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 6  素材収集の帰り道、私は前を歩くカレルとユリナの姿を、黙って見つめていた。  あの二人の関係、ちょっと気になるんだよね。なんだか、ただのパーティーメンバーには見えないよ。恋人……、なのかな?  楽しそうにカレルに笑いかけるユリナの横顔を見ていると、ちょっぴり胸がチクチクする。 「こう見ていると、お似合いだよねぇ……。ちょっと、うらやましいな」 「ん? 何か言ったか、レンカ」  私のつぶやきが聞こえたのか、カレルが振り返った。 「あ、いや、なんでもないよ」  カレルは不思議そうに首をかしげたが、すぐに「そうか」と口にして、再び前方に視線を戻した。  危ない危ない、聞かれていなくてよかったー。  今まで製造一直線、パーティーを組んで狩りに出る機会なんてほとんどなかった。製造だってほぼ独学で、一人で没頭っていうのが通常だったから、出会いなんてなかったんだよね。せっかくのVRなんだし、ゲーム内で恋人の一人でも、作ればよかったかなぁ。  危険な時にさっと助けに来てくれる、カレルみたいな素敵な男の子が、現れればいいんだけれど。……白馬の王子様に恋焦がれるって、なんだか私らしくはないかな? ふふ、少女趣味はないはずなんだけれどね。  まぁ、カレルをロックオンなんてしたら、さすがにユリナに悪い。私は自重できる女ですよ。それに、カレルもユリナが気になっているっぽく見えるから、そもそもの話、端から勝負になりそうもない。 「あー、潤いが欲しい」  私は両手を後頭部で組み、ちらりと上空に目を遣った。  すでに陽は暮れている。木々の間からは、キラキラと瞬く星の海が見える。時折聞こえるホーホーという猛禽類の鳴き声が、森の夜なんだと実感させた。  視線を少し横にやれば、白く光り輝く鳩の姿が視界に入る。カレルの使い魔で、ルゥだったかな。光の精霊術が施され、周辺は昼間のように明るく照らし出されていた。 「レンカ、どうしたの?」  今度はユリナに、私のつぶやきが聞こえたようだ。呆け気味に歩く私が気になったのか、カレルの傍を離れて傍にやってきた。  私は苦笑を浮かべ、両手を振りながら、「なんでもないよー」と返した。 「ねぇ、ユリナ。ユリナとカレルって、もしかしていい関係?」  私は直球で聞いてみた。と同時に、胸に何やら、小さな棘が突き刺さる感覚……。私はあえて、無視を決め込む。 「え? え? ち、違うよ……。ちょっと仲のいいパーティーメンバーってだけ。恋人とかそんなんじゃない。第一、私なんかじゃカレルにふさわしくないし」  ユリナはみるみる顔を紅潮させて、慌てて否定する。手をパタパタと振って必死に頭を振る姿は、同性の私から見てもなんだかかわいらしいぞ、くそぅ。  何というか、身長の低さも相まって、庇護欲を誘う感じ? どちらかといえば長身の部類に入る私には、真似をしたくてもできないな。 「そう? はたから見ていると、結構お似合いに見えるけれど。昨日も今日も、二人で行動しているし」  ユリナ本人は否定しても、私にはとても釣り合いの取れたカップルに見える。高戦闘力で、お互いがお互いを補えるスキル構成だし、同年代で、しかも二人とも容姿がとても良い。悔しいかな、私の入り込む余地なんてないよねぇ。はぁ……。 「それは、ゲイルもミリアもリアルが忙しくて、ここ数日ログインできなかったからで……」  ゲイルとミリア――確かカレルたちの固定パーティーの、残りのメンバーの名前だ。ということは、カレルとユリナが二人でいるのは、本当にただの偶然だったんだ。じゃあやっぱり、恋人という訳じゃないのかな。  少しほっとした。……って、あれ? なんで、ほっとするんだ? どうしたんだろう、私。もしかして、真面目にカレルに惹かれ始めてる?  ダメダメ、泥棒猫はダメだよ、レンカ! いくらユリナが否定していると言っても、あれはどう見ても両想い、下手に手を出せば大やけど確実な案件じゃないか!  私は邪念を振り払おうと、ぶんぶんと大きく頭を振った。今は製造に集中しなくちゃだめだ。  ☆ ★ ☆ ★ ☆ 「これで、一通りそろったかな?」  工房の机の上に置かれた素材を、私は一つ一つ確認する。  手持ちの製造用素材リストと照合しながら、抜けがないか、数は足りているかをきちんと確かめておかないとね。製造工程に入ってから、あれがない、これがないって始まっちゃったら、制作に集中できないもん。そんな事態に陥るような奴は、まだまだ二流だね。間違いない。  カレルとユリナの助言のおかげで、いくつかの素材はワンランク上のものが用意できたし、想定よりも高品質の武器が作れそう。私はなんだかワクワクしてきた。ついつい、鼻息も荒くなるってものだよ。 「えっと、カレルのロッドから先に制作に入るけど、いいかな?」  ロッドは攻撃力を求めていないので、新しい制作工程を試しながら作業するのに向いていると、私は判断した。刃の切れ味などに気を取られず、素材鋼へ霊素を注入する作業に集中できそうだし。  慣れない作業をするときは、あちこち注意が分散しないように、なるべく工程をシンプルにするのが、成功のコツだと思う。 「ああ、よろしく頼むよ」  カレルはうなずき、制作のサンプルとして、今使っているロッドを私に差し出した。私は受け取ると、さっそく工房裏の作業場へと移動した。 「じゃあ、とりあえず試作をしてみるので、二人とも何か気づいた点があったら指摘をよろしくー」  カレルとユリナは首肯し、私の手元に視線を向けた。 「さぁてっと、始めますかね」  私は袖をまくり、気合を入れる。 「とりあえず、私が今考えている霊素注入タイミングは二パターンあって、一つは素材鋼の鍛接、鍛錬の時。もう一つは、形成段階かな」  鍛接、鍛錬段階だと、別種の素材鋼を接合し鍛える瞬間なんかは、まさしく霊素を注ぐのにいいタイミングだと思う。異なる金属がくっつくと同時に、一緒に霊素も貼り付けるってイメージかな。  形成段階だと、素材鋼から作り上げた金属を叩いて、実際に武器の形に形成する瞬間。ここであらかじめ熱した金属に霊素を纏わせて、そこをハンマーで叩くことで、金属に霊素をなじませようかと考えている。  私はカレルとユリナに自分の考えを伝えた。二人もどうやら納得してくれたようで、私は作業に入った。  トンテンカンッ トンテンカンッ  素材鋼の鍛接作業に入り、作業場には私のハンマーの音が鳴り響く。振り下ろすハンマーを通じて、少しずつ霊素を注ぎ込んだ。  カレルと相談のうえ、ロッドに纏わせる属性は光に決めた。うまく完成すれば、手に持って霊素を注入することで、自動回復機能を発揮できるマジックウェポンになるはず。  ただ、私は精霊使いじゃないから、正直、霊素の扱いはまだまだ苦手なんだよね。霊素の注入作業も、ごく簡単なマジックアイテムを発動させるときに、少しだけやったことがあるって程度だし。今後、精霊武具の作成に進むなら、霊素の扱いも慣らしていかないとだめかもしれない。  トンテンカンッ カンッ カンッ ボキンッ…… 「あっ……」  目の前には、鍛接に失敗し真っ二つに折れた素材鋼の、哀れな姿があった。  くっそー、折れちゃったよ。失敗だ。 「ごめん、失敗した。たぶん今の手ごたえだと、霊素注入をしていなければ、鍛接自体は成功してた感じなんだけれど。カレルたちからは、霊素の注入のタイミングや量はどう見えた? 適切だったと思う?」  私なりに最適と思われる形で、霊素を注いだつもりだ。なので、私自身にはすぐにどうにかできる改善策が思い浮かばない。まずは外部の意見を聞かなくちゃね。 「うーん、そうだなー。オレから見てもタイミングは問題ないように見えた。ただ、注入の量がちょっと……。ユリナはどう見る?」  カレルは横目でちらりとユリナに視線を配った。 「私もカレルと同じ。タイミングはいいと思う。やっぱり、量が問題じゃないかと思うよ。あー、量自体っていうよりも、注いでいる霊素の量が不安定な点が、気になったって感じかな」  私はまったく気付いていなかった。どうやら注いでいた霊素の量に、大きなばらつきが出ており、そのせいで失敗したのではないかとの二人の見解だった。 「ハンマーを振り下ろすタイミングで、霊素を放出しているよな? 見ている限り、振り下ろすごとの注入霊素の量がバラバラなんだ。それで、素材鋼が霊素を受け止め切れていないって印象だな」  となると、結構深刻な問題かもしれない。結局のところ、私自身の霊素の扱い方が未熟なせいで、一定量の霊素放出ができていない。これを改善するのは、一朝一夕ではいかない気がする。 「あー、まいったなぁ。じゃあ今の私には手に負えないかもしれない。不本意だけれど……」  私は正直に吐露した。高価なレア素材を使っているので、成功の望みが薄い状態で、無駄打ちをするわけにもいかないし。 「そうだよなー。精霊使いでもなくちゃ、霊素の一定量放出なんて芸当、練習しているわけないよな」 「どうするカレル? 今回はあきらめる?」  腕を組んで考え込むカレルの顔を、ユリナは覗き込んだ。  しばし流れる沈黙。カレルは押し黙って、あれこれと考えを巡らせているようだった。  あーあ、せっかく新しい道筋ができたと思ったのに。なんでこうなるかなぁ。  私はがっくりとうなだれた――。
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