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「ん……」  少し油のにおいがする。何かの上で横になっていたシンは恐る恐る目を開けた。頭上には古そうなライトがオレンジ色の光を放っている。 「お、目が覚めたか」  見覚えのある老人が目に入った。 「あ……そっか。俺…….」  シンは、その老人を見て、全てを思い出した。  そうだった。俺は東郷博士に改造を頼んで……  シンは自分の脚に目を向けた。そこには、見慣れぬ紫色の脚パーツが装着されていた。  これは…… 「どうだ。感想は」  東郷博士が、パソコンを見たまま聞いてくる。 「どうって……確かにかっこいいのはいいけど」  形、色と言い、かっこよさでは100点満点だ。 「そのパーツはな、おそらく今は世界で一つしかないだろう。そもそも、最近はスピード特化型アーティー自体が少なくなってきてる。そうすると、自然と市場に出回る脚パーツは、パワー型、砲撃型、万能型とかになってくる。だから、レア中のレアだろう」 「そんなすごいパーツ貰っていいのか?」 「いいんだ。ただし条件がある。絶対に優勝しろよ。アーグラでな」 「もちろんだ」  シンは笑って言った。 「さて、そろそろ試したくなってきたころじゃないのか?」  博士は少し嬉しそうだ。 「え?もう飛べるのか?」 「当たり前だ。むしろ、早く実験データが欲しいくらいだ」 「分かった。じゃあ一回外を飛んでくるよ」  外はとうに日が落ちていた。辺りは闇に包まれていて、飛ぶのには少し難がありそうだったが、赤外線ゴーグル付きのシンの顔パーツがあれば、問題はない。 「それじゃあいくぜ。東郷博士」 「ああ。3分間の飛行で、そのうち1分間は最高速を維持してくれ」 「お安い御用さ。Hey,sari。飛行モード」 『脚 パーツ が 変更されて います 飛行モード に 変形しますか?』 「そのまま変形してくれ。3分間の飛行で、そのうち1分は最高速度だ」 『了解 脚パーツ を 変形します』  ボォォォォォ!  派手な音を立て、シンの脚から炎が出始め、体が宙に浮きだした。それから、脚の形が、鋭く、風を切る形に変わっていく。  ウィーーン。 『変形完了。飛行開始』  だんだん高度が増していく。夜風が頬にあたって心地よい。砂漠の向こうの町は、灯りがたくさんついていて星のようだった。もっとも、肝心の星空は、雲で隠れて見えないが。 『速度 上昇』  速度が増す。炎の勢いが強まる。実際、その時一番驚いたのはシンだった。シンの体は、1,2秒ほどで速度0から最高速度まで上がった。速すぎて、飛んでいる実感がなかった。身体にかなり負荷がかかるから、多少は慣れる必要がありそうだが。  まるで瞬間移動でもしているみたいだ。 『最高速度 に 到達しました 1分間 速度を 維持します』 「すげえなおい……」  体が自在に動く。速度が速すぎて、1分が10分に感じられた。相対性理論とは、案外こんな感じのことなのかもしれない。知らんけど。そして、永かった3分が終わった。  再び研究所の長くて白い、無機質な廊下を歩き、扉を開ける東郷博士も満足そうに頷いていた。 「どうだ、飛んでみた感じは」 「なんていうか、全く飛んでいる感触がなかったっていうか。本当に俺、飛んでたのかな?って」 「まあ無理はないだろう。おそらく、スピードで言えばアーグラ出場者のトップクラスだ。それは成功した。しかしだ、お前さんもよくわかっている通り、アーグラではスピードだけでは勝てん。やはり、パワーもいるんだ」  アーグラは、やはり相当厳しい壁のようだ。 「どうすれば……」 「おいおい。何を言いだすんだ。お前さんの専属改造師は誰だ?」 「そりゃあ菊間博士……あっ!!!」  すっかり忘れていた。 「そうだろう?私も、パワーに関して、菊間より優れている者はいないと思う。あとは自分の所で。強くなるこった。」 「ああ。ありがとう。東郷博士」 「礼などいらん。さあ、帰るんだ。まだ仕事があるんでね」 「サンキュ!」  シンは足早に研究所を出た。いち早く菊間博士に報告したかった。  シンがいなくなり、研究所にはいつも通り、東郷博士一人となった。  博士は、なぜか少し悲しそうな目で、遠くを見ていた。 「あのシステム設計はどう考えてもスピード型の構造じゃない。それでもあのスピードが出せるということはまさか……」  東郷博士は、シンのブースターの改造中に、あることに気づいていた。それは、シンの体パーツの殆どが見たことのないもので、明らかにスピード型ではなかったのだ。  もし私の仮説が正しいなら、もしかしたら。彼なら。 「シン……どうかあの……闇を……暴いてくれ……」  そう言った東郷博士の手には、彼の奥さんと思われる女性の写真が握られていた。
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