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【To:お父様 From:カリン】 【お父様へ。マーガレットにリミッターが付いていました——戦姫学園の《技術者|エンジニア》に勝手に解除されましたが——どういうことでしょうか。お答えによっては今後お父様への態度を決めなくてはならないので、慎重にお答えくださいませ。カリンより】 【To:カリン From:父】 【カリンへ。リミッターの件は本当にすまなかった。まだ幼いお前にフルスペックのGAを操縦させるのは危ないと指摘されて、リミッターの設置を指示したのは私だ。ただ誤解のないように言っておくと、あくまでお前の身を案じてしたことであり、決して欠陥品を掴ませようとしたわけではなくて……】 【To:お父様 From:カリン】 【お父様へ。言い訳はやめてくださいませ。後で覚えておいてくださいな。カリンより】  カリンはそうメールを打って、スマホの電源を切った。どうせ言い訳メールが山ほど来るに違いない。いちいち付き合ってはいられない。  ベッドに横になり、壁の時計を見る。午後七時。今日も一日ハードワークだった。  午後はみっちり歩行訓練を行い、二時間訓練ののち休憩、そしてまた三時間訓練というスケジュールだった。ただただ訓練場の周囲を走り回っていただけで、全身が筋肉痛だ。GAは同じ動作を繰り返すことで機体自身に最適化を図らせることができるため、基礎的な歩行と走行を教え込む意味合いもあった。リミッターを解除されたことで、学習機能が初期化されたせいでもある。  パタン、と部屋の扉が開く音がした。リーザだ。  カリンは起き上がり、リーザを出迎える。 「ただいま戻りました、殿下」 「遅かったじゃない、リーザ。どこまで行っていたの?」 「浅草です。これはお土産です、雷おこしというお菓子です」  そう言ってリーザは箱をカリンに寄越す。中には米が膨らんだ菓子が入っている、とのことだ。 「それから銀座に行って、殿下のお召し物を購入してまいりました」 「何? 何?」  カリンは身を乗り出して、渡された紙袋を開ける。  中には真新しいジャージとランニングウェア一式が入っていた。あの銀座に行ってまでジャージを買うのか、とカリンはリーザを問い詰めたくなったが、堪えた。筋肉痛でそれどころではない。 「殿下、訓練のほうはいかがでしたか?」 「……リミッターが付いていたわ」 「はあ」 「お父様よ! 私のことを心配してリミッターを付けていたって!」 「ということは、マーガレットは今までよりも単純に強くなった、ということでしょうか?」 「違うわよ。より精密な動作が必要だし、学習機能も初期化されていたし、確かに機敏に動けるようにはなったけれど……面倒なことのほうが多くて、明日も反復訓練だけでしょうね」  カリンはあからさまにため息を吐く。 「それよりも、もっと面白いことはないの!?」 「そう言えば、渋谷の街頭のビジョン広告を見ていましたところ」  そんなところにも行っていたのか。カリンはリーザをジト目で見る。 「中露国境沿いで軍事衝突があったそうです。念のため本国に確認を取ったところ、シレジアンは静観の姿勢を取るとのことです」 「えっ、戦争!?」  カリンは驚く。しかしリーザは冷静だった。 「いえ、ただの軍事衝突です。すでに外務当局の停戦協議が始まっています」 「それって戦争とどう違うの?」 「不測の事態により軍事行動が取られただけ、つまり一時的なものを指します。戦争であれば互いに宣戦布告をして事態は拡大しますが、今回はそうはならなかった、ということです」  なるほど、とカリンは分かったふりをして頷く。第一、一六歳でそんなことを知っているほうがおかしいのだ。 「そう授業で習いました」  カリンはぎくっとする。時々リーザはカリンの心を読んだかのごとき言動や行動を取る。  それはともかく、カリンは新品のジャージの袋を開けてみた。  リーザにしてはスタイリッシュなジャージを選んでくれたようだ。シルバーの生地にピンクのステッチが入った、少しスリムなシルエットで、胸には金糸の流星と『STAR LIGHT』のロゴが入っていた。カリンの故郷、欧州でも有名なブランドだ。カリンのお気に入りでもある。 「ありがとう、リーザ!」 「いえ、どういたしまして」 「明日から着るわ! 明日……うん、訓練……ほら」 「汚していただいても結構ですよ、洗いますから」 「汚すの前提で言わないでくれる!?」  すでに戦姫学園から支給されたジャージは、毎日のように汗と涙と鼻水と吐瀉物とで汚れて洗濯が間に合わなくなっていたのを、カリンも薄々気づいていた。ジャージやランニングウェアを買いに行く時間的余裕がなかった——というより、訓練に夢中でそんなことにまで気が回らなかったのだ。  真新しいジャージの匂いは、どんな香水よりも嬉しい。カリンはジャージをぎゅっと抱きしめ、ベッドに寝転がった。  そんなカリンの様子を、リーザは愛くるしい妹を見るような目で見ていたのを、カリンは気づかなかった。
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