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 空が、地が、世界が、  ガラスが割れるように、あるいは崩壊していく建物のように、  跡形もなく壊れ去ってゆく。  光の粒子となって、すでに崩れ落ちた建物は消えて。  ポリゴンが崩れていくように空が剥がれ落ちて行って、真っ黒が顔を出して。  地面が蜘蛛の巣が広がったように割れて、崩れて遥か底へと零れ落ちる。  この光景を、僕にはどうすることもできない。  世界を救う勇者でもなければ、世界を壊して自分の好みに作り変える魔王でもない。  ただこれに対して僕が無力である、という事実があるだけ――――  ◆◇◆◇◆   突然だが、今年の夏休みで世界は滅びるらしい。 「これで終業式を終わる。最後の夏休み、悔いが無いように楽しんで過ごせよ」  学校。  周囲に乱立した木々からアブラゼミとクマゼミの鳴き声が延々と流れてきていて、正直うるさい。  あたりへの被害を全く考えずに愛を求め続けるやつらはもう少し恥を知ればいい、なんて思ってしまう。  ……はぁ、暑さで頭がおかしくなっているらしい。  思考を元に戻そう。  太陽の光は、使い古されてとても薄くなったカーテンを透かして遠慮なく僕の肌を焼いている。  もはや、熱いを通り越して痛い。  ――そう。  夏だ。  それも、終業式の直後で、夏休み直前の、最後のホームルーム。  そして、僕が受ける最後の授業。  きっと、外の空には巨大な入道雲が立ち上っていることだろう。 「高校生として、消える直前になって後悔しないような生き方をしろよ」  中年の教師が、適当な終業式を終えた所だった。  中学生の時と終業式の言葉が何から何まで違うのは何も進学したからだけではないだろう。  夏休みで世界が終わる、というこの世界の住人の共通見解。  小さい時にはもうじき終わると告げられていたし、それが今年になった所でそこまでの衝撃は無い。  ただ正確な日時が分かっただけ。  終わりまでの日数が分かっただけ。  ――たったそれだけだけど、人生最後だって分かってるのに、何もしないまま終わる気にはなれない。  何か、今までとは違うことを。  今まで出来なかった何かを。  この夏こそは。 「んー……と他に言うこと、あったか?」  僕の思考を無視して、どんどん最後の授業が終わっていっている。  教師のその問いかけに僕達――生徒は全員でそろって頷く。  別にこの教師の話が嫌いだとか、長すぎるだとか、そんなことは一切思っていない――むしろもっと話すことがあるならば話したいほどだが、事実話すことはもうなかったし、話してほしいことも授業中に全て聞いた。  だから、これで終わりなのだ。 「相変わらずお前ら全員――五人とも仲良すぎるだろ……」  苦笑を堪えたような表情を浮かべた教師がそう言う。  その口から漏れた単語『五人』  それがこの教室にいる生徒の合計の人数だ。  一部の人にとってはこの人数が非常に少ないように感じられるかもしれない。  ――集団不登校か?  違う。何も事件は起こっていないし、そもそも最初からこの教室には五人分しか机がない。  ――少人数授業か?  違う。が、若干惜しい。  ここには他のクラス、というものが存在していない。  ――なるほど、田舎か。  半分正解。  だけど、完璧じゃない。  答えは簡単。  この世界には僕たち五人以外の学生がいないと、ただそれだけのこと。  考えてみれば当然だ。  終わるのが決定してるのに、誰が子孫を残そうとなんてするのか。  ――繁栄したところで、どうせ全部なくなるのに。 「じゃあ、名残惜しいが終わりにするか。委員長、号令」  そうやって一つ、僕が過ごしてきた今までの日常が終わる。  確かに、名残惜しくて。  どこか小さな喪失感がある。  上手く言葉にできないけれど、自分を構成している要素が一つづつ消えたような、そんな感じ。  だが、そんな僕の心境を無視して茶髪でメガネの委員長――男じゃなければ完璧だったかもしれない――が号令を上げる。 「きりーつ!」  たった五つの古くなった椅子がギィっと軋みを上げた。 「きおつけー」 「れー!」 「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」  ともかく、これで僕の行くべき最後の学校は終わった。  樹歴11398年  熱い日差しの照り付ける七月の十九日だった。  世界が滅びるまで、おそらくはあと一か月とちょっと。
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