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 どんな命の終わり方だったら良いだろう。  目の前の惨劇を、グローヴァー第一子息のルイスは直視出来なかった。 「親父が、親父が……、殺され、た……」  酒に盛られていたのは毒だった。  今宵はルイス自身そして、エイミー・フォン・ソレイユ公爵令嬢の婚約が行われていた。 「ルイス様……、これは、あんまりですわ……!」  エイミーも義父になるはずの伯爵領主に、悲哀を浮かべるしかない。 「ルイス様、エイミー姫様、ここは危ないです。貴方達自身恐らく狙われているでしょう」 「イオン、ああ……、くそうっ……、誰が、こんな事……!」  イオンは素早く、他の家事用人達に指示を出していく。その様子は流石、長年ルイスに仕えているだけあって、手慣れたものだった。  以上のことから、ルイスとエイミーの婚約は取り消しになった。  しかし、誰が一体、自分達の命を狙ったのだろう。 「ルイス様、お悩みですか。貴方は次期伯爵領主ですよ」 「いや、親父の事を考えていて、誰だよ、親父を殺したのは!」 「……ルイス様は、酷く領主様をお恨みになってたじゃないですか」  ルイス自身、大きな夢があった。  だが、自分の夢を諦める理由が出来た。世襲という、貴族では逃れられない呪縛。 「貴方が、継ぐはずだった領主の座。しかし、貴方の弟に既に奪われる。夢を奪った上、今度は領主の座まで奪う――死んで当然ではないですか」 「イオン、まさか、お前が……」  そこで、ルイスは気付いた。目の前の男――信頼の置いている青年・イオンが、自分の親を殺したと。 「ルイス様、お許しを――、全て貴方の為とは言えません。いかなる処遇も受ける覚悟です」 「イオン、俺はお前を手放したくない。どうしてくれるんだよ!」  ルイスは声にならない声で泣いた。  どうにもならない、負の連鎖。それは、かつての戦乱が招いた悲劇。  イオンもまた、静かに泣いた。  ルイスのため、そして自分のため、七瀬からの依頼を受けた。 「グローヴァー領主が亡くなられたんやって。誰のせいやろなあ?」 「これで、親ノールオリゾン国派は少なくなった、か……」 「ダニエル様、話聞いとる?」 「ああ、聞いているよ。まあ、上手くいったんじゃないかな。君を信頼して良かったよ、七瀬ちゃん」  マクスウェル邸の一室で内密に行われている二人の会話。  ダニエルは次の手を考えた――ソレイユ家をどうにかすれば良い。 「なあ、ダニエル様。ちゃんと、うちの言い分聞いてくれる? うち、ツツジの掟、破った上、行く当ては無いんやで?」 「君の事はちゃんと考えているよ。君を次期ツツジの里の長にするってね」 「大丈夫なんかなあ?」 「僕達には、ウィル元帥が付いてるんだよ? シュヴァルツ王国が復興すれば、きっと――」  そこで、伝書鳩がダニエルの元に到着した。それは、ウィル元帥が飛ばした物だった。そこには、こう書いてあった――姫が逃亡に成功したと。  あとは、基盤を作り、再起を図れば良い。ウィルも、ウィルの弟であるフェイも無事だという。 「さあ、次はどうしようか。手始めに、ソレイユ家の誰かを――」  そう言い、ダニエルは筆を取った。  季節彩る村――リーフィ村。  その場所は、天使教の総本山で、教皇であるセラビムや、司祭のリリィが住んでいる。 「フーくん、フーくん! ここには沢山のお花さんがあるね。お城では見たこと無いものがあるね!」 「エレン、良いか……はっ、失礼しました。エレン姫様、あまり、騒がれませんように。我々は逃亡の身ですよ。ですよね、兄上!」 「ええ、その通りです。フェイ、エレン姫様、今から住まわれる家はとても貧祖ですが、我慢なさって下さいね」 「うん、分かってるよ! あ、蝶々さんだ!」  こんなんで大丈夫なのだろうか。再起など出来るだろうか。  フェイは不安に感じるが、それを支えるのは自分自身である。 「ところで、兄上。目に隈が出来てますよ。あまり眠れなかったのですか?」  フェイは兄――ウィルに尋ねる。すると、ウィルは気にするなと一言告げた。 「あ、いらっしゃいました。あれは、ツツジの里の者ですね。エレン姫様、フェイ、気を付けて下さい。彼女達は敵です」  そう、ツツジの里は敵だ。  ツツジの里の長である玲は、ノールオリゾン国派に変わり、今ではシュヴァルツ王国の領地だけでなく、他国侵攻に携わっている――裏切りの民達だ。 「エレン姫様、いらっしゃいませ。ボクはミツル・カヅキ、こちらは姉の柚です。ボク達、ツツジの里を追い出されてしまって……なので、ここで暮らしているんです。ね、姉さん!」 「ああ。エレン姫、これからよろしく。いつでも頼ってくれよな!」 「もう、姉さん、無礼にも程があるよ! すみません、がさつな上礼儀が出来てない姉で……」  これではどちらが姉か弟か分からない。  しかし、彼らは何故、ツツジの里を追い出されてしまったのだろうか――疑問が残るも、フェイはエレンを呼び、さっさと住処の中へ入っていった。 「はあ、どうしようなあ。これから……」  リーフィ村の丘の上、柚は寝転びながら色々考えた。とても、他人の耳には入れたくない事ばかり考えてしまう。 「どうしたんですか、柚さん?」 「あ、エレン……あ、悪い、エレン姫様……!」 「悩みならいつでも聞きますよ?」 「いえ、エレン姫様のお耳に入れるような事では……あの、俺、ツツジの里を追い出されたんです。自分の親が、ツツジの掟に背いたので」  はあ、と柚はため息を吐く。もともと、長の玲とは仲は悪かったが、まさか掟に背いただけで親は殺され、追い出される事になるとは思いもしなかった。  その事を、柚はエレンに吐露した。  エレンは真剣に話を聞いていて、時たま一緒に悩んでいた。 「私に言えることはないのですが、どうか気を強く持って下さいね。きっと和解出来ますよ!」 「おい、エレン。どこにいると思ったら、そんな所に……全く、不用心だな」 「だいじょーぶだよ、フーくん。柚さん、良い人だよ!」  キラキラな笑顔で、エレンはフェイに笑って見せた。  その様子が、柚はとても、とても羨ましかった。 「それじゃ、柚さん。またね!」 「ああ、また会おうな!」  そう言い、エレンはフェイに付いて行く。その様子を柚は心苦しく眺めていた。  それは、ツツジの里を追い出される前の話。  柚そしてミツルは、玲に呼び出されていた。 「柚、ミツル、どうやらお前達のこれから暮らす先に、エレン姫が逃亡したという話だ」 「玲様、まさか、それって……」 「ああ。エレン姫の息の根を止める。そしたら、お前達を里に帰らせてやろう。これは命令だ、柚、ミツル。さあ行くのだ!」  それを思い出すと、柚は葛藤せずにはいられない。  あんな素敵な人を殺すことなんて、殺すことなんて―― 「俺は、どうすれば良いんだよ……!」  悲観する柚の言葉に、ミツルはただ口を紡ぎ、心の中で苦しみにもがいた。  天使競総本山であるリーフィ村。  そこで、一人の女性と男性の婚礼が行われていた。 「アリス・ティラー、汝は今日からこの青年――セシル・ユイリスを愛すか?」 「ええ、神に誓います」 「セシル・ユイリス――、汝は今日からこの女性――アリス・ティラーを愛すか?」 「ああ、神に誓おう」  老爺は二人の手を重ねるや、小さく頷いた。 「これより、セシルはアリスの、アリスはセシルの伴侶となった。神――エンゲルは、お前達を認めるだろう」 「ありがとうございます……、神――エンゲル、教皇――セラビム」 「二人とも、幸せになるのだぞ」  最後、セシルは軽く、アリスの額に口づけを交わすや、婚礼は無事終わったのだ。  その様子を静かに見守っている白神子――ユウがいた。  ユウは複雑な心境で二人を見守っていた。アリスを祝福したい気持ちと、アリスを奪った男――セシルに嫉妬の気持ちで、どうにかなりそうだった。 「アリスさん、セシルさん、ご結婚おめでとうございます」 「ユウ様、この度は貴方のおかげで、結婚式を挙げる事が出来ました。これもエンゲル様を始め、セラビム様、勿論、ユウ様達神子様方のおかげですよ!」 「二人とも、幸せになって下さいね」  それだけ言うと、ユウは教会の中に入っていた。 「さあ、セシルさん。帰りましょう」 「ああ。しかし、天使教は深いのだな。あまり信仰したことはないのだが……」 「セシルさん、天使教は祈りを捧げるだけで極楽浄土に行けるのですよ?」 「アリス、本当に天使教に詳しいのだな」 「だって、皇女――エレンも愛していたのですよ、天使教。詳しいというか、好きなんです。こういう、素敵な信仰。だから、セシルさんも祈りましょう。きっと、私達の生活を見守って下さいますよ!」  セシルはアリスの熱狂振りに圧巻しながら、新しい住まいへ向かっていた。二人の新たな生活は始まったばかりだ。  その夜、いつもの勤めが終わり、ユウは就寝しようとしていた。  その時だ。自分のすぐ側をどうみても異国の人間と思わしき者が、通り過ぎた気がした。 「どうして、ノールオリゾン国の方が……」  その者はノールオリゾン国の者だった。その者は、教皇がいる部屋へ入っていたのだ。  何故だろう――ユウは、胸騒ぎがした。これでは寝られるはずもない。  ユウはそっと、彼らを追ったのだ。 「――姫様は、リーフィ村に住まわれているね。ユーグ・セラビム教皇」 「ああ。勿論、保護をしている。大丈夫だ、時が来たら、彼女達を渡そう」 「先日、失敗したばかりなんだよな。檻から逃げ、調べてみたらさ、偽物だった訳でさ、こっちは焦った焦った」 「シルヴァン様、クロエ様――どうか、この件は我に任せてくれないか。お前達も、亡国の姫がいては、上手く政が出来ない。その代わり、天使教の信仰を広める活動を許可して欲しい」  衝撃の事実が耳元に入れられる。  天使教を広めるかわり、姫――エレンを引き渡すという内密の会話。  エレン姫自身を裏切る行為ではないか、ユウは思わず、体を震わせ、恐怖を感じる。  信仰していた神は、何故このような事をするのだろうか。  これが、天使教の姿なのだろうか。 「……そこにいるのは、出てきなさい。ユウ・アレンゼ」 「あ、すみません。今の話のことは聞かなかった事に……」 「そうではない。お前に一役買って欲しいのだ」  セラビムはそう言い、ユウの元に近付く。  セラビムはにやりと、天使教の信仰の為だと告げ、伝える。 「お前がシュヴァルツ王国の姫の居場所を突き止めろ。なぜだか、あちら側が居場所を教えてくれなかったのでね……」 「一体、どうすれば……」  ごくり、とユウは唾を飲み、自分が信じていた道を絶たれた感触に、堪え忍んだ。 「アリス・ティラーは熱心な天使教の信者。その夫のセシル・ユイリスは、確か、シュヴァルツ王国騎士団長だ。騎士団長なら、姫の居場所ぐらい分かるだろう」 「彼女たちを探れ、と言うのですか」 「天使教の為だ。出来るな、ユウ・アレンゼ……」 「は、はい。その任務しかとつとめを果たして参ります」  ユウはそれだけ言うと、その場を立ち去った。  自分の神の為だ、自分の神の為だ――ユウはそれだけを念じて、アリス達を浮かべた。  彼女達をこれから自分は裏切るだろう。自分は神子の立場だ。教皇の命令は絶対だ。  だから、この行為は正しい――そう言い聞かせて。  ノールオリゾン国になったこの地に、納税の義務の発布が行われた。  それは、シュヴァルツ王国の時よりも、かなり重いものだった。 「これじゃ、家計は苦しいわねえ」  普通の婦人――ミーアは財布を見るや、ため息を吐くしか無い。  夫は先の戦で先立たれ、息子のラルフは無事帰ってきたが、職は失った。 「まあ、仕方ない。エレン姫様が無事なだけでも、良かったわよ」  ミーアはそう言い、買い物が終わったあと、ラルフがいる鍛冶屋――レオンの元へ向かった。 「ジュリア、それは本当なのか?」 「占い師で予言者のエルマが言ってたわ。シュヴァルツ王国は復活するわ」  ミーアがそこに着くと、ラルフの幼なじみの情報屋――ジュリアの姿があった。  久しぶりに見たジュリアは、とても綺麗になっていた。 「俺達が生きている間に、復活すれば良いのだがな」 「じゃねえと、ラルフは無職だしな」 「それを言うな。今職を探している最中だ」 「それにしても、一人足りないわね」  そう、いつものメンバーの中に一人いないのだ。  彼――アレックの姿が。 「あー、アレックなら、今逃亡中って感じだぜ」 「噂では、機械人形を連れ国外に逃げたと言っている」 「えー、大丈夫なの? アレック……」 「大丈夫だと思う。あの男は不死身だ。それに、しっかりした技師――ニコラが側にいる」 「なら、安心だわね」 「まあ、あのアレックなら大丈夫でしょう。でも、不可解な事があるのよ」  と、ジュリアは一息吐いて、告げる。  その表情は深刻な物だった。 「エルマが、行方不明なのよね」 「えー、マジで。何でだよ」 「あのエルマの言葉は効力があるから、ノールオリゾン国側には不利な事を告げられれば――政を行いにくくなる、という訳だろうか」 「あー、難しい話分かんねえ! 分かんねえ!」 「レオンのおつむは五歳児だからね」 「そんなに低くねえ、せめて、十五歳にしてくれ」 「十五歳で良いのか」  たわいのない会話が行われている。  しかし、不可解な事は気になるところだ――そうミーアは肝に銘じた。  ノールオリゾン国、その一国で、例の三人はいた。 「エルマが、捕まっただとォ?」 「ニコラくん、声がでかいよ」 「ニコラ、声、大きい」  アレックとセレナの総ツッコミに、ニコラは悪ぃと一言告げた。  しかし、エルマが捕まったとは。  ニコラとエルマは幼なじみだ。幼なじみが捕まったとなれば、あの冷静なニコラでも驚きと不安を隠せないのだ。 「助けに行くぞォ」 「もう、こっちは多分お尋ね者だって、止めといた方が良いよ」 「だけどよォ、エルマを黙って処刑されるのを見てられるかよォ」 「エルマ、きっと、自由、欲しい、思う。私、救いたい、エルマ――」  ニコラとセレナはエルマを救いたいというらしい。  多数決で言えば、助けに行くの方が多い。  つまり、アレックは折れなければならないだろう。 「仕方ないね。ノールオリゾン城へ忍び込むよ。ニコラくん、ヘマしないでね」 「おめェだろ、ヘマしてるのは」 「セレナちゃん助ける時もたもたしてたのは、ニコラくんだよ……」  とりあえず、忍び込む方法を考えなければ。  アレックはニヤリと微笑み、思考を張り巡らせた。 「ただいま、ノエル。貴方帰ってたのね」 「ああ。ミーアさん、ラルフ、無事帰ってきて安心した」  ミーアとラルフが帰ると、長身の男――ノエル・クレイが出迎えた。  ノエル・クレイはソレイユ家の研究所に勤める、天才だ。 「ノエル、なんだか浮かない顔をしてるわね」 「そんなことは無い、いつものノエル様だ。それより、ラルフ、仕事見つかったか?」 「仕事は多分見つかる。ケーキ屋でも始めようかと」 「お前、お菓子作りは得意だもんな」 「他にも得意な事はある、全く、お前みたいに頭が理系じゃないんだ、俺は!」 「はいはい。じゃあ、俺はちょっと席外しますね、ミーアさん」  そう言い、ノエルは自室に向かった。 「ノエル、どうしたのでしょうね? なんだか思い詰めてたようだったけど」 「どうせ、研究が上手く行かなくて思い詰めてるんだ。あいつのことは放置がいい。実験で飯を忘れるぐらい、熱中したら、何も出来なくなる奴だ」  早くご飯を食べようとばかり、ラルフはミーアに訴える。  仕方ないわね、とミーアは食事の準備を始め、ノエルのことはあまり思い止めようとはしなかった――いつもの事だと、決めつけた。  ミーア達が帰ってくる前の話。  ノエルが早めに帰宅した時、謎の封書が出てきた。  オリジン――という名の差出人。  当然、オリジンなど知っているはずも無く、ノエルは開けずにいた。  だが、上質の紙の封書が気になり、開けるだけならと、ノエルは封を開けてみた。  中には一通の紙。紙にはこう書かれていた。  ソレイユ家の令嬢――エイミーを暗殺しろと。  さすれば、お前の昇格は保証する、と。  やけに綺麗な字で綴られている所、高貴の身分の者が書いたものだろう。  しかし、暗殺など出来るはずはない。  彼女――エイミーの姉、公にはされていないが、姉のローゼと、ノエルは付き合っている。  だが、最近は上手くいっておらず、見かねたローゼからは研究所を破門にするとまで言われている。  どうせ、破門にされるぐらいなら、いっその事、研究所を守るために――ノエルは策を巡らせ始めた。
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