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「作戦通り各部隊配置が完了致しました」 「よし、作戦は計画通り進める。各自進行用意!」 「「「「ラジャー」」」」 青い空と青い海。曇のない快晴。 まるで鏡に反射しているかのように青が一面に広がっている。 太陽は遮るものがなく、暴力的なまでにその光をこの大海へと落としている。 陸地のない、真っ青な海。 そんな海に今五隻の船…・とても巨大な戦艦が波に揺れていた。 色は黒。太陽の暴力によりその黒さをさらに輝かせている。それぞれの船の上には四角い筒のようなものがいくつも付いており、いかにも戦闘しますよと言わんばかりの、誰が見ても立派な戦艦。それが五隻も何もない海に佇んでいるという異様な光景がそこにはあった。 その五隻は今、扇を描くように配置され、戦闘の開始を今か今かと待っていた。 扇の中心。この隊を指揮する船の中にこの隊のリーダーであるジャックはいた。ジャックはこの戦闘の想定を何度も脳内シュミレートしながら、目を閉じ精神を集中させる。起き得るべき事態を想定し、それがこの作戦を妨げるか否かを長年の勘で分析する。 彼が率いる戦艦部隊はその巨体を生かした突進を得意とする攻撃的な部隊である。向かってくる敵も、その巨大さに恐れをなして距離を取る敵も、御構い無しに押しつぶす。蹂躙する。五隻が通った後の海には粉々になった敵戦艦が残る。実にシンプルであり、合理的な作戦である。 実際この部隊は実績を積んでいる。勝率も8割を占め、「難攻不落の部隊」とも呼ばれるほどである。 ジャックはあらゆる想定に対処するシュミレートを終え、目を開ける。そして今五隻の目の前に浮かぶ敵を観察する。 「…・なぁ、ジャック。あいつ本気なんだよな?」 「…・どうやらそのようだ。あいつは私たちに勝つと宣言している。」 部下からの通信にジャックは思案しながら返答する。 「でもよぉ…・流石に俺たちを舐めすぎだろぉ…・軍艦五隻に対して相手は…・小舟一隻だぜ」 それを聞いてジャックはまぁそう思うのも無理はないと心の中で思う。 そう、この五隻の今回の相手はたった一隻のちっぽけな小舟なのである。色は灰色。一応は戦艦タイプの船であるが、積んでいるものも箱状のものが一つととても頼りない。ジャックが乗っている船とは大きさは大人と子供の差以上あるだろう。普通、そんな船がこの部隊の進行を受ければおそらくなすすべなく海の藻屑と消えるだろう。 負けることなど、あり得ない 「だが、相手は決して侮っていい相手ではない。あらゆる自体に対する対応を考えなくてはならないほどな…・」 「そうだけどよぉ…・」 部下は納得してないような返事をするが、それも事実であることは本人もわかっているはずだ。油断は最大の罠であり、勝利が遠のく唯一の要素となる。しかもその相手はあの指揮官である。長年の経験ですら予測できない事態が起こっても不思議ではない 「隊長、時間です」 「…・考えても仕方ない。やることは一つ!前進あるのみだ!」 「おう!そうだな。あんなチンケな船、すぐに沈めてやる!」 もう一人の部下の静かな報告により、ジャックは思案顔をやめ、自分を奮い立たせる。先ほど不満を述べた部下も士気は高い。 ジャックは各隊のメンバーの名をそれぞれ呼ぶ。 「スペード」 「おう」 「クラブ」 「はい」 「ハート」 「うん」 「ダイヤ」 「…・はい」 「各隊に告げる。敵戦艦は小舟一隻。しかし油断はするな。慎重に敵の位置を確認し、蹂躙しろ。」 「「「「了解」」」」 「進行、開始!」 ジャックの合図で五隻はスピードを上げつつ扇のまま進行を開始する。 一方、小舟の方は五隻が進行を開始しても一歩も動こうとはしない。迫り来る波が大きくなり、船体が激しく揺れ出す。影の色もだんだん濃くなっていく。それでもこの船は動こうとしなかった。 いよいよ五隻の船は三十秒後には各種遠距離攻撃が届く距離まで接近した。もうここまでくると扇型の陣形の中に入ったも同然だ。一度入ってしまえばもう抜けられない。小舟はカゴの中の鳥だ。 だがここで小舟はようやく動き出す。 「隊長、小舟が動き出しました」 「そうか…・後退でも『まってください!』…・どうしたハート」 「こちらに…向かってきます…・」 それはジャックでさえも驚くべきことだった。前に進めばこの五隻の餌食になることは確定事項だ。そのためのこの陣形なのだから… 考えろ…・考えるんだ。なぜわざわざ死ににいくような選択をするのか。自殺か?いや、違う。あの指揮官はそんな簡単に諦めるようなやつではない。あいつは勝つと言ったのだ。敗北を認めることはあり得ないだろう。…・ となると、あるのか?この陣形を破る手は。 我々の理解の及ばない策が……・・ 「隊長!どうする?」 「っ!いい!このまま進め!」 ジャックは思考をやめ、突き進む道を選ぶ。たとえこの陣形から逃れるすべがあろうともこちらの有利には変わらないと判断したからだ。かわされようともまた同じことをすれば良い。そうすればいずれは捕まえられる。 「…・隊長、弾が当たらない…・」 「問題ないダイヤ、あの小ささは当てるのも難しいだろう。牽制程度に使え」 小舟は小回りが利くようで、先ほどから遠距離攻撃を行ってはいるがうまくかわされている。そうこうしているうちに互いの距離はもう少しで衝突しようかというところまで来てしまう。 「隊長。まもなく衝突します。」 「了解だクラブ。いいか、隙間を作るなよ。この一撃で終わらせるぞ!」 「衝突まで…三…二…一…衝突します!」 接触。 五隻の船は先ほど小舟が走行していた地点を確かに蹂躙した。そのスピードは落ちることなく小舟程度では当たったかすらレーダーでないと判断できないほどだ。小舟によって起きた波は一瞬のうちに逆転し、大きな波の一部になる。小さな緑地が突如天災で更地になる光景と似た現象が、この大海で起こった。 「隊長!どうだ!やったか!」 「…・スペード、それフラグ…・」 「私の船も手応えはありません。」 「僕もなかった…・」 「手応え…・なしか…・」 予想はしていた。だがあり得ない事態だ。例え船と船の間を通ろうとしても、あの船ですら通れないほどの隙間しかないはずだ。通り抜けることはできない。できない…はずだ。ならどうやって…・ 「各隊!旋回用意!」 ジャックは次の行動に移る。扇型の陣形は次第に崩れ、それぞれの船が大きく旋回する。方向転換して再度突進を行うためだ。これは万が一初撃目で相手の船が沈められなかった時の対処行動であり、作戦の中の想定に組み込まれている。もしこれで仕留め損ねても次で終わりだ。 「隊長、レーダーによる反応ありません!」 「何!まだこの戦闘は終わってないはずだ…・どこに…どこにいるんだ」 「くそっ!のこのこ隠れやがって!」 しかし小舟を見失ってしまう。これでは次の進行の狙いがつけられない。ジャックは即座に見つけるよう指示する。それと同時に各船は旋回を終え、先ほどとは逆の向きに扇型の陣形を作った。統率された動きは、例え敵が捕捉できていなくともうろたえることはないという強い意志を感じる。冷静に対処し、敵を殲滅する。そのことに関してこの部隊はとても優秀なのである。 しかし、彼らはミスを犯した。この「敵が捕捉できていない」という事実を重く見るべきだった。得体の知れない感覚を覚えて旋回せず一旦後退すべきだった。あんな小さい船が何倍もある戦艦に効果のある攻撃を加えることはできないと、心の片隅にある油断を拭い去ることはできなかった。 皆が周知のことわざにこんな言葉がある。 窮鼠猫を噛む。 ドォォォォン ドォォォォン ドゴォォォォォン ドオオオオオオオオン バッシャアアアアアン 「っ!なんだ!何が起きている!確認を急げ。」 「隊長!地雷です!海の中に大量の地雷が仕掛けられています!」 「そんなことはわかっている!奴は地雷を使った戦法を得意としている。しかしなぜ特定できなかった!レーダーは機能していたはずだ!」 「それが…・」 「くっ!今はいい!お前らむやみに動くな!霧が晴れるまで進行を中止しろ!」 爆発によって盛大に吹き上がった水の柱は、今一時の霧となって五隻の視界を塞ぐ。このまま進めばお互いの船同士が衝突してしまう恐れがあるのでジャックは即座に停止を命令する。 「…・やられた。あいつの後ろにこんなに事前に仕掛けられていたとはな」 「これはあり得ないことですが…・おそらくレーダーで捕捉されない素材で包み、さらには攻撃目的の爆発ではなくただ水を暴発させてこの霧を作るための材料のみを使い、爆薬探知からも逃れているかと」 「そういうことか…・忌々しい手を使いよる!」 ジャックはまんまと出し抜かれたことに屈辱と敵に対する頭脳に敬意と嫉妬を送る。あれだけ難攻不落とされたジャックらの戦法がいとも簡単に崩されてしまい、ジャックは早急に打開策を要求させられたのである。 だがもう遅い。 「ウワァァァァアアアアッ!」 「っ!どうしたスペード!」 「…・くそっ・・やられた!奴は海の中だ!下から魚雷で脆い部分をやられた!」 「なん…・だと!?」 海の中!?つまりあの船は 「潜水艇だったとでも言うのか…・」 「キャアアアアッ!」 「っ!ハート!…・敵は海の中だ!霧も晴れつつある今がチャンスだ!各自散開して囲め!」 「グァァッ!…・ダメだ隊長…・俺は沈む…・」 「スペードっ!…・くっ!だが一度散開してしまえば…・」 五隻の船は一旦散開し、小舟もとい潜水艇を囲んで殲滅する方針を立てる。 しかし潜水艇は散開する船の軌道上になぜか待ち伏せしており、次々と魚雷を打ち込み、ダメージを与えていく。 「グゥッ!…・なんで…・なんなんだよ!…・さっきはスペードを落としたはずなのにどうしてもうここまで来てるんだよ!」 「…・読まれてる。…・私たちの船の軌道が…・寸分たがわず…・」 「そんな…・相手だって霧の中で見えないはずなのに」 ジャックの部下たちは小舟の不気味さに士気を完全に失ってしまった。彼らはこの君から逃げるためにバラバラに逃げたはずなのに必ずその小舟は正面に待ち伏せしていて、決定打を叩き込んでくるのだ。 心が読まれているかのごとく、正確に。 小舟はあっという間に部下たちを戦闘不能状態にまで追いやってしまった。もはや為す術はなかった。こちらの攻撃に対してそれを全てかわされ、逃げようとしてもすぐに見つかってしまう。先ほどまで檻を形成していた五隻は逆に霧の檻に閉じ込められてしまった。 「クソッ!クソッ!クソッ!」 連続して流れる部下の戦闘不能の報告をジャックは冷静に聞くことはできなかった。あまりにも一方的すぎた。圧倒的すぎた。 「見誤っていたんだ…・奴は…・あの指揮官は…・・本物の化け物だ!」 その時、化け物は現れた。 静かにジャックの船の前に現れた小舟はとても大型戦艦四隻を沈めたとは信じられない、本当に、ちっぽけな、ただの船だった。 だがジャックは認めてしまった。 こんな大船一隻じゃあこの船と渡り合えるわけがない、と 「全く…・・無敗の名は伊達ではない…か」 ジャックはその言葉を最後に船とともに海に沈んだ。
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