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夕焼けが空を真赤に染めた頃、一人の少年が草原を駆け抜けていた。遥か後方には白く塗られた城壁が見え、城門の前には少年ほどの背丈をした子供たちが涙を浮かべながら嬉しそうに手を振っている。 「僕は帰らないよ、もう二度と」  強い決意とともに少年は歩を進める。小さなリュックを背負って靴を履くことなく、確かな決意を胸に歩み続けるのだ。 「国には帰りたくないんだ」  手足には青あざが絶えず、服の下に隠れている背中では傷痕が今も少年を蝕んでいる。いや、正確に言うと傷痕はすべて綺麗に治っている。トラウマという傷が少年を苦しめるのだ。  日が沈み少年は野宿をした。  リュックの中から硬くなったパンを取り出して一口、これだけが少年が用意できたものだからだ。見送ってくれた子供たちから贈られた物に食べ物は一つも無く、荷物を重くするだけなので藪に捨ててしまった。空腹から解放されて少年は眠りにつく。  そして  夢を見た  いつのことだろうか、少年がもっと幼い頃だ。父親は絶えることのない笑顔をこちらに向け、母親はきめ細やかな肌で少年を包んだくれた。ふたりは優しさに満ちた声で少年に話しかける。 『今はどうしている ? 』 「いま ? 今は国を出たんだ」 『どうしてだい ? 』 「どうして……だって、僕は苦しいんだ」 『いい国じゃないか、子供だけの王国』  子供だけの桃源郷、子供以外はもういない。 『お前たちが望んだんだ』 「そうだよ、僕らが望んだんだ」 『大人は街を離れたろう』 「うん、大人は誰もいない」  最初はみんな幸せだった。  いくら遊んでも、いくら食べても誰一人注意しない。【自由】そのものだった。子供たちは自分たちの好きなように過ごして、およそ一年を過ごしたのだ。  しかし、幸せな日々は一年で終わった。  お菓子は?衣服は?パンは?遊び道具も食べ物もない。誰でもない”大人”が作ってきた小麦も綿花も何もかもが底をついた。一年間は大人が残した備蓄で幸せに暮らしたのだが、気づいたころには麦一粒残っていなかったのだ。大人の代わりに仕事をする子供は一握りだった。  桃源郷は地獄になった。  微かに残っていた金銭でものを商人から買い、子供は暮らし始めたのだが長続きせず、限られた食糧を奪い合うようになった。それこそ子供の様に。次第に仲間はずれをつくって、食べ物を分けようとしなくなった。  一人、また一人と減っていく。  友達と呼んだ人間はもういない。 『子供は残酷』大人はよく言っていた。  今考えればすぐにわかる。損得、主義、宗教、そんな理由なんていらない。好き嫌い、ただそれだけ。純粋な悪意というものは子供社会で無自覚のままに表現される。ひとたび嫌いなら二度と好きになれない。  時間という薬のみが治す病、子供だけの王国では不治の病だ。   そして僕の番になった。  生きることさえ許されない、もう国には居られない。  だから国を出る、国を出て生き延びる。  朝が来た、そして歩き出す。  少年は歩き続ける、子供の王国を捨てて。
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