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 3  コンコンッ……  私が気合を入れなおしていると、不意に入口の扉がノックされた。 「どうぞー」と返事をするや、二人の男が入ってきた。私の所属している上位生産者の集まりであるギルド『炎の工房』の、ギルドマスターと副ギルドマスターだった。 「あれ、今日はどうしたの? 定例のギルド会議は明後日じゃなかったっけ?」  私は訝しみ、二人の男の顔を交互に見遣った。  普段から、わざわざ私の店に買い物に来るような人たちではない。異性だし年齢もちょっと離れていたから、それほど親しくしているわけでもない……。  臨時のギルド会議の告知でも、うっかり見落としてたかな。ギルド会議以外で私に要件があるような人たちでもないし、もしかして会議さぼっちゃった? マズいマズい……。 「あー、レンカ。君にはすまないんだけれど……」  副ギルドマスターは頬を掻きながら、言葉を濁した。  なんだかちょっと、いやな予感。あまり聞きたくもない話を、聞かされそうだ。 「君を『炎の工房』から除名……、追放することになった。悪く思わないでくれ」  ギルドマスターが後を続けた。  刹那の沈黙――。  一瞬、私は何を言われたのかがわからなかった。え? 追放? なんでなんで? 「君の最近の精練成功率、随分とひどいことになっているらしいね。噂がボクの耳にも届いたよ」  下卑た笑いを浮かべながら、ギルドマスターは私を舐めまわすように見つめる。  正直、気持ち悪い……。  それにしても、私の噂、ギルドにまで届いていたのか。お客さんの誰かが訴えたのかな……。  あまり、考えたくはない。常連さん、みんないい人だったし。 「さすがに駆け出し鍛冶屋よりも成功率が低い者をギルドに入れていては、僕らのギルドの評判が地に落ちる。悪いけれど、そういったわけで、君にはギルドから抜けてもらう」  ギルドマスターはふんぞり返り、鼻を鳴らした。 「異論は聞かないよ、もう臨時会議で決定済みだ」  一方的に言うだけ言って、ギルドマスターはさっさと工房から出て行った。結局、私に反論の隙を一切与えてはくれなかった。  のっしのっしと歩き去るギルドマスターの後ろを、副ギルドマスターはちょこまかと小走りになってついていく。こうして見ると、まるでギルドマスターの腰巾着だなと思う。  二人が立ち去っていった入り口の扉を、私はぼんやりと見つめ、立ち尽くした。  運の悪さここに究めり、だね。もう私、このまま闇落ちしちゃってもいいかな……。  どうにでもなれといった心境だった。せっかく入れた気合も、急速にしぼんでいく。デスペナルティーを回避したはいいけれど、もう今日はプレイを続ける気にはならない。私は頭を振り、ため息をつくと、早々にログアウト処理をした。  ☆ ★ ☆ ★ ☆  翌日、カレルたちが工房に来る件もあったので、気は重かったけれど無理やりログインをした。  ざっとキャラクターデータを確認すれば、ギルドマスターの言葉どおりに、見事ギルドから追放されていた。  ログには、『ギルド『炎の工房』から追放されました』の一文が残っている。所属ギルド欄には、ポツンとさみしく『無所属』と表示されている。昨日の出来事が現実だったと、改めて思い知らされた。 「はぁぁぁー……。これからどうしよう。『炎の工房』の生産物資割引が受けられないと、これからの生産活動に支障が出そう。それに……」  ギルドマスターの言葉どおりなら、私の悪評がずいぶんと広まっている可能性が高い。お客さんが来なくなる恐れも、大いに有りだ。  このまま廃業……?  イヤな考えが脳裏をよぎり、私は背筋がうすら寒くなった。身体が震え、呼吸も荒くなる。『精霊たちの憂鬱』をプレイし続ける理由が、なくなってしまう?  私としては、きちんと真面目に、一件一件の依頼に真摯に取り組んでいるんだけどなぁ。失敗の文句は運営に言ってほしいよ、本当に。  私のステータスやスキルレベル、幸運値を考えれば、こんなに失敗続きなのは、どう考えてもシステムがおかしい。そう思うしかなかった。  ぐちぐちと運営への文句をつぶやいていると、カレルたちが工房にやってきた。 「やあレンカ、昨日ぶりだね」 「やっほー、レンカ。来たよー」  私の深く沈みこんだ心のうちなどつゆ知らず、なんとも楽しげな挨拶を交わすカレルとユリナ。ちょっと、あなたたち空気を読んでよ、と言いたくなる。八つ当たりになるから、そんな台詞は吐けないけれどね。 「さっそく、昨日の返事をもらいたいんだけれど、どうかな? 請け負ってもらえる?」  カレルの問いに、私はぴたりと固まった。  昨日、カレルたちが帰った直後までは、引き受ける気でいた。けれど、その後のギルド追放で話は変わった。今の私が作っても、カレルたちのためにはならない気がする。 『炎の工房』を追放された駄目《鍛冶屋|コヴァーシュ》……。そんな烙印の押された人間の作った武器では、サーバー最強の一角を占めるカレルたちには、ふさわしくないと私は思う。 「ごめんなさい。今の私じゃ、あなたたちの武器を作る資格なんてない。はみ出し者のコヴァーシュには、ね」  私は自嘲し、頭を振った。  しばし流れる沈黙。  すると、カレルとユリナはお互いを見つめ、うなずきあった。どうしたんだろう? 「あー、もしかして、ギルド追放の件かな?」  静寂を破り、カレルが口を開いた。 「えっとね、昨日の『炎の工房』の騒動は、私たち攻略グループにも噂が流れてきてね、知っているんだ」  ユリナが少し言いにくそうに後を続けた。  知っていたんだ。それでも変わらずに、私へ依頼をしてくれる……。ちょっぴりうれしい。  でも、それとこれとは話が別。追放された私の作った武器を使っていたら、今後カレルたちが『炎の工房』の他の職人たちの協力を、受けられなくなっちゃうかもしれない。  考えすぎかもしれないけれど、避けられる事態は避けないとね。昨日のあのギルドマスターの態度を考えれば、ありえないって言いきれないもの。 「私が作った武器を使ってもらえるのは、私としては本当にうれしいよ」  私は微笑を無理やり顔に張り付けつつ、感謝の言葉を口にした。 「でもね、もしあなたたちが私の武器を使えば、何かの不利益を被るかもしれないんだよ? 『炎の工房』からのバックアップが弱まると、攻略組として困っちゃうよね? それは、私の本意じゃないな」  一転して、私は顔をこわばらせる。自分の言葉に、自分で傷ついた。  自分が愛情を注いで作った武具を、誰にも使ってもらえない無力感。生産者としての喜びを、奪われた気分だった。 「レンカ、オレたちはそんなくだらない話、別に気にしてはいないぞ。他の職人の協力が得られないっていうんなら、オレたちはレンカを専属にするし」  カレルの言葉に、私は胸が熱くなった。そこまで私を買ってくれているんだ、と。 「はっきりと言わせてもらう。オレはレンカに興味がある。レンカはもしかしたら気付いていないのかもしれないけれど、なんだか君の『霊素』は特殊な気がするんだ。オレがマジックアイテムを作るときの霊素に、近い気がする」  カレルは熱いまなざしを私に送ってくる。なんだか背中がむずむずするよ。  私はつい、目線をそらして顔をそむけた。そのまま正面を向いていると、カレルの目に引き込まれそうになるから……。 「カレルのマジックアイテムって、結構すごいんだよ? で、そんなカレルの霊素と同じような霊素を持っているレンカも、きっと物凄い武器が作れるんじゃないかって、私たちは睨んでいるの」  ユリナは大きな目をより一層見開きながら、にこにこと微笑んでいる。 「また、そんなでたらめを言って慰めてくれなくても……」  さすがにこんな甘言に乗るほど、私はバカじゃないよ。気を使ってくれるのはうれしいけれどさ。  それにしても、私の『霊素』の特徴がカレルに似ているって、どういう意味なんだろう。  精霊使いは、自らが持つ『霊素』というエネルギーを用いて、使い魔を介して『精霊術』といわれる特殊な魔法を発動する。で、この霊素をアイテムに付与すると、簡易マジックアイテムを作れるんだよね。  けれども、私のような《鍛冶屋|コヴァーシュ》は、製造や精練に自らの霊素を注入するような行為はやっていない。私自身の霊素に何か特別な兆候があったとして、それが《鍛冶屋|コヴァーシュ》としての腕前と、何の関係があるんだろう。  わざわざ専属にしてもいいとまで口にする、カレルの意図がいまいち掴み切れなかった。 「でたらめじゃないんだよな。レンカ、一回オレのマジックアイテム制作、見てみないか? そうすれば、オレたちの言わんとしていることがわかると思う」  私が首をかしげながら口をつぐんでいると、カレルはなおも食い下がってきた。カレルとユリナのあの手この手の説得で、私はだんだんとその気になる。  あれ? もしかして、私ってすごい才能を持っている!?  少しおだてられればすぐに調子に乗る、私のいつもの悪い癖が顔を覗かせ始めた。  でも、切り替えは早いほうがいいよね。この流れに乗っちゃうべきじゃない? いつまでもグジグジなんてしていられない!  私は意を決し、ふぅっと大きく息を吐きだした。 「わかったよ。じゃ、マジックアイテムを作っている様子、見させてもらうね。それで、武器制作を請け負うかどうか決めさせて」  私はカレルたちを奥の作業場へ案内した。
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