フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 朝の鳥が悲鳴を上げ、飛んでいく。  その様を、ずっと、ずっと、エレンは見ていた。  先日、ミツル・カヅキが自分を殺そうと毒入りの饅頭を拵えて来た。  事無きことを終えたが、その事にエレンは胸を痛めていた。 「エレン姫様、ここへいらしていたのですか」 「あ、ウィルさん」  そこに、シュヴァルツ王国の元帥だったウィルがやって来る。  ウィルの目にはまたもや隈が出来ていた。 「ずっと最近、ウィルさんは考え事をしていらっしゃいますが、どうされたんですか?」 「エレン姫様、貴方様はただ、シュヴァルツ王国の事を考えていて下さいね」 「ウィルさん、私は考えています。必ずやお父様の遺言を果たすつもりです」 「エレン姫様。私達は、その為に動いているのです。貴方はただ前を見据えていて下さい」  ウィルはそう言い、振り返る。すると、自分の弟――フェイが自分とエレンを見据えていたのを知った。 「あ、フーくん!」 「兄上の前だ、エレン姫様。全く、勝手に出歩くのはいい加減にしろとあれ程言ってるだろ!」 「あ、ごめんごめん」 「本当に思ってるのか? 全く、俺の苦労も分かってくれよ」  フェイが苦言をするや、エレンは大丈夫とだけ言って、フェイとウィルから少し離れた場所で朝の空気を吸った。 「兄上、私は思うのです。エレン姫はこのまま、何も重みを持たず生きて欲しいと。それは、姫護衛騎士として間違った考えなのでしょうか?」 「フェイ、そうですね。私が行っている行動からすれば、それは裏切りに等しいです。でも、その気持ちも分かりますよ」 「兄上……、私は、エレン姫様には普通の幸せを抱いて欲しい。本音を言うと。だけど、だけど、シュヴァルツ王国を復興して欲しいのも事実なのです」  それは護衛騎士として悩ましき思いだった。兄も周りの者も、シュヴァルツ王国の為に動いている。  やはり、これは、裏切りなのだろうか。 「フェイ、貴方は変わらないで下さいね。純粋に、エレン姫様を守るのです」 「兄上……」  ふと、フェイは頭を過ぎる事があった。  自分の兄は、まさか、倫理的に良からぬ事をしているのではないかと。  いや、それは間違いだ。兄が国の為に下の者に命じ、間違ったことをしているのではないかと。  まだ、フェイは知らない。純粋に姫と国を思うフェイの裏側で、行われている数々の出来事を未だ知らぬままでいた。  それは昼時だった。  ミーアは急いで買い物から帰ってきた。ある噂を聞いたのだ。 「ねえ、ラルフ、レオン。嫌なお知らせがあるわ」  自分の息子であるラルフと、その息子と遊ぶためにやって来たレオンは慌てて帰ってきたミーアに驚く。 「実は、ジュリアがツツジの里で拷問を受けているって話よ」 「は、ジュリアがか? なんで、ジュリアが……あいつ、危ない話に乗っかりでもしたか?」  ジュリアに少し好意を抱いていたレオンは、ショックを隠しきれない様子だった。 「実は、母さん。俺も、言わなきゃならない事があるんだ」 「ラルフ、どうしたの? そんなに改まって……」  ミーアは、そう言い息子を見据えた。すると、ラルフは重い口を開いた。 「シュヴァルツ王国騎士団から招集礼状が来た。俺は戦場に行かなきゃならない」 「はああああ? お前、ケーキ屋になるつもりじゃなかったのかよ!」 「どうやらケーキ屋にはなれないみたいだ。ツツジの里を襲撃するとの、元帥閣下の命だ」 「ラルフ……、そんな、やっとずっと一緒に暮らせると思ったのに……」  まさか、こんなに早く、シュヴァルツ王国復興の狼煙が上がるとは。  しかも、ツツジの里は元シュヴァルツ王国の領地だったではないか。今は、何やらノールオリゾン側に付いているが。 「セシル騎士団長には良くして貰った身だ。裏切ることは出来ない」 「ラルフ、分かったわ。それが貴方の選ぶ道なら私は応援するわ」  ミーアはそう言いながらも、自分の偽りの言葉に吐き気がしてしまいそうだった。  本音を言えば、大事な一人息子を戦場に行かせたくない。養子のノエルはノールオリゾン国に捕まったままだし、不安を抱えたまま一人になるのはもう嫌だ。  民衆の言葉は無力にしかないのか。ミーアは無念を抱いた。  リリアンはマクスウェル家領主の家に忍び込んでいた。  理由は簡単だ。同志のモニカを牢獄から出す為である。  鍵はこっそり同じ物を作って持ってきた。  あとは、モニカを救出するだけである。 「あ、リリアン……どうしたの……?」  牢屋にいたモニカは酷く痩せていた。  おそらく、まともに食事をしていないせいだろう。 「馬鹿モニカ、あんたを助けに来たのよ!」 「リリアン、ありがとう……」  こうして、モニカはリリアンによって、救出された。  しかし、肝心のモニカは天使教の本山であるリーフィ村に帰っても、口を閉ざしたままだ。 「モニカさん、吐いて下さいませんね。何も。きっとマクスウェル家で辛い事があったのでしょう」 「そうですね。リリィ様……、あたし、許せないです。あのマクスウェル家の領主の事……」  続けざまに、リリアンはマクスウェル家領主に苦言した。 「モニカの事もそうですけど、澄ました顔して、良からぬ事をしているって噂でしょ! お金で物を言ってるものじゃないですか。そんなの許せない!」 「リリアンさん、口が過ぎます。でも、確かに、マクスウェル家のやっている事は度が過ぎていますね。ダニエル・フォン・マクスウェル……ただ者ではないですね」 「あたし、モニカの敵を取る為ならなんでもやりますから! いつでもご用命を!」  そうリリアンが告げるや、リリィはリリアンに下がるように伝えたのだった。  天使教の教会の一室。  そこで、少年――ユウと、天使教会の教皇である老爺――セラビムが話をしていた。 「そうか。シュヴァルツ王国が生意気にも、ツツジの里を襲撃か……」 「ええ。その書類にはそう書かれています」  先日、騎士団長の部屋を漁った時見つけた書類を、ユウはセラビムに手渡した。 「今すぐにでも、ノールオリゾンやツツジの集落に伝えるべきでしょう」 「ああ、そうだな。さすれば、我らの信頼は得られるだろう」  ご苦労だった、それだけセラビムはユウに告げる。  それを聞いたユウは、そのまま部屋を後にしたのだった。  ユウはその後、教会の掃除をメリルと一緒にしていた。これも、神子であるユウの勤めだ。  今一室にいるのは、ユウとメリルだけだ。他には誰もいない。 「ねえ、ユウ。君、何か良からぬ事をしているんじゃないよね?」 「それは、どういう事ですか。メリルさん……?」  メリルに告げられ、ユウはずきんと胸が痛んだ。  先日、アリスに暴力を振るった事が思い起こされる。  自分でもよく分からなかった。神子という権力支配により、思うがままアリスに暴力を振るってしまった。  それは自分の汚い本能のせいかもしれない。 「君、噂になってるよ。信者であるアリスさんを強姦したんだって? 神子の分際で、そんなことをするの?」 「……メリルさん、何が言いたいのですか?」 「僕はね、思うんだ。天使教なんて嘘っぱちって。そんな事をした君にも、それを命じたセラビムにも嫌気が差すよ」 「メリルさん、貴方も神子ですよ。セラビム様の言う事は絶対です」  ユウはメリルに、そして自分に言い聞かせるように告げる。 「さあ、どうだろうね?」  メリルは笑みを浮かべ、告げた。その笑みが、ユウにとっては背徳心を突き刺すような感覚だった。  リーフィ村に、セシルが帰って来た。  久々にシュヴァルツ王国に帰ってきたが、既に街はノールオリゾン国のものだった。  セシルはその事に危機感を抱いた。このままでは、形勢逆転など不可能だろう。  家に帰ってくるや、家は荒らされていた。  そして、家に残していた妻――アリスは魂が抜かれたような状態だった。 「私の神様は死にました」  セシルがアリスは話しかけるや、アリスはその事しか告げない。  よほど、ショックな事があったのだろうか――セシルは魂の宿らない妻を抱きしめる事しか出来なかった。  数日後、セシルが知った事だが、神子が自分の妻を寝取ったというのだ。  その事実を聞いた、セシルは天使教に怒りを覚えた。そして、妻に何も出来ない自分に怒りを覚えた。  ツツジの集落を襲撃するための報告を、ウィルにしたセシルはこうも告げた。 「アリスは、辛い思いをした。私は何も出来ない自分が悔しくて仕方ないのです。今すぐにでも、己の剣で、天使教を滅ぼしたい。妻を傷付けた天使教を……」 「どうやら、天使教とノールオリゾン国が繋がりを持とうとしていたのですね」  ウィルは冷静に、冷静に分析をした。  神子・ユウは己の意思だけで、情報を収集したとは思えない。神子の上には教皇がいる。  恐らく、ノールオリゾン国に信仰を広めようとした、セラビムの策だろう。  これは、天使教を信仰しているエレン姫に対しての冒涜であり、反逆である。  ならば、天使教を滅ぼすしかないのか――ウィルは、そう決断した。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行