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 4 「へぇー、これが精霊術を使った、マジックアイテム制作なんだ」  私はカレルの手元を注視した。  カレルは目を閉じ、色とりどりに彩色された小石へ掌をかざした。様々な属性の霊素を放出し、精霊をまとわせている。赤には火、青には水、白には風、茶には地といった具合に、色で属性を区別しているようだ。 「アイテムに霊素を注ぎ込むイメージだね。で、オレが今考えているのは、武器や防具の制作の際にも、この考えが応用できないかってことなんだ」  カレルは霊素注入を終えた小石を一つ手に取り、ひょいっと私に向けて放り投げた。慌てて私は小石をつかみ、親指と人差し指でつまみ上げて、完成した青の小石を見つめた。  川底の石を選んで使っているのだろう、角はなく、つるりとしている。少しざらつく表面も、これといった特徴はない。単に青く着色されただけの、何の変哲もないただの小石にしか見えない。 「へぇー、すごいね。見た目ただの小石が、マジックアイテムに変わるんだ」  試しにちょっと私の霊素を加えてみれば、氷のように冷たくなる。これ、本格的に霊素を注いで投げつければ、相手は凍り付くんじゃない?  うーっ、身体がうずうずするよぉ。おもしろすぎるって、これ! 「私の叩く武具に、今見せてもらった感じで霊素を注入すればいいの?」  カレルの案だと、この小石と同じような方法で、武具にも精霊を宿すっていうことなのかな? タイミング的には、素材鋼の鍛接、鍛錬のあたり? それとも、形成段階? ちょっと試してみないとわからない。  私の脳裏に、様々なアイデアが湧き出した。こういった新しい生産工程を工夫していくのも、生産職ならではの醍醐味だよね。  私は鼻歌を歌いながら、足で床にトントンと軽快なリズムを刻んだ。  しばらく小石をもてあそんでいると、カレルが微笑を浮かべながら私の手元を覗き込んできた。けれども、私は意にも介さず、自分の霊素を注入したり消したりと、考えを思いつくままに小石にぶつけていく。 「今までは完成品の武具に、後からオレが霊素を注入していたんだけれど、制作の段階でやるとどうなるかって疑問が、ずっとあったんだ」  カレルが言うには、完成品に後から霊素をまとわせる通常のマジックアイテム制作と同じ工程を採った場合、武具に付く効果はあくまで《即席、|インスタント》一時的なものになるらしい。大量の霊素を注げば、効果時間もかなり伸ばせるけれど、それでも保って半日程度なので、霊素効率を考えると、常時使用はなかなか厳しい、とカレルは愚痴った。  そこで、素材の精製段階から霊素を注入していくとどうなるのか、気になったみたい。 「今までの疑問を解消するチャンスだーって、レンカの霊素を見てピンときちゃったわけなんだよね、カレルったら」  ユリナは笑いながら、「ほんと、精霊バカなんだから」と口にした。  優し気な視線をカレルの横顔に送るユリナの様子を見て、私は唇をぎゅっと結んだ。なんだかちょっと、胃が締め付けられるような感覚……。なんだろ、これ……。  私はぶんぶんと頭を振って、両手で顔を軽く叩いた。  カレルは苦笑いを浮かべ、頭を掻いている。どうやら『精霊バカ』は事実らしく、ユリナの言葉を否定できないようだった。ごまかすかのように、ユリナの頭をポンポンって軽く叩いている。……ちょっと、もやっとする。 「……なるほどねぇ。うーん、私にできるかどうかわからないけれど、面白そうだね。ギルド追放で今やることもないし、試してみようかな」  私はうなずいた。さっきからちらちらと私の心を突いてくる、なんだかよくわからない感情は、いったん脇にほっぽり出す。  今のアンラッキー状態が落ち着き、ギルドとの関係が改善するまでは、工房はどうせ開店休業状態だ。引き受けない手はない、と思う。  それに、精霊をまとわせたマジックウェポンとかすっごく興味があるし、何より制作自体が楽しそう。昨日からのグダグダで滅入った気分も、いい具合に解消できるかもしれない。 「ってことは?」  期待に満ちた顔で、カレルは私を見つめている。  そんな子供のようなキラキラした眼差しで見られると、ちょっと気後れしそうになる。なんだか顔も、ちょっぴり熱い。 「制作依頼、請け負わせてもらうよ」  私は諾の声を返しつつも、気恥ずかしくて、目線を床へと逸らした。カレルの「よしっ!」と張り上げる声が耳に飛び込んでくる。  本当に、喜んでくれているんだな。生産者をやっていてよかったと思える瞬間だった。  私は顔を上げ、「今の私にやれるだけのことは、精いっぱいやってみるよ」と口にしながら、カレルに手を差し出した。カレルも私の手を取ると、がっしりと握手を交わす。これで、契約成立だ。 「レンカが自力で精霊武器を作りだせれば、きっと追放したギルドの面々の鼻をあかせるよ!」  ユリナもにかっと笑い、握手している私とカレルの手の上に掌を添えた。  ☆ ★ ☆ ★ ☆ 「で、どんな武器にしたいのかな?」  私はメモをするための紙とペンを引き出しから取り出しながら、カレルたちに尋ねた。  制作を請け負った以上は、きっちりと相手の望みどおりのものを作らないとね。そのためにも、まずは依頼者の希望を確認確認。 「オレにはロッドを、ユリナには薙刀を、作ってほしいんだ」  カレルは、今持っているロッドと同種の金属、同種のデザインで、そこに何らかの属性の霊素をまとわせたいと話す。  聞いた範囲でのカレルの戦闘スタイルは、直接自らが戦うっていうよりも、使い魔を使役したり、味方に指示を与える司令塔的な役割をこなしたりといった感じだ。となると、身を護る点を主眼にして、風か地か光あたりが有望かな?   風で飛び道具からの防御、地でとっさの際の土による簡易盾作成、光で簡単な回復効果。こんなところが無難な気がする。  ユリナの槍は、やはり薙刀がいいみたい。柄の長さとか刃先の重量などは同程度で、刃に戦闘に役立つ精霊を何かまとわせたいとユリナは話す。  雑魚減らしのために、槍士スキルの広範囲攻撃を多用するって言っていたから、この広範囲攻撃を補助する何かがよさそうかな。  風をプラスして、攻撃と同時に突風で敵を吹き飛ばす? 火をまとわせて、広範囲を一気に燃やし尽くすっていうのもおもしろそう。このへんは、製作段階でもっとユリナと詰めないといけないかな? 「じゃあ、制作途中で、私の霊素を武器に注入する感じでいい?」  私はあれこれとメモ用紙の上でアイディアを書きなぐりながら、二人に確認をした。 「とりあえず、それで試してみてほしい。失敗したら失敗したで、構わないよ」  カレルがうなずき、隣に立つユリナも「よろしくね」と頭を下げた。 「りょうかーい」  私は同意すると、工房の奥に引っ込んで別の紙の束を持ってきた。武器制作に必要な素材リストだ。 「じゃあ、制作用素材としてはこんな感じになるけれど。このあたりのレア素材って持ってるかな?」  私は素材リストを二人に提示した。  二人の武器作成に必要とする素材の中で、手に入りにくいレアものがいくつかある。持っていないのなら、取りに行くか、他のプレイヤーの露店から買うしかない。 「うーん、いくつか足らないな。あと、この素材のうちいくつかは、もうワンランク上の素材の採集場所を知っているぞ」 「え! 本当!? もしよければ、案内してほしいな。興味あるよ」  カレルの言葉に、私は思わず叫び声をあげた。こいつは、胸が高鳴るよ。  だって、上位素材の採集場所って、秘匿情報だったりするんだよね。独占できれば、いいお小遣い稼ぎになるし、自分の武具の作成、精錬にもためらいなく投入できるから。  なので、そんな素材の採集場所を知れるとあれば、それはもう、お金以上の価値があるんだ。正直、喉から手が出るほど、その情報が欲しいよ! 「オッケー、任されたよ。採集ついでに案内する」  私は小躍りしたくなる気持ちを、ぐっと抑え込んだ。お客さんの前で、醜態は晒せない。でも、頬がだらしなく緩んじゃうのは、もう私じゃ止められないし、見逃してほしいよね!  本当に、カレルたちと知り合ってよかった。これなら、ギルド追放で工房がしばらく使い物にならなくなっても、素材の売買で何とか食いつないでいけそうだ。もし、知り合っていなかったらと思うと……ぞっとする。今頃は、工房の入口に突っ立って、途方に暮れていたかもしれない……。  興奮が収まったところで、カレルとユリナからレア素材の採集場所について、地図を使って説明をしてもらった。なんていうか、灯台下暮らし? いつも私が通っている採集場所のすぐそばにあった。この世界、まだまだ知らないことが多いなぁ。 「じゃあ、さっそくレッツゴー!」  準備が整うと、ユリナが元気よく号令をかけた。 「えっと、ここから北だよね?」  念のため、再度確認しておこう。 「ああ、『精霊の大森林』内にあるんだ」  いつも私が武器制作で使う木材『精霊の古木』も、『精霊の大森林』から取ってきている。今回狙うのは、それよりもワンランク上の『精霊樹の古木』だ。  精霊の大森林に生える木々は、通常種の木でも、森林に満たされた霊素によって、他の森で育った木よりも質がいい。普段使っている『精霊の古木』も、そういった精霊の大森林の霊素をたくさん吸収した通常種の木を加工したものだ。  でも、今回狙う『精霊樹の古木』は、木の種類からして違う。『精霊の大森林』でしか生育できない特殊な木『精霊樹』から作られる材木だ。木材自体にわずかに霊素が含まれるため、精霊術との相性が抜群だった。  場所としてはありふれたところだった。まったく、近くて見えぬは睫とはよくいったものだよね。これまで幾度となく傍を通って来たのに、なんで気付かなかったんだろう。私の目って、意外と節穴だったんだなぁ。  私は苦笑しながら、森に向かうための装備品の準備に入った。 『精霊武器』――。本当に私の手で作れれば、今までの悪評なんか一気に吹き飛ぶはず。まだ誰も作ったことのない、未知の領域に足を踏み入れるんだから。  背嚢に採集道具を入れる私の手は、力の入りすぎのせいか、わずかに震えていた――。
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