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Before
 全ての痛みを癒やせる力を持った大島浩輝。それ故に痛みが嫌いだった。
 
 そして出会ったのは、四六時中痛みと戦っている少女。
 
 接していくうちに、彼女の病をなんとかしたいと思うが、それは大島の力も通用しない難病だった。
 
 そして、ついに希望を失った彼女は死を選ぼうとする。そんな彼女の心の寿命は一年。そこに希望を見出すべく、大島は運命の一年を走り始める……
べっこう飴
(ID Y0DtLd03HfFWU)
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治せないのは君の心だけ
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18 分
治せないのは君の心だけプロ…
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剣に花束。一ノ太刀──少年…
8 分
物怪奇譚
11 分
独り相撲の土俵際
16 分
断片再生機Twitter掌…
16 分
僕の夏
8 分
スノゥメイカー
4 分
最果ての世界へ 序章
8 分
第三章 憂い
11 分
第二章 惑い
7 分
第一章 出会い
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絶対王女カリン!!絶対王女…
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偏差値70の俺の異世界転生…
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FCWeelOfFortu…
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FCWeelOfFortu…
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妖怪探偵水無月 時雨の事件…
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狂気の缶詰
11 分
みえる人
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日常死・旅人
14 分
俺の奥さん膝枕とツンデレ
16 分
女、三人集いて
5 分
訪問。鉱山都市ソロモン
8 分
幼子
17 分
あの、また会えますか?2話
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スマートフォンから始まる恋…
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神の素顔、かくありき
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First Shot
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黒王国物語 エレン編(4)…
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黒王国物語 エレン編(2)…
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異世界大戦〜異世界遭遇〜プ…
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死にたがりの勇者と守り人1…
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開戦―九人の参加者―
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5 分
僕らが望んだ子供の王国
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俺の幼なじみは恐ろしい
16 分
死にたがりの勇者と守り人6…
20 分
第一章 出会い
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彼女の嘘と、幼き日の夢
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ある青年の話
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治癒魔法でも治せない君の心…
12 分
青春怪奇譚 ごーすとれいと…
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死にたがりの勇者と守り人1…
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朝日山神社奇譚−付喪神物語…
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俺は今日から潔癖吸血鬼1:…
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転生した魔法少女2:私って…
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始祖の竜神と平凡の僕。1.…
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俺の周りは騒がしい
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ときには、心休まる休息を
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FCWeelOfFortu…
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開戦―九人の参加者・Ⅲ―
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転生した魔法少女14:私っ…
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転生した魔法少女15:私っ…
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第三章第四話悪役令嬢と皇子…
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とある鍛冶屋の初恋物語4 …
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第一章 大いなる海竜種 2…
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第二章第九話悪役令嬢と皇子…
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クリスマスプレゼント
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アマガサ×ドロップ
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祈りの果てに二『お人好しと…
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【第一章 九節】ワガママ姫…
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第四章第六話悪役令嬢と皇子…
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四代トラブルメーカー四話⑥…
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第五章第三話悪役令嬢と皇子…
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夏空と君と私と、感情の話。…
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第一章第二話悪役令嬢と皇子…
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第八逃・いちかばちか#1『…
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第一章第一話悪役令嬢と皇子…
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作品を読む
 そして、決戦の日がやってきた。
「それでは、これからルールの説明を始める」
 西校舎の前で、俺達はカンセの声に耳を澄ませていた。イオリの父親は三人の男を連れてきていた。一見人の良さそうな男、服の上からでも分かる程筋肉のついた男、眼鏡をかけた頭の良さそうな男だ。
 対して俺のチームは、ファイリア、ユウキ、そして……。
「うう……緊張する……」
「大丈夫、イオンちゃん。ほら、深呼吸して」
「ありがとうございます……すー……はー……」
 イオンだ。
 本来なら約束通り、ホクピが来てくれるはずだった。しかし……。
「ホクピちゃん、昨日食べ過ぎたみたいで……お腹壊して動けなくなっちゃったって……」
 あまりに予想外すぎて、しばらく何も言えなかった。
 その代わりとしてイオンが来たのだが、本人はかなり気が進まなかったようだった。ファイリアのおかげで落ち着いてきたが、先程まではぶるぶると体を震わせていたのだ。



 彼女に怪我を負わせないようにしないと……。改めて気合を入れた。
「今から君達には、この西校舎から地下にある書庫に行ってもらう。書庫は学園の図書室に繋がっている。そちらから先に出てきたチームを勝ちとしよう」
「レースゲーム? 理事長にしては生ぬるいことを提案しましたね」
 ファイリアの言葉に、カンセは薄く笑った。
「書庫には魔物がいることくらい、君は知っているだろう?
「そうですけど……」
「魔物の処理は他に任せて、一人がゴールするでもいいよ。それに、ルールはこれだけではない。書庫に行くのは三人だけだ」
「三人?
「『一人』は私達とここで待機してもらう。そして、勝った方のチームの『一人』には、負けたチームの『一人』を殺す権利を与えよう」
「ッ……!
 その瞬間、空気が張り詰めた。白蛇は、俺達を見て楽しんでいるように微笑を浮かべている。イオンとイオリは不安そうな、ファイリアや男達は強張りながらも「勝ってやろう」という強い意思を持った表情になった。ユウキは眉一つ動かさず、ただ黙って聞いていた。
「それでは戦いを始めようか。ここに残る『一人』は、私が独断で決めた。イオリちゃんのお父さん、そしてファイリアだ」
「えっ……⁈」
 俺とファイリアの驚愕の声が重なった。
「なんでボクなんですか、理事長」
「君は強いからね。そのくらいのハンデが無いと面白くない」
「面白くないって……! これは遊びじゃないんですよ⁈」
「ナギサ君。君はこの一週間、猛特訓したのだろう? なら何の問題も無いはずだ。それとも、ファイリアやユウキ君に任せておけばいい……なんて思っていたのか?
「ッ………!
 唇を噛みしめ、俺は首を横に振った。カンセは薄く笑い、俺達に書庫へ入るように命じる。ファイリアとイオリ、そして彼女の父親を除いた全員が西校舎のエレベーターに乗り、地下書庫に行く。
 当然、その後エレベーターが動くことはなかった。
 男達は先に進んでいく。ユウキがズボンのポケットから小さな懐中電灯を取り出し、明かりを灯した。
「僕達も行こう」



「ああ」
 ユウキを先頭に、イオン、俺と続いて歩いていく。本棚の間を通っていると、イオリとここへ迷いこんだ時のことを思い出した。
 あの子供達も、魔物の一種なのだろうか。あんなものがうじゃうじゃいると思うと、恐ろしくなってくる。周囲に警戒しながら足を進めた。
「あ、あの……」
 普段なら小さなイオンの声も、ここだとうるさいくらいによく響いた。予想外に通った自分の声に驚いたのか、イオンはビクリと肩を上げ、声量を小さくして言った。
「もし危なくなったら……先に行ってください……」
「へ?
「私、走るの苦手なんです……。だから、もし敵が捌ききれなくなったら、私が食い止めるので……」
「そ、そんなこと出来ないよ。みんなで戦った方が………」
「じゃあそうする」
 ユウキの言葉に耳を疑った。先を進む小さな背中は、何の迷いも無い。その態度に理解が出来なかった。
「何言ってるんだよユウキ。イオンを見捨てるってことか?
「誰も見捨てるなんて言ってないけど。食い止めてくれるって言ったから「じゃあよろしく」って言っただけだけど?
「結局見捨てるってことだろ⁈ 一人で大勢の魔物と戦うなんて無謀すぎる!
「実際、誰か一人でもゴールすれば勝つんだ。理事長の言っていた通り、魔物処理係と、ひたすらゴールを目指す係とに分かれた方が効率はいい」
「………本気で言っているのか?
「アンタこそ本気なわけ?
 ピタリと立ち止まり、ユウキが振り向いた。暗闇に浮かぶ赤い目玉は、血のようなおぞましさを帯びていた。
「この勝負は誰のため? この殺し合いで死ぬのは誰? アンタは何のためにこの学園に来たの?
「………⁈」
 ユウキが近付いてくる。イオンの横を通り過ぎ、俺を見上げながら彼は囁いた。
 
「どうせ、みんな生き返る。僕達以外はね」
 
 ――――――――――――は………?



「……だから、任せるところは任せないと。それにこいつ、アンタが想像している程弱くないから」
 何事も無かったかのように言い、再び先頭を歩き始めるユウキ。イオンもそれについていく。二人が闇に溶ける前に、俺も慌ててその後を追った。
 ―――どうせ生き返る? どういう意味だ? この世界には、生き返る方法でもあるのだろうか。ファイリアからはそんな情報、知らされていないが……。
「ッ……! 来るぞ!
 ユウキの叫び声に、意識が現実に戻った。直後、上から何かが目の前に降ってきた。目を凝らして見ると、それは真っ黒な子供だった。あの時と同じ、ノートから飛び出したような落書きの子供。
 子供に見上げられた瞬間、ぞわりと身の毛がよだった。しかし、子供は刃によって縦に斬られ崩れ落ちた。裂け目から現れたユウキが叫ぶ。
「行くぞ!
 ユウキに続いて、イオンと書庫を駆け抜ける。天井や本棚から飛び出してきた子供達は、全員ユウキの剣で斬られた。イオンも魔法で援護し、俺も剣で子供を斬った。しかし、いくら殺しても子供の襲撃が絶えることはなかった。
「キャハハハハハハ! キャハハハハハハ!
 何人もの爆笑が辺りに響き渡る。突然足首を何かに掴まれ、転んでしまった。見ると、足首に子供が掴みかかっていた。笑う幼子に鳥肌が立つ。
「タッタナノカノトレーニングデ、イキノコレルワケナイヨネ? ソンナコト、ワカッテイルヨネ? モウアキラメナヨ?
「諦めるもんか! 勝たないとイオリが……!
「ジャア、コノコノコトハドウデモイイヨネ?
「え?
 足首を掴んでいた子供が跳躍し、俺の上を飛びこえた。目で追うと、子供はイオンに飛び掛かっていた。さらに別の子供達も、一斉にイオンへと飛んでいく。イオンは瞬く間に黒に包まれた。
「イオンッ!
「ハヤクイカナイトマケチャウヨ? カタナイト、フタリモイナクナッチャウヨ?
「くっそ……!
 立ち上がり、子供に剣を突き刺した。だが、いくら薙ぎ払っても子供は増える一方だった。
 このままじゃイオンが危ない―――助けを求めるべく、ユウキへと振り向いた。
「ユウキ――――――ッ」



 瞬間、ユウキに腕を思いっきり引っ張られた。そのまま走り出したユウキと俺。一瞬驚いたが、すぐユウキに叫んだ。
「ユウキ! イオンを助けないと!
「まだそんなこと言ってるのかよ! アンタ本当に馬鹿だな!
「なっ……んだと⁈」
 無理矢理手を振り払おうとしたが、中学生男子とは思えない程の握力で、俺のなす術はなかった。仕方なく、今出来る最大の抵抗を示す。
「イオンを犠牲にしていい理由は無い!
「アンタが役立たずだからこうするしかないって分からないのかよ!
「はっ⁈」
「アンタはあの魔物達を全員倒せるのか⁈ 数も定かじゃないあいつらを! 出来ないだろ⁈ なら今出来る最善を尽くすしかないだろ⁈」
 ユウキの言葉が胸に突き刺さった。
 俺には魔物を倒しきれる程の力は無い。今俺に出来ることは、この勝負に勝つためにイオンを見捨ててゴールを目指すこと―――下唇を噛んだ。
 例えそうだとしても……それしか方法が無いとしても……!
「そんな………そんなので勝っても……!
「ッ………いい加減にしろよッ!
 勢いよく腕を引かれて放り投げられた。俺は床に倒れ込む。すぐに起き上がって振り向くと、ユウキは真っ赤な目をギラギラと光らせ、鋭く俺を見下ろしていた。
「アンタ………ゲームの主人公にでもなったつもり? 全員助けられるなんて思われてちゃ困るんだよ」
「そんなことない! ユウキこそなんでイオンを見捨てるんだよ! 仲間なんだぞ⁈」
「だからさ、誰も見捨てるなんて言ってないよね?
「は……?
「僕はイオンを信じてる。彼女なら、大勢の魔物が相手でも生き残れると思ってるから」
 そう確信している―――ユウキの声は、自信に満ち溢れていた。
 そして、そんな風に言われると、俺も納得するしかなかった。
 立ち上がり、ゴールを目指して再び歩き出す。本棚の道は、入り口の方よりも広くなっていた。ユウキの後をついていきながら、その背に声をかける。
「走っていった方がいいんじゃないか?
「魔物に気付かれたら面倒だから、静かに行く方がいい」
 広場のような場所に出た。円状に本棚は壁を造り、先は三つの道に分かれている。恐


らくどれかが正解なのだろう。何か正解の分かるヒントでもあればいいのだが……。
 しかし、悩む俺とは対照的に、ユウキは迷うことなく真ん中の道へと足を運んだ。あまりに即決すぎて置いていかれる。
「お、おい。その道で合ってるのか?
「合ってる」
 スタスタと先を急ぐユウキ。慌ててついていった。どうしてそんなに自信があるのかと尋ねると、「来たことがあるから」と返された。
 なるほど。それなら安心だしかなり有利だ。ユウキがいてくれてよかった。俺だけだったら、一生かかっても出口にたどり着けなかったかもしれない。
「………ねえ。アンタさ、何でここに来たの?
 前を進みながら、今度はユウキが質問を投げかけてきた。その返答に困る俺。
 素直に「(ゲームが)面白そうだったから」などと言ってしまったら、絶対に「ふざけるな」と言われてしまう。ここは慎重に、それっぽいことを言おう。
 少し考え、おそるおそる答えた。
「ゆ、勇者さんとたまたま出会って、話を聞いたら放っておけなくなって……」
「嘘つくのヘッタクソだね、アンタ」
「え」
「正直に言いなよ。「面白そうだったから」って」
 その言葉に恐怖を感じた。まるで心を読まれたかのような言葉に、少しだけユウキと距離を離した。気付いているのかいないのか、ユウキは構わず続ける。
「別に怒ったりしないよ。当然だと思うし」
「当然……?
 普通、次代勇者を守ってくれと言われて「面白そう」だとは思わない。死ぬかもしれないのに、だ。俺が面白そうだと思ったのは、これがゲームだからだ。しかし、ユウキは「当然」だと言った。
 
 それじゃあまるで、この世界がゲームの世界だと知っているような口ぶりだ。
 
 ユウキを凝視する。ユウキはその後何も言わなくなった。訊いても答えてくれないだろうし、大人しく沈黙のままついていった。
 分岐点に着いても、ユウキは迷わず進んだ。地下だからか、ゴールが見えないからか、何となく息苦しさを感じた。
 早く地上に戻りたい。今ここはどの辺りなのだろう。ユウキの選んだ道は本当に合っていたのだろうか。不安は次第に大きくなっていく。



「もうすぐ着く」
 ユウキが短く呟いた。やっと出られる―――そう思った直後、背後から呼び止められた。
「止まれ、そこの二人」
 振り向くと、三人の男がいた。二本の大きな角の生えた筋肉質の男は、イオンの首に腕を通して彼女を拘束している。ユウキが俺の隣に並ぶと、黒い羽を生やした眼鏡をかけた男がパチパチと手を叩き出した。
「道案内ご苦労。ついてきて正解だった」
「道案内だと……?
「部外者がこんな地下迷宮、迷わず進めるわけないだろう? だから君達の後をこっそりついていったんだ」
「彼女も一緒にね」
 三角の獣耳を生やす男が、イオンの頬を撫でる。イオンはがたがたと震えていた。俺が叫ぼうとした瞬間、ユウキがそれを制止するように腕を上げた。
「イオンと引き換えに道を開けろって?
「ああそうだ。級友を亡くしたくないだろう?
 ユウキが男達をじっと見つめる。一瞬ちらりと背後を見て、こくりと頷いた。
「いいよ。早く通れよ」
「ユウキ⁈」
 驚いてユウキを見た。とてもユウキの発言とは思えない。
 だってここを先に通したら……俺達が負ける……!
 男達はにやりと笑い、ずかずかとユウキの横を通り過ぎた。その最中にイオンが突き飛ばされる。倒れてきた彼女を抱きとめ、俺はユウキに小声で言った。
「早く行かないと……!
「うるさい。大丈夫だから」
「大丈夫?
 ユウキは男達が向かった道の先を見つめている。そこに焦りの色は見えなかった。俺達も倣って見るが、薄暗いためにろくに何も見えない。
 しばらく三人がそこで待機していると、唐突に状況が一変した。
「うわあああああああああああああああああああっ!
 複数の悲鳴が辺りに響き渡った。それを待っていたかのようにユウキが走り出す。俺とイオンも慌ててついていった。
 道が開けていき、光で照らされた扉が視界に映った。恐らくあれがゴールだと認識すると、その手前の開けた空間で、男達が巨大な魔物に襲われている光景が目に飛び込ん


できた。
 植物のように床から生えている黒い魔物は、獣の口のような葉を持っていた。その葉で男達に噛み付こうとしている。さらにそれを、黒い子供達が楽しそうに眺めていた。きゃっきゃと手を叩いてはしゃいでいる。
「な、なんだよこれ……」
 思わず言葉が漏れる。イオンも口を手で押さえて青ざめていた。対してユウキは、平然と目の前の惨劇を眺めている。
「これ程に書庫は魔物に侵されてるってことだよ」
 獣耳の男が葉に腕を食われ、悲鳴を上げる。そこに子供達が別の葉を引いてやって来た。葉は一斉に男に噛み付いた。断末魔―――次の瞬間にそれは途絶えた。くちゃくちゃと、葉に合わせて鳴る音。きゃはきゃはと、面白そうに笑う子供。
 もし何も知らずに進んでいたら―――そう思うと、ゾッとした。
 ユウキは表情を変えず、軽く手首や足首を回しながら吐き捨てた。
「僕がここを突破してゴールする。アンタらはあいつらに見つからないように隠れて待ってて」
「お、俺達は帰れるのか?
「終わったらファイリアと助けに来る」
 そう言い残して、ユウキは駆け出した。気付いた葉が一斉にユウキへ伸びていく。ユウキはそれを素早く避けた。横から襲ってくる葉は茎から切り落とした。子供達は面白がってユウキについていく。
「たっ助けてくれ!
 眼鏡の男が、近付いてきたユウキに手を伸ばした。男は葉に足を食われて倒れていた。ユウキは男を見ることもせず、その前を通り過ぎた。男の顔が絶望に歪む。そこへ黒い牙が食い込んだ。
「さ……せるかああああ!
 葉に腹を噛みつかれていた筋肉質の男が、茎を引きちぎってユウキへと駆け出した。ユウキは男を一瞥し、急停止した。扉の前に数枚の葉が待ち構えている。葉はユウキへと牙を向けて伸びてきた。ユウキはギリギリまで待ってから後方へジャンプをし、迫ってきていた男の背後に着地した。
「は―――――」
 ユウキを狙っていた葉は、目の前に現れた男に噛み付いた。男はその勢いで倒れ、葉がどんどん彼に襲い掛かる。その間にユウキは急いで駆けていき、扉の中へと消えていった。
「やった……! 私達の勝ちだね!



 イオンが喜びの声を上げる。その瞬間、数人の子供がこちらに振り向いた。
 しまった―――そう思った時には既に遅く、子供は周囲へと手招きをした。他の子供達、それから葉が一斉に俺達を捉える。
「まずい……! 逃げるぞ!
 イオンの手を引いて、俺は踵を返し駆け出した。大爆笑が背を追ってくる。来た道など覚えていない。とにかく適当に道を進んでいた。迫りくる恐怖に汗が止まらず、心臓もかつてない程のスピードで動いていた。
 目の前に何かが降ってきて、俺達は立ち止まった。それは真っ黒なスニーカーだった。しかし、頭と同じくらい大きな靴はひとりでに動いており、その存在だけで恐怖を覚えた。スニーカーはこちらへとジャンプし、着地した直後、頬を蹴られた。
「ガ―――⁈」
「ナギサくん!
「にっ……逃げるぞ!
 踵を返して逃げる。足音も追ってきた。ここがどこで、どこに向かっているのかなど、もう全く分からなかった。
 道の先では、蜘蛛のような魔物がうじゃうじゃといた。俺は剣で薙ぎ払い、イオンは魔法で蹴散らして無理矢理進む。
 しかし、巨大な蜘蛛の巣が目の前に現れた。真っ黒な糸には、頭蓋骨や他にもたくさんの骨が絡まりついていた。恐怖でイオンが震え出す。戻ろうとすると、道を遮る程の蜘蛛が壁を作っていた。
「いや……! 死にたくない……!
 イオンがへなへなとへたれこむ。俺は剣を握り、蜘蛛の壁に刃を振り下ろした。ぶわっと蜘蛛達が散ると、怒ったように俺の体を這い上がり始めた。ぞわぞわと鳥肌が立つ。視界が遮られ、口や耳の穴から蜘蛛が体内に侵入した。
 まずいことは分かっている。しかし、小さな魔物を吹き飛ばす方法が無い。
 このままじゃ魔物に食われる―――そう悟った瞬間、少女の顔が脳裏によみがえった。エメラルドの宝石のように綺麗な髪と瞳、悪戯っぽく笑う姿や明るく話す姿に、俺は心惹かれていた。
 もう一度彼女と会いたかった。これでお別れなんて嫌だ。彼女ともっと、話がしたい。
 彼女がいるなら、俺はもっと―――。
「いや……死ぬもんか……!
 声にならない決意を吐き、俺は剣を自身の腹に突き刺した。勢いよく吐血すると、蜘蛛も体内から流し出された。視界を遮る蜘蛛を手で払い落とし、辺りを見回す。イオン


は巨大な蜘蛛と対峙していた。しかし彼女は恐怖で動くことが出来なかった。
 剣を握り締め、巨大な蜘蛛へと駆け出す。再び視界が遮られる前に、刃を蜘蛛の親玉に振り下ろした。黒い巨体の切れ目から、闇に染まった血が飛び散る。絶命した魔物を見届けると、俺は脱力して倒れた。
 視界も思考も黒で染められていき、もはや恐怖を感じることもなかった。虚無に落ちていくような、終わらない浮遊感に、溺れていく―――。
「ナギサくんッ!
 直後、黒が飛び散った。視界に映ったのは、心配そうに俺を見下ろす少女。
 ああそうだ。俺は、この子のことが―――。
「ナギサくん!
 自然と瞼が閉じていく。意識が薄れていく中、少女がずっと俺の名前を叫び続けていることに、途方もない幸せを感じていた。
 ――――――俺を心配してくれて、ありがとう。それだけで、すごく嬉しいよ。
 
 
 ――――――――――――――――――暗転。
1
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