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 1  カンッ カンッ カンッ――。  工房内に一定のリズムで響き渡るハンマーの音。  カンッ カンッ ガキンッ! 「あぁーーーっ! もう、何でーっ。また失敗!」  私は憎々しげに、折れた刀身をにらみつけた。  とほほ……これで、五連敗だよ。 「うーん……、レンカちゃん、調子悪いみたいだねぇ」  カウンターの外に立つ男がつぶやいた。  私の工房の常連客、名前は……なんだったっけ? まぁ、名前を記憶していなくったって、顔さえ覚えておけば私には十分十分。  っと、お客さんはどうでもいい、今はこれ、この結果。 「絶対おかしい! なんでこんなに連続で失敗するわけ? バグってんじゃないの!?」  私は腹立ちまぎれに折れた刀身をハンマーで叩きつけた。甲高い嫌な金属音が響くが、怒りで私は聞いちゃいない。 「いったんログアウトして、頭を冷やしてきたらどうだい? 僕も、さすがに+7の五連続失敗は、心にくるものがあるよ……。先に落ちるね」  男は少し気落ちしたような声でつぶやくと、そのままログアウトした。  それにしたって、私の腕なら二本に一本は成功するはずの武器の+7への精練だよ? なんで、こうも失敗するかなぁ……。せっかくお客さんも私の腕を見込んで頼みに来てくれたのに、なんだか申し訳が立たない。いっそ、この程度も満足にこなせない私の不甲斐なさを非難してくれたほうが、よほど気分が落ち着くよ。  私は立ち上がり、工房の裏手にある井戸へ向かった。今日はこれ以上作業をしたところで、すべて失敗しそうな気がする。顔を洗って出直したほうがよさそうだった。  ☆ ★ ☆ ★ ☆ 「ぷはぁ……。やっと落ち着いた」  冷たい水で洗い、ほてった顔を冷ました。タオルで軽く水滴を拭き取ると、微風が頬をさっと撫でる。  私は少し落ち着いたところで、ふと空を見上げた。……どんよりと曇っている。  まったく、天気まで私の心を憂鬱にしてくれる。恨めしいったらない。 「このままみじめな姿を、お客さんにさらしっぱなしでいいの? ……いや、よくない! レンカ、ここで負けてちゃ、この街一番のコヴァーシュの名が廃るってもんだよ!」  私は手のひらでパンッと頬を叩き、気を引き締めなおした。あきらめたらそこでなんたらかんたら、な感じの某有名漫画の台詞が脳裏をよぎる。  私ことキャラクター名レンカ・プレツィタは、ここヴィーデの街に工房を持つコヴァーシュ――鍛冶屋だ。ここまで器用さ極振りの生産特化ステータスにしてきたおかげか、結構評判はいいと思う。自分で言っては何だけれど、街行く人に、この街で一番のコヴァーシュは誰ですかって聞けば、まぁ、たいていは私の名前を挙げてくれる程度には、人気がある。  でも、悲しいかな、今、すっごいスランプなんだよね。以前まではサクサクと作れていた武具が、なぜだか最近、妙に失敗する。なんでだろう? 私に心当たりはまったくないんだから、困っちゃう。  ただ、私って、「考えるな、感じろ!」を地で行くタイプでもあるから、あれこれと悩んでいても仕方がないかなとも思っている。高校の友達――現実世界の――にも、「あんたは絶対感覚派。理論なんかその辺にポイっと捨てちゃえだなんて思ってるでしょ」とケラケラ笑われたりしている。 「こんな時は、気分転換も兼ねて、レア鉱石漁りをするしかないよね」  気持ちの切り替えの早さが、私の取り柄の一つだ。さっさと鉱山街へ移動しようっと。私の最近のお気に入りで、誰にも教えていない秘密の場所があるんだよね。  たぶん、サーバーのトップグループもまだ知らないんじゃないかと思う、未踏の鉱山ダンジョン。鉱石の露天掘りをしている時に、偶然見つけたんだ。  当然、私以外はまだ誰も立ち入っていないから、レア鉱石が手を付けられずにまだまだたくさん残っている。コヴァーシュにとっての、天国だね。もう、あそこで寝泊まりしたいくらい。  ☆ ★ ☆ ★ ☆ 「今日はこの辺で作業しよっかなー」  件の鉱山ダンジョンに入って二層目、まだこの辺りまでは足を踏み入れたことはなかった。  私は生産特化だから、戦闘はさっぱりだ。器用さ以外のステータスは、年齢性別相応ってところだと思う。でも、運のいいことに、このダンジョンってしょっぱいモンスターしかいない。私のつるはしでも十分倒せるから、ソロでも安心安心。  私は携帯用のつるはしを取り出し、さっそく掘り始めた。 「大判小判がざっくざく。大判小判がざっくざくっと」  実際は大判でも小判でもないけれど、レア鉱石だからそれ以上の価値があったりする。まぁ、自分で生産に使うから、売ったりはしないんだけどね。 「ふふふ、今日も大漁じゃー!」  ここ掘れワンワンと教えてくれるワンコがいなくったって、適当に掘り進めばじゃぶじゃぶとお宝が出てくる出てくる。なんてイージーゲームなんだ、と私はほくそ笑んだ。  精錬失敗のショックもすっかり消え、一心不乱につるはしを振り下ろした。  とその時、身体に揺れを感じた。 「え? 地震?」 『精霊たちの憂鬱』では、確か地震は実装されていなかったような気がする。では、何だろう? 「もしかして、落盤!?」  最悪な予想が脳裏をよぎる。  私は慌ててつるはしを投げ捨てた。一目散に、出口に向かって走り出す。だが――。 『ギャギャギャギャーーッ!』  落盤ではない。揺れの正体は、走り寄る巨体モンスターがたてる地響きだった。  彼奴はいやな叫び声をあげながら、どうやら私だけを見つめて突進してくる。 「げげっ! エリアボスじゃん!」  目視するや、彼奴を指し示すカーソルが赤い。ボスの証拠だった。『マインリザード』と称される巨大トカゲは、完全に私をターゲットにしていた。  ヤバい、はっきり言って、ヤバい。周りが雑魚ばかりで安心しきっていたけれど、さすがにボスは勘弁だよ。  生産職なめんなー、ワンパンで死に戻りの自信があるぞー、と私は心の中で悪態をつきつつ、退路をうかがった。  ……退路は断たれていた。 「なんでーっ! さっきまで道があったじゃん!」  そう、道があったはず。  よくよく見ると、大きな岩が崩れて、道のあった空間をすっぽりと塞いでいる。……マインリザードの引き起こした地響きのせいだろう。 「ちょっとー、私って今日、運がなさすぎじゃない? 運営のバカ―! 確率いじってるんじゃないでしょうね!」  私はどうにもならない怒りを運営にぶつけた。ぶつけたところで、意味がないのはわかっている。でも、どこかに怒りをぶつけたかった。  だって、私の幸運値って、別に平均未満ってわけじゃないんだよ? 人並みにはあるはずなのに、この仕打ちはちょっとひどくない? 「なによー! 死に戻りだなんて、絶・対・イ・ヤ・ッ!」  『精霊たちの憂鬱』でのデスペナルティーは二通りあるけれど、今の私はどっちのパターンもごめんだった。  一つ目は、全ステータス一律十パーセント減が一日間。高ステータスだろうが低ステータスだろうが関係ない。一律に減る。  二つ目は、街を出てから死に戻るまでの間に拾ったドロップのうち、半分の強制喪失。ただ、奇数個入手している場合は、プレイヤー有利で処理をしてもらえるので、一品物のレアを拾った場合に失われてしまうといった事態はない。一個がゼロになったりはしないんだ。その点だけは、実にありがたい。  デスペナルティーは、この二つの中から任意に一つを選択できる。プレイヤーに選択権があるので、ずいぶんと良心的な設計だと私は思う。  ただ、今日は大量のレア鉱石を拾っている。これが半分になるのは嫌だなぁ。でも、ステータス――特に器用さが十パーセントも下がっちゃったら、今日はこれ以上生産なんてできない。実質的には店じまいだよ。それはそれで、つまらない。  なら、やっぱりここで死ぬわけにはいかない。今日は休日。まだまだプレイ時間がたくさん残っているんだから。  私は捨てたつるはし拾いなおし、無駄な抵抗を始めた。いや、本当に無意味なあがきだと、私もわかってはいるんだ。でもね、何もしないでやられるっていうのは、プライドが許さない。  見てろー、このトカゲやろーっ!
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