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「【変革せよ】、【ワールドカスタマイズ】。」  竜神と名乗る女性は〈《起源の魔法|オリジンマジック》〉である竜魔法を放つ。元来、太古の世界を支配していた竜族は竜魔法によって、万物に劣ることの無い力を所有していた。  その神ともなれば力は偉大なものである。竜神が使う竜魔法は他の竜族が使うものとは全く違う、まさしく世界を作り替える力があるのだ。  今、この女性が使った魔法は竜魔法が一つ【変革】だ。《魔物騒動|モンスターフェスタ》を起こしていた各魔物がここに存在していないものとして世界の理を修正したのだ。これぞ竜神のなせる技である。 「……気絶してる。」  全ての魔物を文字通り消した後にようやく青年が気絶している事に気付く。先程の落ち着きようは何だったのか、焦ったように竜魔法が一つ【再生】を発動した。 「【再生せよ】、【レストレーション】。」  存在する全ての回復に関する魔法の中で最も最大の癒しを与えるこの魔法。傷や状態異常を治すだけでなく、呪い、痛み、不安。それに加えて眠気なども。万能回復魔法なのだ。  すぐに青年は目覚めた。それを見て、女性はようやく安堵する。 「ここは…………あぁ……そういう事か。」  青年は全てを悟った。この竜神と名乗る女性は自分を追い掛けてここまで来たのだと。そして魔物に囲まれて気絶しているのを見て助けたのだと。面目を潰さない為にも追い掛けることや攻撃することをギリギリまで耐えていたのだと。いや既に面目丸潰れなのだが。 「すまない……」 「大丈夫。」  女性の返事は素っ気ないものだった。これぐらいはお節介の範疇のようだ。礼など有難迷惑だと言わんばかりに頬を膨らましている。姿は人間そっくりだ。とても竜神だとは思えない。 「あんたはホントに竜神なのか?」 「うん。正真正銘の竜神。」  そう言うと少し胸を張る。程々の胸が強調されたが生憎と青年に胸好きな趣味は無かった。変わらずに青年は話を続ける。 「あんたは何のために僕を探しに来たんだ?」  今まではすらすらと答えていた竜神の女性は答えに詰まった。『運命』などという回答は辞めてほしいものだが……。 「ッ………………ひ、必然?」 「はぁ……。」  予想の斜め上な回答が来たよ。まさか『必然』だとは。運命すらも超越してるじゃないか。自分から会いに来ておいてそれを『必然』と言ってのけるとはよほどの自信家……なのか? 「それで?」 「?」  可愛らしく首を傾げる。普段は無口で可愛い女性だとは青年も思っている。だがその発言についていけないだけなのだ。突拍子もない発言は辞めてほしい。 「それであんたは僕の名前を知ってるの?」  それだ。『必然』というからには名前を知っていて当然の筈だ。まさか……それはないよな?それだけは勘弁だぞ。 「し、知らない。」 「おいっ!!!!……あぁ、すまん。」  思わず大きな声を出して、女性を驚かせてしまった。自分よ紳士であれ。スーハースーハー……よし。気を取り直して。 「ま、まあ取り敢えずあんたは僕に会いに来たんだよね。」  質問に女性は慌てて頷く。脅威的な可愛さである。人を萌え死にさせそうだ……とか街の冒険者がよく言ってた気がする。……断じて僕は言っていない。 「じゃあ、僕に会って何をしたいの?」 「………………旅をしたい。」 「うん。もう一度頼むよ。」  何故か左耳から右耳に言葉が流れ出てしまったようだ。まさか『旅』だなんて言ってないよね?恐る恐る女性を見る。女性も興味津々とでも言うように目を輝かせてこちらを見つめていた。 「旅。旅がしたいんですっ!」 「はぁぁぁぁぁああああ!!!!」  ここに一つ宣言をしておく。────僕は旅が嫌いだ。とある出来事があってからは完全に旅を毛嫌いするようになってしまった。旅と聞くだけで身体中に蕁麻疹が出るのだ。数ヶ月に一回、薬を処方してもらっているが、その言葉を聞いた時は塗った甲斐無く、蕁麻疹が出てしまう。僕の中では『旅』という言葉は『竜神』と自分を呼称するのと同じレベルの禁句である。 「ど、どうしてた……うっ……遠出をしたいんだい?」 「あなたとならこの世界を救えるから旅をしたいんです。」  何故この女性は『旅』を強調するんだ。辞めてくれ……。腕は……。あっ、既に蕁麻疹だらけだ。ヘ、ヘルプミー……。 「お願いします!世界の危機が掛かっているんです!」 「せ、世界の危機……?」  瀕死寸前の状態で青年は耐え続けた。青年は生き地獄という言葉を今日初めて実感したのであった。これが竜神の実力……恐るべし竜神……。当の本人……いや当の本竜は自己評価がグングンと減少しているとは知る筈も無かった。 「どうしたの?」  気持ち悪いほどに体力を浪費し続け、汗をダラダラと流す青年の姿に竜神の女性は若干引き気味に問い掛ける。 「だ、大丈夫……。」 「……【修正せよ】、【ストラクチャルチェンジ】。」  竜魔法が一つ【構造変化】の魔法。青年の蕁麻疹はこれで二度と出ることは無くなった。蕁麻疹を引かせるだけであれば、【再生】の魔法で事足りる。万能回復魔法だからだ。しかし蕁麻疹は呪いでは無い。いくら回復させたとしても蕁麻疹が出る症状は治らない。だからこそこの魔法なのだ。【構造変化】の魔法はその無機物・有機物の構造を自在に変化する。要するに魔改造だ。女性は青年の蕁麻疹症状を改善した。 「何でもありかよ。……まあ、竜神だからな。当たり前か。」  自己納得するしか無かった。それ程までに竜神というのは無茶苦茶な存在なのである。青年は疲れ果てていた。最後にこうとだけ呟いた。 「取り敢えず《分かったから|……》続きは明日な。今日は宿で休ませてくれ。」  間違いなく失言であった。知能が高い竜種……ましてや竜神がそれに気付かない筈がなかった。目をより一層輝かせ、何度も頷くのであった。それに引き換え、己の失言に気付くことなくとぼとぼと宿に帰るのであった。 「おかえりなさい……あら?」  宿屋の女将さんは青年の疲れ果てた姿に驚いた。最も一番驚いたのはその青年が借りている部屋から出てきた女性の事だったが。だが、疲れ果てた青年にそれを問い詰める程の鬼では無かった。青年はそのままとぼとぼと部屋に入っていった。挨拶と部屋の鍵はしっかりと受け取って。少し呆れる女将さんであった。  一方、竜神は何をしているのか。竜神の女性は青年が帰った後も森に残った。青年がいなくなった後の森はまさに《混沌|カオス》であった。ジャンプする度に地が揺れ、手が木に当たって木が折れ、揺れ動く髪の毛によって空の雲が真っ二つになっている。小動物や魔物は畏怖の眼差しを女性に送るのであった。当の本人……本竜は嬉しさの余りにその事に気付いていないのだが。  そうして青年と女性は個々の夜を過ごしたのであった。青年は疲労困憊。女性は狂喜乱舞である。正反対の二人であった。  翌日。青年は再び森へと向かった。少々二日酔いのような症状があるが、気にしてはいられない。竜神との旅を断る必要があるからだ。……蕁麻疹を治してくれた、感謝も。  女性は一方、街へ向かっていた。青年に逃げられては困る、と竜神が可能な最大限の早起きをして、街へ向かったのである。両者はまさかの行き違いとなり、時間を掛けて青年が森、女性が宿へ着いた頃には正午になっていた。  青年は急いで街に戻った。何故か第六感が危機を伝えたのだ。要するにただのカンである。しかし、自分の借りている部屋に再び入られては女将さんにバレかねない……と時すでに遅しな青年。全速力で青年は街へと戻った。  女性は宿屋に行く前に街を見回っていた。見た事のないものが多く街にはあったからだ。昨日、青年の部屋へ強襲した時は【転移】の魔法を使用していた為に街は見ていない。  市場を見回っていると小さな女の子に女性は出会った。その女の子は泣いていた。近くにいる大人達が慌てているので不思議に思った女性は話し掛けた。 「どうしたの?」 「あ、ああ。それがな……この子が迷子になっちまって。」 「そうなの?」  女性は次に女の子に話し掛けた。目の前の可愛らしい女性に女の子も泣き止んだ。そして、目に涙を溢れさせながら頷く。竜神の女性は母なる竜として母性に溢れている。青年はまだその様子を見ていないが、女性は暖かな眼差しで女の子の頭を撫でた。 「じゃあ、探そう。」  竜神である女性にとって、女の子の親を見つけるのは容易であった。しかし、魔法には詠唱が必要であるために使えない。仕方なく、子連れ竜神は騎士の派出所に行くのであった。  女性は街を歩く人に派出所の場所を聞いた。街の人は皆優しく、丁寧に場所を教えてくれたのだった。子連れ竜神は聞いた通りの道順で歩き、派出所へと着いた。そこにいる騎士も対応が良かった。この街だけでなく、この国の人は皆優しい性格なのだ。だからこそ近隣諸国からの評価が高い。  派出所には一人の女性がいた。竜神の女性が連れた女の子が派出所に入ると二人は目が合った。そして次の瞬間には抱き合っていた。 「おかあさん!!!」「アーデ!」  どうやら母親も娘を探していたらしい。そこに娘を連れた竜神がやって来たという訳だ。竜神は親子から何かお礼を、と言われたが気紛れで助けただけの竜神はそれを断った。それよりも青年である。  親子は竜神に礼を言うと去っていった。同時に竜神も派出所を出たが、すぐに呼び止められた。 「ちょっと待って。」  竜神はその声に聞き覚えがあった。自らが探してやまないその存在。青年であった。 「全部見てたよ。……君は優しいね。流石に僕も逃げてばかりだと良心が痛む。さて、僕も決心をするとしよう。僕と……旅をしてくれないか?」 「うんっ!」  こうして二人は本当の意味で旅をすることになった。世界はここから大きく変化するのであるが、まだそれを知る者はいないのだった。
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