない」と認識されているのだ。  当然蒼祁の病気も認知されていないし、研究も行われていない。だからこそ彼は絶望したのだ。  だけど―――白夜は疑問に思う。何でも出来る魔導石を持っているのに、治せなかったのだろうか。「原因が分からないから治しようがない」と言っていたらしいが、これを読んだとしたらどうにか出来なかったのだろうか。  魔導石には何か制約があるのか? もしそうだとしたら………白夜は静かに考え込む。 「………神空を止めよう」  沈黙を破ったのは拓夜だった。全員の視線が彼に向けられる。 「治る見込みが無いのなら、命が尽きるのを待つしかない。が、このまま放っておくわけにはいかないだろ」 「勝算はあるのかよ。魔導石を持っている限り、ほとんど勝ち目はないんだぞ?」  白夜の指摘に、真剣に考え込む拓夜。若俊も何か策はないか模索し始めた。  その一方で、薄桃色の目をぱちくりさせた梅香が、白夜に問いかけた。 「蒼祁って方は、魔導石を持っているのですか?」 「え? 魔導石のことを……知っているのか?」  白夜が訊き返すと、梅香は「もちろん」と表情を明るくさせた。 「だってアタシ、魔導石作りましたから」 「…………………は?」  衝撃の事実に驚く白夜と拓夜。若俊は知っていたのか、特にリアクションを取らなかった。白夜は、おそるおそる梅香に手を伸ばす。 「ま、魔導石を作った……?」 「ええ」 「嘘? 冗談?」 「ホントですよ~。まあその話は置いておいて……」  置いておけるか、こんな重要なこと。白夜はそう思ったが、それ以上話そうとしない梅香を見て、ひとまず説明は諦めた。  一方の梅香はというと、表情に陰りが浮かんでいた。若俊が何事かと問いかけると、彼女は真剣な表情をして口を開く。 「ゴメンナサイ。それなら止めておけば良かったですね」 「どういうことだ?」 「あの………落ち着いて聞いて下さいね? まず先に言っておきますが、アタシ、魔導石が作れたように、魔法道具を作っているんです」 「マジか⁈」  新たな事実に驚く白夜達。それも知っていた若俊は、「誰にも言わないで下さいね⁈」と釘をさす梅香に、続きを言うように促す。梅香は一息吐き、上目遣いに皆を見回した。 「それでこの間、直接お客さんが来て仕事を依頼されたんです」 「よくあることじゃないのか?」 「個人の依頼は珍しいです。でもそのことが重要なんじゃなくて、持ち込んできたものが重要で……」  静かに梅香の言葉を待つ。彼女は一度目をつぶり、ゆっくりと開いて桃の瞳を光らせた。 「―――――――彼、魔導石を持ち込んできたんです」
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