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「なんだ、これ……」 「体育の授業かなんかだろ」 「ちがうよ」 「あ? でもまあ、別になんでもいいだろ。誰か写ってんのか?」  写ってるなんてもんじゃない。ボクは息をどう吸って吐けばいいのかわからなくなった。 「なんなんだよ、これ!」  思わず怒鳴った。怒鳴らずにいられなかった。 「でけえ声出すなよ! 表に聞こえたらどうすんだ!」  押し殺した声でがなられた。そんなことはわかっている。 「ふざけんな!」 「だから声を落とせ。気づかれる」  頭の上から降ってきた文句。黙れ! 人の気も知らないで!――思うように動いてくれない舌と口のせいでちゃんとした言葉にならない声。喉だけを震わし続けた。そうしながら、あり得ない写真を床へ叩きつけた。 「黙れよ、おい。どうしたんだ!」 「ママだよ、これ!」  《沢村|さわむら》が腰を落としてのぞきこんでくる。だめだ。こんなの誰にも見せられない。軍手をはめた手でママをとっさに隠す。意味がわからないといわれた。そんなの、ボクだって同じだ。 「ちくしょう……あの野郎、ぶっ殺してやる!」 「落ち着け! あの野郎って誰だ!」  この世のどこかに銀河鉄道があると信じているわりには想像力の足りない沢村。両脇の下へ腕を差しこまれた――いらっときた。 「とにかく逃げるぞ。お前の声で誰かが一一〇番するかもしれない」  《いらいら》が《いらいら》を呼ぶ。一一〇番がなんだ。関係ない。自分のことしか考えていない沢村にボクはいい返す。 「いいよ! おまわりでも誰でも来ればいい!」  椅子を蹴った。写真を叩き散らした――ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! 「よかねえよ! せっかくの苦労が水の泡になっちまうじゃねえか!」  背中を叩かれた――怒りがめちゃんこになった。セットした覚えのない時間を《巾着|きんちゃく》のなかから知らせてくるゲームウォッチ。なめている。おちょくっている。どいつもこいつもボクのことを馬鹿にしている。ふざけるな! 「こんなに頭にきたのははじめてだ! あいつ絶対……絶対ぶっ殺してやる!」  沢村の腕を振り《解|ほど》く――解けない。そのままでたらめに体を動かした。 「放せよ!」 「いいかげんにしろ!」  怒鳴って怒鳴り返された。ゲームウォッチも電子の音で負けじと叫ぶ。どうでもよかった。この計画が、旅が、沢村との仲がどうなろうが知ったことじゃない。ボクの目的は変わった。なんとしてもあいつを殺―― 「お前だけの――」  景色がまわる。同時に顔のどこかが熱くなった。 「ものごとじゃねえんだぞ!」  突然切り替わる心のスイッチ――怒りから悲しみへ。黒い景色がぼやけてにじむ。電子の音だけが闇のなかを泳ぎまわっていた。 「沢村……」  震える体。軋む心。膝から下の力がいきなりゼロになる。床へ膝を突く前に体を支えられ、それから引きずられた。 「沢村、ボク――」 「わけは後で聞く。急ごう」  頭をしゃきっとさせる。足腰に力をこめる。ボクたちは来たときの何倍ものスピードで闇色の職員室を飛びだした。 ――月下、非常識ヲ試ミタ童蒙ハ顎止ムコトナク自我ヲ現世ヲ理ヲ思惟ス。 [*label_img*]
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