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「ニコラ、殿……」  エルマの水晶玉が少しだけ亀裂が出来る。  エルマは、幼馴染みに起きた出来事を噛み締めた。  彼は死んだ。  故郷・ノールオリゾンで、親友に殺された。  やはり、彼を止めるべきだったか。  運命に抗っても、止めるべきだった――エルマは後悔しかない。 「ニコラ殿……、すまないんだな……」  エルマは泣き崩れ、声を荒上げて泣いた。  予言者としての自分を恨むしかない。  この時ばかりは、いや、これ以降も、エルマは恨み続ける――不運の予言を。 「ツツジの里での活躍、見事だったよ」  ダニエルはセシルを呼び、彼や彼の率いた軍の活躍を激励した。  ダニエルは彼らの活躍を信じていたが、この気運を加速し、シュヴァルツ王国の立て直しが上手く行けば良い――そう思った。 「ところで、考えてくれたかな?」 「ええ」  セシルのは宿題が出されていた。  二人の憎き天使教に仕返しする方法を――セシルは、重い口を開いた。 「私は、天使教を滅ぼしたいと考えています。あのような邪教、存在すら許さない。火災を起こそうかと」  総本山にある天使教の関連した建物を、燃やす――セシルは、天使教の存在を消してしまいたかった。  その言葉を聞いて、ダニエルはなるほど、と相槌を打った。 「あの宗教は存在してはならぬのです」 「そうだね。あの宗教は、人を不幸にする。エレン姫も君も……僕も、不幸になった」  例え、シュヴァルツ王国が悪名を轟かせても良い。  あの宗教は、エレン姫を裏切ったのだ。その代価を払わなければ――その事が内密に準備された。  マクスウェル領の住宅街。  ラルフは先日の戦から戻ってきた。  レオン、ミーアそしてジュリアは、シュヴァルツ王国の勝利を喜んだ。 「このまま勝てば、シュヴァルツ王国の立て直しが叶うんじゃねえか?」 「そうね。エルマの予言の事もあるわ」 「あ、そうそう。エルマの予言の事なんだけど……」  ミーアは、先日、エルマの予言の事を思い出した。 「私達で軍を革命する方法ってあるかしら?」 「母さん、それはどういう事だ?」 「私の近くにいる人が、軍の革命を起こすってエルマは言ってたのよ」  自分達の周りに、そのような人物など――そうミーアは悩んでいた時だった。 「レオン、私思うのだけど、前くれた拳銃……どうしたの?」 「俺が作ったぜ」 「貴方、拳銃はノールオリゾン国の技術よ。何で知ってるの?」 「え、いや、亡き親父がノールオリゾン国の技術を持って帰ったんだぜ?」 「もしかして、レオン、お前なのではないか?」  行き着いた答えにラルフは確信する。  シュヴァルツ王国は騎士の国と言われている。剣で忠義を守ってきた。  しかし、もう剣は古いのかもしれない  古くから伝わる伝統を守ることも必要だが、革命を起こす事も大事だ。  ラルフは軍の司令官に告げる事にした。シュヴァルツ王国軍にも、革命が必要だと。  こうして、シュヴァルツ王国軍は拳銃技術を手にしていく。  ラルフは、レオンは、革命を起こしていくだろう。全てはシュヴァルツ王国の勝利の為に。 「そう。天使教会が、そんな事に……」 「すまんな。折角、尽力してくれたのに、こんな事になるやなんて」  七瀬はメリルと内密に会っていた。  近日、天使教会を崩壊させる――シュヴァルツ王国軍が動くと。 「良いんだよ。僕は、この教えに疑問を持っていたし、天使教なんてとっくに捨てたよ」  そう、七瀬に協力した時からずっと――とはいえ、少し悲しいのは何故だろう。  メリルは自分の心に問うが、その理由は分からなかった。 「でも、君も大変だね。ダニエル様の手と足になるだなんて」 「ええんや。少しでも、ダニエル様の為になるなら、うちなんだってやる」  メリルはふと思う。  何故、七瀬はダニエルの指示を忠実に守っているのだろう。  嫌なことも平気でするのだろう。  恐らく、ダニエルは七瀬を、七瀬はダニエルを信頼しているからだろう。  その心は、何よりも、何よりも深い物だ。  フェイはエレンにシュヴァルツ王国軍が、ツツジの里でノールオリゾン国で勝利をした報告をしていた。 「エレン姫様、どうやら、我が軍は勝利したとの事です」 「分かりました。フェイ・ローレンス、報告ありがとうございます」  こう、姫の立場になるとエレンの目付きが変わる。  いつものほわほわとした雰囲気が嘘のようだ。  フェイは兄――ウィルに、今までの事を知りたいと思い執務室へやって来た。  ウィルはついに離す時が来たとばかりに、今までの事をフェイ、そして側にいるエレンに伝えた。  今まで、シュヴァルツ王国の立て直しの為、ウィルはダニエルに指示し、あくどい事までやって来たという事。 「ウィルさん、シュヴァルツ王国の為にありがとうございます」  ウィルはシュヴァルツ王国の為を思い、動いていた。  ダニエルはシュヴァルツ王国の為を思って、七瀬を使ってまで汚い事をしてきた。  自分の周りで、皆はエレンの治めるだろうシュヴァルツ王国の復活を夢見て頑張ってきたのだ。  それを知り、エレンは思う――その人達の為にも、亡き父の為にも、シュヴァルツ王国の道筋を歩こうと。  そう誓った。  リーフィ村総本山で産声が上がった。  ユウの妾のアリスは双子の男女を産んだのだ。 「おめでとうございます、アリスさん。双子の女の子と男の子ですよ」  そう言い、天使教会の者から、赤子を渡される。  どの子も、とても、可愛い――アリスはそう思い、眠った。二人の出産で疲れたのだろう。  天使教会から聞こえる怒号で、アリスは目覚めた。 「火事だ、皆逃げろ!」  辺りは慌てふためいている。誰かが火の始末を怠ったのだろうか。  とにかく、自分はこの二人の子供を連れ、ここから逃げなくては――そうアリスは思い、二人を抱えた時だ。 「アリス、無事か!」  愛しい、愛しい声が聞こえる。  アリスはそっと、目の前を見据えた――目の前に、セシルがいた。  何故、セシルがいるのだろう。何故、この場に――いや、そんな事を考えている暇はない。  早くここから逃げなければ。 「アリス、その子達は……?」 「先程、出産したのです。セシルさん、私はこの子達の為にも、逃げなければ……」  母は強いというが、アリスは子供の為に強くなっていた。  強くならなければ、この子達を育てられないとでも思ったのだろう。 「ああ。アリス、歩けるか?」 「はい。セシルさん、この子をお願いします」  アリスは男の子の方を、セシルに抱いて逃げて欲しいと言う。  セシルは分かったとばかりに、男の子の方を抱く――その時、セシルはふと何かを感じた。  無事、アリス達は逃げる事が出来た。  セシルはアリスに全てを話した。この火事は、シュヴァルツ王国が起こしたという事を。 「そう、だったんですね……」  自分も、ダニエルも、天使教が憎かった。  何としてでも、邪教を滅ぼしたい一心で天使教会を火に掛けた。 「すまない。お前がいるというのに、俺は……」 「いえ。私は貴方に酷い事をしました。死んで同然です……、でも、それでも……」  セシルは自分を助けてくれた。  その事が余計、嬉しく、余計、辛い。  セシル――彼は健気だ。自分をこんなにも思っていてくれている。  ふと、アリスは男の子、女の子の方を見据える。 「あれ……?」 「アリス、どうしたのだ?」 「いや、男の子の目元や女の子の産毛の色……貴方そっくりだなって」 「もしかして、この二人は……」 [*label_img*]  その時、アリスは気付いた。  自分が産んだのはユウの子ではない。セシルの子であると。  そう思うと、何か、アリスは救われた気分になった。 「セシルさん、貴方の子ですよ」  アリスは微かに笑い、言った。  セシルはアリスにそう事実を告げられるや、微笑んだ。  新たな命に、感謝した。  シュヴァルツ王国軍によって、天使教会は滅ぼされた。  各地にいる天使教会もやがて、滅ぼされるだろう。  教皇・セラビムは炎に包まれ死に、神子達もシュヴァルツ王国軍に連行された。  マクスウェル家領地の片隅にある処刑場。  リリアンはそっとその光景を目に焼き付けた。  自分は今から、エレンの子を堕ろしたという罪で、処刑される。  人の子供を手に掛けるなんて――許されない罪を犯してしまった。 「セラビム、様……」  愛しい名前を呼んでも、満たされる事のない幸せ。  ならば、この不幸せを、自分は抱き、死んでいこう。  先日の火事で、亡くなったセラビムの後を追うようにリリアンは泣きながら死んだ。  悪い夢から、自分は覚めたようだった。  自分は何処まで墜ちたのだろう。  与えられた虚無感を抱き、ユウは嘆いた。  今から天使教の神子は殺される。  天使教と共に殺されるのだ。ああ、こうなる事など、分かっていたのに。  アリスと出会った時から、自分は狂いだしたのだ。  こんな運命を辿るなら、彼女に会うなんてしなければ良かった。それなのに。  未だ、自分は邪教の神子としてのプライドがあるのだ。こんなプライドなど、無いにも等しいのに。  風が頬に触れる――とても、とても、冷たい風だ。  そっと、ユウは目の前にいる男女――セシルとアリスを見た。  二人は自分を恨むように睨み付けている。 「ユウ・アレンゼ、お前が得た物など、何も無い」 「分かって、います」  アリスの心も、自分の子供も、手に入れる事など出来なかった。  欲に塗れた自分は、何も手にする事が出来なかったのだ。 「ユウ・アレンゼ、この毒を飲め」  セシルから手渡されたのは毒の入った瓶だった。  天使教では自ら死ぬのは罪に当たる――死ぬ間際も、死んでからも、自分は墜ちるのか。  ならば、その定めを受けよう。それが自分の罪である。  ユウは、毒の液体を飲み干した。突如、口元から血が零れ始める――死の感覚が訪れる。  そっと、ユウはアリスを見据えた。 「ユウ、様……」  アリスは涙を流しながら、自分が死ぬ様子を見ているのだ。  ああ、それだけでも、自分は報われた気がした――ユウは愛しい者を見ながら、死んだ。  リリアン、ユウは処刑され、セラビムの妹・リリィは終身刑を言い渡された。 「セシルさん、私は貴方を傷付けました。一緒になる事など許されません」 「アリス、何を言っている。全て、ある神子から聞いた。お前は俺を守ってくれただけではないか」 「でも、それでも……」  一度崩れた関係など、修復は難しい。例えどんなに愛し合ったアリスとセシルの二人でも。  アリスはそう思っていた――その時、赤子の声が聞こえる。我が子の声だ。 「その子達を、俺と一緒に育てていこう。俺はこの子達の父親になりたいのだ」 「セシルさん……」  修復に時間がかかっても良い。  愛しい子達を、一緒に育てる――それが、アリスの、セシルの、役目である。 「メリルさん、ごめんな。国外追放なんて……」 「良いよ。こんな事になるのは、予想していた事だから。それじゃ、行くね」  メリルが国から追放されていく。  その様をずっと、ずっと、七瀬は見届けていた――時だった。  七瀬は兵――ソレイユ兵に囲まれる。 「香月七瀬、お前を連行する」  七瀬は逃げようと思ったが、既に時は遅し。  七瀬はそのまま、ソレイユ家領地に連行された。 第十章 了
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