フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
「やっ、きたない!」  メイは投げられた使い古しの床清掃用雑巾を紙一重で躱すと、中庭に逃げ込んだ。 廊下は広くないうえに、中庭には待機している味方が居るはずだからである。中庭に出た彼女はその姿を見つけて急いで駆け寄った。 「おい、ユナ!こっちにいた!おい!……おい、なにやってんのお前?」 中庭に座布団を敷いて、その上に綺麗な姿勢で正座をして《殴坂|おうさか》ユナはいた。彼女はゆっくりとメイの方を向いて彼女の質問に答える。 「オセロよ。」 彼女はオセロをしていた。向かいには二人の一つ下の後輩である《噂堂|すどう》カケルが座って相手をしている。 「……」 「……ここっすかね」 「あー……なるほど」 「だからこんな時に一体てめえらは何してんのかって聞いてんだよバーカ!!」 メイは体から炎が上がるかの如くセーラー服の少女に怒りの声をぶつけた。ユナはメイの言葉を気にも留めないかの様に黒く美しい髪をかき上げた。 「何よメイ。夜中なんだから。そんなに声を荒げると……ご近所との関係に“角”が立つわよ。」 「……それオセロとかけてんの?上手くねぇよ」 カケルは盤とにらめっこしながら金色に染めた頭を掻いている。だがメイの顔を見ると、ヘアバンドの位置を直して彼女の方に向きなおった。 「そうですよ~メイ先輩。ここはひとつ“丸く”収めましょう!」 「上手くねぇって言ってんだろ?」 「それに怒ってると、可愛い顔が台無しっすよ。メ~イちゃん」 チャラい男はチャラいセリフを平気で吐いた。 「そういうの…やめろって」 メイは赤くなった顔を見られない様に一瞬カケルから目を逸らした。 「……おい《噂堂|すどう》、お前年上に対して何呼び捨てしてんだァ!」 ユナは突然声を荒げるとカケルの胸倉を掴む。 「ごっごご、ごめんなさい!」 カケルは彼女の腕を振りほどこうと必死に謝った。メイはその様子に辟易した。 「お前ら……そんなことしてる場合じゃないだろ?……! 来たぞ。」 廊下からメイを追ってきたフル装備花子さんはゆっくりと彼女のもとに近づく。 「……逃げなかったんだね、お姉ちゃん。」 ユナはゆっくり立ち上がるとメイの横に立った。 「あらメイ、このちんちくりんのことかしら。花子さんと言うのは。」 「お前らが遊んでる間に来ちまったじゃねぇかよ」 花子さんはメイとユナを見ると嬉しそうに笑う。 「……二対一でも、戦いごっこなら負けないわよ」 そういうと花子さんは二人に向かってモップを振りぬく。床掃除で汚れた部分が動くせいで二人は正確な間合いを図ることが出来ない。 メイも応じて木刀を振り下ろすが、花子さんは反射神経が良いらしくモップで受け止められてしまう。 「ふふふ…そんなんじゃ勝てないわよ」 ユナは一瞬助走を取り、彼女の頭に向かって飛び蹴りを繰り出した。その速度に驚いた花子さんは頭を下げて攻撃をかわす。 頭に被っていたバケツが地面に転がり、静かな闇夜に大きな音が響き渡る。 「隙ありっ!」 攻撃をしたことによって体勢を崩したユナに向かって花子さんがモップを振り下した。しかしユナはその攻撃を腕で受け止めると、反応する時間も与えずモップを掴んで奪った。 「そ!そんな、私の攻撃が……!!」 有効なリーチを持つ武器が奪われた花子さんは慌てふためいた。 「残念ね!貴方みたいな子供の攻撃が私に効くわけないじゃない。こんなものうちの姉様のビンタの方がよっぽど痛いわ。」 ……どれだけ痛いんだろう。メイは少し気になった。  ユナはおもむろに奪い取ったモップを膝でへし折った。 「も、モップ折ったの…?」 メイは彼女に同情した。非常に整った外見をしたユナだが機械の様に無表情であり、その突飛な行動から何を考えているか分からない。よくつるんでいるメイも未だに彼女を理解しきれていない。そんな女が目の前で何の苦労もなくモップを粉砕してしまう様はおそろしく不気味だろう。 「観念なさい。ハナちゃん。今降参するなら三回殺すだけで許してあげるわ。」 「めっちゃ殺すやん」 しかし花子さんは諦めてはいなかった。大量のトイレットペーパーを二人に放り投げる。 「くらえ!《白い鎖|ホワイトマンバ》!!」 「なによその妙にかっこいい名前は…あっ!」 二人の体にトイレットペーパーが複雑に絡まり合う。振りほどこうとする度にほどけなくなってしまうのだ。二人は不要にもがいて、逆に身動きが取れなくなってしまった。 「くっ……ユナ!大丈夫か!……ユナ?」 ユナは子供に出し抜かれたことが悔しく暴れまわった結果、棺桶から出したばかりのミイラの様な姿に変り果ててしまっていた。 「『《ハムナプトラ|The mummy》』みたいに……」 「メイ?」 顔すら見えないほど動けなくなった彼女はメイに語りかける。 「私は無事よ」 「どうみても無事じゃないだろうが!!」 花子さんは愉快な笑い声をあげた。二人を拘束したトイレットペーパーを引っ張って引き寄せようとしている。 「私の勝ちね!」 しかしその鎖は簡単に断ち切られた。 「喰らえ!」 カケルが中庭の水道から引っ張って来たホースでトイレットペーパーを断ち切ったのだ。 「《液体|リキッドォ》だ!」 トイレットペーパーは水に溶けるので、簡単に強度が下がってしまった。 「大丈夫っすか先輩!」 カケルはメイの体に巻き付いた紙を切って彼女を自由にした。二人はその間何度も視線を交わし合う。 「さ…さんきゅ。」 「へへ、無事でよかったで」 カケルは『す』を言い切ることは出来なかった。何故なら顔面に爆弾(床拭いた雑巾)がぶち当てられてしまったからである。 「カ、カケルー!!」 カケルは色々な事がショックで倒れてしまった。 「カケル!カケ…うわこの雑巾くさッ!!」 「先輩…いいセンスだ」 彼はそういうと気絶してしまった。 「ごめん……その台詞を以てしてもダサいよやられ方」 メイは雑巾を放り捨てるとカケルを寝かせて立ち上がった。 「後で洗顔貸してあげるからな」 「ふふ…なんだかよく分からないけど残るはあんただけよ!」 花子は雑巾を手にするとメイに向かっていくつも投げ飛ばす。彼女は一つも逃さず叩き落し接近していく。 「チッ…三つ首の竜(トライアルサラマンダ)!!」 やけに気合いの入った必殺技名と共に3wayショットで雑巾が投げ飛ばされる。だがメイの剣捌きはその全てを切り裂いた。 「観念しな」 「た…弾切れ」 花子さんにはもう雑巾爆弾もトイレットペーパーも残されてはいなかった。 「これ以上暴れるって言うんなら、お前…ただじゃすまない事になるな」 二人は睨み合った。 「ここまで私を追い込んだのはあなたたちが初めてよ」 花子さんは少しうれしそうに呟く。 「でも負けないわ!こうなったら私の奥の手を…」 メイは最後まで言葉を聞こうと思ったが、花子さんは何故か言葉を続けなかった。途中で切られるとどうしても続きが気になってしまうものである。 「おい……なんだよ、奥の手って」 如何やら花子さんは何かに気付いたようだった。 「あ…あんたの友達はどこに行ったの!?」 メイはミイラ状態で横にいるはずのユナに視線をやったが、彼女は何処にもいなかった。 自力で脱出したようで、辺りには見当たらない。 「は~なこさんッ」 声の方を向くと、三階東側のトイレに一番近い窓からユナが顔を出している。 「あなたの住処にしているトイレ、ここよね?…これなぁーんだ」 ユナの手には大量のティッシュペーパーが握られている。彼女が何をするつもりなのか、メイの理解は及ばなかった。だが花子さんの顔はみるみる青ざめていく。 「そ…そんな、恐ろしいことを思いつくなんて……………!?」 「えっなに?また馬鹿みたいなダジャレ?」 彼女は一目散に三階の東トイレに向かって走り出した。 「トイレにそんなにティッシュ流したら詰まっちゃうのぉ!!!」 十秒後、開けられた窓から、悲鳴と共に花子さんが蹴り飛ばされてきた。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行