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「切崎メイの白い髪は…それこそ美しい絹のようである。動く度に髪が光に照らされ白、銀、灰色にその姿を変えるのだ。そしてそれを引き立てるのは…キュートなお顔!クリっとした目にハートフルな唇。そして時折赤く染まるおべべ。どんな格好、どんな場所でも画になってしまうのだ!たとえ普通の青空の下でも」  ユナは屋上でまるで喜劇の登場人物の様に体を動かし声高に語っていた。 「お前なに1人でベラベラ喋ってんだよ。……おべべて。ハートフルて。……使い方間違ってるし」  メイはユナの唐突な演説に呆れた顔をした。それに対して不満そうな顔をするユナ。 「なによ。私の貴方への思いはまだ語り切れていないわ。」 「恥ずかしいから止めろ。」  メイたちが居る屋上は渡り廊下のような役割を果たしている。西館の三階は三年生の教室だけがある校舎だ。反対に東館は理科室・視聴覚室・音楽室など特別教室しかなく、授業がないと東館を利用する生徒はあまりいない。屋上は飛び降り防止用のフェンスのせいで景色もよくない上に座るところもないので、休み時間でもめったに人が集まらないのである。 「分かったわ。一言で凝縮すると……結婚しましょう、メイ」 「おりゃ」  メイはユナの太ももを蹴り飛ばした。文字で表すなら『パァン』という文字が適切だろう。激しい破裂音が空に吸収される。あまりの激痛に太ももを抑えて床を転げるユナを見下ろしながら、メイは苦々しく言った。 「冗談か本気か分かりにくいんだよお前」 「太ももを……!結構本気で蹴ったわね!いったぁい……」  ユナは太ももを抑えながらゆっくりと立ち上がる。 「メイちゃんファンクラブの会員No.1としても、私は貴方への愛を表現することを止めるわけにはいかないのよ。」 「いやそのよく分からない理屈を……えっ!?ファンクラブ!?そんなのあるの!?」  非公認じゃん!メイは校庭にいる生徒たちに聞こえるほどの大きな声を響き渡らせた。 「私が作ったもの。」 「お前かい!!なんちゅう勝手なコトしてくれとんじゃ!」 「会員数はもう3ケタよ」  メイはうなだれた。彼女の性格的に誰かにちやほやされることをあまり素直に喜ぶことが出来ないのだ。大きいため息を吐く。 「ま。転校初日から女の子が周りを囲んでたものね。」 「一過性のブームだよ」  この二人は屋上で『あるもの』を待っている。その為にこの場所でうだうだと駄弁り続けているのだ。 「そういえば、カケルとはどうなってるのかしら?」 「ひゅえッ!?」  ユナの質問に裏返った声の返事が返って来た。 「なに?気付いてないとでも思っているのかしら?あなた、カケルの事好きなんでしょ」 「えっ!えっ、そのなんというか……好きっていうのは、ちょっと違うというか」  メイは急にもじもじし始める。 「は?なにその可愛い反応……もう付き合ったら?あんた達」 「か、簡単に言うなよ!ちょっとよくわかんないんだよ……好きとかそういうの」  彼女の白い頬がピンク色になっている。その上ふてぶてしく立っていた身体が情けない立ち姿に変わった。  誰の目から見ても照れているのは明らかだ。こちらまで顔が赤くなってしまうような反応に対してユナは荒れる海の如く反論を始めた。 「なーにがあんたよくわかんないよ!知ってるぞ!あんたら私の知らないところで二人っきりでお出かけとかしてる事!この前は映画見に行ってたんでしょ」 「お、お前なんでそれ知ってんだよ!!」  ユナはその言葉を聞いてにんまりといやらしい笑みを浮かべる。 「あ、やっぱそうなんだ~?見に行ったんだ~?気になるって言ってた洋画~~」 「カ、カマかけたなユナ!」 「メイちゃんちょろいわね~。ほら、この私に相談してもいいのよ?アドバイスしてあげるわ。」  彼女は勝ち誇ったように目を細めている。メイは急に疲れた様子だった。 「お前には相談したくないわ……というか、遅いな例のヤツ。本当に来るんだろうな。」  話題を変えるために無理に話を本題へと変えた。 「花子さん曰く、毎日欠かさず来るらしいけど。本当かしら?にわかには信じられないわ。」 「真実は小説より奇なりだな。」  二人は昨晩花子さんと話したことを思い出した。 ○  時は昨晩、花子さんがユナに蹴り飛ばされた後である。  花子さんの頭と、東館三階のトイレの三つ目の個室にはお札が貼られていた。そしてその便器の上には花子さんが座らされていた。その出口を防ぐかのようにユナとメイが立っている。 「あんた、子供相手にあんな卑怯な手を使って恥ずかしくないの?」  ユナはその言葉を聞くと、胸を隠すかのような仕草をする。 「ええ。とっても恥ずかしいわ。でもねハナちゃん。大人の中にはその恥ずかしさがたまらない人たちもいるのよ。恥辱で震えるのよ。快感なのよ……残念だったわね。」 「胸小さいくせに」  揚げ足を取るような言葉に花子さんは仕返しの暴言をぶつけた。あまりにショックだったのか、ユナは壁まで後ずさりした。彼女は胸が小さいことがなによりコンプレックスなのである。彼女が勢いよく激突したせいで壁が軋む音がする。 「やめてやれや……」 「白いお姉ちゃんは……おっぱいが悔しいくらい大きいんだね……」  花子さんは細目でメイのよく育った胸を眺めた。 「いいんだよそんなのは。本題だ本題。」  よくない流れを感じ取ったのか、メイは話を切った。 「私達はお前らを成仏させるためにここまで来たんだ。落ち着いたみたいだし、色々聞かせてもらう」 「成仏……?私達って成仏するような存在なの?退治とか封印じゃないの」  花子さんは有難いお札の効果か、暴れまわっていた時と違って冷静な様子だった。ここでの質問は、『妖怪って成仏するの?』という意味だと予想できる。 「……そうね。ではそもそもあなた達の正体について説明してあげようかしら。――あなた達,《ごーすと》のね。」 「《ごーすと》」  花子さんはその言葉を反芻した。 「大前提として妖怪という物は実質的には存在しない。でも俗に魂と言われるものは実在する。この魂は、そのままでは私達生きているものに対して干渉することが出来ないわ。」 「魂が体から出る時、マイナスのエネルギーを多く蓄積していると幽霊へと変化し他の魂や生きているものへ干渉し始めるのさ。」  マイナスのエネルギーとは、分かりやすく言えば恨みや怒りである。 「そう。でも魂の中には干渉することも出来なければ、あの世に行くことも出来ない浮遊霊がいるの。そしてこの魂が《ごーすと》に変わるのにはある条件が必要になるわ。……それは『存在を信じられること』よ。妖怪・都市伝説と言うものが強く信じられることが必要になるの。」  決して誰もが強く信じる必要はない。そこに居るような気がするだけでいいのだ。  何人もの人々がその場所に『何か』が存在するような感じがする。その程度で条件は整うのだ。 「あのトイレには花子さんがいるらしい。あのトイレは変な音がする。この学校には妖怪が居る……そんな蛇足だけで魂が囚われるようになる。」 ……《トラワレ》彼女たちはそんな意思のエネルギーに捕まった魂たちをそう呼んでいる。 「元の魂が噂に近い要素を含んでいればいるほど、より《ごーすと》が生まれやすいのよ。」  花子さんは告げられた自身の正体を理解はしているようだったが、どこか現実味の無いような表情をしていた。 「つまり、私は私を花子さんだと思っているけど本当は普通に人間の魂なのね」 「そう。《トラワレ》自身が噂に引っ張られてもうどうしようもないほど凶暴化したり、噂そのものが他人に実害を与えるものだと、私たちはお前らを消滅させるか封印するしかなくなる」 「《ごーすと》を実力で排除しても、実態が一時的になくなるだけで恨みを溜めて復活するわ。このお札でとっとと大人しくして、《トラワレ》を成仏させれば手っ取り早いのよ。……そのほかの手段はどれも手間も人も必要になるしね。」  お金……かかるのよ。とユナはこぼした。どうやらゴーストバスターも世知辛いらしい。メイは彼女の肩を撫でた。花子さんもトイレットペーパーを切って渡した。 「ということで花子さん?さっき自分の事覚えてないみたいなこといってたけど。なにか心残りな事とかないかしら?」 「仮に無いって言ったらどうなるの?」  花子は当然の疑問を返した。 「そうね……このお札を定期交換する事になるか……流石にこのトイレ叩き壊せばあなたも浮遊霊に戻るわ。」  浮遊霊ならば、簡単に成仏させることが出来るのである。  花子さんは一度うつむくと、自身の未練について語り始めた。 「実は……私、友達が欲しかったの。一緒に遊んでくれる友達。」 「友達か」  メイはユナと顔を見合わせる。 「でも、今日……あなた達と一緒に戦いごっこが出来て楽しかったわ。だって皆私の事見たら逃げるんだもの」 「まぁ怖いよ。夜中に子供が居たらさ」  慰めの言葉をメイはかける。 「だから今日はあなた達と一緒に遊べてよかったわ。とても楽しかった」 「そっか。あはは」 「戦いごっこは私の勝ちね。うふふ」 「えへへ」 「……」 「……」 「……」 「成仏すれば?」  数秒の沈黙の後、ユナはズバリと切り出した。花子さんはその言葉に対して怪訝な顔をした。 「うーん……実はね。この姿になってから未練が一つできたの」 「贅沢ね」 「えっと……どうしようかな」  花子さんは切り出していいのかどうか困り果てた顔をしていた。女子高生二人は首をかしげる。おそるおそる彼女は言葉を続ける。 「あの……聞きたいんだけど。最近の学生ってトイレでご飯食べるの?」 「いや食べねぇけど?」  水に流せない言葉だった。
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