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 癖になっているのか、昼休みになるとハルカは三階屋上に弁当箱を持って向かってしまう。ハルカはそのまま歩を進めるか進めまいか迷っていた。 「……」  二秒黙ったあと、振り向く。行っても彼女は返事をしてくれないだろう。 「あっ……殴坂さん」 「ハルカちゃん」  追いかけて来たのか、ユナが彼女の後ろにいた。心配をしていると顔に書いていた。 「もし……私達と食べるのが嫌だっていうなら……」 「違うの!癖なの……」  ハルカは言葉を遮った。 「だって私……一年以上こうしてたから」  まるで自虐するかのように言葉を綴った。ユナは何も言わず微笑み返す。 「行きましょ。あの子らが待ってるわよ」  二人は屋上を後にした。  夕令高校には食堂がある。安くて美味いと評判で人が多く集まっている。メイとユナ、そしてカケルはよくここで昼ご飯を食べている。 女子二人は弁当持参なのだが、カケルが食堂でいつも麺類を食べているのだ。だから三人は毎日ここでお昼ご飯を食べている。  最近はこのメンバーが四人になった。聴波ハルカが加わったのだ。少々遠慮がちに、まるで兎が食べるような量のお弁当を食べている。 「ハルカ先輩は……聞こえるんですよね?霊の声が」 「え……う、うん!」 「この学校、やっぱ聞こえるんすか?」  カケルがハルカに興味ありげに聞く。 「ぜ、全然だよ。この学校では花子さんが初めてだったもん」  少し慣れない様子で彼女は返事をした。 「あれ?ハルカちゃんまだ緊張してるんすか?早く慣れましょうよ」 「あら、噂堂くん……年上相手に生意気してると」  ユナがカケルのヘアバンドを引っ張ると、離した。子気味のいい音が食堂に響く。 「あんたがそんな風に内外共にチャラチャラしてるからハルカちゃんが怖がるのよ。いい加減にしないと。貴方……死ぬわよ」 「細木数子かあんたは……」  カケルは額をさする。 「あははは!」  ハルカはけたけたと心地よい笑い声を上げた。それを嬉しそうにメイは眺めた。 「お前って結構ゲラだよな」 「え?そうなの?」  ハルカはそんなことを言われるのが初めてなようだ。目を丸くした。 「殴坂さんが変なことばっかり言うからだよ」  ユナは不満そうな顔をする。 「ダメよハルカちゃん」 「え?」 「私が変なことを言うのは認めるわ」  認めるのか……。メイがつぶやく。 「私の事はユナちゃんとお呼びなさい。殴坂さんっていうのは固いわ」 「えっ……いいの?」  誰に許可とってんだろう。メイはコーヒー牛乳を口に運ぶ。 「ユナ……ちゃん」 「可愛い」 「可愛い」 「可愛い」  満場一致の可愛い判定だった。 「や…やめてよ褒めないで」 「そういえば、ハルカちゃ…」 「あん!?」  カケルの言葉にユナの目付きが鋭くなる。 「ハルカ先輩」 「ど、どしたの?」 「この学校では二つの派閥があるじゃないですか?メイ先輩派閥とユナ先輩派閥」 「そうだね」 「そうだねじゃねぇよ」  悪習だろ。メイは頭を搔く。 「ハルカ先輩はどっち派ですか?」 「ユナちゃん派」  即答だった。 「あらハルカちゃん……センス無いわね」  ユナは口を尖らせる。 「は〜やっぱそうなんすね。流石『赤いジャージ同盟』会員だ」 「あっ、噂堂くん知ってるんだ」 「当たり前っすよ」  ユナは納得の行かない顔と驚きの顔を交互にしていた。 「ちょ……ちょ、ちょっと待って……なに、その不名誉な名前の同盟」 「何って、あんたのファンクラブだけど」  非公認じゃん!!ユナは叫び散らした。食堂全員の注目を集める。 「は?知らない!私知らないわそんな同盟!」 「えっ知らなかったんすか?多分一昨年の一月からありますけど。」 「嘘!?」 「そういえば、この前めでたく会員数が四桁超えましたね」 「やだぁ!規模がおっきい!!」  もう悲鳴に近かった。 「あっ、ユナ。」 「なによ」  メイの声にユナが振り向く。 「№1000私だわ」 「お前かい!何で入ってんの!?」 「この前の仕返し」  嬉しそうにメイが勝利の笑みを浮かべる。ユナはハルカに説得をするかのように語りかける。 「ハルカちゃん?……私のファンより多分メイの方がやってて楽しいわよ。だってメイの方が可愛いし!!」 「イヤミか貴様ッ」  お前の方が顔と体の造形が整いまくっているだろ。メイは睨んだ。 「無理だよユナちゃん」 「なんで」  ハルカの目をじっと見るユナ。 「会員ナンバー七の私としてはファンを辞める気はないというか」 「七!?こっ…古参じゃん」  いつもとは違う慌てふためくユナに一同は声を上げて笑った。 「私……ユナちゃんは覚えてないと思うんだけど、まだユナちゃんが『赤ジャーの殴坂』って呼ばれてる時に、ユナちゃんに助けて貰ったことがあるの」 「やめて……その黒歴史の塊だった時の私の事を思い出させないで……」  ユナは頭を抱える。 「良かったじゃん!お前、やっぱり人気なんだよ『赤ジャーの殴坂』」 「やめろぉ!!その名前で呼ぶんじゃねぇ」  二人のそのやり取りに、ハルカはお腹を抱えて笑った。 こうしてハルカはだんだんと三人と溶け込んで行った。休み時間にもお互いに話すようになった。 「ハルカちゃーん、さっきの小テスト何点だったの?」  授業で数学の小テストがあったのだが、ユナがその点数を聞きに来た。 「九五点だったよ」 「九五!?」  メイとユナが目を丸くして驚く。 「さっきのテスト……難しくなかったか?」 「うん。時間かかっちゃった」 「凄い!流石成績優秀だわ……それに比べて、ねぇ?切崎さぁん?」 「やめろ。数学苦手なんだ」  メイは数学が苦手である。基本的に学業にはキチンと取り組むメイであるが、数学だけは大の苦手なのだ。  ほかの授業では眠くても何とか起きているが、数学では理解が及ばなくて寝る。起きている時はまるでメンチを切るヤクザかのような複雑な顔をしている。  テストの点数は毎度赤点ギリギリである。 「何点?だっけ?」 「四一点」 「ぶわはははははははは!!本当に数学は点数悪くてウケるんですけど!!」  ユナはダムが決壊したかのように大声を口から溢れさせる。 「やめてあげなよユナちゃん」  ハルカがユナの腕を引っ張って引き止める。 「いいよ別に……可哀想なことにこいつは脳みその代わりに乳持ってかれたんだからさ」  メイは仕返しと言わんばかりに研ぎ澄まされた日本刀のような言葉を放った。ユナの目がスナイパーで人を撃ち抜くような表情に変わる。 「んだとコラ……お前こそなんだこの点数はよぉ!!乳に脳みそ持ってかれたのはお前の方だろうが!?んんんんんんー!?おっぱいでけぇからって調子乗ってるとエライ事なるぞ!!」 「何がエライ事だダボが、常に頭おかしいこと言ってる癖してよ!こっちこそ数学コンプレックスだぁ!?このちっぱい女!!」  豹変した二人に、ハルカはあわあわと焦ることしか出来ない。 「なに……やる気かしら?屋上にいこうぜ…………久しぶりに、キレちまったよ」 「いいぜ……白黒ハッキリつけたいとは思ってたんだ」  唐突に始められた二人の喧嘩にクラス中がどよめく。 「真夏にアスファルトに迷いでたミミズみたいなご面相にしてやるわ」 「《やれるもんならやってみな|Go ahead,you make my day!》」 「落ち着いて!落ち着いて!!」  真ん中に立っていたハルカが2人を静止する。 「ダメだよ!友達は喧嘩しちゃダメなんだよ!?」  彼女から発せられたのはまるで小学生を止めるために用意されたような理由だった。しかし二人の喧嘩を止めるような人間は今まで誰もいなかったので、二人は驚いて止まったのだ。効果はあったようだ。 「でも!私のおっぱいのこと先に馬鹿にしたのはこいつよ!」 「はぁ?お前私が数学出来ないこと本気で悩んでんの知ってるだろーが!」  二人は火花が散るほどの睨み合いを繰り広げる。 「ふ……二人ともいけないと私は思うよ。ほら、お互いに謝って。ね?仲直りしよう?」  メイとユナはお互いに決まりが悪そうな顔をするが、先にメイが口を開いた。 「悪かったよ……意外とあるよ。お前の胸。」  次にユナが謝る。 「ご、ごめんなさい。出来ないなりに頑張ってるわよ……数学。」  普通の人間の感性では分からないが、二人はお互いにフォローをし合った。この二人にとってはこれで仲直りになる。  そして一度始まれば学校中がギャラリーへと変わり授業にならない事態となることを未然に防いだハルカに対して、惜しげもない拍手が浴びせられた。 「えっ?なにこの拍手……」  大人しいけど只者じゃなかったんだ。流石あの二人の友達やれるだけはある。金髪の不良より一緒にいて映えるなどと賛美の言葉が数々とかけられる。  ハルカにとって、自分に対して多くの声が向けられることが初めてのことだった。今まで自分とは別の存在だと思っていた慌ただしい声達が自分を囲んでいる。  今度は毎日の昼休みのように、彼女を虚しくさせなかった。 「あ……ありがとう」  彼女は何かに対して礼を言っていた。それがメイ達に対してなのか、クラスメイトに対してなのか、それとも……。  メイとユナは常識とは少し違うような生徒だが、彼女にとっては一緒にいて楽しい存在だった。それに自分の霊感のこともなにも気にせず聞いてくれる。彼女はいつの間にか1人では無くなっていた。学校に来るのが楽しみで仕方なくなり始めていた。  ハルカの中である感情が大きくなっていた。  彼女はある昼休み、弁当も持たず屋上に来た。  この事を伝えたい、共有したい相手がいるのだ。 「花子ちゃん……今日は絶対話すから」  そう、彼女の高校初めての友達。メイ達とは違う死んだ友達。トイレの花子さんに伝えたいのだ。
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