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 眠れない夜だった。  過去のことを、未来のことを、色々と考えてしまう夜だった。  考えることが嫌になって、考えることを放棄したくて、妄想の世界へと逃げる。しかしその現実逃避も一瞬で、気がついたらまた自分の嫌なところがぐるぐると脳内を巡っている。  そうしている内に、窓の外が明るくなってきた。鳥が朝の訪れを告げている。  もう、今日は寝るのを諦めよう。  私はそう布団から体を起こした。疲れが取れていないのか、少し体がだるい。  ふと時間を確かめようと枕もとのスマートフォンを見る。時間は朝の四時。昨夜かけたアラームの時間より三時間も早い。  眠れていない現実に苦笑いをしながらも、私の脳は再び思考を始めてしまった。  今の思考のテーマは、昨日電話で友人から言われた言葉だ。 『君は、自分をしっかり持っていてすごいよね。強くてうらやましい』  友人は私にそう言った。  本当の私を知らないくせに、知ったような口でそう言った。  本当の私は自分を失うことが怖いだけなのに。臆病な自分を隠そうと強がっているだけなのに。  だって、私は流されることが怖い。私が私じゃなくなるのが怖い。私にとって《自分》は、いつか消えてしまうんじゃないかというほど儚いものに思える。だから、とにかく唯一無二の《自分》でいなければ怖くて、不安になるのだ。  その一方で、そんな理想の自分になれなかった時、私は私を否定する。私は私を嘲笑う。愚か者だなって、馬鹿なやつだなって。  そうやって生まれた自己否定は夜の悪夢を生み出す。そうして、睡眠負債が重なっていく。  誰か、私の自己否定を受け入れてくれる人がいれば、また違うのかもしれない。なんて、まだ見ぬ誰かに期待している内は何も変わらないのだろう。  自分で乗り越えるべきなのかもしれない。  そこまで考えて、私は一度思考を停止すべくSNSを開いた。考えることに疲れると、いつもここに逃げてしまう。  そうして開いた画面、すなわちSNSのタイムラインに流れていた文字を見て、私は涙が出た。 『どんな君も君だ。その事実に変わりはない。だから、何も飾らずそのままでいいんだよ。そのままの君が好きだから』  私が欲しかった、言葉。  弱い私でも、いいんだ。そう思わせてくれる魔法の言葉。  心のしがらみが一つ、解けた気がした。  私はその言葉を打った人のプロフィール画面を見る。  その人は私のフォロワーさんのフォロワーさんで、普段は小説など趣味で物書きをしているようだった。  そっとその人のアカウントをフォローする。救われた言葉にお礼のメッセージを添えて。  
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