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「お父様、一体、話とは?」  シュヴァルツ王国城三階。エレンは父親に呼び出されていた。何でも大事な話があるという。  側には護衛騎士として仕えているフェイがいる。 「エレン姫や、我が王国は滅びる。我々は北の王国ノールオリゾン国の領地になることを呑んだ」 「それは、長年の戦争に我が国が負けたという事でしょうか?」 「ああ」  エレンの父は無念のため息を吐いた。  所謂、シュヴァルツ王国は亡国になったという。その事に、エレンは涙を堪える事が出来なかった。 「お前は近郊の村、リーフィ村へ逃げるのだ」 「そんな、お父様、私はシュヴァルツ王国の姫として生きたいです」 「エレン姫、お前は生き延びて欲しい。それが、せめてもの、父の願いだ」  そう言い、エレンの父は視線で側にいた騎士――フェイに合図を送った。 「エレン姫様、さあ、行きましょう」 「フーく……、フェイ・ローレンス、私は、シュヴァルツ王国の姫として――」 「エレン姫様、我々は再起の為逃げるのです。王様の志を忘れないように……」  こうして、エレン姫は騎士・フェイと沢山のシュヴァルツ王国の民と一緒に近郊の村・リーフィ村へ逃げ延びた。  シュヴァルツ王国の再起を臨んだ、姫の戦いは始まったばかりだ。 「フーくん、私忘れないよ。戦争で失った物を、取り戻すために」 「エレン、私は……、俺は、お前共にある。その事を忘れるな」 「レオン、この国はどうやら負けたみたいだ」  沈黙はラルフの一言で破られた。  レオンはきょとんと目を見開き、驚いた表情でラルフを見つめる。 「マジかよ、それ。俺らシュヴァルツ王国は強国だったじゃねえか。そんでも、最先端技術を持つノールオリゾン国には負けるのかよ?」  シュヴァルツ王国は長年、騎士の国で名が高く有名だった。  そのシュヴァルツ王国が、ノールオリゾン国に降伏したという。  この国一番の鍛冶屋の息子であるレオンは、呑気に武器を打っているが、そんなことをしている場合ではない。この国は滅びるのだ。 「その件に関してだが、ある噂を聞いた。替え玉のロボット、あれをどうやらアレックが準備しているようだ」 「ぶはっ、アレックが? あの馬鹿が?」  と、笑い話にしたものの、レオンは何か腑に落ちない点がある。  この国にロボットという高度な技術を持った技師がいるなんて――確か、あれはノールオリゾン国の技術だったはず。 「二人とも、聞こえてるよ。大声で喋りすぎだよ」  そこに噂の人・アレックがやって来る。ラルフとレオンの二人は言葉を濁し、その場をやり過ごした。 「ねえ、ニコラ君? やっぱりさ、幾らロボットと言ったって、情が移るもんだよね?」 「アレック、良いのか?」 「セレナちゃん、彼女を救うよ」  アレックとニコラは動き出す。反逆の歯車は回り始める。 「この歌を聴けるも最後か……。」  宿屋の片隅にあるステージで、歌姫・アリスは歌の最後の一節を奏でた。  彼女は最後の歌を歌い終わると、悲しく笑う。  シュヴァルツ王国は敵国ノールオリゾン国に負けた。  近いうち、ノールオリゾン国に領地は飲まれるだろう。 「セシルさん、最後の歌、聴いて下さりありがとうございました」 「いや、戦場から帰ってきて、最初にお前に会いたかったから、その……」 「私に会いたかった?」 「ああ。しかし、その大好きな歌声も、もう聴けなくなるとはな……」  そう言い、セシルは隠し持っていた花束をアリスに渡した。  赤く白いシュヴァルツ王国産の花だった。  その花言葉の意味――それは、ずっと側にいるという意味だ。 「先ほど、王様が国民をリーフィ村に逃がす事を決めたようだ」 「セシルさん、貴方も行くのですか?」 「この国を最後まで守りたいが、不可能だろう。既に、姫は逃げたと言っている。だから、どうかお前も、私と一緒に逃げ、そこで一緒に暮らそう」 「私は構いません。でも、ユウ様が……」  ユウ――彼は天使教の神子だ。  ユウという神子が歌姫・アリスを好いている事は噂になっていて、アリス自身も知っている。  神の子であるのに、ユウもまた、一人の男である。 「ユウ様が、逃げられるというのなら、私も――」  天使教はシュヴァルツ王国の国教で、アリス自身熱心な信者だった。 「知っているか。シュヴァルツ王国民の逃亡先のリーフィ村は、あの有名な元司祭であるセラビムがいるという。その話をすれば、ユウ様もきっとリーフィ村に行く決心をするだろう」 「明日、ユウ様に会う予定なので、話してみますね」  アリスがそう決心したその頃――天使教の教会では、慈悲活動が行われていた。  負傷した兵を、神子が看病しているという。 「この人達を見ると、なんだか、あたし達がのうのうと生きているのが罪に感じるわね」  一人の黒神子、モニカは告げた。 「モニカの馬鹿! あたし達は、天使教の神にずっと祈ってたのよ。罪に感じる事はないわ!」  もう一人の黒神子・リリアンがそう告げる。とは言ったものの、リリアンも負傷した兵を見て心苦しくなったのは言うまでも無い。 「でも、シュヴァルツ王国は滅ぶし、天使教も滅ぶんだろうね」  白神子のメリルが肩を落とし、負傷兵の看病に当たる。 「ねえ、ユウ。僕達も、シュヴァルツ王女と一緒に逃げるんだろうか?」 「そうですね。王女・エレン様は、我が天使教を崇拝していたと言いますし……、恐らく俺達は一緒にリーフィ村に行くことになるでしょう。ただ、俺には――」  そう言い、白神子・ユウは口を濁した。  神子でありながら、一人の女性を愛しているからだ。  だが、その女性には婚約者がいる。  報われぬ恋なのは分かりきっていた。だが、どうしても、彼女を忘れられなかった。 「あー、ユウ! 噂の人が来たわよ。歌姫・アリス、いらっしゃい!」 「ユウ様、お久しぶりです」  現れたのは、この国一番の歌声を持つ歌姫・アリスだった。  現れた途端、ユウは顔を真っ赤にした。初々しい表情に、いつもからかっている黒神子・モニカは微笑する。 「アリス、貴方はリーフィ村に逃げるの?」 「ええ、そのつもりです。騎士団長・セシルと、共に――」 「ひゅーひゅー、貴方、確か、騎士団長・セシルと恋仲だったわよねえ」  恋仲、という言葉に、ユウはずきんと心が痛む。  ああ、どうせ、自分は、崇拝する神だけ愛すれば良かったのに。  もしかすると、この邪な心こそが、シュヴァルツ王国を戦争に負かせたのかもしれない。 「僕達神子も、負傷兵の看病が終わったら逃げるつもりなんだ。ねえ、ユウ?」 「え、あ、はい。その予定です。アリスさん。アリスさんもリーフィ村に逃げられても、天使教を信仰して下さるんですよね?」 「勿論です、ユウ様」  自分への信仰が、せめてもの救いだ。  それだけで、良い。それだけで、良いのだ。  こうして、騎士団長・セシルと共に、歌姫・アリスはリーフィ村へ逃げ延びたのだった。それを追うように、白神子・ユウもまた共にリーフィ村へ逃げたのだ。  生き残ったシュヴァルツ王国の民は迫害を受けるだろう。  それを思うと、逃げたことはその者にとっては裏切りかもしれない。  だが、再起を願う姫・エレンを信じ、逃げ延びた者達は今日を生きていく。  黒い鳥がさえずり、白い鳥が奇声を放つ。 「イオンさん、ちょっとええ?」  シュヴァルツ三大貴族グローヴァー家に仕えるイオンに声をかけたのは、ツツジの里の少女ーー七瀬だった。  イオンは首を傾げ、七瀬から話を聞く。  イオンは真剣に聞いていたが、とある単語が七瀬の口から露わになると、顔を強張らせる。 「王国復興の為や。イオンさん、一役買ってくれん? あんたの協力が必要や、グローヴァー家領主を暗殺するには」 「七瀬さん、タダでは出来ませんよ。タダでは」 「あんたも、現金な奴やなあ。まあ、ええ。金ならぎょうさんあるで、これでどうや?」  そう言い、七瀬は小さな袋をイオンに手渡した。 「これだけのお金の出所が知りたいですね。まあ、良いでしょう」 「イオンさん、おおきに」  これで、契約は結ばれた。あとは、親ノールオリゾン国側の領主を殺せば、親ノールオリゾン側も黙ってられないだろう。 「ダニエル様、あんたも悪い奴やなあ。人殺しするんやもん、それなりの対価払わんとなあ」 「世の中、綺麗事じゃやってけない。僕には、シュヴァルツ王国復興を果たさないといけないんだ」  そろそろ、グローヴァー家第一子息とソレイユ第一令嬢の婚約は行われる。グローヴァー家領主の命のタイムリミットは来るだろう。  上手く、上手く行けばいい。  シュヴァルツ王国復興の道筋は、始まったばかりだ。  灯火がゆらりと灯る。 「以下の通り、未来は、再び戦火に見舞われるんだな」 「それは本当なの、占い師エルマ?」 「情報屋ジュリアさん、ワタシの能力を疑っているんだな?」  小さな家の小さな部屋、その場所に占い師のエルマが住んでいるという。その噂を聞きつけた情報屋のジュリアは、情報集めの一環で、エルマの元に来ていた。 「いえ、そういう訳じゃ無いわ。お話ありがとう」 「最後に一つだけ、一つだけ言わせて欲しいんだな。黒き王国は再び復活するんだな」 「そうで、あって欲しいわね」  ジュリアはエルマに一礼すると、立ち去る。エルマは暫く水晶を眺めていたが、何か首元に違和感を覚えた。 「間者とは、ノールオリゾン国も本気なんだな……でもまさか、ツツジの里が繋がっていたとは。香月真理奈殿――」 「ご名答。貴方にはノールオリゾン国に来て頂きます、占い師エルマさん」 「何をしたいんだな。ワタシの言葉は偽る事は出来ないんだな」 「そうですか。貴方がシュヴァルツ王国の元帥――ウィル・リーヴィと繋がっている事は調査済み。この事を知れば貴方の命も在りませんよ?」 「ツツジの里も、訳が分からないんだな……どうすればいいんだな? ノールオリゾン国が繁栄すると言った方が良いんだな? 残念ながら、それはあり得ないんだな」  ため息を吐き、エルマは真理奈を見据える。その視線は軽蔑を意味していた。 「貴方方には、言うことは無いんだな」 「姫の居場所を教えて欲しいんです」 「ワタシは知らないんだな」 「白を切るつもりですか、致し方ないですね――カイ様、この者を」 「真理奈姫、了解。この占い師を連れてけば良いんだな」  ノールオリゾン国はツツジの長――玲と繋がっているというのは、本当だった。エルマはその意味を確かめると、黙って真理奈とカイに従った。 「情報屋の事が気がかりだが、どうする? 真理奈姫」 「たかが、情報屋ですよ。しかし……」  たかが情報屋だが、エルマの予言は効力がある。もし、情報屋が漏らせばノールオリゾン国の覇権が揺らぐだろう。  シュヴァルツ王国国王、姫の処刑の時間は刻一刻と近付いている。この地は既に、ノールオリゾン国の物だ。だからこそ、ツツジの里は生き残っていかなくてはならない。 「ところで、少し気がかりな事がある。香月七瀬――彼女が最近怪しい動きを見せているようだ」 「従姉妹とて、ツツジの里の掟に背けば命は在りません。カイ様、調査を」 「了解、真理奈姫――」  全て、全て報告しなくては。予言者でもある占い師エルマが、再びシュヴァルツ王国は復活すると言うことを――兄・玲に。  ツツジの里は揺れている。どの国に付くべきか、否や。  リーフェ歴二〇四九年五月十六日。  ノールオリゾン国に滅ぼされたシュヴァルツ王国の王、姫の処刑が執り行われる。  檻の中に入れられた仮初めの姫――セレナはそっと天井を見た。  この檻の中はどうして無表情なのだろう。  今の自分も恐らく、無表情なのだろう。  仮初めの姫、エレンの替わりとして、自分は壊される。  そんなことをすれば、本物の姫はただでさえ身を危ぶむというのに――何故、元帥はこのような指示をしたのだろう。  コツン、コツンと、床を掠める音が聞こえる。恐らく、兵であろう。再び波乱の時は迫っている。 「セレナァ、こっち来い。命令だァ」 「セレナ……? 貴方、誰?」  セレナはそっと男を見据えた。すると男は兜を外し、セレナに手をさしのべる。 「ニコラ……?」  ガチャリと鍵が外される。ニコラはニヤリと微笑を浮かべ、告げる。 「お前を助けに来た。お前を仮初めの姫になんかにはさせねェ。親の俺が言うんだァ。ほら、来い!」  ニコラはセレナの手を握り、引っ張る。セレナは自ら、檻の外へ出ている感覚に触れる。  ああ、私は自由なんだ。これを、臨んでいた。  鉄の塊だからとて諦めていた自由を手に入れれる。 「アレック、わりぃ、時間かかってしまったぜェ」 「遅い遅い、見張りの兵どんだけ倒したって思ってるの?」  外で青い長髪の男が剣を鞘に入れ、自慢げに笑って見せていた。 「私、自由?」 「そうだよ、セレナちゃん。君は自由だ――誰にも、君の自由を奪わせはしない」 「自由、嬉しい……」  セレナには他の機械人形とは違った所がある。  それは心だ。彼女には感情や思いがある。  それを施したのは技師・ニコラであり、そう考えたのはアレックだ。 「さあ、逃げるよ」  そう言い、セレナ達は王国を飛び出した。  この出来事がやがて、波乱を、大きな波乱を生むだろう。  世界は謳うだろう。呟くだろう。  一人の少女と仮初めの少女が、やがて運命を交錯し始めると―― 第〇章 了
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