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 哲学者、ラ・ロシュフコーは言った。「卓越した才能を隠すのにも、卓越した才能がいる」と。  日本のことわざでも、能ある鷹は爪を隠すとも言うように、切り札をいかに使わず勝負を進めるか。それが、ゲームにおいての鉄則だ。だから、俺はいつもバカを演じきっている。昔からそうだった。幼少期、自分が人よりも優れた頭を持つことに気づいた。そして、バカを演じたほうが自分にとって有利であることも。そう、昔から……  心臓が高鳴っていた。久しぶりに味わう、この高揚感。戦略を立て、敵の意表を突き、最後に勝利をもぎ取る喜び。そんな展開が味わえるかもしれないことに、俺は興奮している。  コルンは確かに頭がキレる。俺との比較はどうであれ、砲撃型なら相性も悪くないし、なにより作戦を理解できる脳がないと困るときもある。そういう意味ではいい仲間かもしれない。 「シン、始まるよ」  コルンの声で、シンは我に返った。 「ああ。やってやるさ」  無人島の一番高い山にあるスピーカーから、音声放送が出される。 『ただいまより、特別訓練を開始します。尚、開始5分間は、戦闘が行えません。5分後に、戦闘可能の合図として、メロディーを流します。それ以降は、ルールの範囲内で、何を行っても自由です。では、始めてください』  遂に、一か月間の特別訓練が始まった。 「シン。開始5分は戦闘不能だ。その間はお互いが撃破される危険性はない。残り1分になったら再びここで合流しよう。それまでは拠点探しで、二手に分かれたほうがいい」 「そうするか。残り1分で集合だ……なっ……!?」  その時シンは、島全体を、膜のような物が覆っていることに気づいた。  そのことに、コルンも気づいたようだ。 「これは……高濃度のレーザーで壁を作っているね。出られないようにだけれど、そんなことする必要あるのかな?」  コルンは不思議そうに頭を傾ける。 「いや、違うな。恐らく目的はあれだ」  シンが指さす方向は、少し離れた場所にある別の島だった。 「え?!あの島、無関係じゃないだって?!壁が、あの島の奥にまで貼られているということは……」 「ああ。俺たちは、ステージを見誤った。想像以上に大きいステージのようだ。この島も、あの島も、全てが戦場なんだろうな」  はたして、この展開を予測できた者はいるのだろうか。 「待ってシン。あれは……」  飛行しようとしたシンに、コルンが再度話しかける。何か発見したのだろうか。 「なんだと?!街がある?!」  先程まで、海だった場所。そこは、高層ビルや公園、施設が集まる街だった。 「多分、プロジェクションマッピングかなんかでカモフラージュしていたんだろうね。まさかこんなにもエリアが広いなんて……」  コルンが冷静に説明する。  結局、当初は外周30キロほどだった島のエリアが、島、街、海を含めた一つの市ほどの大きさになっている。  初っ端おもしろいことしてくれんなあ。  思わずにやついてしまう。 「シン、作戦変更。急いで街の様子を見てきてくれ。僕は予定通り拠点を探す。町の施設、地理の情報が必要だ!」 「了解。Hey,sari、飛行モード。最高速で街まで飛ぶぞ」 『脚 パーツ を変形 中 です。 変形 完了 時速を 最高速度に します』  ほんの一瞬で、シンの姿はコルンから見えなくなった。 「すごい速さだな……」  初めてシンの速さを体感したコルンは、思わず苦笑いするしかなかった。 『目的地 北街 に 到着 しました』 「ここが北側の街……見たところ施設はあっても、人はいないか。つまりここでも戦闘OKってことだ」  コンビニや映画館など、見た目は普通の街だが、人の気配は全くない。ただの作り物という事だろうか。 「まだ時間はあるし、一番遠い島でも見に行くか。Hey,sari、目的地を最北の島に変更だ」 『了解 目的地を 最北の 島 に 変更し ます』  さらに北上し、エリア内最北端の島を見に行く。 「最初の島より一回り小さいって感じだな」  一通り確認することができた。残り3分とちょっと。戻ってコルンと合流するまでの時間を考慮して、残り2分。  この最北端の島の地理をスキャンしておくか。 「Hey,sari、パネルのカメラで、この島をスキャンしてくれ」 『スキャン を 開始します。高度80メートル まで 上昇してください』  脚パーツから再び炎が出て、体が上昇する。  より高い位置からだと、より広範囲のスキャンができるが、いまいち精密さに欠ける。それでも、今の状況では地理を知っておいて損はない。 『スキャン 完了』  そして、シンはここで、コルンに連絡を入れた。 「こっちは北端の島と北側の街をスキャンしておいた。位置情報で居場所を教えてくれ」 「ああ。今ちょうどいい場所が見つかった。周りに他のアーティーもいないよ。なるべく人目につかないように来てくれ」  どうやら、コルンも上手くやったようだ。拠点があるのとないのでは大違いだからな。 「人目につかずねぇ……まあ自然につかないだろうけど」  シンの速さで飛べば、視認できる者はほとんどいないだろう。  コルンの元へ戻ろうとした、その時だった。島の中に、なにか動いたのを、シンは見逃さなかった。  なんだ今のは……?  ズームしてみるか。あれは……アーティー?  そこには、H型のアーティーがいた。シンは慎重に近づいていく。  近くまで寄ると、そのアーティーが防御型で、女のアーティーであることももわかった。なぜここにいるのか……  接触するのも悪くないな。防御型は貴重な戦力だ。しかし、コルンが 納得するかどうか。それにもし敵意を向けてきたら……とりあえず一旦行ってみるか。  シンは慎重に地上に降りて行った。  その女アーティーは岩に座っていて、まだこちらには気づいていないようだ。  危険性はなさそうか。話しかけてみよう。 「よ。俺の名前はシン。もし1人なら、手を組まないか?」  その女、いや、高校生くらいでシンと同じなので、女子というべきだろうか。顔立ちも綺麗で、スタイルもいい。髪はショートカットで、いかにも女子高生って感じだ。明らかに不意を突かれて驚いていて、威圧するような目でこちらを見てきた。 「誰あなた。手を組むって、同盟に入れって言うの?流石にバカすぎるでしょ」 「いや、俺たちは同盟じゃない。現に、まだ二人しかいないからな。これから仲間のところに戻るが、一緒に来ないか?手を組むかどうかはそこで考えればいい。」  少女は少し間を置いて、こう言った。 「あなた、スピード型よね?それで、名前がシン」 「ああ。それがどうかしたのか?」  スピードが自分に必要だとでも思っているのだろうか。 「なら、手を組んであげてもいいわ。仕方なく。ちなみにもう一人のアーティーは?」 「それはあっちで教えるよ」  意外とうまくいったな。さすが俺。 「でも、やはり信頼を築くのは難しいんじゃない?今、あなたが私をずっと捕まえたまま、後二分くらい待てば攻撃可能だし」  確かにそうだが、ちゃんと反論はある。 「それはお互い様だ。俺はあんたに絶対勝てるという自信はないが、負けることも想像できない。つまりそういうことだ」 「はあ、説得力ないわ。でもまあいい。行きましょう」 「ついてきてくれ」  シンはコルンの位置情報を受け取り、すぐさま向かう。ただし、ついてこれるように普段の半分のスピードで。  ほどなくして、先程の島に戻ってきた。 「コルン。お土産だ」 「おかえり。あれ?その人は?」 「北端の島で見つけてな。1人だったみたいだから、連れてきた。仲間にしてくれないか?」 「私は別にどっちでも」  コルンはしばらく考えた末に、こう言った。 「もちろん歓迎だよ。防御型はありがたいしね。ただ、シン。作戦上、これ以上増やすのは厳しい」 「分かってる。3人が限度だろうな」  人数が多くなると、指示が出しにくいのはよくわかっている。 「じゃあよろしく。僕の名前はコルン。砲撃型。主に作戦担当だよ」 「私は……サキ。防御型よ」 「へえ。サキか。いい名前だな」 「冗談よしてよ。それで、作戦をまだ聞いていないんだけれど。もちろんあなたたちはこの訓練で一位を目指すのよね?それと、仲間になって勝った時の報酬もまだ聞いてない」 「報酬としては、全員が同率1位でこの訓練を終えられる。誰か一人の勝ち抜けはなし」  コルンがサキに説明するが、サキは依然疑うことをやめない。 「どこまで信用できる話かね。それは」 「必要なら書面契約でもするかい?データだと消えやすいからね」 「紙なんかどこに置いておくのよ。まあいいわ。要は勝てばいいのね。それで、作戦は?」 「それは後々話すよ。とりあえず、拠点に向かおう。すぐそこにある。最初の島の少し南の島さ」  そう言ってシンたち3人は近くの拠点に向かった。  拠点に着いた瞬間、コルンからメールが送られてきたことに気づいた。  なぜメール?この場にいるのに。  コルンのほうを見たが、目で合図をされただけだった。これで理解しろというみたいだ。  シンは、パネルに表示された文面を読んだ。 『彼女は、確かに戦力になりそうだけれど、まだ信用するに足らない。どこかのスパイの可能性もある。しばらくは、作戦の全貌を明かさずにいこう』  なるほど。サキにできない話だったのか。それならメールの意味も分かる。  まあ仕方ないのか。 「へえ。岩の裏にこんな広い空間があるとはな」  コルンが見つけた拠点というのは、大きな岩の裏にあった、隠し洞窟のような場所だった。 「けどこれ、例の洞窟とは無関係なの?ほら、マイルで買えるっていう」  サキは洞窟の質が高いことに疑問を抱いているようだ。 「さすがに違うはずだよ。ここまで用意周到な運営側が、洞窟を見つけられるミスなんてするはずない。きっと、さっきの隠されてた島みたいに洞窟も隠してあるんだよ」  コルンがそう言った直後、エリア内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。 「うるっさ!メロディーとか言ってなかったか?」 「いよいよ始まりか。僕たちも動かなきゃな。少しばかり倒してマイルを稼いでおきたい」 「いきなり戦闘に行く気?どんな作戦か知らないけど、随分勇敢ね」 「まあそう言うなよ。この三人の相性は多分最高だからな」  戦いの火蓋は切られた。生き残りたければ、這い上がるのみ。
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