フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 放課後の喧騒は彼女には遠く遠く聞こえた。A棟から離れたB棟は、主に文化系、特に物音の大きくなりにくい美術・芸術・伝統芸能に偏った部活動の活動拠点に開放されている建物だった。  少女は生徒会執行部の役員のひとりだ。役職は会計ならびに庶務。この日は活動申請にない──本来と関係のない活動をして、部室を不当占拠している生徒らの居ないかを見回るという楽だが面倒な仕事のために、B棟に訪れていた。  あまりにも形骸的な仕事──顧問教諭がそれぞれ居るんだから、そちらに任せれば良いものをどうして生徒会が、などと少女は心中ごちる。特段の用事があるわけでもないにしても、実施することにあまり意義のない職務に従事するなんて、とつい口から出てしまいかねない。  手芸、文芸、絵画美術、茶道──今日活動している部のうち、次に訪ねるもので最後と、彼女はため息を吐かざるをえない。これで終わるとはいえ、どうにも足取りは重たくなる。ついと俯いて前髪が落ちてくるのに少女は苛立ちを覚えて……  ──ああ。 「こんちゃー、生徒会でーっす」  独自に改装された、A棟のなかでもB棟のなかでも特異な部屋。少女の視界には和装に身を包んだ同年代の女たちと、衣装の意匠は似通いつつもいくばくか老齢な女性の姿を認める。その付近には剣山に花と水、花器と剪定器具。  闖入者に多少怪訝な視線を向けながらも、年長者も、それに師事する者たちも、それを明瞭に歯牙にかけることはない。実施時期こそ不定期なれど、この部活動見回りは定例事項なのだと誰も彼も知っている。 「ハサミと、いらない新聞紙って貸してもらえますー?」  けれども役員生徒のその提言には、いくらかの疑念が生まれる。少女の手のうちにはクリップボードひとつにペンが一本挟まっているだけ。なにかを切り貼りするということもなく、とはいえ問われた以上、「工作用のものなら……」と華道部長がしずしずと調度の棚を開閉して役員の少女に手渡す。新聞紙も同様に、外部委託の師範の女が手渡して、「ういうい、ありがとうございまっすー」と少女は受け取る。ちょいと中に入りますねーと着付けに使う個室に滑り込んで、姿見の正面に陣取って、  しゃきん──  前髪をまっすぐと切り捨てる。さすがにその姿には驚愕したのか。師範の女が声を荒げる。 「いやー、すっきりしたー。助かりましたー」  そう言って、ハサミを華道部長に返却した生徒会執行部役員の少女は、己の髪の毛の残骸が包まれた新聞紙を小脇に抱えて、華道部室を後にした。  その言動の意図を、その場に居た一切の人間に理解されぬまま。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行