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―近頃、年齢を問わず、主に女子の間で流行っている一つの占いがある。 占い方は至極簡単。 ただし、雨の日限定というちょっと不思議な占いだ。 市販のドロップを一缶買ってきて、朝起きてすぐ一粒ドロップを掌に出す。 そのドロップの色と同じ傘を持っていけば、一日中ハッピーになるというものだ。胡散臭いことこの上ない。 確かに、雨の日は憂鬱なものだ。 だからこそ、雨の日をほんの少しでもハッピーにしようと思って、テレビでこういう占いをするようになったんだろう。 その部分は別に否定しない。いや、それ以前に俺は別に占いというものを否定する気もない。  実際、性格占いを友人にやってもらってそのことで盛り上がったこともあるし、ある意味で占いというのは簡単なコミュニケーションツールだと俺は認識している。 なのに、どうもこの「アマガサ×ドロップ占い」が気に喰わないのはひとえに― 「おっ、今日は黄緑。黄緑色の傘捜さなきゃ。ねえ、カズー!一階にいるんなら玄関に黄緑の傘出しておいて~!」 この姉のせいだと、俺は断言できる。 名乗るのが遅れたけど、俺は吉田 和佐。 高校一年生。十六才。ごくごく平凡ななんのとりえもない少年だ。 しいていうなら読書好きというくらいで大して趣味もない。 が、姉は真反対だ。 姉―吉田 亜季乃は、十九歳。有名大学のミスコンで一年の時に優勝をかっさらった経歴の持ち主。これで分かるとおりスタイルはいいし顔は可愛いし歌は上手い。 おまけに明るくて飾り気のない性格のせいか、男女問わず人気者というできすぎた姉。ただ、料理はド下手なので、毎朝俺が作るハメになる。 親がいないとかいうわけではないのだが母親も料理が下手な上、父親は夜勤なので俺達が朝食を食べる時間にはまず起きてこない。 「姉さん、出しておいたから、もう降りてきなよ。朝食も冷めるだろ」 「あ、そうだった。すぐ降りるね~」 俺は知っている。姉さんのすぐはあてにならない。 「ごめんごめん~」 予想通り「すぐ」ではなく十分後に姉は着替えを済ませて階段から降りてきた。 姉いわく、「大学にはお洒落をしていくものだから服選びに時間がかかる」とのことだ。 「ほら」 「いつもありがと~」 テーブルの上で美味しそうな湯気を立てているのは入れたてのカプチーノ(インスタント)と特製のスクランブルエッグ。のんびりもしていられないので俺は手早く朝食を済ます。 そして玄関を出ようとした時― 「ねえねえ、カズ。占いやってみなよ?」 姉は笑顔でドロップ缶をさしだす。 「……まあ、時間もかからないし……」 俺はドロップ缶を受け取り、掌に傾ける。 コロン。 俺の掌に乗ったドロップの色はこともあろうに― 「ピンク?」 「あ、ピンクだね。はい、傘」 「……」 姉はからかうような感じでピンク色の傘を俺に押し付けてくる。 嫌だ。正直俺にピンクの傘をさす趣味はない。 けど、基本的に姉には逆らえないのが弟の宿命なわけで。 「……いってきます」 俺は傘を受け取って、雨の中へ駆け出した。 ― それから二十分後。 俺はまだバス停でバスを待っていた。 タイミング悪くバスが目の前で発車してしまったからだ。 いや、バスのタイミングが悪いというよりも― 「あ……あの……ごめんなさい」 見ず知らずの少女が雨の中、目の前で転んで鞄の中身をぶちまけてしまったので、拾うのを手伝っていたからだった。 見慣れない制服なので同じ高校の生徒ではなさそうだったが、俺は基本的に困っている人を放っておくことのできない性格なのだ。 そこで、いつもの癖で自分が遅刻することを覚悟の上で手伝ってしまったというわけだ。 「いいって別に。なんとなく放っておけなかったし。それより、派手にこけてたけど怪我とかは?」 「大丈夫。雨水のおかげで地面に直撃しなかったみたい……」 「ならよかったけど。しかし」 「うん…」 「凄い雨だな」 「本当に。……バス来るのかな?」 それは、正直不安だ。何故なら、今のこの雨。はっきり言ってもう豪雨の域だ。山沿いで軽く被害が出てもおかしくはないだろう。幸い、俺の家は山沿いではないけど。 「はあ。ま、そのうち止むだろ」 「そうだよね……」 俺と派手にこけてた女の子は、待合室のベンチに腰を下ろした。一つだけ幸いなのは、この待合室にはちゃんとドアがついていて風と寒さをしのげることだった。 「そういえば、名前は?」 「えっと……あめです」 「あめ?ちょっと変わった名前だな?」 「うん。生まれたときに雨が降ってたからあめだって」 ……なんなんだその単純なネーミングは。 でも。 「あめには「天」って意味もあるし、飴は甘くて美味しい。悪い名前じゃないと思うよ」 「そう言ってもらえると嬉しいです。ピンク傘さん。」 ……ピンク傘はないだろピンク傘は。どうやらこの子ちょっと天然の気があるらしい。そう思ったあと、改めて思い出した。 そういえば名乗ってなかったと。 「あーえっと。ピンク傘は止めて欲しい。俺は吉田 和佐」 「えっ、吉田さんっていうんですか?あの、もしかして亜季乃さんの弟だったりとかします?」 あめの目がきらきらと輝き出す。 そういえば姉にはファンレターが何通も届いていたっけ。 「いや、まあそうなんだけど」 「……やっぱり似てますね。」 そりゃ、姉弟なんだから顔はある程度似ているに決まっている。中身はまったく別なんだけど。 「ううん、顔じゃなくて」 驚いたことにあめは首を横に振った。 顔以外に一体どこが似ているというんだろう?できのいい姉と平凡な自分。どう考えたって似てもにつかない。 「優しいところ」 「……え?」 俺は一瞬言葉を失った。そんな言葉を女の子から面と向かって言われるのは初めてだったからだ。 他意はないのだろうがなんだかすごくどきどきする。 顔が熱を帯びているのがわかる。 「わたし、ちょっと前にここのバス停で同じように転んじゃって。その日は晴れてたから足をすりむいてしまって……絆創膏も鞄の中に入れてたはずのなのに見当たらなくて……足から血を流しながら立ち尽くしてたんです。運の悪いことに、地面に硝子が落ちてたみたいでした」 そんな彼女に手を差し出してくれた唯一の人物こそ亜季乃だった。 彼女はとりあえずあめを自宅に連れて帰り、応急処置をした上で、近くの病院まで連れていった。 「姉さんが……」 「わたし、晴れの日ってあんまり好きじゃないんです。多分、その出来事のせいもあるんだろうけど。だから、雨の日の良さを広めたくって、傘とドロップの占いを考えて投稿したら通っちゃってびっくりなんですけどね」 ……ちょっと待て。目の前にいるこの子があの「アマガサ×ドロップ占い」の発案者? しかも投稿のきっかけが俺の姉? そして、俺はその占いを試している。偶然にしては出来すぎだ。 「あ、もしかしてあのピンクの傘って……」 「そうだよ。今日の朝姉さんに無理矢理試させられた結果ピンクの傘を持ってるってわけだ。つまり、姉さんはあの占いにはまりまくってるってわけ」 「嬉しいです!」 あめはそう言って無邪気に笑う。笑うとめちゃくちゃ可愛い。 「……今日、わたし、ちゃんとドロップの色の傘を持ってきたんですけど、忘れ物するし、バス停でこけちゃうし集中豪雨になるし……最悪な日だと思ってました」 「それは、俺もだよ。ピンクの傘のせいでじろじろ見られるし、バスには乗り遅れるし、最後にはこの集中豪雨だし」 「でも、そうならなかったのは―」 あめはそう言ってドロップ缶を差し出す。 「和佐さんのおかげです。お礼に特別な占い、教えちゃいます」 俺は言われるままに缶を受け取って傾ける。 ころん。 掌に転がった色はサイダー味の水色だった。 「私も」 あめの掌に転がる色も同じ。 「……ということで、同じ色のドロップを引き当てたふたりは……」 「……ふたりは?」 「互いに好きになっちゃうんですよ♪もっとも、今すぐそうなるかはわかんないんですけどね」 あめはそう言ってとびきりの笑顔で笑う。 その笑顔に正直俺はひとめ惚れしちゃったんだけど、あめは多分気付いてないだろう。 構わない。 全てはこれからなんだから。 「あ!」 「虹」 いつの間にか嘘のように豪雨は去り、抜けるような秋空に一筋の虹がかかっていた。 それはまるで、ドロップの色だけ取り出して、巨大な絵筆で空に描いた絵のようだった。 ブロロロロロ…… 遠くからバスの走ってくる音がする。 「じゃあ、また雨の日に」 「わかった。今度から雨の日には毎回ピンクの傘をさすよ。そうしたら俺だってわかるだろ?」 「うん。あーなんだか雨の日が楽しみになっちゃう。和佐が頑張ったらそれが毎日になるのかも?」 あめはそう言っていたずらっぽく微笑む。 いつの間にか俺の名前が呼び捨てになっていることにはあえて触れないでおこう。   ―雨の日は、決して憂鬱なだけじゃない。   <END>
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