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 第二章 惑い 「誰……?」  幽霊で、普通の人間には見えない、僕の眼を見て、彼女はこう言い放った。  誰? しがない幽霊ですとでも言って名刺を差し出すべきなのだろうか。  いや、そもそも僕のことが見えているのか?  もし見えていたとしたら、何で普通に喋ってるの?ねえ?  君、今幽霊と喋ってるんだよ?ねえ?  驚きの展開に動揺する僕にはお構いなしに、彼女は続ける。 「こんな時間にこんな場所にいたら危ないよ」  いや、こっちのセリフだよ。頭がおかしくなりそうだった。  とりあえず何か喋ろう。 「君は、僕が見えるの……?」  すると彼女は、少しも表情を変えずに、 「お兄さん、もしかして透明人間じゃないの?」と当然もように尋ねてきた。 「えっと、僕は、自分が幽霊だと思ってるんだけど。」  そう言うと、彼女の眉がピクリと動く。 「……幽霊?」 「僕は幽霊だよ。でも、どうして透明人間が見えてるんだろう……」  もう、訳が分からなくなってきた。  すると、彼女は笑いながら言った。 「へえ。こんな偶然あるんだね」  彼女の話は衝撃的だった。  霊感を持った幽霊と、霊感を持った透明人間は、お互いのことが見える。といった、到底信じがたい話だ。  彼女も噂でしか聞いたことがなかったらしく、信じてはいなかったらしい。 「ちょ、ちょっと待ってよ。そもそも、幽霊と透明人間って、何が違うんだよ?」 「私は幽霊じゃないから、幽霊は知らないけど、透明人間は、人間なの。  痛みも感じるし、お腹も減る。物にも触れる。ただ、周りからは見えないってだけ。」 「君は、今も生きてるってこと?」 「そうだね、私の生きるの定義が正しければね。」  こんなことがあり得るのだろうか。 「どうやって透明人間になったんだ……?」  と僕は聞く。 「私は罪を犯したの。人を殺した。その時は無意識で、何でそんなことしたのか全く分からない。  でも、気付くと、私の前には死体があった。それは覚えていても、それ以外全く記憶がないの」 「そして、それから私は誰からも見えなくなったの。最初はドッキリとか、無視されてるんだと思った。でもようやく理解しだして、これは天罰だって思い始めたの。死ぬまで孤独っていう罰。まあ、透明人間は割といるから、孤独ではないけど」  まさか透明人間に出会うとは……  それから僕は、自分が死んだときの話、そして幽霊の話をした。 「へえ、おもしろいね。霊なんて信じてなかったけど、本当にいるんだね」  興味深く頷く彼女に質問する。 「なんでここに来たんだ?」 すると彼女は、 「分からないよ。でも、ここにいれば何か分かる気がしたから。罪を償えば、普通の人間に戻るかもしれないって、おじさんの透明人間が言ってたし」とだけ答えた。  どうやら、透明人間も、透明人間同士なら見えるらしい。  でも、幽霊と透明人間は全く別物で、お互いに見える条件としては、どちらも霊感を持ってるってことが条件なんだろう。すごい確率だな。と僕は思った。 「でもいいよね。幽霊はお腹も減らないんでしょ?」 「それはそれで苦労だけどね。透明人間は、物に触れるじゃん」 「物に触れても、人がいるところでは無理だよ。音とか出しちゃったら、みんな心霊現象だって騒ぎだすし。」 「人には見えないのは一緒なのに、お互い大変だね」  と僕が言うと、 「そうだね」  と彼女は笑った。 「でもさ、なんで僕に声かけたの?」 「私は、また無意識のうちに人を殺したりしてしまいそうでならないんだ。  私と目が合うから、人間ではないと思ったけど、まさか幽霊だとはね」 「透明人間が透明人間を殺せるの?!」 「言ったじゃん。物に触れるって。私たち透明人間は、見えないこと以外普通の人間なんだよ」 「死んだらどうなるの……?」 「さあ?私はまだ透明人間は殺したことがないから分かんないけど、たぶん普通に死ぬんだと思う」  そんなものなのか。  それから僕たちは、普段の過ごし方とか、身の上話なんかをたくさんした。  その多くが、廃工場でだった。  それから数週間が過ぎ、街には妙な噂が流れていた。 『夜中、廃工場で、女の人の声がする。』  当然といえば当然だった。人から見えないこと以外普通の人間である彼女は、声が普通の人にも聞こえてう。それに便乗して肝試しに来る馬鹿な学生出てきたので、僕は話場所を変えようかと迷っていた。 「ねえ、幽霊くん。君って、誰かに乗り移れたりしないの?」  彼女は突然こう言った。 「やったことないけど、たぶん無理。あと、幽霊くんじゃなくて、いい加減名前で呼んでよ。蓮って」 「分かったよ。分かった、蓮くん、じゃあ、その代わりに私のことも雪野様って呼んでよ」 「うん、それで、雪野さん、乗り移るってどういうこと?」 「いや、雪野様のやつスルーしないでよー」 「もうそれはいいから……」 「冷たいなあ。でね、乗り移るっていうのは、どっかに力込めてさ、なんかうーーーんってやればできるんじゃないの?」 「アバウトだね……」 「ほら、試しに、今日も肝試しに来たあのチャラい大学生とかに乗り移ってみてよ。」  肝試しにやってきた、リア充オーラを放つ大学生4人組が、廃工場の入り口付近にいた。  誰から行くかみたいなことを話してるみたいだった。 「どこに力込めればいいの?」 「多分、こめかみとか?知らないけど」 「なんじゃそりゃ」 「とりあえず、やるの!」  そんなこと言われても……  とりあえず、やれるだけやってみよう。  そう思って、チャラい大学生に近づいて行った。  肌黒で、サングラスにネックレス、ピアスにアディダス……  ほんとに『ス』がつくものが好きだなと思いつつ、まさか狙っているのではないかと思い始める。  こめかみに意識を集中させる。  体が吸い込まれるような感覚だった。 「……ん?」  気付くと、さっき自分が立っていた場所と、視点が変わっていた。  目の前では、厚化粧の女2人と、小さめでヤンキーみたいな身なりの男がゲラゲラ笑っていた。 「あれ?どうしたの?」  目の前の女が聞いてくる。  あれ?これってもしかして成功してる? 「いやー、こんな漫画みたいなことあるんだなぁって」  自分の体から、自分のではない声が漏れる。  どうやら、成功してしまっているようだ。 「え?漫画?あんた好きだっけ?」  笑いながら前の女が聞いてきた。  僕は、立ち上がって雪野さんのほうを見る。  彼女は、驚いて口を開けたままだった。  どうやら、人間に乗り移っても、透明人間は見えるっぽい。 「何々?どうしたの?」 「なんでもないよ。じゃあそろそろ。」  そういって僕は、チャラい大学生の体から抜け出した。 「どう?上手くできてた?」  僕は彼女に聞く。 「うん、何で成功しちゃうの。蓮くん。冗談だったんだけど」  まだ驚いてるようだった。  僕が乗り移った大学生は、あれ?ここどこ?みたいな顔してまだ帰らねえよ!とかなんとか必死に話していた。 「その能力を使えば、君も物に触ったり、人と話したりできるわけじゃん?」  不敵な笑みを浮かべた彼女の顔を見て、嫌な予感がした。 「でも、勝手に乗り移ったりしたら申し訳ないよ」 「大丈夫、大丈夫。減るもんじゃないし。それに、乗り移られた時の記憶は、ないみたいだし」 「いや、そういう問題じゃ……」 「とりあえず、協力してほしいことがあるの。ちゃんとお礼するからさー。お願い蓮くんー!」  その彼女の笑顔に、僕は、ああ抗えないな。と思ったのだった。  第三章に続く
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