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 リーフィ村の一画にある大きな協会。  ユーグの妹であるリリィは病で苦しむ民達の看病をしていた。 「リリィ様、お客様が……」  民を一人看た時だった。  一人の神子が、リリィを呼ぶ。 「分かったわ。ちょっと待っててね」  リリィは最後の一人の看病を早めに終わらせると、急いで客間へ向かった。 「羽月湊さん――ツツジの里の情報網が本当であれば、マクスウェル家が先日のグローヴァー家領主の暗殺に関与しているという噂なのですね」 「ああ」  ツツジの里の警官――羽月湊はそう言い、証拠品を突き付けた。  この事件に関与したイオン・カルロスによれば、ある者に金を貰い毒を盛ったという。  依頼主はオリジン――というが、オリジンは別名マクスウェル家の隠語である。  つまり、マクスウェル家が関与した事は濃厚である。 「分かりました。天使教に勤める私としても、この件は見過ごせないですね。私達の方からも、何か策を念じましょう」 「そうすると、助かる」  しかし、ややこしい事になった。  相手はマクスウェル家領主――ダニエルという事になる。  ダニエルの家マクスウェル家は没落したとはいえ、シュヴァルツ王国の元帥閣下であるウィルと強い繋がりがあるという。 「モニカさんを呼んでくれる?」  リリィは冷静な顔つきで、神子にモニカを呼ばせた。  黒神子――モニカは司祭リリィの呼び出しだと分かるや、すぐさまリリィの元へ向かった。 「なんでしょう、リリィ様」 「貴方に、任務を命じるわ。モニカ・ベレーナ――マクスウェル家に奉公しに行ってくれませんか?」  まさかの命令に、モニカは圧巻せざるを得ない。何故、いきなりマクスウェル家に奉公しなくてはならないのだろうか。 「ダニエル様を探って欲しいのです」 「ダニエル様、を……?」  ダニエル――久方ぶりに聞く、モニカの思い人の名だ。  神子になる前、孤児院で面倒を看てくれたのは、他でもないダニエルだ。  何しろ、ダニエルの家が運営する孤児院にモニカはいたのだ。 「い、行かせて下さい!」 「モニカさん、貴方は任務のために行くのです。それを忘れずに……」  こうして、モニカは素性を隠し、マクスウェル家へ奉公に出た。  元シュヴァルツ王国の領地を、一人の女が歩いていた――名は七瀬。  ダニエルとの話しが終わり、今日の寝床を探していた。このままでは野宿だ。自分は探られている身――、このままでは自分の身が危険だ。 「誰や、後を付けとるのは」  勘をくぐると、背後に気配を感じた。七瀬は忍刀を構え、振り返って叫ぶ。 「夜道は気を付けた方が良いですよ、七瀬様……」 「あんたはカイ・ネヴィル……、さては、うちの行動を付けといたな?」  迂闊だった。  七瀬はきりっと、カイを睨み、内心では自分の行動の甘さを悔しがった。 「貴方がマクスウェル家と繋がっている事を、姫様に告げさせてもらいますので」 「うちはただ、ダニエル様を探ってるだけやで。あのお人、何するか分からへんからね」 「そうだと、ツツジの里は無事なのですけどね。貴方が何を企んでいるか、それを見極めさせて頂きますね」  それだけカイは言うと、すぐさまその場を立ち去った。 「まずい事になったな。まあええ。あの玲様は、ノールオリゾン国側の人間、悪いお人や。エレン姫様を裏切った、悪いお人――」  七瀬はそれだけ言うと、にやりと笑い、その場を去った。  今夜の宿を探すか、否や。それよりも、今後について――策を練るしかない。  七瀬は笑う。  全ては自分が、ツツジの長になる為だけに、ダニエルを利用している。ツツジを裏切っている。それから得られる快感は、まさしく毒である。  エレン達がリーフィ村に来て1週間が経った。  相変わらず、エレンは呑気に花畑で花を摘んでは、フェイに見せ、誉れを貰おうと必死だった。  今日も、同じようにエレンはフェイと同じように、花摘みに行った時だった。  道端でノールオリゾン国の役人が村の住人に納税を取り立てていた。  その声はとても怖く、エレンはその声に体を震わせ、驚いて見せた。  役人は住人を足蹴りし、暴力を振るっている。  その様子にエレンは勿論、フェイは心を痛めた。  かつて、フェイは母親にそのように扱われた事がある。その事を思い出したのだろう。 「フーくん、どうしたの?」  エレンは顔を顰めるフェイに対し、尋ねてみせる。するとフェイはエレンの手を引き、その場を立ち去った。 「エレン、お前には王女として民達の痛みを分かってあげられる人になって欲しい」 「そうだね。あんな可哀想な事、見てられないもん……フーくん、私はお父様の志を受け継がなくてはならないのね」  エレンは最後の花を摘み終わると、フェイに手渡した。  フェイは慣れないように笑ってみせる。その姿が、エレンにはもの悲しく見えた。 「さあ、エレン。行くぞ」 「あ、待ってよ、フーくん!」  エレンが再び王女として立ち上がるには、力を蓄えなければならない。  その為にも、フェイは誓う――シュヴァルツ王国の再建を、エレンをずっと見守っていくと。  その頃。  柚達が暮らしている住まいに、ツツジの里から客人が来た。柚は食料の調達で出ており、その客人はミツルが対応した。 「アニタ様!」  客人とは、玲の婦人であるアニタと従者だった。  アニタは笑顔で、ミツルに話しかける。  アニタは過去、ツツジの里の武人として有名だった人物だ。人望も厚い。  ミツルも近親者の玲じゃなく、アニタの方が好きだった。 「ミツルくん、側でエレン姫様が暮らしている話なんだけど――分かっているわよね?」  だが、アニタは今回ばかりは玲のように冷たい笑顔で告げる。  それは、脅しであり、脅迫であり、強制的な命令。 「分かっています」 「恐らく、柚さんは失敗するでしょう。あの子はとても優しい子だから、だから、ミツルくん、貴方がエレン姫を殺して頂戴」  さすれば、ツツジの里はノールオリゾン国の功績者として取り立てられる。 「分かっております、分かってます……」 「貴方なら出来ると思っているわ、ミツルくん」  ミツルは歯を食いしばり、アニタの要求を呑んだ。  アニタはそれを確認するや、従者と共にツツジの里へ戻っていった。  恐らく、柚には出来ないだろう。  柚はああ見えて優しいところがある。ならば、非情な自分が暗殺を企てるべきだ――ミツルはそう考え、俯いた。  風が走る、走る、勢いを付け、真っ直ぐに。  ノールオリゾン城の地下牢で、怒号が響き渡る。兵数名が騒ぎ出す。 「いたか!」 「こっちには居ない」 「全く、何処へ行ったんだ、予言者を連れ去った犯人は――」  兵達はくそうと悔しがりながら、駆け出す。  その様子を端から見る、一人の青年――アレックの姿があった。 「アレック殿、アナタには感謝するんだな」 「エルマちゃん、まだ油断は禁物だよ」  背の小さい女性――エルマは、窮屈な牢屋から出られた喜びに浸る。しかし、アレックは静かにと、彼女を制した。 「エルマ、無事かァ!」 「ニコラ、アナタがワタシを助けに来てくれたのは予想外なんだな」 「なァに言ってんだァ、おめェは予言者だろ、この事も予測してただろ」 「まあ、そうなんだな」  無事、アレックはエルマを連れ出す事が出来た。今回も間一髪だった。  自分は遊び人より盗人を名乗った方が良いのだろうか、そう自問するも、アレックはそっと夜風に当り、息を整える。  一方、エルマは仮初めのシュヴァルツ王国の姫――セレナを見据えた。 「やはり、助かってしまったんだな。まあ、そうでなければ、シュヴァルツ王国は復活しないんだな」  エルマは目を細め、セレナを再び見据える。  彼女達の運命が交わる時――恐らく、その時が訪れる。その時はいつなのか、予言者のエルマでも分からない。予言者とは不便にもそこまでは予測出来ないのだ。 「私、生きたい、生きたい……」 「壊されるぐらいなら、なんだな。命無きものなのに、それを臨むのは滑稽なことなんだな」 「エルマァ、滑稽とはどういう意味だァ?」 「そのままの意味なんだな」 「二人とも、そこまでにして、ここを早く離れよう。追っ手が来てる」  さあ、この場所を離れよう。少し先を歩いていたアレックは三人に視線で告げた。三人は口を噤み足早にアレックを追いかけた。  とある、元シュヴァルツ王国領地の酒屋――アレックはとある人を待っていた。 「ジュリアちゃん、今日も綺麗で可愛いね」 「アレック、御託は良いわ。さあ、中に入って話をしましょう」  中は、流石、ノールオリゾン国に奪われた土地柄も反映され、人の出入りは少なかった。これは、好機と言えよう。 「で、話は何?」 「情報を売ってあげる。天使教の教皇――セラビムが、ノールオリゾン国と繋がってるわ」 「待って、売って欲しいとは言ってないよ。でも、その情報、どういう事?」 「とある、人に聞いたんだけど、教皇とノールオリゾン国の側近二人が会ってたのよ」  ジュリアはグラスの中に入ってた酒を飲み干し、告げる。 「ツツジも天使教もノールオリゾン国側よ? そんな中、エルマの予言は当たるかしら?」 「俺は、セレナちゃんを守るだけだよ。マスター、お代置いておくね」  アレックはそう言い、小銭を何枚か置き、ジュリアの方を見据える。 「レオン君と、ラルフ君は元気?」 「あり得ないぐらい元気だから、安心して」 「なら良かった。二人には心配かけてるからね。でも、心配しないでって言っておいて」 「心配かけない保証なんて何処も無いわよ。貴方、危険な立場なのよ? 仮初めの姫なんて……」 「そこまでだよ、ジュリアちゃん。そこまでだ……、幼なじみとはいえ、言っちゃ駄目だからね」  そう言うと、アレックは立ち去った。  ジュリアはその様子を見据え、見据え、呟く。 「アレック、貴方、どうしたのかしら? らしくないわよ」  ジュリアはそう言い、その場から立ち去ったのだった。  晩酌の時間。  いつも通り、ソレイユ邸では豪華なディナーが催される。  戦争で負けたというのに、豪華な食事が出来るのは、ソレイユ領主がノールオリゾン国に魂を売っているからだ。 「エイミー、ルイス様の事だが……」  領主である父の言葉に、エイミーは軽く頷いて見せた。  一度婚約は取り消しになったが、強硬なノールオリゾン国派を作るにはグローヴァー家第一子息であるルイスと、公爵令嬢のエイミーの婚約が必要だ。 「私より先に、エイミーは結婚するのですね。少し羨ましいですね」 「ローゼお姉様、お姉様はノエル様と……」 「実はこの間、破局しました。お父様、ノエルの事は諦めます。だから私も早くエイミーのように結婚し、家庭を持ちたいです」  ローゼは凜とした態度でそう言い、一口ワインを飲んだ――その時だった。 「うっ……!」  突然、ローゼは息を荒々しくし、もがき始めた。 「ローゼお姉様!」 「あ、ああああ、ああああああっ……!」  床に倒れ、暫く奇妙な動きをしたあと、ローゼは息をするのを強制終了させた。 「ローゼお姉様! ローゼお姉様!」  ローゼが飲んだワインには毒物が含まれていた。  犯人はすぐに分かる事になる。このワインを差し出した当本人――ノエル・クレイだ。  研究所を出ようとした所を、兵に止められ、ノエルは連行された。  もし、あのまま、エイミーがワインを飲んでいれば、エイミー自身危なかったかもしれない。  ノエルは過去の恋人を自ら殺めてしまった事になる。つまり、エイミー殺害の指令は実行出来なかったのである。 「オリジン……、この方が、私を、私を……」  姉の葬儀が行われ、検知した毒物――それは奇しくも、ルイスの父が殺されたものと同じだった。 「オリジン、か。エイミー、まさか、ダニエル様が?」 「恐らく、そうでしょう。シュヴァルツ王国三大貴族の中で、彼だけが、親シュヴァルツ王国側……、徹底的にマクスウェル家を追求しなくては」 「ああ、そうだよな。そのせいで、俺はイオンを失った」  イオンも、そしてノエルも、今はノールオリゾン国の牢屋で過ごしている。  だが、オリジンがマクスウェル領主のダニエルということを裏付ける証拠は今はまだない。  ルイスそしてエイミーは、事実究明のため動き出したのだった。  その頃。  マクスウェル家邸で、ダニエルは書類を片付けていた。 「ダニエル様、お茶をどうぞ」 「あれ、君は……、どこかでお会いしたことがあるね?」 「あ、え、えっと、私はありませんが……」 「あれ、気のせいかな? まあ、良い。名は?」 「アリア、と言います」 「アリアちゃん、分かった。覚えておくね」  アリアと名乗った少女――まさに、先日ダニエルを探りに天使教会から派遣されたモニカの事だ。  モニカは自分を気に留めてくれるダニエルと再会し、再び恋心を募らせた。  ダニエルは、モニカの幼少の頃世話になった青年だ。  モニカは浮かれ、ダニエルの寝室の掃除をしようとしていた時だった。 「ダニエル様、エイミー様暗殺は失敗やったな。これやと、ダニエル様の身が危ぶまれるで」  変わった口調の女が、ダニエルと会話をしていたのだ。  見るに、異の民――ツツジの里の者だ。 「少し、暫く様子見という事にするよ。焦ってしまっては、こちらが危なくなる」  その言葉を発したダニエルの形相は凄まじく恐ろしいものだった。モニカはそのダニエルの表情に、鳥肌を立たせ恐怖に感じた。  でもしかし、モニカはダニエルの事を信じていた――彼が、暗殺などするはずなどないと。  任務のことも忘れて、モニカはその場から立ち去った。その様子を、七瀬は見逃せなかった。 「あの子、天使教会からの子やで。気を付けりい」 「あの子が? アリアちゃんがかい?」 「あの子、本名はモニカ・ベレーナ。天使教会の神子やで。あんさんも天使教会から目を付けられるとはなあ……、悪行が有名になったんやない」 「七瀬ちゃん、忠告ありがとう。そうだね、気を付けるよ」  残念ながら、アリアちゃんは――モニカちゃんは、気に入ってたんだけどねと、ダニエルは付け足すや、自分の護衛兵にモニカを牢屋に連行するように命じた。  この事はしばらくの間、公にはされなかった――そう、しばらくの間は。 第二章 了
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