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 巨大な学園都市『キシリア』。人間も鬼も獣人も妖精も、あらゆる種族の子供達がそこに集結し、共に学舎で生活する。時に喧嘩し、時に助け合い、彼らは様々な形の絆を作りながら、やがて学園を卒業していくのだ。  しかしその学園には、とある噂があった。 学園はいずれ、魔物に支配される―――と。  現代の勇者に、次代の勇者を守るように頼まれたあなたは、転校生として学園に潜り込み、次代勇者を魔物の手から守ろう! 「………というものです。いかがですか?」  にこにこと笑う男の前で、俺は沈黙した。驚きと困惑で、思わず口をつぐんだまま黙りこくってしまった。その反応に不安になったのか、薄毛の男はおそるおそる俺の顔を覗き込む。 「あのう………」 「いいよ」 「え?」  男の言葉を遮るように言い、薄く笑ってみせた。 「そのゲーム、やる」  刹那、男の表情がパッと明るくなった。嬉しそうに何度もお礼を言うもんだから、俺もつられてはにかんでしまう。男は「準備をしてきます!」と叫んで、意気揚々と奥の部屋へと駆けていってしまった。再び部屋には沈黙が流れる。  一人旅の途中、俺はふらりとこの館に訪れた。坂の多いこの地域は、観光地以外はとても静かな場所であるため、あまり人も見かけないし、だが立派な建物が多かった。別荘が集結しているらしく、そのため休暇シーズンでもない九月半ばの今は過疎っているのだという。  そんな町中で、隔離されたような行き止まりに建っていた、一軒の館。入り口の前には看板が立てられており、『新開発! 無料体験型ゲーム、やってます!』と可愛らしい丸文字で書かれ、周りにはウサギや猫のイラストが描かれていた。その可愛らしさもさることながら、ゲームというジャンルを好む俺にとってはかなり魅力的な言葉であり、吸い込まれるように館へと足が動いたのだ。  ところで、字面からして可愛いらしい女性が出迎えてくれるのかと勝手に想像していたが、なんと出てきたのは先程の男ただ一人。しかもハゲ予備軍の幸薄い顔をした、それでいてピッチリとスーツを着る男だった。テンションがだだ下がりしたのは、言うまでもないだろう。 「準備が出来ました! それではこちらの前にお立ち下さい!」  部屋から戻ってきた男は、ドアの隣の壁に設置された、巨大なモニターを指差した。言われた通りに立つと、男は手に持っていたリモコンらしきもののボタンを押した。モニターに電源が入り、何かの画面が映し出される。ブルースクリーンには『名前』、『性別』、『学年』の三つの欄が表示された。 「お名前は?」 「え?」 「お好きなお名前をどうぞ?」  好きな名前と言われても……。少し考え、本名である『渚』と答えた。男が必死に入力をし始める。 「すみません、時間がかかってしまって……」 「いえ、大丈夫です。時間ならいくらでもあるので」  名前の入力が終わると、男は性別の欄にカーソルを移した。何も言わずに『男』と入力する。その後、ちらりと横目で俺を見た。 「あのう………失礼ですが、おいくつでしょうか?」 「十六です」 「ということは、高校一年生ですか?」 「はい」 「ありがとうございます」  学年の欄に『高等部一年』と入力される。すると、画面の下部にあった『決定』ボタンが赤く点滅し始めた。男はそれを確認すると、満足そうに頷き、くるりと振り向いた。 「これでいつでもスタート出来ます! 始められますか?」 「え? あの、具体的に何をするゲームなんですか?」 「ああ! すみません! 大切なところを言うのを忘れていました!」  ぺこぺこと頭を下げながら謝る男。しかし、上がった顔はへらへらと笑っていた。その顔に一抹の不安を覚える。ちゃんとプレイ出来るならいいけど……。 「えっと……。このゲームは、『次代勇者』という一人のキャラクターを守ることが目的です」 「次代……勇者?」 「ええ。『現代の勇者』が死亡した後、勇者となる者のことです」 「へえ」 「舞台はキシリア学園。国中からあらゆる種族の生徒が集まる学園です」  キシリア学園には、次代勇者を狙う魔物がしばしば現れます。あなたはその魔物から次代勇者を守り、世界の未来を救って下さい。 「無事守り切れたらハッピーエンド、ゲームクリアです」 「期限とかはあるんですか?」 「魔物の王である魔王を倒すまでです」  なるほど。つまり魔王がラスボスってわけか。そう言うと、男はおもむろに頷いた。 「しかし、途中で次代勇者が殺されたり、あなた自身が死亡した場合、ゲームオーバーとなります」  ゲームオーバーとなった場合、罰ゲームがありますので、ご了承下さい。 「あまり言うとネタバレになるので、このくらいまでしか説明は出来ないのですが……よろしいですか?」  罰ゲームが気になって尋ねたが、男はその詳細を答えることはなかった。まあ、それはその時になればいいか。クリアすれば関係ない話だし。  男に言われるままに荷物を預け、モニターに向き直った。男は彼の背後に立ち、リモコンのボタンに指を添える。 「それでは開始します……」  どくんどくんと高鳴る心臓。不安と期待が胸の内で浮遊する。男は薄く笑い、ボタンをゆっくりと押した。  ――――――――――――ゲームスタート。
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