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 アリスは、優しい女の子だった。  いつも人のために、自分を犠牲にしてまで尽くす。そんな彼女に救われた人は大勢いるだろう。  しかし、そんな彼女を救う者は一人としていなかった。何故ならば、彼女を本当に理解している人はいなかったからだ。優しくて、明るくて、嘘がつけない素直で可愛らしい女の子。誰もがそう彼女のことを認識していた。実際は違う。計算高く、傲慢な少女だ。自分が救われたいがために、救いの手を差し伸べる。彼女は自分自身を天使の皮をかぶった悪魔だと認識していた。だからこそ、彼女は自分のことが嫌いだったし、鏡に映るワタシを嫌った。  そんなある日、鏡嫌いの彼女が珍しくワタシの前へ立った。 「正解が分からない世界で、何を言えばいいの?何を言ったら、どう動いたら、正しかったの?」  そう言う彼女は泣きながら笑っていた。 「まるで、ピエロみたい」  思わず口から零れた言葉に、彼女は目を丸くする。しかし、すぐに口許に笑みを浮かべると目を閉じて顔を上に向けた。まるで、大空の下にいるかのように気持ちよさそうな表情だ。 「そうね。私は、ピエロ。孤独で不器用なピエロ。誰かを助けても、自分は救われない運命のピエロ……」  そう言うと、彼女は楽しそうにくるくると回り始めた。  可哀想に。彼女はもう、壊れてしまっているのかもしれない。《自分が救われるため》に周りを救い続けた彼女に、天罰が下ったのかもしれない。神様は、きっと彼女の奥底まで見ていたのだ。彼女の奥底にある《身勝手さ》を、神様は許さなかったのだ。  そうでなければ、彼女が救われない理由が見つからない。彼女は自分の気持ちを抑えてまで、自分を犠牲にしてまで、多くの人を助けてきたのだから。“自分のため”と言いながら、人のために生きてきたのだから。  そう神様に嫌われた彼女を憐れんでいると、不意に彼女の視線がこちらへ向いた。気味が悪い薄ら笑いを浮かべている。 「ねえ、アリス。鏡の向こうの世界では、どんな私でいるの?」  その質問に、ワタシは静かに答えた。 「ワタシは君の生き写し。何も変わりはないよ」  その答えに彼女は悲しそうに一瞬笑うと、また楽しそうに回って踊り始める。  ごめんね、アリス。ワタシじゃ君を救ってあげられない。  ワタシは君を客観的に見る存在だ。君がもっと壊れて、君がワタシになっても、ワタシじゃ何も止められない。  アリス、自分を信じ続けて。きっと、その先にキミの光がある。信じなければ、報われるものも報われない。  さあ、すべてのネジが壊れてしまう前に、もう一度、自分を信じてみて。  君が消えて、ワタシになってしまう前に。
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