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 フクロウの鳴き声がここ一帯に夜が来た事を告げる。 「なァ、アレック。これから俺達は何処へ行くんだ? ウィル元帥の所か?」 「あったり前じゃない。ニコラ君、勘が鈍いね。そんなんで俺達この時代生きてけないよ」  セレナ達一行は、シュヴァルツ王国とリーフィ村の国境付近にいた。  そこで、ニコラは鈍い発言をアレックに伝えたのだ。 「まァ、元帥が俺のノールオリゾンの技術の腕を買われたんだがなァ」  ニコラはそう言い、セレナを見据えた。  自由から解き放たれたセレナはずっと、ずっと、夜空を見上げていた。  何もない自由の空。ニコラは、彼女には、普通のメカとして生きて欲しかったと思っていた。  だが、普通のメカじゃないからこそ、セレナの今があるのだ。 「セレナちゃんを見ているとさ、なんだか懐かしくなる。セレナ姫が、俺に良くして下さった事を」  セレナ姫、その言葉を聞いたニコラは微かにアレックから視線を外す。  セレナ姫は、エレン姫の姉である。  もう、既に病気で亡くなった王位継承権一位の姫だった。 「俺が小さい頃、悪いゴロツキに絡まれて、俺、怪我する寸前だったけど、セレナ姫に俺は守られたんだ」  アレックが小さい頃の話だ。  アレックは、セレナ姫によって窮地を救われた。その時から、アレックは今度こそセレナ姫を守ると誓った。  だが、運命は残酷にも、セレナを殺した。  重い肺結核を患い、死んだのだ。 「アレック、そんな事があったのかァ。お前でも純情に恋でもすんだなァ」 「ちょっと、恋だなんて。ニコラ君、勝手に恋愛だなんて決めつけないでよ。俺には到底結ばれない相手だったんだからさ……」  そう言い、アレックは目を閉じた。鮮明にセレナ姫の顔を覚えているアレックは、今でもまだ、セレナ姫に恋をしているのだろうか。 「今度こそ、守るよ。セレナ姫を。彼女は、セレナ姫じゃないかもだけども――」 「そういう話だったんだな」 「あ、エルマちゃん、聞いてたの。盗み聞きは良くないよ」 「まあ、だいたい、予想はしてたんだな。」  エルマはそう言い、ついでに立ち聞きしたのを詫びた。  しかし、そのエルマの顔はどう見ても暗い。 「じゃ、俺は寝るね」  アレックは、そう言いテントの中へ入っていった。 「エルマ、随分暗い顔じゃねェか。どうしたんだ?」 「未来が見えるのも、良いことだらけじゃないんだな」 「エルマ、何考えてたんだァ……」 「その……、確かに、あの予言は当たるんだな。これは自信を持って言えるんだな」  予言――シュヴァルツ王国が復興する。エレン姫の下で、復興するという事。 「だけど、ニコラ殿、アナタ達には悪いんだな……見えてしまったんだな。アナタ達の未来は……」 「……あァ、そういう事かよ」 「アレック殿には内緒にしてて、欲しいんだな。アナタ達二人、そしてセレナ姫は――」  見えてしまった幼馴染みの行方に、エルマは涙を零したのだった。 「ミツル、それは本当か? アニタさんが……、ここに来たって」 「本当だよ」  リーフィ村の一室。  ミツルが帰ってきて柚に零したのは、ツツジの首領の妻が来たという事実だ。  アニタは脅してきたのだ。エレン姫を殺せ。  さすれば、ツツジの里に帰れるという。 「そんなこと、出来るか。エレン姫はとても良い人だ。俺にでさえも、笑顔を向けてくれたじゃないか」  ツツジの里ではいつも肩身の狭い思いをしていた柚にとって、エレンの笑顔は眩しいものだった。 「じゃあ、姉さんは、ツツジの里を裏切るの?」 「ツツジの里は何をしてくれた。親や俺達を蔑ろにしてたじゃないか。裏切るも何も、あの場所に俺達の居場所はもう無いよ」  それを聞いて、ミツルはそんな柚に憤りを感じた。  自分はツツジの里に帰って、暮らしたい。それなのに。 「姉さんは裏切るんだ」 「ミツル、エレン姫を殺すのは止めろよ。そんなこと俺が許さないぞ」 「ボクは、ツツジの里に帰りたいよ、帰りたいんだよ! 姉さんの分からずや!」  そう言い、ミツルはその部屋から立ち去った。  その夜。  ミツルは、エレンが身を寄せている家へ向かった。  毒の入った、饅頭を手にして、向かった。  しかし勿論、そんな容易く、エレン姫を殺される訳がなく。  ミツルは、その場で捕まり、柚と一緒に、親シュヴァルツ王国派のマクスウェル家の牢屋に収監されたのだった。  マクスウェル家の一室。  今日も、あの七瀬と話す事になっている。 「今日は、紅茶を入れてくれる人はいないんだね」  ダニエルはそう言い、自分で紅茶をカップに入れ、紅茶を飲み干した。  最近では、紅茶を入れるのはアリア――モニカの役割だった。  あの子が、未だ、天使教と繋がっていて、自分を欺いてたとは思えない。  彼女の目はとても純粋だった。まるで、自分に憧れを抱いていた――そう思っていたのに。 「今日はツツジの里の人が収監される日か。まさか、ツツジの里がノールオリゾン側だったとはね」  となれば、七瀬は、それが嫌で、自分の下にいるのだろうか。  詳しいことは、まだ、聞かないでおくが。 「ダニエル様、なんか考え事なん?」 「ああ、七瀬ちゃん。そうだね、ちょっと、君の事を考えてたよ」 「うちに気があるん?」 「まさか。そんな意味じゃないよ」 「それより、ダニエル様。情報屋のお姉さんから聞いたんやけど、エルマさんの予言ではな、このシュヴァルツ王国は復興するで」  情報屋――ジュリア・アレンゼの事だ。  ダニエルは、その言葉を聞いて、口元が緩む。これこそ望んでいた事実だ。 「エルマさんの言葉は効力があるけえなあ。うち、それ聞いて、ますますあんたに尽くしたくなったわあ」 「そう」 「でも、これで、あんさんがシュヴァルツ王国の第一貴族になるのは間違いないで」 「そんな事、考えてないよ。僕はただ、王様の治めていたシュヴァルツ王国を復興させたいだけだ」 「嘘、ばっかりやんなあ。まあ、うちもそんな感じであんさんに付きおうたし、これからもよろしゅう頼むなあ」  七瀬は薄笑いをしたあと、ダニエルの部屋を後にした。  ダニエルの家は、シュヴァルツ王国第三貴族だ。シュヴァルツ三大貴族の下位にいるのに、一番忠義を尽くしてきた。  まさか、ソレイユ家、グローヴァー家がノールオリゾン側にいるとは。でも、これは好機だ。  エルマの予言もある。これでもって、マクスウェル家を盛り立てていかなくては――ダニエルは、今は亡き父に誓ったのだった。 「ウィル元帥、それは誠の話ですか」 「ええ、セシル騎士団長。実はですね、ツツジの里とノールオリゾン国が繋がっているのですよ」 「それは由々しきことになりましたね」  密談とも言える密談。  リーフィ村で身を寄せていたセシルの家に、ウィル元帥がやって来たのだ。 「あ、こんにちは。これどうぞ」  そう言い、菓子と茶を持ってきたのはセシルと結婚したばかりのアリスだった。 「貴方は確か、シュヴァルツ王国の歌姫様でしたね。また貴方の歌、聞きたいですね」 「今はもう、隠居の身です。それに今のご時世です。エレン姫様の事を思うと、歌うなんて贅沢ですよ」 「私は歌って欲しいですね。今すぐにでも、エレン姫様の心を歌で癒して欲しいですよ」 「勿体なきお言葉、身に染みます」  そう言った後、アリスはその場から立ち去った。 「で、ウィル元帥、まさか……」 「ええ。ツツジを攻める準備をして欲しいのですよ。詳しいことはこの書類に書いてあります」 「分かりました。準備致しましょう」  ウィルを見送った後、セシルは何か心に支えるものがあった。  もう、戦場には戻らないつもりだったが、やはり血が騒ぐのは騎士としての誇り、シュヴァルツ王国の忠義があるからだろうか。  とにかく、兵を集めなくては。セシルはすぐに行動に移したのだった。  しかし、この内密の会談の内容が、すぐに、ノールオリゾン国に知られる事になった。  アリスはセシルの帰りを待っていた時だった。ドアを叩く音が聞こえる。来客だろうか。  アリスはドアを開け、訪問客を確かめた。 「あ、ユウ様!」  アリスの家を尋ねたのは、天使教の神子――ユウだった。  ユウだと分かると、アリスは何も疑いなく部屋に入れたのだった。  お茶を入れてくると一言残すと、アリスは台所へ向かった。  それはユウの好機だった。ユウは、すぐさま、セシルの書斎へ向かった。  何か、シュヴァルツ王国が動きを見せているかもしれない。それを探りに、ユウはここに来たのだ。  しかし、セシルの書庫は厳重に鍵がかかっていた。 「ユウ様、何をされていらっしゃるんですか?」  アリスは入れてきたお茶を床に零しながらも、ユウの動きを制止した。 「流石に無理はありましたか。これも天使教の神子の勤めですよ」 「どういう、勤めですか。主人の机を漁るなんて。こんなの……、セラビム様が許さないはずです」  そのセラビムが自分に命令し、この家に向かわせた事など、アリスは知らないだろう。 「アリスさん……、貴方は天使教の信者ですよね。俺の信者、ですよね」 「ユウ様。なにが、言いたいの、ですか……って……んんっ……」  アリスの唇をユウが塞いだのだ。  アリスはすぐに払いのけようとしたのだが、ユウという男の力には敵わなかった。 「ユウ様、止めて下さい。止めて下さい。これが、天使教の信仰、なのですか……?」 「ならば、アリスさん。もっと分からせてあげますよ。」 「いや、嫌だ……セシルさん……!」 「貴方は天使教の信者。神子の言う事は絶対ですよ。止めて欲しいのであれば、書庫の鍵のありかを教えて下さいね」  ユウはそう言い、アリスを押し倒す。そして、ユウとアリスはそのまま行為に及んだのだった。  身も心もずたずたにされたアリスは思わず、鍵のありかを吐いてしまったのだった。  それは、セシルがいなかったのが不幸中の幸い、幸い中の不幸だったのだろう。  元シュヴァルツ王国郊外。  ジュリアは今日も情報を集めていた。シュヴァルツ王国が復興する少しでも手立てをしたかった。  情報屋の立場上、それは微力たが、少しでも力になりたい――シュヴァルツ王国の国民として  ジュリアがそう己を奮い立たせた時だった。 「間者、かしら。もしや、貴方は、香月、真理奈?」 「ふふ、流石、情報屋。貴方が色々動いている事は、調査済みですよ」  ツツジの情報網を舐めていた。  ジュリアは唇を噛み、悔しさを露わにする。 「カイ様、この者をツツジの里へ連行します」 「はいよ、真理奈姫」  そう言い、カイはジュリアの手首を縛る。ジュリアは自由が利かなくなってしまった。 「何が目的かしら。私は情報屋のはしぐれよ?」 「とぼけないで下さい。ノールオリゾンに不利になる情報をばらまいているのは、貴方というのは知っていますから」  真理奈はそう言った後、ジュリアを馬車に乗せた。 「真理奈姫、でも、占い師・エルマの予言は当たるんだろ?」 「ええ。当たるらしいのですよ。その事を、彼女はツツジの里で吐いて貰う予定ですよ」  例え、痛め付けても――真理奈の目はこの先の闇を見据えていた。 第三章 了
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