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 ノールオリゾン国城。  一人の剣士と、一人の銃士が訓練に明け暮れていた。 「ニコラ君、そんな隙だらけじゃ、敵にやられるよ?」 「馬鹿アレック、てめェの剣の使い方荒いんだァ。少しは練習しなァ?」  フェルナンドの命により、ツツジの里の襲撃が行われる。  その為に、兵士達は訓練しているのだ。 「ニコラ君、なんか目に隈出来てない?」 「気のせいだァ、アレック」  訓練の休憩時間。  アレックはふと、ニコラの眼鏡越しに見える隈を指摘した。  しかし、気のせいだとニコラは言い、口を濁した。  先日の夜の事。  ニコラはとある商人に金を渡していた。 「これで、密売を頼むぜェ?」  ニコラは金で、商人を買っていた。 「ふふふ、麻薬を密売するなんて、貴方も悪ですな……」  商人は薄笑いし、その事を承諾していた。  ニコラは考えた。  麻薬をノールオリゾン国民に売り、麻薬を国民の間で流行らせる。  上手く行けば、莫大な医療費がかかり、ノールオリゾン国の国政が少しだけだが危うくなるだろう。  全ては、シュヴァルツ王国の為。  セレナの願いなら、親の自分は毒になる――ニコラはそう誓った。  マクスウェル邸。  その場で、エレンは目が覚めた。確か、女性に菓子をもらって食べた瞬間、気絶した――なんとか自分は無事だったようだ。 「エレン姫様、大丈夫?」  エレンが倒れたと聞いて、夫であるダニエルが駆けつけた。  良かった、とダニエルは安堵した。 「いない」  ふと、エレンは気付く事があった。  お腹の子がいない、その感覚をエレンは知った。 「ダニエル様、いないの。赤ちゃん、いない……」 「エレン姫様、守れなくてごめん」  ダニエルはエレンに胎児がいなくなった事を告げる。  混乱しているエレンを、ダニエルは抱きしめるし事か出来なかった。 「ダニエル様、私がいながら、申し訳ありません」  フェイはエレンの子が流れた事に責任を感じていた。  あの時、目を反らしていなければ、人の不振な動きに気付けていたのに。 「君を責める事は、多分、エレン姫様が望んでいないよ」 「ですが、ダニエル様……」 「でも、今は……ごめん、君の顔を見たくないかな」  ダニエルはそう言い、フェイの元から離れる。  自分は何という事をしてしまったのだろう――エレンに合わせる顔がない。  フェイはその事に悔やむしかなかった。 「セシル騎士団長、少しよろしいでしょうか?」  先日、ツツジの里と軍事同盟が結ばれた。  それを受け、セシルは騎士団の特訓を強化していた。  今度こそ、あのツツジの里襲撃のような醜態は晒したくない。  それは、襲撃で死んでいった仲間達の為でもある。生き残った者であるセシルの役目。 「なんだ、ラルフ」 「ダニエル様が、来られています」  そっと、ラルフは視線でダニエルの方を見た。  一体、何の用だろう――疑問に持ちながらも、セシルはダニエルの方へ向かった。 「ダニエル様、一体何のご用で?」  ダニエルの執務室――そこは、いつも使用人のモニカによって、綺麗にされている。 「実はね、一緒に敵討ちをしたいと思って」 「それは、どういう意味で……?」 「君、奥さんを奪われたとか」  いつの間に、アリスと別れた事を知られたのだろうか。  きっと、何も関係の無いダニエルにも知られているぐらいだ。騎士達の間でも噂が立っているのだろう。  神子・ユウに最愛の妻を奪われた事を――あまり公にはしたくなかったが、こう噂が立っている以上、仕方の無い事かも知れない。 「僕もね、子供を失ったんだ。エレン姫様が、可哀想でやれない」 「それはお気の毒に……。それと私の事と何か関係があるのでしょうか?」 「どうやら、天使教が関わっているみたいなんだ」  天使教――セシルの逆鱗に触れたあの邪教。  あの邪教は自分の妻を奪っただけでなく、エレン姫の子供まで殺したのか。セシルはダニエルの物言いから感じる怒りを察した。 「どう、仕返しをしようか悩んでいる。良い策があったら、教えてくれると嬉しい」  ダニエルは真剣な物言いで、告げる。  最愛の者を奪われた悲しみは、計り知れないものだ――セシルはそっと考えを張り巡らせた。  フェイはあの一件から、エレンと距離を置くようになった。  エレン姫に申し訳ない気持ちでいっぱいだからだ。 「エレン姫様、あまりはしゃがれると、転ばれますよ?」 「フーくん……」  エレンは立ち直っているとは言えないが、少しずつ元気を取り戻している。  その強さがとても儚く思う。自分は当事者じゃないのに、こんなにしょげている。  これも国を担う者の強さだろうか。 「あんさん、どうしたん? 元気ないで?」 「七瀬、いや、ちょっと色々あって……」 「あんたが元気ないと、エレン姫様も元気なくなるで?」  七瀬はそう言い、肩を叩いた。 「無茶言うな。エレンになんて顔向けすれば良いのか分からないんだ」 「いつも通りでええと思うで?」  いつも通りで良いと言われても――どうすれば、そう考えてた時だ。  エレン姫が不思議そうに自分を見つめている。 「あのフーくん、その……、貴方がそんな風に私を避けると、どうして良いのか分からなくなるよ」  そうエレンは言い、悲しく笑う。 「私のこと、避けないで……。お願いだから、避けちゃ嫌だよ」 「エレン姫様……」  じゃあ、どうして悲しく笑うのだろう。  エレンの言葉の意味を、フェイは未だくみ取れないでいた。  ツツジの里。  真理奈は、ノールオリゾン国がツツジの里へ進軍している知らせを受けた。  シュヴァルツ王国軍もこちらへ向かってきているという。 「皆、必ずや、ツツジの里を死守しますよ」  新首領の真理奈が声を荒上げると、ツツジの里の兵達は士気を高める。  こうして、ツツジの里を守る戦いが火種は切られたのだった。  ツツジが燃える――あの幼い頃の思い出をもう抱きたくない、最愛の者を奪われたくない。  玲は真理奈の方針に疑問を持っていた。  何故、ノールオリゾン国を裏切る必要があったのか。あんな強国を寝返って里の利益になんかならない。  だが、思えば、いつまでも、シュヴァルツ王国を襲撃された事を、思い起こしてはいけないような気がする。  後ろ向きなのは、きっと、この里の為にも良くないと思う――玲は感じていた。  ノールオリゾン国によって家々に火が放たれる。  民家が次々、火の海になっていく――折角、復興したばかりだというのに、また――真理奈は自分の選択が間違っていたかのような錯覚を覚える。 「真理奈姫様、後悔ですか?」  カイは神妙な面持ちの真理奈に告げる。  やはり、シュヴァルツ王国軍と手を結んだとはいえ、こちらは小さな里――強大なノールオリゾン国には敵わないのだろうか。 「いえ、我が軍もシュヴァルツ王国軍も、敵陣に切り込んで行っています」 「……そうですね。勢力は五分五分という所でしょうか」  大丈夫、真理奈はそう一言告げるや、カイは情勢を真理奈に告げる。 「真理奈姫様、シュヴァルツ王国を寝返りますか?」  そして、カイはまさかの一言を告げる。先代の首領である玲がやって来た手法。 「そうすれば、忠義が揺るぎます。私達の、ツツジの里の忠義を、ノールオリゾン国にもシュヴァルツ王国にも見せつけたい」 「だと、思いました。真理奈姫様」  幼い時から一緒にいるが、真理奈姫はやはり芯の強い女性だ。  その女性に、カイは心から惚れ、心から尊敬していた 「貴方の事は、この俺が護ります。必ずや、ノールオリゾン国に勝利致しますよ」 「ええ。カイ様、必ずや、勝利を我が手に!」  そう言い、真理奈はツツジの里の兵を信じ戦いを続けた。  この戦いは手応えがある。以前のツツジの里の襲撃とは比べられない物だ。  騎士団員のラルフはそう、思っていた。 「ラルフさん、こっちは俺に任せろ!」 「ああ、よろしく頼む」  ラルフは賢明に指揮を執っていた――その時だ。  目の前にいる男の存在に驚いた。 「お前は、アレック……」  どうして、敵兵の格好をしているのだろうか。  アレックは行方不明になっていたが、まさか、シュヴァルツ王国を裏切っていたとは。  あの男の事はよく分からない。  幼馴染みでもあるが、アレックの考えていることがいつもラルフは読むことが出来ない。 「あ、ラルフ君。やば、すごく気まずい」 「お前、どうして、エレン姫様を裏切った?」  ラルフはアレックを睨み付け、告げる。  すると、アレックはラルフに澄ました笑顔をし、応じた。 「俺が最初から仕えているのは、セレナ姫だよ?」 「何を言う、セレナ姫はもう……」 「ちゃんと、セレナ姫はいる。仮初めの姫なんかじゃない」  アレックは未だ、あのロボットを姫だと敬っているのか。  その姫の忠誠心は、どこかラルフの心を打つ。 「セレナ姫の為なら、何だってする。それが俺のモットーなんだから」  アレックはそう言い、その場から去った。  ラルフはその様子を黙って見据えていた。あの男はどうして、セレナ姫を好いているのだろうか。  その深さには、呆れるぐらい尊敬した。  情勢は変わった。今や、自分達の勝利目前である。真理奈はそう自負した時だった。  香月家の屋敷が、ノールオリゾン国によって破壊されていく――炎が燃え移った。 「兄様!」  屋敷の中には、兄である玲がいる。このままでは、玲が焼け死んでしまうだろう。  きっと、妻のアニタを深く愛していた男だ――きっと、焼け死んで天国へ逝こうとでも考えているだろう。  誰もが、玲の死を悟った――その時だ。 「兄様、無事ですか?」  なんと、シュヴァルツ王国軍が玲を連れ出してくれたのだ。  それを見て、真理奈はシュヴァルツ王国軍の忠義の深さを感じた。  やはり、この同盟国を信頼して良い。  自分達も、このように、なりたい――真理奈の思う国の形だ。 「セシル騎士団長、何故、私を助けた?」  玲を助けよと指示したのは、シュヴァルツ王国軍の騎士団長であるセシルだ。  玲は、セシルに尋ねた。 「ウィル様に、言われました事を実行しているだけです。我が軍は忠義という深い信念があります。それに……」 「それに……?」 「我が軍は、同盟国ではありませんか。いつまでも啀み合いは良くない」  セシルから感じる忠義の深さ――それに、玲は気付かされた。  やはり、いつまでも後ろを向くのは良くないのだ。  それに、もし、シュヴァルツ王国がノールオリゾン国を攻めるなら、今度こそツツジの里の忠義を見せたい。 「アニタ、私は、変わらなければならないのかもな」  玲はそう言い、亡き妻であるアニタに誓う。  真理奈と共に、ツツジの里を盛り立てていきたい――アニタが見せた玲への忠義のように。  玲は誓ったのだった。  ツツジの里とシュヴァルツ王国軍は、敵国であるノールオリゾン国に勝利した。  この勝利の気運は、まだ止まない。  ノールオリゾン国軍がシュヴァルツ王国軍に惨敗した。  その噂は、瞬く間に世界に轟く事となる。  アレックとニコラは、例え心はセレナにあるとしても、自軍の負けに少しだけ悔しい思いをした。  だが、自分達はノールオリゾン国に刃を向けながら歩いている。  その刃を鋭くして、セレナの願望を叶えたい――その一心で、自分達は歩いているのだ。  ノールオリゾン国城で、国王であるフェルナンドは兵の報告を受けていた。  今や国民は麻薬に酔っている。  この国の国民は毒されたのだ――何者かによって。  その事にフェルナンドは心を痛めていたし、莫大な治療費がかかっている事を杞憂した。 「はて、ニコラ・オルセンとは……?」 「確か、新米の騎士の名です。どうやら彼が、密売に関わっているようでした。商人が言ったので間違いないと」  その陰謀者の名に、ニコラの名が上がった。  フェルナンドはニコラを尋問せよと、命じた。 「セレナちゃん、今日、ニコラ君、見ないんだよね。何処行っちゃったのかな? 逃げ出しちゃったりして」  いつも会うニコラ姿がない事に、疑問視していたアレックはふと、セレナと会うやそう告げる。  セレナはそっと、アレックを見据えた――両目が潤んでいるように見えた。どうしたのだろう。 「ニコラ、苦しい、尋問、受けて、いる」 「じ、尋問? 一体どうしたの? ニコラ君が何したって言うの?」 「麻薬密売」 「麻薬、密売……だって?」  アレックはセレナの言葉に驚き、言葉を失う。  アレックはニコラが勝手に行動を移していた事を知る。あの男、自分に内緒でそんな行動をしていたのか――何故、気付いてやれなかった。  アレックは後悔の念でいっぱいだった。  アレックは急いで尋問部屋に向かった。  ニコラの体は鞭の痕が沢山あった――あの鋭い鞭で何回も打たれたのだろう。 「ニコラ君!」 「アレック、悪りィ……、しくじってしまったぜェ……」 「何で、そんな事……」  アレックはニコラに近付く。すると、ニコラは笑って告げる。  とてもじゃないが、笑っていられる状態では無いのに、何故、彼は笑っていられるのだろう。  早く尋問が終われば良い。ニコラに疑いの目を向けなくなれば良い――アレックはそう願っていた。  それなのに。 「ニコラ・オルセン、お前が麻薬密売していた証拠が出てきた。もう言い逃れが出来ないぞ!」  紙切れには確かに、ニコラの筆跡で麻薬密売の契約をしていた。  もう、逃げられない事実――ニコラは微かに笑う。あの時、契約書も消しておくべきだった。 「ニコラ・オルセンを、処する。アレック・リトナー、付いて来い!」  そう言い、ニコラをアレックを騎士達は処刑場へ連れて行った。  北国の風が吹き荒れる。  ノールオリゾン国の処刑場はとても殺風景だった。 「アレック・リトナー、こいつを殺せ。これは命令だ」  騎士の命に、アレックは体が強ばる感覚を覚えた。  恐らく、自分がニコラとよく連んでいたからだろう。  この国は最悪の方法で、ニコラを殺そうとしている。  アレックは言われるがまま、ニコラの前へ向かった。  ニコラはじっと、アレックを見据えている――その瞳は、とても澄んでいた。 「アレック、斬れよォ。お前の立派な剣術で」 「ニコラ君、今、俺がどんな心境か分かってるの?」 「分かってる訳ねェだろ」 「ニコラ君……」  この男は、死ぬ前でも自分に罵声を浴びせるのか。 「アレック・リトナー、こいつを殺せ」  騎士達はそう言い、ニコラを斬れと命じる。  ここで、彼を斬らなければ、自分も恐らく――この城にいられなくなるだろう。  それだけは避けなければならない。セレナの為だ――アレックは長剣をニコラの心の臓に突き刺した。 「アレック……、上出来だぜェ……」 「ニコラ君……」  傷口から、血が溢れていく。  それでも尚、ニコラは笑っている――憎いぐらい愉快に。  騎士達は、ニコラがやがて死ぬと察したのかその場から立ち去った。  その瞬間、アレックはニコラを抱きかかえる。 [*label_img*] 「おい……、アレック……。笑って、見届けてくれよォ……、テメェの、泣き顔を……、見るのは、ごめんだぜェ……」 「ニコラ君の馬鹿、こんな時まで、笑ってられる? 俺、そんな無神経じゃないよ?」  アレックの涙がぽたぽたと、ニコラの傷口に染みていく――相棒はこんなにも自分を思ってくれる。  それが、唯一、悔しい事だった。 「アレック、お願い、だァ……、セレナを……、頼む……」 「ニコラ君――」  そう言い、ニコラは笑いながら逝った。  親友である、片割れの胸に抱かれ、死んでいった。  奇しくも、ニコラは故郷の国によって殺されたのだった。  ニコラが付けたノールオリゾン国の傷は、やがて彼の国を滅していくだろう。 第九章 了
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