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FCWOF 0-proroge- 「目覚めなさい」 響くはずのない、声がした。 「……誰?」 その声に導かれるように、ゆっくりと「彼女」は瞳を開いた。 「彼女」は暗闇の中で眠っていた。いや、暗闇というにはあまりにも深い色だった。 例えるならばそこは、奈落。光を失い、その手を穢し、堕ちた者たちの辿り着く場所。その歪められた魂はもはや輪廻の輪に載ることさえなく、融けていく。 しかし、「彼女」はそんな世界で、かなり永い時をその輪郭を保ったままで過ごして来た。 時間にして,1000年といったところか。 もっともこの場所に時間の概念はないので、正確なところは誰にもわからないのだが。 「彼女」は生前邪神オルダークと契約し、そして邪神さえも凌駕する力を手にした冥府の女王となっていた。 なるほど、ならばこの「奈落」でその形を失わないのも納得がいく― 否。それだけではない。 「彼女」にはずっと抱き続けて来た願いがあった。 その願いは本当にささやかなもの。だけどその願いが叶うことはなかった。 「運命」はそれを許さず、「彼女」の手は願いには届かない。 それでも「彼女」は願っていた。 たとえ「彼」がどんなに苦しく悲しい道を選ばざるを得なくなったとしても。 それでも、自らの手で終わらせるしかないのだ。 遠い昔、全ての運命を、いや世界の理さえ歪めてしまった存在として。 消せない罪で、幾多の血で汚れきったこの手で。 だからこそ憎しみ以外の感情を向けられなくても。本当の「願い」を隠してでも。 ―そうしなければ、決して「彼ら」は「幸せ」になどなれないのだ― その少し後。 「奈落」の最下層、鎖で全身を縛り付けられた漆黒の竜の前に「彼女」は眠りから醒めて立っていた。 「……起きなさい」 その言葉に反応するように、乾いた鎖の音を立てながら竜は「彼女」に首を向けた。 <……何用だ?> 「……見つかったのよ。あなたの『願い』がね」 <何だと……?> 竜は眼を大きく見開いて「彼女」を見据える。 「……だから解き放ってあげるわ。もっとも……魂を解き放って仮の器に宿す―つまり半身(ハルプ)を造るのが限度だけど」 「それに、ね……」 「彼女」は少し寂しげに目を細める。 「あなたの『願い』が叶っても、あなたは半身(ハルプ)ごとそれに殺されるかもしれない。そうでなくても、あなたの中に最後に残った『記憶』は消え、本当の化け物になって……いずれは誰かに殺されるわ……それでも?」 <……それでも、だ。最悪でも半身(ハルプ)だけは守ってやりたいがな……果たしてどうなるか。ともに消えるしか道はないのかもしれん。我らの『願い』は総じて身勝手だ。……巻き込んだ者たちの心にどれほどの痛みと哀しみを与えるのか……お前とてわかっているのだろう?> ああ、この竜の決意は固い。永久に燃え続ける消えない焔のように。 「……分かっているわ……」 「彼女」はそう言って拳を握りしめる。 「だけど、私だってあなただってそれを譲れないんだもの!もしも人が自分の願いを簡単に諦められるのなら……起こらなかった争いも悲劇もきっとあったに違いないわ……」 人間が自分の願いのためにどれほど残酷になれるのか。「彼女」はそれを身を以て知っていた。 いや、彼女自身がそうだったのだ。 自らの譲れない―でも歪んだ「願い」の結末とその代償は奈落の女王となった今でも彼女の心を締め付ける。 その頃は本当の願いに気づかなかった。いや、気づかないふりをしていたのか。 どのみち、その「願い」の結末はー 「私はあの世界の……ユアリーの『悲劇』をこの手で起こしたのよ……一番わかってるわ……」 <……『悲劇』は人を狂わせる……被害を被った者も、加害者の側も……そろそろ昔話はやめにしよう。お前にももう時間はないはず、だろう?> 「……そうね。では、物語を始めましょう」 「彼女」は頷くと、呪文を紡いだ。その呪文は、優しく切ない詩のようだった。 [I Epoh….] リ・アウチェ [I Epoh….] リ・アウチェ [Ym  Hsiw  Si  Emoc Eurt….] ラサ セリユア リユ クウラ ナカト [I Epoh Edived Ot Ym Luos…Owt Won] リ アウチェ シェイミリシェ ナウ ラサ ユウトル ナセウ ウセ 淡い光がたち昇り、ふたりのてのひらに淡い光の珠が現れる。 [Eht Eman Fo   Luos   Si… ”Erutuf”] ナア レラ ウファ ユウトル リユ  ファトナトカ その詠唱と共にふたつの光の珠は閃光のように奈落の闇を切り裂き、やがて見えなくなった。 これは輪廻と願いの物語。 始まりにして終わりの物語。 そしてある別の世界で紡がれた物語がたどり着いた結末。 ―かくして物語は紡がれ始める。世界は再び哀しみを望むのか……それとも― (わたしがねがうのは、かれらの―)
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