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   世紀末UFOビーチボール仮面、誕生! 「ベントラー、ベントラー」  青年・藤巻ワタルは、ひとり砂浜でUFOとの交信を試みていた。時は世紀末である。ごったがえす海水浴客などを除外して考えれば、砂浜にはもはや人っ子ひとりいなかった。  ワタル青年は必死であった。この終末の世で縋れるものなどひとつもなく、ただ、孤独の時間を埋めるのに必死だった。 「すいませーん。ボール取ってくださーい」  足元に転がってきた謎のビーチボールには目もくれず、ワタル青年はUFOとの交信を続ける。  そのとき! 願いが叶ったかのように、空全体がぱあっと光り輝いた! 目も眩むような輝きだ! 足元のビーチボールが光を跳ねっ返し、まるでカラオケルームで回るあれのように色を撒きちらす。 「うわなんだこれ。ミラーボールみたいですね」  そうそうそれそれ。ボールを取りに来た水着美少年が無邪気にもそれを持ち上げる。美少年のご尊顔が虹色に照らされた。空はまるで太陽がふたつかみっつあるかのごとく満遍なく輝き続けていて、さらに何本もの光線が駆け巡っている。その光線を受けたものはどれもミラーボール状態になっていた。 「ま、まさかUFOの襲来か!」  ワタル青年は空を指さす。空を覆う輝きの向こうに、わずかながら丸い輪郭が見えるような気がする。これはUFOに違いない。 『ふわっはっはっはっは。その通りだ』  突然、その輪郭が強くなった。空を割るように、白銀の楕円体が姿を現す! 「うわぁ! 本当にUFOだ!」  楕円体の中央がぱかりと開き、中から蛍のような小さな光の粒が飛び出てくる。それは大きく旋回しながらこちらに近づく。そしてワタル青年と、依然ビーチボールを持ったまま突っ立っている美少年の前に着陸した。  そいつは蜘蛛怪人だった。 『我こそは宇宙第三連邦軍大隊長、クモーガである!』  八つの目をぎょろつかせ、ハサミのような口をしならせる。クモーガの登場によって、砂浜を駆け巡る光線が、ワタル青年にはまるで蜘蛛の糸のように感じられた。 『青年よ、おぬしのメッセージ、しかと受け取った。この地球がいま終末の世にあるというのなら、我が連邦軍が取り仕切ってやろうぞ』 「そんな……まさか本当に通じるなんて」 『光栄に思うがよい。おぬしは一級の奴隷として扱ってやろう』  ワタル青年は、ただ、友達のいない寂しみをオカルトごっこで紛らわせていただけだった。海水浴場にだって、家族に無理やり連れてこられただけで、本来ならば今頃家で「特選!オカルト映像 Vol.2」を見ていたはずである。それがまさか本当に交信が通じ、よもやそのせいで人類滅亡の危機が訪れようとは。  ワタル青年は脱力した。こんなことになるなら、Vol.1から借りておけば良かった。 「まだ諦めるのは早いですよ!」  そこへ、威勢の良い声が入ってきた。声の主は隣の水着美少年だった。  美少年は虹色に輝いた顔のまま言う。 「こんな蜘蛛男、ぼくたちでやっつけてしまいましょう!」 『なんだと? 侮辱罪で叩き切るぞ!』 「さあワタルさん! このビーチボールを腰に付けて!」  訳がわからないままにビーチボールを受け取る。空の光を反射して輝いているのかと思ったが、よく見るとそのボールは自ら発光していた。 「さあ腰に!」  言われたとおりに、腰の前にひっつけるように持つ。するとビーチボールの輝きが止み、それはアメーバのようにぐにゃりと歪んだ! 横長に変形し、ワタル青年の腰を一周する。  これぞまさしく、変身ベルトであった! 「変身!」  片手を天に突き上げ、ワタル青年は叫ぶ!  ベルトが大きく伸び、繭のようにワタル青年を包んだ! 繭は穴の開いた風船よりも速く収縮し、人型になる。その頭はビーチボールだった。 「世紀末UFOビーチボール仮面、誕生!」  ワタル青年改め、世紀末UFOビーチボール仮面は手を何度も握り直す。手の感触を確かめる度に、力がみなぎってくる感覚を味わった。 『むむ! 世紀末UFOビーチボール仮面だと!』 「覚悟です蜘蛛男!」  美少年が叫んだ。それを合図に世紀末UFOビーチボール仮面は蜘蛛怪人へと駆け出す。  ところが蜘蛛怪人は突如砂浜に座り込み、その腹から糸を吐き出した。世紀末UFOビーチボール仮面は咄嗟に横に跳び避ける。 「くそ! あれじゃ近づけない!」 「よし、ここは必殺技を打ちましょう!」 「え、もう?」 「世紀末UFOビーチボール仮面の世紀末UFOビーチボール光線です!」  美少年の号令で体が動き出す。世紀末UFOビーチボール仮面はぐっと右肩を反らした。頭が沸騰し、視界がぼやける。直後すぽんと、ビーチボール(頭)が首から発射された。高く高く世紀末UFOビーチボール仮面の頭が宙に上がり、しばらく上がった後に重力に従い落ちてくる。  世紀末UFOビーチボール仮面は反らした肩を大きく振りかざした。最高到達点で手とビーチボールが邂逅する! 「世紀末UFOビーチボール光線だ!」  ビーチボールの口がそう大きく叫んだ。  力強いスマッシュが光の速さで飛 ん  で   い     く       ! 『ぐ、ぐわ~~~~~~』  もろに食らった蜘蛛怪人は、跡形もなく消滅した。  正義が勝ったのだ。 「ありがとう。ワタルさん。おかげで地球は守られました」  美少年がワタル青年の頭を拾い上げる。変身は既に解除されていた。立ちぼうけていたワタル青年の胴体に、頭をドッキングする。  ワタル青年は目をぱちくりさせ、再び手をグーパーする。完璧につながったようだった。 「今更だけど、キミは……?」 「ぼくはハカセ。来たる終末に備えて仮面スーツの研究をしていました」  美少年ハカセは、ワタル青年へと手を差し出す。 「まだ戦いは始まったばかりです。ワタルさん、一緒に世界を守りましょう!」  ワタル青年は水平線を眺める。空を覆う輝きは収まり、UFOもどこかに消えていた。しかしあの空の向こうには、地球の存亡を脅かす者たちが所狭しとひしめいていることだろう。 「ああ、戦うよ。こんなに孤独な時間を忘れられたのは初めてさ」  力強く、その手を握る。  こうして、世紀末UFOビーチボール仮面の長い長い戦いの幕は切って落とされたのだった。 初出「てきすとぽい」二〇一八年八月三〇日
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