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俺と海斗が向かったのは、体育館の2階観客席だ。今の時間、演劇部の練習を観るならここが絶好のスポットだと、静香姉に教えてもらったからだ。静香姉の事だ、何か嫌なことでもあればここで時間を潰してたんだろう。 演劇部の練習は、何グループかに別れて発声練習?をしていた。弓道部の時にも居たが、隅の方に1年生が固まって見ていた、体験入部の奴らだろう。美月も体験入部ならあの中に居る筈だ、と探してみたがどこにも見当たらなかった。 「おい拓也、お前の言ってた美月ちゃんって誰だよ」 隣の海斗が耳打ちしてきた。 「あの中には居ないな、もしかしたら今日は帰ったんじゃないか?」 「なんだよ~どんだけ可愛い子か見たかったのに…」 おいこら、可愛いは確定なのかよ それにしてもあいつが演劇部ね…人は見掛けによらないとは言うが、ここまで体現している奴を見るのは初めてだな。 俺の幼なじみ、杵島美月。いわゆる図書委員系女子であり、表情から感情を読もうとするとかなりの時間を掛けなければ分からない程表情を変えるのが苦手、ほぼ全ての状況において真顔なのである。長年の付き合いである俺ですら、あいつの考えが読めないことがある。何故か静香姉は全て理解出来てるらしいが… これは小学校の時の話なのだが、ある日俺が他の友達と談笑していると、いきなり後ろから抱きついてきたのだ。それも無言、無表情でしてきたものだから、友達には囃し立てられるし、クラス公認の夫婦の様な言われ方もした。 それ以降も、中学でバラバラになるまで同じ様な事が何度もあり、結局静香姉に相談して事なきを得た。そういえばあの時何で静香姉の耳打ち一つで収まったのかは未だに謎である。 人とは変わるもの、どこかで聞いたような言葉が頭の中をよぎる。そうだ、会っていない3年の間で美月も変わっているかも知れないのだ。小学校の時の事をいつまでも引きずってあいつから逃げてちゃダメだよな そこまで考えていた次の瞬間、俺の頭の中を真っ白に染め上げる様な出来事が起こった。 「久しぶり、拓也」 一見ただの挨拶の様に聞こえる、しかし背中に感じる柔らかな二つの感触!そして前に回された細い腕!明らかに抱きつかれているという感覚に、俺は心当たりしか無かった。 「相変わらずだな…久しぶり、美月…」 うん、何も変わってなかった。いや、成長はしてるんだよ?どことは言わないけど 「3年ぶりだね、拓也。大きくなったね」 そういうと、美月は更に強く抱き着いてくる。隣の海斗も、突然の事に頭がショートしたのか、赤面し口もアワアワとしている。 「それでなんだが、とりあえず離れてくれるか?」 背中の柔らかい確かな感触に、俺まで赤面しそうだ。本当に御馳走様です。 「む~、分かった」 心から仕方ないとでも言いたげに、渋々と離れて隣の椅子に座ってきた。 何で久々に会った幼なじみが両方美少女に変身してんだ!昔みたいな対応が出来ねぇじゃねぇか!劇◯ビフォーアフターもびっくりだよちくしょう! 「ん、拓也。前よりカッコ良くなった」 まじまじと顔を見た後、ちょっと頬を染めながらボソッと呟いた。…後ろでリア充爆ぜろと聞こえた気がしたが、怖いので無視しておく。 「そ、それでどうしたんだ?こんなとこで」 こんなとこ、まさにその通りだ。静香姉の言った通り演劇部に入るつもりなら、下で練習を見てる筈なのに美月が居るのは俺達と同じ観客席だ。 「別に、拓也がここに進学したのは知ってたから探してた。そしたらここに入るのを見たから…」 怖っ!ストーカーみたいな事してたのかよ! 「静香姉から美月は多分演劇部に入るだろうって聞いたんだけど…」 場の空気を変えるように、美月に質問する。 「演劇部には入るよ?でも、拓也を見つけたなら私はそっちを優先するよ。拓也以上に大事なものなんて無いもん」 一瞬変わりかけた空気が、再び絶対零度に包まれる。もはや恐怖以外の何者でも無いんだけど… 中学で別れたことをきっかけにヤンデレ属性を手にいれた幼なじみを尻目に、海斗に手助けを目で訴える。しかし、その視線が海斗の目を捉えることは出来なかった。なぜなら… 「あ、あの先輩綺麗だなー」 見てなかった。いや、見てない振りをしやがった。き、貴様裏切りやがったなぁー!? 「拓也、私は?私は可愛くなった?」 制服の裾をクイクイと引っ張り、俺の気を引こうとする。仕草や容姿でいえば百点満点だ。しかし、いくらなんでもヤンデレは怖すぎるって! 「あぁ、凄く可愛くなったな。美月」 昔そうしていたように、癖で頭を撫でる。美月は嫌がる素振りも見せず、えへへっと嬉しそうな声をあげる。…あぁ、ここだけは昔のままの美月だ… ここで海斗がようやく、救世主となってくれた。 「もうこんな時間だし、そろそろ帰ろうぜ」 しかし目を合わせようとはしない。完全に無かったことにしてやがる… 「そうだな。美月も今日は帰った方がいいんじゃないか?」 「うん…また明日ね、拓也」 少し寂しそうに手を振り、美月は帰っていった。 「俺さ、今日まで可愛い女の子は全員ストライクゾーンだったんだ」 帰り道、隣を歩く海斗が遠い目を向け、あたかも走馬灯でも見ていたようだ。自分の恋愛観を完全に打ち砕かれた海斗を慰めつつ、最寄りの駅までを歩いていった。
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